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目覚めた世界が私の生きる場所  作者: 月陽
第2章 学園生活の始まり
186/265

186 こんな日があっても良い


 週末側近達が揃い、いつものように仕事をするはずだったのだけれど、昼からマティお従兄様に連れられて訪れたのは宮廷の庭園で、そこにはお兄様とお兄様の側近達、そして私の側近達が庭園に集まっており、連れてこられた私はこの状況にとても驚いている。



「マティお従兄様、この状況は⋯⋯」

「待っていたよ。驚いたかい?」

「驚きましたわ。今日はお茶会の予定は無かったと思うのですが⋯⋯」

「ステラに内緒で準備をしたんだよ。偶には息抜きが必要だしね。ステラは頑張り屋さんだから。それに私もステラと一緒に息抜きをしたい」



 何だか釈然としないわ。

 お兄様はそう言うけれど、先週私がマティお従兄様とティナにぽろっと零したから?

 もしかして私の我儘でのこの状況なの?

 ヴィンスお兄様もお忙しいはずなのに⋯⋯学園と執務と両立していらっしゃるのに、私の一言でこの場を作ったのだったら申し訳なく思う。



「ステラ」



 後ろ向きに考えているといつの間にかヴィンスお兄様が私の前まで来てそっと頬に触れた。



「ステラの事だから私の心配をしてるんだろうけど、やりたいから準備をしたんだ。ステラは嫌だった?」

「まさか! 嫌ではありませんわ。ただ、お忙しいお兄様達のお手を煩わせてしまったのではないかと⋯⋯」

「それは違うよ。さっきも言ったけど、ステラとのんびりしたいから。私の我儘でもあるんだよ」

「私とならお休みの日でも良いのではないのでしょうか?」

「あぁ、言葉が足りなかったね。勿論ステラと二人でのんびりしたいけれど、今日は皆と一緒だ。ステラは、皆と一緒では嫌だったかな?」

「意地悪な質問は止めてくださいませ。嫌なわけありませんわ」

「良かった。私の側近とステラの側近は交流したほうが良い。元々こうした場を開くつもりだったんだけど、中々予定が合わなかったからね。丁度良かったんだよ」



 側近達の交流は確かに大事ね。

 仕事上やそれ以外でも突発的な事があった時、お互いの側近達の連携が取れれば動きやすいだろうからヴィンスお兄様の言うことは理解できる。

 だけど、何故私には内緒だったのかしら。

 話して下さればいいのに。

 そう思ったけれど、今私もお兄様に内緒にしている事があるので内緒の件に関しては何も言えない事を思い出した。



「内緒にしていた事怒った?」

「そのような事では怒りませんわ。ですが教えて下されば(わたくし)も準備致しましたのに⋯⋯」

「それだとステラの仕事を増やしてしまうだろう?」

「お兄様達だってそうですわ。学園に通っていない(わたくし)が一番手が空いています」

「ステラのその気持ちは嬉しいよ。ありがとう。けど今回はステラを驚かせたかったのと純粋に楽しんで欲しいと思ったからね。こちらに戻ってきても普通に過ごせてはいないのだから」



 お兄様に随分と心配されているのね。

 でもこうした場を作って下さった事が嬉しくて寂しく思う気持ちも落ち着く。

 私がお兄様と話をしていたら側近の皆が微笑ましげにこちらを見ているのに気づき、少し恥ずかしくなってしまった。

 皆を待たせてしまったが、私はこのお茶会を整えて下さった事にお礼を伝え、お兄様の言葉でお茶会が始まった。

 暫く皆で他愛ない話をしたり、お兄様と話をしていると話題は私とお兄様に移った。



「こうして両殿下が仲良くされているのを見ると安心いたしますね」

「確かに。ですが王女殿下が学園に復学されると、周囲がとても騒がしくなるでしょうから気を付けなければなりませんね」

「麗しい兄妹でいらっしゃいますから。その注目度は高いでしょう」

「私やヴィルは卒業しているからね、ちょっと心配だね」



 まだ少し先の話なのに何故か私が復学した時の事を心配していたのを聞いてお兄様が思わずといった具合に「心配し過ぎじゃないか?」と返したのだけれど、側近の皆は「そのような事はありませんよ」と合唱されてしまった。

 


「そもそもですよ、ヴィンス様お一人でも周囲の女性から煩わされていらっしゃいますのに、そこに王女殿下が加わったらどうなると思いますか? ヴィンス様はご自身の事をよく分かっていらっしゃいますから想像つきますよね?」



