187 卒業パーティー目前
日々が過ぎ、気が付けば雪も解け始め春が近づいていた。
学園の新学科については教師達からの意見を元に出来うる限り負担が少なくなるように調整と、それに対しての給料の上乗せに加えて特別休暇を設ける事で担任教師が教える事となった。
特別休暇は連休も可能として、七日間取ることが出来るように設けた。
結婚している先生方が多いので、家族の時間を作る事や特別な日の休暇、お誕生日休暇等を事前申請必須で取得可能とした。
先生方も癒しが必要だものね。
そうする事で先生方のやる気も出たようで、勉強も既に始めている。
これにはブルーノ医師も驚きつつも前向きに事に当たろうとする彼等に感化され、やる気に満ちていた。
とても良い方向に向かっていて、各学園長達も一緒に勉強をしているようだった。
ここまで全員とまではいかずとも前向きに勉強をされるとは思っていなかったので私も教育部の人達も驚きを隠せないでいた。
この先の予定が決まれば私も少し余裕が出来て、他の事に目を向ける余裕ができたので早々にお父様と共に出席する卒業パーティーの衣装をデザインして既に作製に入って貰っている。
そう、お父様の企みはヴィンスお兄様に内緒で私を公務の一環として学園の卒業パーティーにお父様と共に出席する事だった。
それでその衣装なのだけれど、お父様は当日を楽しみにしている、という事でどのようなデザインなのかは私次第。
今回は初めから全て一人で進めていて、仕上がったらお母様だけに先に見て貰う事になっているので、どのような評価をされるのか、少しどきどきするけれど楽しみでもある。
勿論専門家の意見も聞いて進めているけれどね。
衣装の件も順調に進み、後私は学園の課題が大切でこちらも残すところ学年末の試験のみとなった。
私の勉強も問題なく進んでいるという事で最近では私が勉強をしていた二日間に関しては侯爵はお父様の元にもどり、その間私は離宮のお祖父様の元で訓練をつけていただいたり近況を話し合ったりしている。
「大分エリオットに鍛えて貰ったみたいだな。以前より更に磨きがかかっている」
「ありがとうございます、お祖父様」
「そういえば、フリュデン男爵令嬢は三学年から復学するそうだな」
「そのようですわ。まだ不安は残るようですが本人はとても前向きですから、アンデル医師も許可なさったようですよ」
「許可は下りたが、ステラは心配なんだな」
「そうですわね⋯⋯心配ではありますが、令嬢がそう決めて医師が許可なさったのなら私が何かを言う事はありませんわ」
少しの手助けをする事はあっても特別視するつもりはない。
それをすると余計な火種を生みかねないから。
私の発言と表情をみてお祖父様は頷いている。
「時に、二ルソン家の事はアンセに聞いたか?」
「はい、お父様が教えてくださいました」
今年初めに二ルソン家の事に関しては教えてくださっていたけれど、新たな事もわかりそちらもこの間お話を聞いたばかりだ。
結果としては黒幕までは辿り着く事が出来ずじまいだけれど、二ルソン子爵が懇意にしているギルド所属の商人もまた巻き込まれた者の一人で、その彼に禁止薬物が渡るまでの間に更に三人挟んでいる事が分かり、だけどその三人目まで辿り着くこと敵わず二人目までは捉えて尋問したが、その二人は三人目の事はそれ程詳しく何も知らぬようで、ただ禁止薬物だという事だけは知った上で流していたという。
今回何故二ルソン子爵の手に渡ったか、そこは子爵が懇意にしている商人に相談を持ち掛けた事がきっかけなのは最初に聞いていた通りで、最近事業が上手くいかずに精神的にも参っていたようでお茶が好きな彼は何かいい茶葉が無いかと相談した所、その商人が何かないかと探したところ、今回の薬物に辿り着いたが、そもそもその商人はギルド所属なのでそれが素人が扱っていい物ではない事くらいは知っていなければならない。
だが、そこは生産者とは名ばかりの犯罪者との間に三人もの仲介者がいる事で事実を隠し、疲れを癒やす程よい甘さのお砂糖の新商品という事で入手したという。
その為に疑いもなしに子爵は使用し、その程よい甘さでほっと出来る一時が本当に癒される時間だったようで子爵は大変気に入った為よく紅茶に淹れて飲むようになり、それが夫人も倣うようになり、いつしか三男のイーサクもたまに入れて飲むようになった。
ただし彼の二人の兄はあまり甘い物が好きで無かったうえ、最初の証言で物自体がそれと結びついていなかったようで知らないと答えていたが、それだと結びつくと、彼等はその商品に頼り過ぎている点にとても違和感を覚えていたそうで飲まなかったのだと答えたようだ。
