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目覚めた世界が私の生きる場所  作者: 月陽
第2章 学園生活の始まり
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188 いざ、卒業式へ


 卒業パーティー前日の今日は休日の為、私は王宮の図書館に来ていた。

 明日は地の曜日でハーヴェ王立総合学園の卒業パーティーが行われる。

 そして一日置きでアルスカー専門学園、オルカ騎士魔法学園の卒業パーティーが行われ、次週より卒業生は晴れて本格的に其々の仕事に従事する事になる。

 それはさておき、私はヴィンスお兄様とあまり顔を合わせない様に、さり気無く、さり気無くお兄様を避けている。

 本当にさり気無く今は王宮の図書館で本を読み耽っている。

 集中してしまえば周囲に気付く事があまりないので、最初こそ少しどきどきしていたけれど、読むことに没頭してしまえば時間は刻々と過ぎて行くが、午前中から図書館に籠っているので一旦昼食でここから出なければいけなくて、当たり前なんだけどね。

 そして昼食の時間となったので私は問答無用でモニカに図書館から連れ出され食堂へ向かう。

 今日の昼食はヴィンスお兄様とフレッドの三人だけだった。

 珍しくも無いのだけれど、お父様達がいないので私にとっては緊張の時間だ。

 相手がお兄様だから余計にかもしれない。

 だけど隠し通さなければとその思いだけでお兄様達と普通に、いつも通りに雑談をする。



「二人は午前中何をしていたの?」

(わたくし)は図書館へ行っておりましたわ」

「僕はお祖父様の課題をしていました。まだ残っているのでお昼からも頑張らないと明日までに間に合わないです」

「あぁ、お祖父様の課題は中々難しくて厳しいからね」

(わたくし)も苦しめられましたわ」

「だけどお祖父様は私達の為に敢えて難しい課題を出していらっしゃるから、フレッドも頑張らないとね」

「兄上と姉上も大変だったんですか?」

「とっても大変だったわ。課題とは別だけれど、お祖父様との会話は気が抜けないわね」

「私はフレッドと同じ年頃に課題を一つ忘れてしまい、倍の課題を出されて大変になった事がある。だから忘れずにきちんと勉強しないと、後々が大変だよ」

「今の倍は嫌です! お昼から頑張って仕上げます!」

「頑張ってね」

「フレッド無理はしないでね。きっとフレッドなら出来るわ」



 お祖父様の課題は難しいうえに量が多いのよね。

 だけどお兄様の言う通りで全て私達を思っての事なので、多くても頑張れるし、頑張った分は褒めて下さるのでフレッドも頑張る意欲があるのが分かる。

 けど、本当に大変なのよ。



「で、ステラはずっと本を読んでいたの?」

「はい。久しぶりに図書館に籠りましたわ。モニカに昼食だからと引っ張り出されてしまいましたけど」

「相変わらずだね。昼からはどうするの?」

「図書館に行きますわ。まだ読みたい本が沢山あるのです!」



 私がそう言うとくすくすとお兄様に笑われてしまったが、何時ものことなので特に不審に思われることなく済んだ。

 お兄様の予定はお昼から学園に行き、生徒会の一員として明日の卒業パーティーの準備を行うようで、今日お兄様と顔を合わすのは後は夕食時だけなので内心ほっとする。

 お兄様を見送った後、私は明日の最終確認を行う。

 お父様のお部屋に衣装の確認に赴き、その後は自身の衣装の確認をしておく。

 抜かりはないわ。

 お父様は気に入って下さるかしら。

 お兄様は、驚いて下さるかな。

 お兄様に知られていない筈だけれども、当日までは気が抜けない。

 マティお従兄お様達にも話をしていないので知られることは無いとは思うけれど、私次第よね。

 そして明日は数カ月振りに王宮から外に出られる。

 離宮には転移陣を使用していたので、馬車で外に出るのは本当に久しぶりだわ。

 それだけでもとてもわくわくする。

 ただ、少し存念な事は、私も学園生として生徒会の一員として参加できない事が心残りで、エドフェルト卿に関して言えば宮廷で顔を合わせる事もあるけれど、クラエス卿と顔を合わせる事はこの先あったとしてもそう声を掛けることは無いのでシアの時にお世話になった身としては挨拶出来ないのが残念だ。

