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目覚めた世界が私の生きる場所  作者: 月陽
第2章 学園生活の始まり
189/273

189  大成功


 会場はとても華やかな話し声に満ちていた。

 それがこちらにまで聞こえてくる。

 学園長が会場内に姿を現すとすっと静かになり、生徒皆壇上に目を向ける。



「卒業生の諸君、卒業おめでとう。無事に迎えたこの佳き日にご多忙の中、国王陛下、並び王女殿下に御臨席賜りましたのでお出迎えしたいと思います」



 学園長の言葉を聞き、お父様は私に軽く「行くか」と楽しそうに仰ったので、お父様も卒業パーティーよりお兄様の反応に期待しているのだと分かり、私も思わずくすくすと笑いながら「はい」と答えた。

 私達は会場内の高くなった壇上を進み、用意された椅子にお父様のエスコートで座り、お父様も席に着くと宰相と侯爵は其々お父様と私の後ろ側に控える。

 それを確認した学園長は皆に顔を上げる様に促す。

 この国の王であるお父様のお顔はよくご存じだろうけれど、この中のごく一部を除いて私を見るのは初めての事なので、一様に驚きとさわさわと小さいどよめきが広がった。

 そしてこの卒業パーティーを無事進める為に控える生徒会の皆さんを見つけたが、その中でもお目当てのヴィンスお兄様に目を留めた。

 お兄様は今迄に見た事のない程驚いた表情をなさっていて固まっていらっしゃった。

 思わず笑いそうになるのを必死で堪え、ヴィンスお兄様ににこりと微笑むと、はっと我に返ったお兄様は大きな溜息と共に頭に手をやり「困った子だ」とでも言うような表情で私に微笑み返してくれた。

 お兄様を驚かせる事が出来て大成功。

 私はお兄様に知られることなく成功した事に一種の達成感に包まれた。

 その感情を流石にこの場で表に出すわけにはいかないので心の中で喜ぶ。

 私の喜びを余所にお父様が卒業生に対し一言挨拶を述べ、その後型通りに進んでいく。

 送辞には次期会長のフェストランド卿が、答辞には首席で卒業のエドフェルト卿の挨拶があった。

 それが終わるとパーティーの始まりだ。

 音楽が始まりパートナーとダンスの時間だ。

 ここで漸くお父様から話しかけられた。



「ヴィンスの顔を見たか?」

「はい、しっかりと驚いているお顔を見ましたわ」

「大成功だな。久々にあそこまで表情を崩した顔を見たが、いい顔だった」

「そうなのですか?」

「彼奴をあそこまで驚かせ表情を崩せるのはステラだけだろうな」

「そのようなことは無いと思いますけど」

「いや、私もあそこまでの表情は今迄に数えられる程しか見てないな。ヴィンスの披露目が終わった後はあまり見せなくなった」

「そうなのですね」

「ヴィンスだけでなくマティ達も驚いてたな。レオンの驚いた顔は姉上にそっくりだ」

「レオンお兄様のお顔は伯母様そっくりですものね。マティお兄様はアル伯父様にそっくりですわ」

「確かに。特にマティの性格はアルによく似ている」



 それは言えているわ。

 マティお兄様を怒らせたら伯父様みたく怖いものね。

 さっきも一瞬驚いたと思えば側近達にも黙っていた事で後で一言あるかもしれないわ。

 話をしながらも辺りに目を向けるとティナとベリセリウス卿を見つけた。

 シャーロット嬢は夫人によく似ているけれど、上の二人は侯爵に似ている。

 


「やっぱりティナとベリセリウス卿の二人は侯爵によく似ているわね。シャーロット嬢が一番不思議なのだけれど、性格はお二人のどちらに似たのかしら。外見は夫人に似ているけれど、侯爵家の謎ですわね」

「殿下、我が家で遊んでいませんか?」

「そんな事ないわ。独特だとは思っているけれど」

「くくっ、確かにな。夫人以外は皆個性豊かだ。その筆頭がエリオットだな」

「お父様、(わたくし)そこまでは思っていませんわ。ベリセリウス卿は知りませんが、ティナは普通でしょう?」



 今の所ティナに変わったところは無いと思うし、普通だと思う。

 私が不思議がっていると父親である侯爵が「まだまだティナも猫を被っていますよ」との事。

 それってあれかしら、シャーロット嬢みたいに豹変したりするの?