ただ、イーサクはそれが禁止薬物だとは知らなかったとしても、それを摂取する事によって精神に作用する事が分かった上でフリュデン男爵令嬢に渡したという。
何故渡したのか、彼は令嬢が少しでも自身の父みたいに気分が晴れればという思いからの行動で、それがどれほど危険な事かまでは考えなかったと証言した。
直ぐにそう話さなかったのは、学園で令嬢が私を突き落した事、令嬢が処分を受けた事、そして二ルソン子爵家が謹慎処分を受けた事が怖くなり、何も言えなかったのだという。
そもそもそのような効能はないのだが、甘い物は脳に活力を与え、疲れた時程体は甘い物を欲している事とで殆ど自己暗示がかかっていたに過ぎない。
治療はまだ続けられていて終わるまでこの三人は謹慎継続だが、嫡男と次男はそれらを口にしていないので条件付きで行動が許されている。
何故かというと、違和感を感じていながらも何もしないで放置した事が問題だからだ。
反省の意味も込めて二人は週の半分を交代で学園に通い、もう半分は子爵の仕事を引継いでいる。
そもそも何故禁止薬物密輸幇助になってしまうのか、これに関しては子爵は良い様に彼等にダシにされただけで、子爵が進んでそうしたわけではない。
ただ原因は子爵にあり、子爵の名前で王都に出回ったことも確かなので彼にその気はなくともその罪は重い。
子爵の仕事を嫡男が引き継いでいるのは嫡男が学園卒業と同時に子爵になる事が決まっているので現子爵は領地に戻り隠居となる。
「現子爵も悪い奴ではないんだが、如何せん貴族にしては人が良すぎる。頭も悪くはない、だが貴族はそれだけで生き残る事は出来ん。何故だか分かるか?」
「貴族内はいい意味悪い意味含めて他人を利用しようとします。それは平民にも言える事で、力ある貴族の名があると仕事がしやすくなるでしょう。また狡賢くあるならば、貴族を利用し悪さをしようとする者もいます。人が良いのは勿論美徳ではありますが、そういった者達にとっては利用しすい存在で切り捨てやすい、といった事でしょうか?」
「そうだな。ではどうすればいいと思う?」
「そうですわね⋯⋯、何事も疑いたくはないですけれど、ある程度の警戒心は必要かと思います。伯父様達の様に処世術に長けていれば一番いいのでしょうけれど」
「ステラよ、それは流石に丸く包み過ぎだ」
お祖父様は呆れを含んでそう言うけれど、間違っていないものね。
「それだけか?」
「いえ、何事も知識や情報は重要かと。分からなければ即決は止めた方がいいですわ」
「そうだな。ステラはその点は心配いらなさそうだな。で、二ルソン家の事をどう思う?」
「私は直接知りませんのでどう思うという事は無いのですけれど、話を聞く分には少し考えが甘いと思いますわ。それに子息達も、怪しいと思いつつも何もせずに放置するのは、将来の事を考え、本当に爵位を受け継いでも大丈夫なのかと疑ってしまいます」
「その心配は必要ない。二ルソン家には子爵家を立て直すために文官が一人派遣されているはずだ。それに、あの家には勿体ない位優秀な家令がいるみたいだからそこまで悪いようにはならんだろう。嫡男が余程の阿呆でない限りな」
それは監視という名の補佐官ね。
お祖父様からは新しい事を教えてくださるのだけれど、一線を退いたと言っても本当に何でも知っていらっしゃるので、その情報網というかただただ凄いの一言。
そしてそれらの話を使ってさり気無く、かどうか怪しいけれど私の教育を兼ねて意見を求められることも多々あるのでお祖父様との会話は気を抜く事は出来ない。
「今回やらかしてくれた危険薬物が王都に本格的に広がる前に収拾出来た事は上々か。そこは喜ばしくないが二ルソン家の三男がやらかしてくれたから早く行動できたのだが。ステラ、信用のおけない者から貰った物は決して口にするなよ」
「はい、お祖父様」
宮廷や王宮ではアルネ達が気を付けてくれているから大丈夫だろうけれど、それも絶対ではないけれど、特に学園に復学してからは気を付けなさい、という事よね。
私としてもあのような痛い目には合いたくないもの。
「で、学園の改革も順調に進んでいるようだな」
「改革とまではいきませんが、ブルーノ医師にも沢山ご助言頂きながら進めています」
「それだけ最近の若者に手を焼いているという事だ。ただ、学園に復学してから気を付けなさい」
「何にでしょう?」
「王女が学園の教育方針に関わっている事は宮廷では知れ渡っている。教師が全員が全員賛成というわけでもなかろう? 学園に復学すれば教師という立場を利用しお前に接触するような馬鹿な奴も出てこないとも限らん」
「流石にそのような子供じみた事をするような方はいらっしゃらないのでは? 教師方こそ学生の手本にならねばならないでしょう」