 明日お兄様をお見送りするときにお祝いの言葉を伝えてもらうようにお願いしよう。

 明日の準備も整い、思考に耽っているといつの間にか時間は過ぎ、夕食の時間まで当初の予定通り図書館で過ごした。

 そして相も変わらず時間になるとモニカに読書から引き剥がされて食堂へ向かった。

 既に皆揃っていて私が最後だった。



「珍しく遅かったな」

「お待たせしてしまい申し訳ございません」

「いや、また読書に没頭していたのか?」

「⋯⋯はい。モニカに本から引き離されてしまいましたわ」

「ははっ! そこは小さい頃から全く変わらないみたいだな」



 お父様に笑われてしまったけれど、その横でお母様は呆れつつ「きちんと時間は守りなさい」と注意された。

 私が来て全員揃ったので夕食をいただきながら何時ものように一日の報告会が始まった。

 お昼に話していたフレッドはお祖父様の課題を終わらせたようで安心していたが、明日提出してどう評価されるか楽しみなんだけど少し怖いと話し、お兄様は明日の卒業パーティーが無事に迎えられるので安心だと話していた。

 卒業パーティー後は社交会に所属している人達と卒業生との最後の交流があり、お別れ会の様な小さいお茶会が開かれるのだという。

 卒業したら仕事で忙しくなるので卒業生にとっても、後輩達にとっても良い思い出作りとなるのでそちらの準備もあったのだとお兄様に教えて頂いた。

 少し羨ましいなと思うのだけれど、流石にそこまでは我儘は言えない。

 


「ヴィンス、今年の卒業パーティーは問題なさそうか?」

「そうですね、特に無いと思いますよ」

「その言い方ですと、去年は何かあったのですか?」



 お父様の言い方が気になり思わず質問をしてしまった。

 あの言い方だと毎年問題がある様な言い方なんだもの。



「あぁ、去年はちょっとした騒動があったな。婚約者が別の女性をエスコートしていたとかで婚約破棄騒動があった。話がまぁ聞こえるから聞いていたが早い話し愚かな男のただの浮気だ。あのような大勢の場でなくて内々でやれとうんざりしたのを覚えている」



 そのような事が起きるのね。

 お父様の仰る通り、それは大勢のいる場でやる事ではないし、ましてお父様(国王)の前でする事でもない。

 品位に掛ける上、その先の将来を自ら潰しに行っているとしか思えない。

 他人の迷惑も考えられず、相手を思いやることも出来ない、どのような経緯で婚約をしたのかは知らないけれど、時と場を考えられないなど、仕事の場においても信用に欠けるわ。

 何よりも、別の女性をエスコートしていたなんてただの浮気でしょう。

 最低で自分勝手な行為に嫌悪感しか感じない。

 そしてそんな事を仕出かした者が宮廷で働いていると思うと更に嫌悪が増す。

 

 

「お父様、その後その者はどうなったのです? 仕事でもそのような方信用できないのではないでしょうか?」

「確か決まっていた部署があったが、切られたはずだ。心変わりがあったとしても最後まで礼儀を弁え正式な手順を踏んでいれば将来性も潰れる事も無かっただろうに、浅はかな事だ」

「正式に従事する前で良かったでしょう。後からそのような無作法者だと知るよりはいいですよ」

「あの時はヴィンスも傍観に徹していたな」

「呆れはてていたのと、私が収める事ではないですからね。学園の事ですので生徒会長の役目ですよ」

「今年は何事もなく無事に終わると良いわね。毎年話題に事は欠かないけれど、そろそろ良いお話が聞きたいわ。折角の卒業パーティーですのに」



 私は初めて学園の卒業パーティーを見るので何とも言えないけれど、お母様の仰っている事はどちらかというと、そろそろ礼儀を尽くして下級生の模範としてこの先国の為、民の為に仕事をする者として自覚と責任を持って行動しなさいという事だ。

 今年は王女()が出席するのでまた別の話題が出てきそうだけれど。

 それも含めて明日の楽しみという事ね。

 因みに、婚約破棄された女性は男性側と違って宮廷の財務部で充実した日々を送っているそうだ。



「ヴィンス、お前なら大丈夫だろうが、変な女には引っかかるなよ」

「分かっていますよ」

「貴方がそのような事を仕出かしたなら⋯⋯(わたくし)は黙ってはいませんよ」

「母上にお約束します。安心してください。母上に殺されたくはありませんよ」



 物騒な会話だけれど、お兄様が王位を継がれるだろうから余計にお兄様のお相手には慎重に精査する必要があるので、お兄様もそれが分かっているし、お母様に仰ったことは本音なので大丈夫でしょう。