「その内殿下もお分かりになるでしょう」

「それは良い方にかしら?」

「娘であろうと殿下に害を為そうとするような者ならば最初から殿下に引き合わせたり致しませんよ」



 そのように疑ってはいないのだけれど、侯爵の言い方が薄ら寒く感じる。

 影の長だというのがほんの少し垣間見た気がするわ。

 気を取り直すように視線を動かせばエドフェルト卿の姿も確認できた。

 彼は従妹にパートナーを頼んだと言っていたので、今一緒に踊っているのがそうなのでしょう。



「カシミールの息子の相手は従妹と言っていたが、確かアルスカー学園の生徒じゃなかったか?」

「仰る通りで、アルスカー騎士魔法学園の今年の卒業生です」

「ふむ、婚約者はいないのか?」

「いえ、彼女は婚約者がおりますので明後日の卒業パーティーには婚約者と出席しますよ」

「見た目と違ってアルスカー学園に通われていたのですね」

「そうですね。見た目と同様に性格も控えめですが、一度剣を握ると変貌します。彼女は近衛を目指しているようですよ」

「あら、それは楽しみですわね」



 エドフェルト家の血筋もまた変わった性格の持ち主なのかしら。

 公爵自身もお兄様に言わせれば変人みたいだし。

 それなりに権力や才能がある人ってあれかな、変な人が多いのかしら。

 私がちょっとどころか大分失礼な事を考えていると一曲目が終わり、二曲目に移ろうとしていた。

 婚約者同士はそのまま二曲目を踊り、その他の人達は其々話に興じるようだ。

 それはティナ達も一緒でダンスの輪の中から外れて端に移動していた。

 私はそれを目で追っていたのだけれど、そこに固まっているのは私の側近達で、こちらを見ないけれどきっと私が出席する事を知っていたのかと話をしているのだろうと思う。

 だってね、ティナったら移動するときちらりと私を見たのよ。

 目がったもの。



「そういえば殿下の側近達にも話していなかったのでしたね」

「そうよ。今頃あそこで話をしているでしょうね」



 私がそういうと、侯爵は表情は変わらないけれど溜息をついた。



「あのような、例え殿下に教えられなかったとしてもあのように固まっていては流石に目立ちます」



 あぁ、これは後でお説教かしら。

 生徒会の面々が集まってはいるものの、怪しいよね。

 それはそうとして、一曲目が終わった後から沢山の視線が刺さる。

 こちらをちらちらと伺っているようだ。

 お父様、というよりも私を見てるようで、隣から苛立ちの空気が流れてきている。



「お父様」

「どうした?」

「先程からお父様の周りの空気が変わりましたわ」

「全部不躾な視線のせいだな」

「陛下、それは仕方がないのでは? 王女殿下がこうして公にお出ましになるのは新年以来ですよ」

「だからどうした? 野郎共の視線は鬱陶しくてかなわん」

「別に男性からだけではありませんわ。女性の方々からも見られていますもの」

「同性ならまだ何とも思わんが、流石に野郎は駄目だ」



 男女差別だと言いたいところだけれど、お父様は親として私を心配して下さっているのが分かっているから口にはしない。

 これには何故か宰相と侯爵もお父様と同意見なのか口を挟んでこようとせず、頷いている。

 皆過保護過ぎると思うわ。



「今日この調子なら殿下が学園に復学された日にはどうなるのでしょうね」

「そこは王子殿下と各側近達が対処するでしょう。出来なければ⋯⋯ただのお飾り側近という事です」

「エリオットはたまに笑顔で毒を吐くよね」

「貴方よりましですよ」

「お前達二人共同じだ」



 お父様達はとても仲が良いわね。

 やり取りを聞いているのが楽しいわ。

 時間はいつの間にか十八時になろうとしていた。

 周囲にはいつの間にか軽食が並べられていた。

 この後は料理を楽しみつつ終わりの十九時までパーティーは続くようだ。

 社交会に属している人達は其々の場所で集まるようで会場から外に出て行く人がちらほらと見え始めた。



「今回は特に問題なく終わりそうだな」

「そうですね。終始穏やかでようございました」

「毎年あんな馬鹿げた騒動があったら出席もしたくなくなるからな」



 お父様は心底うんざりしているようで、また問題があれば本当に出席されないかもしれない。

 問題を起こす方が悪いだけなんだけど。


 

