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目覚めた世界が私の生きる場所  作者: 月陽
第2章 学園生活の始まり
191/264

191 厄介な魔導具


「お伺いするのが遅れてしまい申し訳ございません」



 クルト卿は入室した後に挨拶と遅刻した事に謝罪をしたが、とても悪いとは思っていないようなは謝罪だった。

 それは表情や態度でよく分かる。

 そのような彼に対してエリオット卿は何時もに増して笑みが深くなる。



「大分遅れてきましたね。何かありましたか?」

 


 私は彼に遅れた理由を尋ねた。

 報告を聞いて知ってはいるけれど、直接彼に問うた。



「私も忙しいのです」



 だけど彼から出てきた言葉は「忙しい」の一言。

 その言葉に影の皆が不快に思っているのが気配で分かる。

 それはエリオット卿も同じのようで纏う気配が段々と鋭くなっていく。



「今日は貴方の意見を聞くために時間を空けましたわ。(わたくし)に話しをしたいというのはクルト卿の要望だと記憶しているのですけど、違ったかしら?」

「そうです。ですが何故私が殿下に合わせなければならないのですか? 殿下はまだ子供で学生なのですよ」

(わたくし)が子供で学生なのはその通りですわね」



 更にエリオット卿の気配が怪しくなっていく。

 そしていつも柔和な表情を崩さないアルネからも不快だという気配が感じられる。

 この場にお父様だけでなく、伯父様達がいなくて良かったと心から思う。

 それはさておき、話が進まないのでクルト卿には早々に話しをするように促すとやっと意見が出来ると意気揚々と話をし始めた。

 聞けばやはり負担が大きすぎるという事、新たに勉強しなければならない事が多すぎて自身の時間が取れない事、本来の業務に差し支える事等が挙げられたが、そもそも初めから分かっていた事で、会議中にも教師陣からの意見と同じ内容なので特段驚く事も無い。

 そしてそれらを改善する為に会議で話し合いを幾度もし、現場の意見も取り入れて決定した事にまだまだ不満があるようだ。



「⋯⋯此処からが本題なのですが、そもそも生徒達に対しそれ程までに心を砕く必要はあるのですか? 彼等は学園に将来の為に学びに来ているのであって、殿下が考案された事は各家庭で学ぶべき事であり態々学園で教える必要性が無はないです。仮に学生同士のいざこざがあったとして、傷を負ったとしてもそれは各学生の責任であり教師が介入する意味が分かりません。その時間すら無駄です。私は無駄な事をしたくありません」



 クルト卿は生徒達の情操教育を時間の無駄だと言い切った。

 まさかその様に言われるとは思わずに内心呆気にとられた。

 全てが間違っているとは言えないけれど、教師としての自覚や責任を持っていない言動に対して憤りを覚えると共に残念だと、悲しくなるような、言葉に言い表せない気持を覚える。



「各家庭で教えるのは最もな事で当たり前のことです。それとは別に教師という職務は各家庭から子供をお預かりし学問を教えるのは当たり前の事で、今更確認の必要はありませんね。学園は全寮制で学生の間は殆どを学園で過ごします。その間未成年者の保護者となるのは寮母、寮長、教師です。時には成年を迎えた上級生が下級生を導く事もありましょう。責任は勿論生徒自身にもありますが、教える立場である教師や生活の基盤である寮母、寮長の責任は重いです。何故ならば生徒達を教え導くのは教師の仕事の一つであり、学園で学んだ事はそのまま将来に繋がります。切磋琢磨して成長するなら何も問題はないでしょう。ですが、他者を陥れ虐め精神的に追い詰めるのはそれは成長には繋がりません。それは人としてしてはいけないことです。間違ったことをすればそれを正しい道に導くことも教師、というよりも大人としての役割であり⋯⋯」

「⋯⋯さい」



 私が話をしている途中から彼は俯き、何かを呟いているのが聞こえた。

 そしてよく見ると震え、それと共に嫌な気配が濃くなっていく。

 エリオット卿が警戒を強めたその直後の事だった。



「黙れ! 何も知らない小娘のくせに!!」



 そう言い放つと共に私に向かって突っ込んてきた!

