196 セリデリアへ
今日から新たな日常が始まる。
今朝お父様からお話があり、正式に私の行動制限を解く、と言ったら大袈裟に聞こえるけれど、今迄の様に何処までしか行けないとか王宮や宮廷内の外に出てはいけないとかそういった事が無くなった。
だからと言って羽目を外して良いという事ではない。
これからはより一層自身の責任で行動する事になる。
そして側近達の責任も大きくなる。
けど、やっぱり嬉しいのは嬉しい。
そして学園長期休暇が今日から始まり、側近達が皆執務室に集まった。
「ステラ様は嬉しそうですね」
皆が集まり直ぐにそうティナから言われてしまった。
それは他の皆も同じことを思っているのかティナと同じ嬉しそうな、安心したようなそんな顔をしていた。
「ようやく憂いなく行動できますもの。嬉しくない筈がありません。ですがこれからは私は勿論の事、私の側近である皆にも多くの責任が伴う事を胸に刻んで行動して下さいね」
特に学園が始まり私が通うようになればより一層その自覚を持って行動して欲しいのと、これは私だけでなく、皆が侮られない様に、あれこれと噂の対象にもされやすくなるのでより一層気を付けて欲しいから私は皆にこれからの行動について注意する。
その話が終われば今後の予定について話しておく。
先ずは来週、一週間はセイデリアへ行くのだけれど、今回もシベリウスへ行った時と同様の方法で訪れる事になっている。
ただ違うのは、その転移を行うのはセイデリア夫人自ら行ってくれるという事。
この間のお手紙でそう言って下さったのでお言葉に甘えてお願いすることになしたのだ。
勿論お兄様の側近にマルクス卿がいるけれど、彼は転移が使えないみたい。
全員王都のセイデリア邸に集合する為、私とお兄様も行ったことがあるので私達は直接邸に転移する事になっている。
わざわざ王宮に来てもらうのも時間が掛かるしね。
効率重視よ。
レグリスは来週から暫くシベリウスへ行く事になっているので、私達を見送ったその後、レオンお従兄様とレグリスの兄姉達とシベリウスへ転移するらしい。
ルイスは此処に残り侯爵の元で更に学ぶ事になっているのでまた全員が揃うのは暫く先になる。
そして日は過ぎていきセイデリアへと向かう前日となった。
明日から一週間執務室を空けるのでルイスとアルネに私がいない間この場を託す。
今急ぎの用事はないので問題はない筈だけど、何かあればお父様が対処して下さる事になっている。
楽しみにしているからか、一日が過ぎるのが早くもう夕方になっていた。
明日の時間を確認して皆早々に帰宅していった。
私も王宮に戻りモニカに準備の確認を行う。
シベリウスに行ったときはモニカも同行したけれど、今回は近衛を一人連れていくだけだ。
ティナだけでなく今回はディオも行くのと、今回は初めから姿を変えて行くためにモニカ達は留守番となった。
「今回は同行出来ずに残念ですわ」
「いつもモニカに付いて来て貰っていたから側にいないのは変な感じだわ」
「殿下、あちらの図書室へ訪れる事があったとしても、読書に没頭してはいけませんよ」
「分かっているわ」
モニカったら心配するところはそこなのかしら。
確かに常習犯なので何も言い返せないんたけどね。
けど、よく考えたらモニカが側にいないなんて初めてのことかも。
もしかしたら内心とても心配してくれているのかな。
そのような素振りは見えないけれど。
「モニカ、心配しなくてもシベリウスにいる時みたいに羽目を外さないわ。セイデリアには初めて訪れるのだもの」
「今回は側近の方達も多くいらっしゃいますのでそれ程心配はしておりません。心配事なく殿下には心から楽しんできていただきたいのです」
「ありがとう。いっぱい楽しんでくるわ。私が留守の間、こちらの事をお願いね」
「はい。お任せくださいませ」
モニカ達にもお土産買ってこなきゃね。
明日からの事が楽しみで、今夜はいつもより早く眠りについた。
翌日の朝食の席でお父様達と共にいただく。
「二人共、あちらで羽目を外し過ぎないようにな。特にステラ、珍しい本があっても夢中になり過ぎない様に気を付けなさい」
「皆私への注意事項って読書の事ばかりですわ」
「心当たりがあり過ぎるだろう?」
「否定は致しませんが⋯⋯」
若干拗ねたように言うと皆にくすくすと笑われてしまった。
「今回は二人の側近達の多くも同行するのでまぁ大丈夫だとは思うが、気を付けて行ってきなさい。よく学んでくるようにな」
「はい、父上」
ただ遊びに行くわけではないので、色んな事が学べる楽しみがある。
朝食を終えると再度気を付けていくようにと念押しされお父様は宮廷へと向かい、私とお兄様はフレッドにお勉強を頑張ったらお土産を沢山買ってくる約束をして宮へ戻るのを見送る。
「二人共行くまで少し時間があるでしょう? 少しお話をしましょう」
「はい、お母様」
お兄様と共にお母様に誘われて少しお話をする事になった。