「ではそろそろ移動しようか」

「はい」



 宰相は学園長に目配せをしてお父様が席を立つのに合わせて私も席を立った。

 それに気づいた者達は揃って私達に礼をする。

 会場を後にし、最初に訪れた応接室に行き、そこで学園長達と話をするようだった。



「今年の卒業生は大人しいな」

「そうですね。比較的穏やかな者達が多いのと、昨年よりも優秀な者達が揃っておりますね」

「そうか。話は変わるが予定通り王女が二学年より復学するのでよろしく頼む」

「畏まりました」

「カルネウス卿、学園でもよろしくお願い致しますね」

「はい。快適にお過ごして頂けるよう、運営に尽力を尽くします」



 話をしているとノックがあり、誰かと思えば生徒会の顧問てあるグレーゲル・ハセリウス先生がいらっしゃった。



「私をお呼びだと伺いました」

「あぁ。王女殿下をご案内して差し上げなさい」



 ――え? 案内って⋯⋯何処に?



 お父様をちらりと見ると、お父様は私の疑問に答えて下さった。



「ステラ、生徒会の皆に会っておいで」

「⋯⋯宜しいのですか?」

「あぁ、だが侯爵の側から離れるなよ。ベリセリウス侯爵、ステラを頼むぞ」

「畏まりました。殿下、参りましょう」

「陛下、ありがとうございます。カルネウス卿、失礼しますね」



 私はお父様に礼を言い、この場を後にするので学園長に挨拶をしてハセリウス先生に続いて部屋を後にした。

 


「侯爵、初めから予定に入っていたのですか?」

「はい。陛下が提案されまして予定に組み込みました。驚きましたか?」

「驚いたわ。(わたくし)に秘密にするなんて⋯⋯」



 まさかの事で嬉しくもあり、少し緊張もする。

 


「ハセリウス先生、お久しぶりですわね」

「最後にお会いしたのはアリシア様のお姿で王女殿下にお会いするのは初めてになりますね」

「そうでしたわね」



 今私は公務で来ているからか、ハセリウス先生はとても丁寧な接し方だ。

 普段とは全く違う。

 といっても、あの頃はまだシアとして過ごしていたから接し方も違って当たり前かな。



「それにしても殿下が公に戻り真実を知った時は心底驚きましたよ。王子殿下もアリシア様もそのような素振りをお見せになりませんでしたから」

「身を偽っていましたから、気軽にヴィンスお兄様に接して周囲に要らぬ誤解を与えるわけにはいきませんもの」

「確かにそうですね」



 話をしながら進んでいると、目的地に着いたようで「こちらです」と私に一声かけて、ドアをノックした後、中の返事を待たずにドアを開けた。

 この対応は何時も通りなので、何だか安心してしまった。



「皆集まってるな」

「ハセリウス先生は最後まで変わらずですね」



 ハセリウス先生の対応が最後までブレないので、エドフェルト卿は少しの呆れを含みながらもその何時も通りの先生に対して笑顔で迎えた。


 

「アルヴィン、クラエス。二人共卒業おめでとう」

「ありがとうございます」

「ありがとうございます。今までお世話になりました」



 先生からのお祝いの言葉にエドフェルト卿とクラエス卿は揃ってお礼を述べる。

 その声からは先生に対して今迄の想いがこもっていて、卒業パーティーに参加している時よりも今の方がよりそれらを感じられる。



「それで、何故そのように入口で立ってらっしゃるんですか?」

「あぁ、悪い悪い。皆にお客様だ」



 そういうとようやく入口を塞いでいた先生は横にすっと控えたので私は部屋へと足を踏み入れると皆さんの驚いた顔が目に入る⋯⋯が、それも上級生や貴族の皆さんはさっと私に礼をとり、慣れていない人達は一拍遅れて礼をした。