 そうお兄様と同じ学年クラスのカルネウス卿が呆れた様子で話すと、お兄様は「確かに⋯⋯」と納得して頷いている。

 


「だけどステラに寄ってくる虫は私が排除するから問題ないよ」

「ヴィンス様ならやりかねないな」

「笑顔で排除していくのが目に浮かびます」

「心配なのは王女殿下のクラスですね」



 エドフェルト卿がそう心配そうにしていらっしゃるけれど、レグリスとロベルトの二人はそうでもなさそう。


 

「そこは心配ないと思いますよ」

「何故だ?」

「同クラスの者達は皆アリシア様と半年程勉学を共にしてきたのですから。それが王女殿下だと知って逆に対応に困って近寄ってこないと思います」

「レグリスの言う通りで、公に戻って以降のクラス内の動揺は他クラスの生徒達とは比べ物になりませんでしたから。それに、殿下の容姿も相まって遠巻きにされるかと思います」



 近寄ってこないって、それは少し寂しく感じる。

 シャロンは論外でしょうけど、クラス内に関しては私から話しかければ問題ないと思う。

 それに良い方に考えればあまり騒がれ過ぎず、過ごしやすくていいかもしれないわね。



「危険と言うならばアリシア様に突っかかってきていたノルドヴァル嬢達でしょう」

「ステラが復学したらノルドヴァル家の者にはよく注意して近づけない様にして欲しい」

「畏まりました」

「お兄様、復学するのはまだ先の話ですわ」

「分かっているよ。だけど注意するに越したことは無いだろう?」

「それはそうですが⋯⋯」



 心配性ね。

 それは側近達も一緒かな。

 まだ少し先の話なのにそう心配されることが嬉しく感じる。

 自分では精一杯毎日を過ごしているつもりなのだけれど、やっぱり少し我慢している自覚はある。



「話は変わりますが、今年も陛下が卒業パーティーにご臨席下さるようですね」

「毎年の事だからな」

「お二人はどなたをパートナーに誘われたのですか?」

「私は従妹に頼んだよ」

「そこにいるティナがパートナーだ。承諾して貰うのに時間かかったけどね」

「当たり前です! お兄様はおモテなるのに何故卒業パーティーに妹を誘うのですか? 呆れてしまいますわ」

「良いだろう、別に。特に魅かれる女性がいないんだから」



 何だかんだ言っても兄妹仲は良いみたいね。

 ティナはうんざりして見えるけれど、ベリセリウス卿はティナをとても可愛がっているのか、表情は楽しそうにしている。



「誘うならシャーロット嬢でも良かったのではないのですか?」

「いや、あいつはまだ背が低すぎるからな。それにあいつを誘ったら矢継ぎ早の毒舌を浴びてしまうのが目に見えている」

「確かにお兄様の言う通りですわ。あの子を誘うのは止めた方が良いです。ルイス、見た目に騙されてはダメよ」



 二人共げんなりした表情で仲良く溜息をついた。

 本当に仲が良い。



「話は変わるけど、ルイス嬢達は学業と殿下の補佐との両立には慣れたかい? 学園では話しを聞けないからね」

「はい、大分慣れました。ただ宮廷が広くてまだ迷いそうになります」

「広いよね。変な輩に絡まれてないかな?」

「まだ一人で行動をしておりませんので、特にそういった事はありません」

「他の皆も?」

「そうですね。ステラ様の事を聞かれることはたまにありますが、当たり障りのないお返事であしらっております」



 初耳だけど、執務室と魔法師団の訓練場との行き来が主だから私と接する事ないので私の事を聞きたがる人達もいるでしょう。

 ただ、大人相手にあしらっている、とあっさりとした口調で言いきったロベルトには驚いたけど。

 

 

「マティアス君達は特に不都合とかはない? なさそうだよね」

「そうですね、特に気にする事も無いです。まぁ中には聞こえよがしにやっかみを言ってくる人達はおりますが、無視しておりますから」

「レオンの時と同じだね。彼も大分色んな事を言われてきたからね」

「そうなのですか? レオン、そんな事初めて聞いたよ」

「兄上には話していませんでしたか?」

「聞いてないよ。何を言われたんだ?」

「大したことではないですよ。多分兄上が言われている事と似たような事ですね。兄上よりはましかもしれません」



 レオンお従兄様は話しながら頭を指差す。

 その仕草からマティお従兄様は「なるほど」と分かった様に頷いていらっしゃるけれど、私にはさっぱりだわ。

 それにどうしてマティお従兄様の方が悪く言われるのかしら。

 意味が分からない。


 