 お兄様も心底昨年の出来事が不快だったようですし、話を聞いただけの私も不快な気分になったくらいだしね。

 何かが起こる、という事はさておき、私が今一番安心しているのはお兄様にバレずに明日を迎えられるという一点だけ。

 明日お兄様を無事に見送るまでは安心しきれないけれど、今日は乗り越えられたので安堵した。

 そして翌日、お兄様が学園へ行かれるので私は見送りにホールに来ていた。



「ステラ、見送りに来てくれたの?」

「はい。あの、お兄様にお願いがあるのですが」

「どうしたの? 遠慮せずに何でも言ってごらん」

「会長は(わたくし)を知っていますので何も思わないと思いますが、アリシアとして過ごしている期間は生徒会でお世話になりましたので、会長とクラエスさんにお祝いの言葉を伝えて欲しいのです」

「ステラは優しいね。アルヴィンは間違いなく喜ぶよ。クラエス卿は驚くだろうね、間違いなく。勿論シアが王女だというのは既に周知の事実だけど、まだ学園に復学していないから学生の殆どは実感無い筈だから」

「ご迷惑でしょうか?」

「いや、驚くだけで喜ぶと思うよ」



 お兄様は迷わずにそう仰って下さったので、私は改めてお兄様にお願いをすると快く引き受けて下さった。

 お兄様が乗った馬車が見えなくなると部屋に戻り準備を始める。

 式後の社交会の集まりが考慮されているので、式が始まるのは夕方の少し早い時間からだ。

 学生達は午前中のみ授業があり、昼からは休みとなる。

 卒業生に婚約者がいらっしゃる学生達は準備を行ったり、後の社交会に集まる学生達はその準備をしたりする時間になるのだと先日お兄様が教えて下さった。

 きっとお兄様も今頃は忙しくされているのだと時間を見ながら話を思い出した。


 時間は刻々と過ぎて準備が整い、私はお父様が待つホールへと向かった。

 ホールを見渡せる踊り場に着くと、ホールにはお父様だけでなく、お母様とフレッドも見送りに出ていらっしゃっていた。



「来たな」

「お待たせいたしました」

「ステラ! とても素晴らしいわ。流石(わたくし)の娘ね!」

「リュス、そこは私達の、と言って欲しいんだが⋯⋯」



 お父様の呟きを無視したお母様はお父様と私の衣装を事細かく褒めて下さった。

 その前に直した方が良い所なども指摘されたけれどね。

 お母様は美意識が良い方に高くていらっしゃるので素直に聞いてい置く。

 ただ、お母様の悪い癖は止まらないのよね。

 今日もお父様にやんわりと止められて漸く落ち着きを取り戻した。

 こういう所が私はお母様似だとつくづく思う。

 時間になり、ホールを出て馬車に向かうとそこには宰相のエドフェルト公爵とベリセリウス侯爵の二人が待っていた。



「ステラ、とても久しぶりに外に出るからと言って羽目を外し過ぎないように。公務だという事を忘れずに、王女としてしっかりと勤めなさい」

「はい、お母様」

「姉上、帰ってきたらお話を聞かせてくださいね!」

「分かったわ。楽しみにしていてね」

「くれぐれも周囲には気を付けて。ベリセリウス侯爵、ステラをお願いね」

「お任せください」



 お母様は私の事を心配して下さっているけれど、お父様の事も心配してあげてください。

 ちょっと寂しそうにしているわ。

 時間が迫っているので私は侯爵のエスコートでお父様に続いて馬車に乗り、宰相と侯爵も乗ったところで学園に向けて出発した。



「殿下は楽しそうでいらっしゃいますね」

「久しぶりの外出ですもの。冬景色からすっかり春の景色だわ」

「それは王城でも味わえていると思うのですが⋯⋯」

「そういう意味ではないわ。外の景色は王城の庭園とは全く違うもの」



 王宮、宮廷内でも四季は感じられるけれど、外の風景で覚えているのは雪が積もった城下が最後で、その面影も無くすっかりと暖かい気候に木々の新緑がとても綺麗で輝いていた。