「あちらに行けばきっとベティ様に捕まるでしょうけど、あまり無茶をしては駄目よ」
「お母様が心配する程の事なのでしょうか?」
「ヴィンスは分かっていると思うけれど、ベティ様の趣味が少し変わっていらっしゃるのよ」
「そうなのですか?」
「ステラは察しがついるんじゃないのか?」
お兄様に言われてベティ様の様子を思い出す。
変わっているって⋯⋯。
普段の様子からはあまりそのようには見受けられない。
けど、ティナに興味を抱いたり積極的に子供達をシベリウスへ行かせて鍛えて貰おうとか、逆も然りで⋯⋯。
「変わった趣味と言いますか、人を鍛えるのがお好きなのかしら。それとも強くなっていく過程を見るのがお好きとか?」
「間違ってはいないよね。以前私も大分絞られたよ。セイデリア辺境伯よりもベティ様の方が人を鍛えるという点では力の入れようが凄い。圧倒されるよ」
以前に稽古をつけて貰う機会があったようで、お兄様はちょっと疲れたようにそういった。
お母様はその訓練で私達が潰れてしまわないかを心配しているようだ。
それと言うのも、ベティ様は魔国の出身で私達人間とは体力や力の具合がやはり違うもの。
少々、やり過ぎる点が欠点だとお母様は仰る。
それをセイデリア辺境伯が止める役割をしているらしいのだ。
だからベティ様に憧れて騎士になる女性はベティ様の厳しい訓練を受けて心をポキッと完全に折られるか、耐えて耐え忍んで強くなるかの二択らしい。
「貴方達二人も一日は彼女の訓練に付き合う事になるでしょうから、程々に気を付けなさい。王子王女の二人が相手でも彼女に手加減という文字はないわ」
「確かに、母上の仰る通りですね」
「気を付けますけれど、お話しを聞いて思ったのは今回に限ってはティナが餌食になりそうですわ」
「あぁ、そういえば夫人の希望でクリスティナ嬢を同行させるんだったね」
「はい」
「それでも、彼女はステラに興味津々よ」
「え? そうなのですか?」
それは初耳。
ベティ様が私に興味津々なんて、私ベティ様の前で何かしたかしら。
よく分からず頭を悩ませていると、お兄様から交流会の件が原因だろうと教えて下さった。
交流会ってあの魔法を披露した時の事?
レグリスは剣技に出ていたので私を見てはいらっしゃらないと思うのだけれど。
そう思ってちらっとお母様に目をやれば何故か自然に見える様にすっと視線を外された。
「お母様?」
「何かしら?」
「もしかして、オリー伯母様がベティ様にお話しをされたのかしら」
「そうだったかしら」
とても怪しい。
きっと伯母様が意気揚々とお母様とベティ様にお話しされたんだわ。
何となく、その情景が目に浮かぶ。
という事は、ベティ様が私に興味を頂くのは伯母様とお母様の責任ね。
「そろそろ時間のようね」
さっとお母様は話を逸らした、と思ったけれど、視線の先にマティお従兄様が此方にいらっしゃった。
「時間通りですね」
「はい、おはようございます、王妃殿下。両殿下をお迎えに参りました」
「マティ、貴方はセイデリアで訓練を行うという事だけれど、二人が滞在中はよろしくお願いしますね」
「畏まりました」
「それと、貴方も怪我だらけにならない様に気を付けなさい」
「ご心配、ありがとうございます」
お従兄様が迎えにいらっしゃったので私達はお母様と共に部屋を後にする。
王宮の中庭に出たところで今回同行する私の近衛の一人、マイエル卿とお兄様の近衛の一人エンデン卿がいつもの近衛の制服ではなく、どこかの私兵のようなラフな姿で待機していた。
中庭に出たところで、私とお兄様は魔道具を着け姿を変える。
お兄様はシベリウスへ行った時と同じ姿だけれど、私は少し変えている。髪色をお兄様と同じ茶髪に瞳は緑だ。
これで全然バレないと思うわ。
昨日侯爵から渡されて、王宮に戻り早速使ってみたけれど、この姿もとても気に入った。
「準備は整ったようね」
「はい、では行ってまいります」
「お母様、行ってきますわ」
「気を付けて行っらっしゃい」
私達はお母様に見送られマティお従兄様の転移でセイデリア邸へ移動した。
次に視界に入って来たのは訪れた事のあるセイデリア邸の正面入り口だ。
そこにはベティ様を始めセイデリア邸に働く者達が出迎えに出ていた。
「ようこそいらっしゃいました」
「彼方までよろしく頼む」
「お任せください。皆揃っておりますので、ご案内いたしますわ」
挨拶もそこそこで移動したのはセイデリア邸の中庭だった。
そこには私、お兄様の側近達が揃って待っていた。
「おはようございます、両殿下」
そう皆を代表して挨拶をするのはエドフェルト卿だった。
皆もそうだけれど、普段よりも身軽な姿だ。
といっても品位を損なわない程度に、だけれどね。
「全員揃いましたので早速移動しましょう」
「夫人、よろしくお願いする」
「畏まりました」
そう言うと、一度レオンお従兄様に向き直り声を掛ける。