「ステラ、二人の母上は私達の伯母上で血が繋がっているだろう? それなのに王家の色を持っていないからそれでだな」

「ですがそれは長い歴史の中でも王家の色を持っている者からしか生まれないのは既に周知の事実ですわ。それなのにそのような事を言う者がいますの? ⋯⋯成程、マティお従兄様達に言う事でそれとなく王家の悪口を言っているのですね」

「そういう事。マティは私達と同じ髪色だし、レオンは純青色では無いもののそれに近い青だ。だから悪口を言われやすい」

「その点アレクは父上似だからその心配はないから安心だよね」



 お従兄様達に対して悪口言うなどお門違いもいいところだわ。

 まぁ直接言うと不敬罪になるのでそうなってしまうのでしょうけど、私の事でお従兄様が何か言われるなんて怒っていいかしら。



「殿下は此方に戻られて間がないと言えど、やはり王家の方なのだと納得致しますね」

「どういう意味かしら?」

「いえ、まだアリシア様でいらっしゃった時もその片鱗は見せておいででしたが、約五年もの間離れておいでになったとは思えない程ですから」

「そうか? シアの時はかなり遠慮していたし振舞も違ったろう? 今とは全然違う」

「普段は、そうですね。ですが、彼の令嬢と相対していらっしゃった時は違いましたね。あの時はただ怒っているだけかと思いましたが、今になっては違ったと思います」



 エドフェルト卿が話しているのは、あの時の事ね。

 あの時は結構頭に来たのは確かだけど、それでもシアとしての対応は損なわれていない筈⋯⋯なんだけど。



「なるほどね。他の皆はステラがシアとして過ごしている時どう思っていた?」

「何の疑いもなくマティアス様達の妹、アリシア様だと思っていました」

「私もです」

「養女なのにも関わらずとても溺愛されているなと思っていました」



 大体は何の疑いもなくそう思っていたみたいね。

 生徒会ではそれなりにヴィンスお兄様とお話もしていたので内心は心配していたのだけれど、大丈夫だったみたい。

 こうして後からその時の状況を聞くと、全然怪しまれていなかった事に私の我慢が功を奏したのだと嬉しく思う。

 まぁ一部の鋭い人達は別として。

 それからは側近の皆の話や皆の恋愛事情から沢山のお話で楽しい時間を過ごした。

 たまにはこうして集まるのもいいかもしれない。

 お母様の主催するお茶会とはまた全然違う。

 まぁ側近達という気心の知れた人達だから余計にそう思うのかもしれないけれど。

 最近考える事が多く気分転換も出来ていなかったので、このお茶会を計画して下さったお兄様達には感謝しかないわ。

 そして楽しい時間はあっという間に過ぎていき、楽しい時間は昼間だけでなく、夜も最近はお父様がお忙しくされていて中々家族の皆が揃うことがなかったけれど、今夜は皆揃ったので、久々に家族団欒の時間を過ごしている。



「ステラ、今日はヴィンスや側近達とお茶会をしたそうだが、楽しかったか?」

「はい、とても楽しい一時でしたわ。学園の事やアリシアとして通っていた時の事等、色んな話が聞けました」

「そうか。楽しめたのなら良かった」



 お父様の言葉でお父様も私の事を気にかけて下さっていたのだと知り、お礼を伝えようとしたら遮られた。



「ステラが気を使う必要はない。たまには息抜きも大事だ。それにヴィンスが話したと思うがお互いの側近達の交流は定期的に行った方がいい。この先宮廷内だけでなく学園でも何かあった時の為にお互いを知っておく必要もあるからな」

「父上の仰る通りだよ。今からステラが学園に復学してからの対策もしておかないとね。それに、ステラが王宮、宮廷の外に出る様になれば、狙ってくるものも出るだろうから。ただ前と違って公に護る事が出来るから周囲の目を気にする必要は無いから遠慮くなく排除できるけどね」



 何故か楽しそうに話すお兄様とそれに頷くお父様を見てお母様は呆れが顔だ。


 

「貴方達、せっかく今日はステラの息抜きにと当てたのに、何故今その話になるのかしら」

「お母様、お父様とお兄様は私の為に仰ってくださっているのは分かっていますから」

「もう。貴女はもう少し力を抜く事を覚えなさい。お義姉様も心配していたけれど、頑張る事は決して悪い事ではないわ。けれど貴女の代わりはいないのよ? 後はもう少し(わたくし)達にも本音を言いなさい」