 そしてまたもや驚いた表情のお兄様が目に入る。



「ステラじゃないか!」

「ヴィンスお兄様、皆さん失礼しま⋯⋯」



 そして言い終えぬ内にお兄様に抱きつかれた。



「ステラ、父上と出席する事を私に黙っていたなんて悪い子だね」

「お兄様に内密にしておくのは陛下のご提案ですわ。(わたくし)はそれに乗っただけです。驚きましたか?」

「あぁ、とても驚いたよ。全く、可愛い事をしてくれるね」

「ふふっ、大成功ですわね。今日迄お兄様にバレないか、ずっとドキドキしていましたわ」

「全く気付かなかった。そにれしても父上が羨ましいよ。今日の装いは父上とお揃いだよね?」

「如何ですか?」

「とても良く似合っている。ステラが可愛すぎてこの先不安だ」

「陛下達も同じ事を仰っておりましたわ」



 先程の会話をお兄様に伝えると「虫よけが必要だ」とぼそっと低いお声が聞こえてきた。



「両殿下、ご懇談中恐れ入りますが、そろそろ周囲に目を向けて下さい」



 そう侯爵に声を掛けられはっとした。


 

「あっ、悪い」

「ごめんなさい。皆さん、楽にしてくださいね」



 お兄様との会話に夢中で忘れていたわ。

 私が声を掛けるとすっと顔を上げたのだけれど、私のことを知った人達は何か言いたそうな、その他の人達は戸惑った表情で目線が彷徨っていた。



「改めて紹介するよ。妹のエステルだ。知っての通り皆はアリシアとして接しているから今まで通り接してやってほしい。立場が変わったといえど同一人物だからね」

「お兄様の仰るとおり、今まで通り接していだけると嬉しいですわ」



 そうはいってもそう簡単な話ではないことは分かっているので無理強いはできない。

 少しずつでも慣れてほしいとは思うけれど。

 それよりも⋯⋯。

 


「エドフェルト卿、クラエス卿。卒業おめでとう」

「ありがとうございます。殿下に直接お言葉を頂けるとは光栄です」

「殿下、ありがとうございます。私は宮廷で幾度か殿下をお見かけしましたよ」

「あら? ⋯⋯もしかして魔法師団の訓練場かしら?」

「はい。侯爵様と訓練をされている時です」



 全然気付かなかったわ。

 侯爵との訓練中気を抜ける事はなかったので気付かなかったのは無理はないのかも。

 お二人に直接お祝いの言葉を伝えられたのですっきりした。

 それで視線を動かせば、私の側近達が拗ねたような顔をしていた。



「マティお従兄様達の驚いた表情が新鮮でしたわ」

「私達にも教えていただけないなんて」

「あら。お従兄様達も(わたくし)に内緒にしていたことがあるでしょう? これでお相子ですわ」



 私が少し前のお茶会の事を持ち出せば「規模が違います」と言われたけれど、やっていることは同じなのであっさりと引き下がった。

 視線を動かせばまだどうしていいのか分からないという表情のウィルマ嬢とリアム卿、リアム卿と同じ二学年のエクレフ卿もまた平静を装いながらも表情は隠しきれていない。

 アリシアの頃は気さくに話しかけて下さっていたけれど、やっぱり直ぐ前みたいに話すのは難しいかしら。

 分かっていたけれどやっぱり少し寂しく感じるが、だからと言って何もしないのは更に距離が空いてしまいそうで、私から話をしようとした時、私の後ろで侯爵がさり気無く動く気配がした。

 私が何事かと話し掛けようとした時、ノックと同時にドアが開いた。


ご覧頂きありがとうございます。


ブクマ、いいね、評価を頂きありがとうございます!

とても嬉しいです。


次回は二十八日予定ですが、書き直してますので間に合わなければ三十一日までに更新します。

お待たせしてすみませんが、次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。

よろしくお願い致します。



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