「ステラ、何事においても先入観は捨てろ。痛い目を見るぞ」
お祖父様の仰る通り、確かに先入観は良くない。
けれど、学園の先生がそんな幼稚な事をする等思いたくもないのも事実。
これは最初に話をした事と同じよね。
私が自分で発言した事を自分で覆す所だったわ。
「お祖父様、申し訳ありません」
「きちんと分かっているならいい。そう思いたくなる気持ちも分からんでもないがな。前に話したかも知れんが頭の固い連中は女だからと舐めてかかる奴もいるからそのような連中は一蹴してやれ。一度許せばその先もどんどんとつけ上がる。まぁ一、二度見逃して三度目で起き上がれない位にやるのも有りだがな」
そういう発言がお祖父様達の怖い所よね。
だって話している時の表情がとっても楽しそうなのだもの。
お父様も同じような所がお有りだし、これはもう血筋よね。
「あぁ、そろそろ時間だな。ステラと話しているとあっという間に過ぎるな」
「お祖父様、本日もありがとうございました」
「いや、またこうしてステラと過ごせるのは祖父としては嬉しい限りだ」
お祖父様にはお世話になりっぱなしだわ。
次に会う時に新しいお菓子を準備してこようかしら。
喜んで下さるかな。
次週の事を考えながらお祖父様に挨拶をして王宮に戻った。
暫く穏やかな日々が過ぎて行き、お祖父様にお礼に、お祖母様にも新作のお菓子を持参するととても喜んでもらえ、それを聞きつけたお父様からも強請られて差し入れをしたりして過ごした。
たまにお祖母様主催のお茶会に出席する事もあり、ご夫人方のお話を聞きながら今後の為に勉強をさせていただいた。
早くに制作を始めた卒業パーティーに出席するときの衣装も仕上がったのでその手直しを入念にして後は当日を待つばかり。
卒業パーティー後に一学年最終の試験があるので私も執務の傍ら座学の勉強を怠らない。
それなりに忙しく過ごしていると本当にあっという間に日々が過ぎて卒業パーティーも目前に迫り、今日はお父様の執務室へと呼ばれた。
「卒業パーティーまで一週間後に迫ったわけだが、ステラがデザインした衣装が今から楽しみだな」
「今回は殿下がお一人でデザインされたとか、陛下とお揃いでいらっしゃるのは我々も拝見するのがとても楽しみですね」
お父様だけでなく宰相達にまでそう言われてしまい、大丈夫だと思うけれどどう評価されるのか怖いわ。
「先に伝えておくことがあるが、王立学園だけにステラが出席するのは問題だ。騎士魔法学園、専門学園共にも共に出席となる」
「畏まりました」
お父様から事前に何も話されていなかったけれど、そうなるだろうとは思っていたので驚くことは無かった。
「驚かないな」
「お父様は何も仰いませんでしたけれど、私が公に戻り公務もそれ程行っておりませんが、流石に私が王立学園に復学するからと言いましても贔屓にしているように見えてしまいます。それに三学園に関しては私も執務で関わっていますので他の二学園にも出席する事になると思っておりました」
「だから三着作製したのか?」
「やはりご存じでいらっしゃいましたのね」
「ははっ、そう拗ねるな」
「知っていてその様な事を仰るからですわ」
大体王宮で行動している事はお父様には筒抜けでしょう。
私の反応を見て楽しんでいるとしか思えないわ。
「ヴィンスにはバレてないな?」
「大丈夫ですわ。お兄様と卒業パーティーに関しては何もお話ししていませんもの」
「そうか。驚く顔が楽しみだな」
お父様がとても悪い顔をされているわ。
後でお兄様から文句を言われるのに、きっとそれすらも楽しむのは目に見えている。
それは置いといて、当日は各学園長と会談する事も予定にあり、私としてはに復学するにあたり挨拶が出来るのでいい機会がって良かったと思う。
当日は宰相であるエドフェルト公爵と、私の補佐に就いているベリセリウス侯爵も一緒でこの面々だと当日の三人の会話が少し楽しみだったりする。
まぁ公務で行くからそう面白い会話が聞けないかもしれないけれど、気安い三人の掛け合いが面白かったりするので、それが楽しみの一つでもある。
勿論それだけでなく、とても勉強になるので会話一つ聞き逃さない様に集中はするけれどね。
予定を確認すれば後は当日を迎えるだけとなり、そわそわせずにお兄様にバレない様に最後まで気を付けなければと、そこが一番心配で残りの日々を過ごすのだった。
あけましておめでとうございます。
本年もどうぞ宜しくお願い致します。
今年最初のお話を読んで頂き、ありがとうございます。
ブクマ、評価、いいねをありがとうございます!
とても嬉しく励みになります。
次回は14日更新目指します!
次話も楽しんでいただけたら嬉しく思います。
宜しくお願い致します。