 エリオット卿が私を護るように前に出たけれど、ノルヴィニオが瞬時にクルト卿を床に押さえつけ拘束し、部屋から聞こえた怒鳴り声が外に響いたのか扉が開き近衛が入ってくるのが同時だった。



「殿下! ご無事ですか!?」

「大丈夫です」



 近衛が入ってきたことで静かに事を収めようと思っていたけれど難しくなってしまった。

 そんなことを思いながらルアノーヴァがクルト卿からあるモノを探している姿を見守るが直ぐに見つかったようで、それを執務机の上にそっと置く。



「姫様、お手を触れませんように」

「ありがとう。⋯⋯やはり近くで見ると気味が悪いですわね」

「そうですね。とても深い闇、禍々しい気配です。それ程距離が離れていないにも関わらず、すこし離れているだけというのにこの気配に気付きにくいのには、何か細工があるのかもしれませんね」



 これを持っていたクルト卿はというと、先程の剣幕が嘘のようになくなり、今はぼうっとして目の焦点があっていない。

 急にこれを外した影響が残っているように思う。

 エリオット卿は徐ろにクルト卿に近づき様子を伺うが、なんの返事もない。



「魔道具から受けた影響は深いものでないにしても、それなりに精神に作用しているようで、正気に戻るのは少しかかるかもしれません」

「とりあえずこのままというわけにはいきませんわね」

「どのような行動を起こすか分かりませんし、魔道具のせいだとしても殿下に対して危害を加えようとしたのは事実ですので、後の事はお任せいただいてもよろしいですか?」

「あまり手荒な事はしないで下さいね」



 侯爵に任せるのは良いけれど、ちょっと怖いと思ってしまう。

 私としては魔道具を一体誰から貰ったのか、そこを重点的に調べたらいいと思うけれど、此処で起きた事を無かったことには出来ないし、全てお父様の耳に入りこの件に関してはお父様主導になるという意味を込めて侯爵は話している。

 だけど未成年である私はまだ否とは言えないのが現実で、いくら魔導具のせいだからと言って私に対して危害を加えようとしたのは事実なので処罰は免れない。



「殿下、ベリセリウス卿がいらっしゃっていますが、如何されますか?」

「お通しして」

「畏まりました」

「丁度良い所に来たな」



 何が丁度良いのかしら。

 これではお兄様にも知られてしまうわ。

 そう考えていると部屋へ入ってきたベリセリウス卿の挨拶を受けるが、この部屋の状況を見て驚く事なく挨拶を受けた。



「ヴィル、私が戻るまで殿下の側にいなさい」

「畏まりました」

「侯爵、彼にもお仕事があるでしょう。アルネや近衛もいるので大丈夫よ?」

「いけませんよ」

「父上の言う通りです。私の事はお気になさらず、ご自分の安全を第一にお考え下さいね」



 侯爵だけでなく、ベリセリウス卿からも一言言われてしまった。

 その後、侯爵は彼にいくつか注意事項を言い渡してクルト卿と魔道具を持って執務室を後にした。



「殿下、お怪我等はありませんでしたか?」

「えぇ、大丈夫ですわ。それよりベリセリウス卿」

「はい」

「ここに来たのはお兄様に言われて? それとも侯爵に言われたのかしら?」



 彼が此処に来たのが何故なのか、私の執務室には用が無い筈なのにこの場に来たのがお兄様か侯爵どちらかの指示だろう事は昨夜の事があるので察しが付く。



「私に此処へ来るよう指示を出したのは父ですが、よくお分かりになりましたね」

「昨日の今日ですし、心配性のお兄様達の事ですから貴方が(わたくし)を訪ねてくれば何かあると思うのは不思議な事ではありませんわ」

「ご明察です。ヴィンセント殿下はとても心配しておいででした」

「今朝、お兄様から何度も注意されましたわ」



 私はそう言って苦笑した。

 学園へ行く前にお兄様から決して一人にならない様にと、何かあったら侯爵に丸投げしろとか色々と言われていたのだけれど、その前に侯爵が動いていたので私が何かすることなく終わった。

 


「ベリセリウス卿、遅くなったけれど」

「はい、何でしょうか」

「卒業おめでとう」

「⋯⋯ありがとうございます」



 一瞬きょとんとしたけれど直ぐにお礼を述べた。

 その表情はやっぱりティナと一緒で兄妹だとよく分かる。



「久しぶりの学園と生徒会は如何でしたか?」

「楽しかったわ。生徒会の皆さんとは挨拶だけで終わってしまったのが残念でしたけれど」

「アルヴィンから話を聞きましたが、私も驚きました。珍しく顔を顰めて怒っていましたよ」

「エドフェルト卿が?」

「ええ。それ程までに不愉快と言うことです。殿下のこれまでを知る我々としては怒りを覚えますよ」

「我々って、貴方も?」

「そうです」



 全くそうは見えない。

 よっぽど私が不思議そうにしていたのが面白かったのかくすくすと笑われてしまった。



「笑うことは無いでしょう? (わたくし)としては何故お兄様の側近であるお二人が(わたくし)の事でそのように思うのか不思議ですもの」

「不思議ですか?」

「不思議ですわ。今まで殆ど接点がなかったのだもの」

「確かにヴィンセント殿下の側近である私達は王女殿下とそれ程接点はありませんが、私達はヴィンセント殿下の側近となり信頼を得てからというもの、王女殿下に関してお話をずっと聞いていますからね。勝手ながら親近感を覚えております」