「レオン、うちの子達をお願いしますね」
「はい、お任せください」
「では早速行きましょう」
ベティ様はそういとセイデリアに行く人数が多いにも関わらず、何てことの無いようにあっさりと転移した。
次に広がった景色は見晴らしがよく、温かい気候のセイデリア邸の前だった。
そこにはセイデリア辺境伯が迎えに出て私達の到着を確認し温かい表情で出迎えて下さった。
「お待ちしておりました。ようこそセイデリア辺境領へ」
「歓迎痛み入りる。一週間よろしく頼みます」
「はい。精一杯おもてなしさせて頂きます。先ずはお部屋にご案内させて頂きます」
挨拶もそこそこに先ずは部屋へと案内され、セイデリア邸の侍女達に荷ほどきを任せて応接間へと案内された。
既にお兄様を始め、男性陣は揃っていた。
そしてお兄様と目が合ったのだけれど、何か忘れていたという風に声を上げた。
「すっかり忘れていたけど、ステラの事を何て呼ぼうか」
「シアではいけませんか?」
「ダメだ」
思い入れのある名だけに寂しいけれど、仕方ないわ。
「ではお兄様がつけてくださいませ」
私がそうお兄様にお願いをすると、少し考えてから決まったと笑顔で私にその名を告げた。
「エレンはどうだ?」
「お兄様がつけて下さったお名前ですもの。では変装している時はエレンですわね。皆も間違わない様にそう呼んくださいね」
「畏まりました。エレン様」
私達のやり取りを見ていた辺境伯は話が纏まるのを待っていてくださった。
「こうしてお二人が憂いなくお話をされているのを見ると安心いたします」
「辺境伯には伯父上程でないにしても心配をかけたね」
「いえ。有るべき形に戻りエリアス様の周囲が柔らかくなりましたからね。本当の意味で安堵したのは貴方様の側近達でしょう」
「⋯⋯お前の指摘も容赦ないな」
「それが我々の在り方ですからね」
私にはよく分からないやり取りをされているけれど、お兄様の側近達は理解しているのか頷いている。
お兄様を見るけれど、何でもないよと笑顔で躱された。
「これからの予定ですが、本日は早速街へお出掛けになられますか?」
「今日の予定は決めてないのか?」
「明日から予定を詰めておりますので、本日はお好きにお過ごしください。此方にアレクシスの到着後、マティアスはセイデリアの騎士団へ案内する事になっています」
「マティ達は早速訓練を行うのか?」
「はい。昼から早速始めます。うちの者達も皆シベリウスの次期がどれくらい出来るのか興味津々ですので。それにシベリウス辺境伯からも頼まれています」
マティお従兄様はよろしくお願いします、とセイデリア辺境伯に頭を下げていた。
とそこへ噂をすればアレクが到着したようでこちらに案内されてきた。
「よく来たな、アレクシス」
「セイデリア辺境伯様、今日からよろしくお願い致します」
アレクはお世話になる彼に先ずは挨拶をした後、私達を見てびっくりしていた。
そういえば、この姿だから私の事は気付いていないのかも。
ヴィンスお兄様とエドフェルト卿の姿は知っているので、アレクはお行儀よくしながらも嬉しそうに挨拶をしていた。
そして私に視線を向け、考える様に声を掛けてきた。
「あの、間違っていたら申し訳ありません。もしかしてお従姉様ですか?」
「当たりよ! よく分かったわね」
「やっぱり! お姿は全然違いますけどお従姉様と同じ目だったからそうだと思って」
少し言葉遣いに遠慮を感たけれど、それも私だと分かれば元のアレクに戻った。
けれど、すかさずにマティお従兄様の指摘が入る。
「アレク、態度には気を付けなさい」
「あっ、申し訳ございません」
「いいのよ。それよりも、ここではエレンって呼んでね」
此処はセイデリアで私の側近達が側にいるので態度には気をつけなさいという事だ。
「ではシベリウスの二人が揃ったので早速案内させよう」
そう言って前に出てきたの何度か会った事のある辺境伯の側近のラーシュ卿だった。
「お二人は此方へ」
「はい。ではエリアス様、エレン様、行ってまいります」
「マティお従兄様、アレク。二人共訓練頑張ってくださいね」
「はい!」
二人は私に挨拶をしてラーシュ卿に付いて騎士団へと向かった。
そして今日何をするか、だけど⋯⋯。
「エレン、折角だから今から街に行ってみる?」
「宜しいのですか?」
「行きたいのだろう?」
私の事がお見通しだよと言うようにお兄様が笑顔で提案してくれたので、私は素直に提案に乗った。
だってね、街に出掛けるなんてシベリウスへ行った時以来だもの!
「では本日のご予定が決まったようですね。マルクス、街へご案内して差し上げなさい」
「はい」
「今夜は細やかですが歓迎会を予定しておりますのでそちらも楽しんで頂ければと思います」
予定が決まったので早速私達は馬車で街へと向かうのだった。
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