「それにしても本日はまた一段と装いが違いますね。今回は殿下が衣装をデザインされたとお伺いしましたが」

「えぇ、その通りよ。どうかしら?」

「さり気無く王立学園の色と王家の色を使っていますね。それに⋯⋯衣装は学園の制服の一部を取り入れていらっしゃいますね」

「⋯⋯宰相は目聡いわね」



 流石によく見ている。

 今回私がデザインした衣装は各学園の特色を取り入れている。

 これは王家が学園に大いに期待しているという事を示す為だ。

 主役は卒業する学生達なので落ち着き過ぎず華美になり過ぎず、だけど王家としての権威も見せなければならないので中々難しかった。

 取り入れたと言っても真似たと言われる訳にもいかないので、そこの加減が一番の難関で結構試行錯誤も行ったのだけれど、宰相には直ぐに見破られてしまったわ。

 何だか悔しい。



「ステラの意図するところは分かっている。そんな顔をしたら此奴を喜ばすだけだから止めなさい」

「直ぐに気付かれてしまうなんて⋯⋯」

「殿下、ただの年の功というものですよ」

「エリオット、それは私が年寄りだと言いたいのかな?」

「この中では一番年上だと記憶しておりますが?」

「年上と言ってもお前より一年だけだろう。何も変わらないよ」



 大の大人が年齢の事で幼稚な言い争いが始まってしまった。

 年齢なんて気にしなくてもお二人共年相応、少し若く見えるので気にしなくても良いと思うのだけれどね。

 お父様は⋯⋯年齢より若く見えるし、何よりも一番格好いいのは間違いないわ。

 私が三人を比べて一人頷いていると、視線を感じて意識を戻すと何故か三人共私を見ていた。



「どうかなさいましたか?」

「いや、全く緊張はしていないようで安心したよ」

「緊張は、多少なりともしておりますわ」

「そうか? 全くそのようには見えないぞ?」

「ヴィンスお兄様が驚いて下さるか⋯⋯」



 私が今気になる事は、お兄様にはバレずに、会場でお見かけした時に驚いて下さるかどうか、その一点だった。

 折角秘密にしていたのにバレていたなん残念だもの。

 お兄様の驚く顔が見たいわ。

 だけど、そんな私の思いなど余所に他のお三方は何故か不自然に黙ってしまった。



「あー⋯⋯、今朝の様子だと彼奴は気付いてないだろう」

「王子殿下はきっと驚いた後には喜んでくださいますよ」

「逆に我々が後程何か言われそうですね」



 何だろう、この生暖かい眼差し。



「そろそろ学園に着きますね」



 その視線に私が居心地悪そうにしたのを感じたのか話題を変える様にそう口にした侯爵が言ったように、半年近く振りに見る学園の外観が見えてきた。

 そして馬車が停まりお父様が差し出して下さった手を借りて馬車を降りると、そこには学園長と数人の教師陣が出迎えに並んでいた。



「陛下、並びに王女殿下。お待ちしておりました。学園まで足を運んで頂き誠にありがとうございます」

「今日は滞りなく終われると良いな」

「それは私も同じ思いです」



 お二人はしみじみと挨拶そこそこでそうぽつりと零した。



「殿下とは先月の会議以来ですね」

「そうですわね」

「久しぶりの学園は如何ですか?」

「一年前を思い出しましたわ」



 休学前はすっかり冬景色だったのが、今では一年前と同じ緑が青々として温かい陽気に包まれている。

 学園に入学してもう一年が経とうとしているのね。

 懐かしい。

 学園長の案内で学園の卒業式が行われるホール近くの応接室で時間まで過ごす。

 もう殆どの卒業生がホールに集まっていて賑わっているようだった。



「今年度は例年以上に賑わうでしょう。まさか王女殿下がご出席されるとは皆驚く事でしょうね」

「今回だけだ。それよりも、生徒会の者達にもバレていないな?」

「最終準備をするまでは。今頃は何故椅子が二つになっているのか、疑問に思い慌てているかもしれません」



 確かに。

 元々用意していた数より会場が開かれたらに増えていては驚いているに違いないわ。

 お兄様は流石に推測しているでしょうし、もうバレているかな。

 話を聞きながらそう考えていると時間となったのでお父様と共に会場へと向かった。

 


ご覧頂きありがとうございます。


ブクマ、いいね、評価を頂きとても嬉しく励みになります。


次回は二十一日更新しますので、次話も楽しんで頂けたら嬉しいです。

よろしくお願い致します。

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