「⋯⋯一体お兄様に何をお聞きになったの?」



 お兄様は一体何を話していたのか、気になる。

 ベリサリウス卿は少し意地悪そうな表情を私に向けた。


 

「そうですね⋯⋯お聞きになりたいですか?」



 質問を質問で返されたけど、これは聞いてしまえば私が恥ずかしい思いをするかもしれない。

 何となくそう悟ったので、ベリセリウス卿には聞きたくないと答えると「それは残念です」と話したそうな表情で答えたけれど、私はその表情を無視して執務の続きを行った。

 お昼を過ぎても侯爵は戻ってこず、結局ベリセリウス卿はヴィンスお兄様が此処にいらっしゃるまでお手伝いをしてくださった。



「ヴィル、ステラの護衛をありがとう」

「いえ。王女殿下とお話が出来て役得ですよ」

「⋯⋯お前達をステラに近づけるのは危険だな」

「危険だなんて酷いですね」



 お兄様とベリセリウス卿達の関係は、お父様と侯爵達の関係に似ていてとても羨ましく思う。

 私ももっと側近達と仲良くなりたい。



「ステラ?」

「いえ、何でもありませんわ。それよりもお兄様はどうして此方へ?」

「一緒に王宮へ戻ろうと迎えに来たんだよ」

「ありがとうございます」

「では帰ろうか」

「はい、お兄様。ベリセリウス卿、今日は助かりましたわ。ありがとう」

「いえ、お役に立ててようございました」



 ベリセリウス卿にお礼を伝えて私はお兄様と共に王宮へ帰ってくると、そのまま夕食の時刻まで間お兄様に誘われてお話をする事になった。



「ステラに怪我が無くて良かったよ。詳細を聞いた時は気が気でなかった」

「心配をお掛けしてごめんなさい。それにベリセリウス卿をありがとうございます」

「あれは侯爵の指示で動いただけだよ。今日の件に予め想定して動いたんだろう」

「それはお聞きしましたけれど、お兄様もご存じだと思っていましたわ。それらしい事を言っていたように思うのですけど」

「知っているというか、侯爵の事だからそう動くだろうと思っていただけの事で学園を卒業したあの二人にの伝言を残しておいただけだよ」



 先々の事を考えて、周囲の人達がどう動くか分かっているお兄様が凄いと思う。

 私はまだまだだと考えさせられる一日となった。



「ステラは自分の事をまずはよく考えて、焦らなくていいんだよ」

「分かってはいるのですけど、今回の件にしても力不足なのだと感じます」

「可愛い妹は何でも頑張ろうとするからお兄様は心配だよ」

「今迄何もしていなかったので頑張るのは当たり前ですわ」

「何もしていなかったではなくて、大人達のせいで何も出来なかった、といった方が正しいね。ステラの安全を護る事、補佐するのは側近達の役目だよ。全部一人で出来ることは無いからね。私だって一人で執務をするのは無理があるよ。ステラはちょっと頑張り過ぎだ」



 お兄様は呆れたようにそう言うと気分を変えるように話題を変えてきた。



「そういえば、生徒会の皆がステラとゆっくり話が出来なくて残念がってたよ」

「本当ですか? ティナ達は別として皆さん緊張していたと記憶しているのですけど」

「最初はね。シアとステラが同一人物と言っても立場も見目や声が違うんだから緊張はするだろうね。そうだ、まだ先の話だけどいつも新学年の始まりの前に生徒会の皆でお茶会を開催するんだ。一緒に参加しようか」

「宜しいのですか?」

「勿論だよ。ステラの行動制限は学年末終了後、長期休暇に入ると同時に解かれるのが決まっているけど、父上から聞いてない?」

「本当ですか⁉」



 寝耳に水だ。

 あまりに驚きすぎて食い気味で聞き返してしまい、お兄様の驚いた顔が目の前に広がったがそれも直ぐに笑顔に変わった。


 