 伯母様にも注意されていた事をお母様にも注意された。

 確かにここ最近は根を詰めていた気がする。

 これが続くとまた叱られるわね。

 


「今後は適度に休みをきちんと取りますわ」

「ステラ、言葉だけじゃなくてきちんと休憩を挟む事。私達は人よりも責任ある立場とは言え、疲れもするし病気にもなる。ましてステラはまだ十歳だ。学園を休学しているからとはいえ、ヴィンスが十歳だった時よりも忙しいのはどうかと思う⋯⋯が、これは私の責任だな。すまない」

「お父様が謝られる事ではないと思いますけれど。(わたくし)が気になり、問題定義をしたので、どちらかというと(わたくし)の責任ですわ」



 私がそういうと「頼もしいが心配だな」と私の体の事を気遣って下さったが、私よりもお父様が心配になる。

 お忙しいのかお父様のお顔にも疲れが見て取れるが、お父様を心配して声を掛けても「大丈夫だ」の一言だ。

 私よりもお父様にはご自身の事を気遣ってほしいと思う。

 


「フレッドはかなり熱心に勉強をしているようだな。語学もヴァレニウス語を習得してゼフィール語をすでに勉強していると聞く。それに物覚えが良いと教師達が褒めていたぞ。継続して頑張っているようで関心だな」

「兄上や姉上を早くお手伝いしたいのです! けど、お祖父様に魔法操作が上手いと誉めて頂いたのですが、兄上達みたいに魔力量が多くないから⋯⋯」

「焦る必要はない。言っておくが、ヴィンスとステラの魔力量がそもそも可怪しいんだ。比べる必要はない。お前はお前の出来る範囲で頑張ればいい。父上にもそう言われただろう?」

「はい、お祖父様にも同じことを言われました。けど⋯⋯」



 フレッドは言葉を切って、落ち込んでいた。

 まだ五歳なのでそれを考えるとフレッドは頭がかなりいいと思うのだけどね。

 私が五歳の頃はまゼフィール語をフレッド程出来なかったから。

 


「フレッドはステラと一緒だな」

「どういう事ですか?」



 お父様は急に私がフレッドと一緒だと、そう可笑しそうに話した。

 私はどこが一緒なのかと首を傾げたらまた笑われた。



「一緒だろう? ステラも色んな事が思うようにいかなくて悩んでいると報告を受けていたからな」

「姉上も悩んでいたのですか?」

「そうね⋯⋯沢山悩んだわ」



 それはまた違った意味で、なのだけれど、沢山悩み落ち込んで泣いたのも事実なのでフレッドと一緒なのだと伝えると少し安心した様に表情が和らいだ。

 


「兄弟がいると切磋琢磨出来るから良いな。私も姉上に負けじと毎日頑張っていたものだ」

「父上も伯母上と競争していたのですか?」

「そうだなぁ。姉上は器用だし頭の回転も速いから、大分劣等感を抱いたものだ。それも懐かしい思い出だな。だから兄弟間で競争して頑張るのは良いが、だからといって変な自尊心で自分を追い込むこと、出来ないからと言って出来ないことに対して自身を責める必要は全くない。同じ人間ではないのだから当たり前の様に同じ事を出来るなんて可怪しな話だからな。出来なければ他を伸ばせばいい。フレッドはフレッドの出来る事を頑張ればいいんだ。それにまだ五歳のひよっこだからな。これからだよ」

「はい! 父上の言葉を忘れずに頑張ります!」



 フレッドはお父様の言葉にすっきりとした表情で元気よく答えた。

 可愛い弟が落ち込んでいるのは見ていて辛いもの。

 お父様達もフレッドが元気よく答えた事にほっとした表情で笑顔になった。

 今日は午後からの皆とのお茶会に始まり、家族でゆっくりと過ごせて良い一日だったわ。

 たまにはこんな日があっても良いわね。

 心もすっきりと出来たので、また明後日から頑張れそうだわ。


ご覧頂きありがとうございます。


ブクマ、いいね、評価をいただき、本当にありがとうございます!

とても嬉しく励みになります。


次回は2023年1月7日に更新しますので、次話も楽しんでいだけたら幸いです。



今年も沢山読んでくださりありがとうございます!

来年もよろしくお願い致します。

皆様良いお年をお迎えください(ꈍᴗꈍ)

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