「やっとステラの笑顔が見られたね」



 私の頬を突きながらお兄様も嬉しそうに笑っていた。

 それにしてもお父様ったらどうして教えて下さらなかったのかしら。



「明日はアルスカー学園の卒業パーティーに出席だったね」

「はい。どのような学園か楽しみですわ。こういった機会でもないと行く事もありませんものね」

「どんな所だったかお兄様に教えてくれる?」

「勿論ですわ」

「アルスカー学園は良いとして、騎士魔法学園は気を付けるんだよ」

「何故ですか?」

「何故って、女性より男性、血の気の多い連中だからね。そこだけが心配だよ」



 心配の意味がちょっと分からないけれど、お父様を始め宰相や侯爵もいるのだからそれ程心配しなくても大丈夫だと思う。

 けどお兄様がとても心配そうにしているので、一応周囲に気を付けよう。

 

 そして翌日、学園に向かう馬車の中でお父様からクルト卿の件をお聞きした。

 昨日の今日なのでまだ正気には戻っていないけれど、昨日の様な感情が爆発するような事はなく落ち着いているみたい。

 まだ虚ろな様子なので彼の体調を気にしつつ魔道具の影響を取り除くために治療が行われているという。

 といっても精神に作用するものなので普段のクルト卿に戻るまで時間がかかるだろうという事だった。

 その為、入手先を聞こうにも信憑性が無い為に聞き出すことも出来ないので地道に調べているようだ。



「そういえば、今回ステラは何故気付かなかったんだ?」

「気付かなかったわけではないのですが、今迄と違ってそれ程嫌な感じがしなかったのです」

「交流会の時は気付いていただろう?」

「はい。あの時はとても嫌な気配と何よりも瘴気が酷かったですもの」

「殿下がお気付きにならなかったのは、彼がまだそれ程染まっていなかったからではないでしょうか? あの魔道具はその者の感情に左右されるものですから、クルト卿の場合は状況がましだったのでしょう」



 侯爵の言った通りだと思う。

 今迄と違ってクルト卿からは今迄感じた様な禍々しい気配は感じられなかった。



「ステラは極端だな」

「極端、ですか?」

「いや、人一倍勘が鋭いというのに、大したことが無い事には鈍くなる。となれば、感情を抑制できる者からの攻撃には弱いだろうな」

「陛下の危惧は最もですね」

「こう言ったら何ですが、殿下らしいですね」



 お父様の言いたいことには頷けるし、それに侯爵が同意した事も納得するけれど、宰相の言葉はズレていると思うのは私だけかしら。

 そう思ってお父様を見ると私だけでは無かったみたい。

 お父様も何を言ってるんだと言いたげな表情で宰相を見ているが、お父様のその視線を何とも感じていないのか全く表情が変わらない。



「さて、そろそろ着くな。ステラ、王立学園と雰囲気が全く違うが、ステラに対してこちらの方が不躾な視線が増えるかもしれん」

「何故です?」

「知っての通り、アルスカー学園は各分野を専門的に極め為の学園だ。卒業も各学園一難しいと言える。無事に卒業できたものは各分野での活躍が期待されるわけだが⋯⋯」

「それと不躾な視線とどういう関係があるのでしょうか?」

「ステラは意に返さないかもしれんが、此処で学んだ学生は学業にのめり込む気質でな、お茶会等の交流よりも学ぶ事が優先しているからか、物珍しがってステラをじろじろ見るかもしれん。一番気を付けなければいけないのはアルスカー学園よりもオルカ学園の方だがな」



 その危険って言葉通りの意味じゃなく、別の意味で言っているであろうことは分かった。

 お父様だけでなく、侯爵と宰相の笑みに怖いものを感じるからだ。

 そうは言っても流石に王立学園みたいな事が起こるとは無いだろう。

 こちらでは誰かに会いに行く事がなく、常にお父様と行動を共にするのでその心配はないが、私は初めて踏み入れる学園に少し心が踊っていたので気持ちを落ち着かせながら心配をするお父様の言葉を胸に刻んだ。


今回予定していた更新日より一週間も遅れてしまいすみません(_ _;)


読んでいただきありがとうございます。


ブクマ、いいね、評価を頂きとても嬉しいです!

ありがとうございます。


次回の更新は、すみませんが未定です。

来週、入院手術をするので、初めての事でどれ程で回復するのか分からず未定とさせていただきます。


次回更新まで間は開きますが、、次回も楽しみにして頂けたら幸いです。



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