173 意識改革
前半部分をちょっと修正しました(3/8)
翌日の朝、昨夜話していた通り私はエドフェルト卿と二人でお茶会に臨んでいた。
付き添いはモニカのみ。
場所は庭園にあるガラス張りの温室で、冬の花が咲き誇っている。
こういう状況ってヴァン様の時みたいだけど、あの時と状況や心境が全く違う。
私の気持ちの問題なだけなんだけど⋯⋯。
「エドフェルト卿、巻き込んでしまい申し訳ないわ」
「いえ、私としてはとても光栄なことですよ。お可愛らしい殿下と二人でお茶を頂けるなど、本来許される事ではありませんからね」
「⋯⋯エドフェルト卿は、思ったより軽い方なのですね」
「どういう意味です?」
「可愛らしい、と簡単に言い過ぎではありませんか?」
「本音ですよ。殿下はもう少し鏡を見たほうがよろしいかと。誤解されているようですが、私は誰彼構わず可愛いとは言いません」
最後は不愉快だったのか、きっぱりと否定してきた。
別にそういった深い意味ではなかったのだけれど。
それより鏡って⋯⋯鏡は毎日見ているけど。
自分を見て可愛いなどと思ったていたらそれこそ不味いと思う。
「殿下、折角なのでお願いがあるのですがよろしいでしょうか?」
「何かしら?」
「このような機会はそうありませんので、今だけお名前で呼ばせていただいてもよろしいでしょうか?」
エドフェルト卿はそう許可を求めてきたけれど、何となく彼には愛称で呼ばれるのは躊躇われる。
だけど私のせいで付き合わせてしまっているのも事実で⋯⋯今だけ、という限定ならまぁ、良いかな。
「今だけですからね」
「ありがとうございます。話を戻しますが、ステラ様はお可愛らしいですよ。他の男がどう思うかは分かりませんが、今迄のアリシア様を見ていますし、外見は勿論の事その性格も含めて愛おしいと想います」
――⋯⋯ん? 可愛いは、まぁお世辞でもよく言うでしょう。だけど、愛しい? エドフェルト卿が私を? どういう意味で?
意味が分からなさ過ぎて頭の中は疑問だらけだ。
「エドフェルト卿、愛しいってどういった意味かしら?」
私が彼の言った言葉に理解できず聞き返すが、彼は徐ろに立ち上がって私の側に来たと思えばその場に跪き、私の手を取る。
「歳の差はあれど、私はステラ様を好ましく想っておりますよ」
「⋯⋯エドフェルト卿、何をしていらっしゃるの!?」
彼の取った行動と告白とも言える言葉にどうしていいか分からずに慌ててしまう。
そんな私を彼はくすくすと笑う。
「ステラ様は恋愛に関しては落第点ですね。その様子では沢山の男性を泣かせることでしょう。そして、一部の女性陣からも恨まれますよ」
「私がですか? 泣かせるって、何故そうなるのです? それに恨まれるって⋯⋯」
「ステラ様、貴女を好ましく想っている者は他にもいます。そしてこれからもきっと増えるでしょう。それに気づかず仲良くしていると多くの女性から嫉妬されますよ。客観的に考えてみてください。とても可愛らしい女性がいるとします。その者は多くの男性から慕われています。その事に気付かず誰とでも仲良さそうに接していると周囲の女性がどう思うか⋯⋯」
どう思うか⋯⋯一人の女性に沢山の男性が側にいたとして、その中に想う人がいてたら、もしそこにヴァン様がいてたらと思うと⋯⋯考えただけでとても嫌だわ。
そしてその女性が彼らの好意に気付いていないとしたら、それに対しても何だかもやもやとする。
誰に対しても同じように接するのはいいかもしれないけれど、時にはそれが仇となることもある。
特に異性の問題では。
そして女性の嫉妬程怖いものはないものね。
エドフェルト卿は私がそうならないようにと話してくれているのね。
「⋯⋯とても面倒なことになりますね」
「分かって頂けて何よりです。辺境伯夫人や辺境伯様の危惧をご理解頂けましたか?」
「理解出来たわ」
理解は出来たけど、ただ私がそこに当てはまる言うのがやはり実感できない。
勿論そのような対象にはなりたくはないけれど。
私がまだ何か考えているのを違った方に捉えたのか、彼は説明を補足するように話し続ける。
意識的に異性を泣かせるようなことをすれば、怒りはその者へ直接ぶつけることが出来るが、無意識にしてしまうと本人が分かっていないので、表向きは何も言われないだろうけど、影で嫉妬と恨みの対象になりかねない、との事。
それは信用や信頼を得られなくなることに繋がり、結局人が離れていく原因にもなると。
これは一方的な行動だからどちらが悪いとかの話でもないけれど。
「⋯⋯中にはご自分の容姿が分かった上でそれを利用し、相手を騙すような真似をする者もいますが、それは少数ですからね。大半は誠実に接していますよ。でなければ自身と家格を貶める事になりますから。後ステラ様にお伝えしたい事は、相手の好意を簡単に否定するのは相手にとってとても失礼ですよ」
「それは⋯⋯そうね。貴方の言う通りだわ。ごめんなさい」
彼の言うことは最もで、好意を向けられているのに受け止めずに否定だけするの失礼な話で、好意に対して良いお返事が出来なくてもそう想って貰えるのってとても尊い事だと思う。
「ステラ様はご自身の容姿についてどう思っておられるのですか?」
「そうね⋯⋯」
容姿については、お父様とお母様の子だからそれほど悪くはないと思っている事、いつもモニカ達に可愛く仕上げてもらっている事に感謝している事を伝えると、彼は少し考えた後私の答えに対して返答した。
「今のお話を聞く限りでは、ご自身の容姿は悪いとは思っていないのですよね?」
「普通?」
私がそう答えると呆れたように溜息をついた。
「⋯⋯普通ではありませんよ。そういった発言も女性から恨みを買いますよ。まぁ美的感覚は人其々ですが、一般的に見れば、ステラ様は容姿に優れています。貴女によく似ておられるヴィンス様はおモテになるでしょう? それは理解していらっしゃいますよね?」
「お兄様がおモテになるのは分かりますわ」
「では、ヴィンス様と似ているステラ様もそうなるのは簡単に想像できますよね?」
確かに客観的に見ればお兄様に似てる妹がそうなるのは想像できる。
ただ現実味がないだけで。
私がやや現実逃避をしていると、エドフェルト卿はすっと真剣な表情を見せた。
「ステラ様、私はただステラ様の容姿だけではなく、貴女の今迄の行動や言動を見て惹かれたので申し上げているのです。婚約者候補に名乗りをあげようか思ったりもします」
――⋯⋯今、何て言ったの?
あまりの突然の言葉に慌ててしまう。
私が内心荒れ狂ってるのを他所にエドフェルト卿は「可愛いですね」と囁いてくる。
本気なのか冗談なのか分からないから心底止めて欲しいわ!
「エドフェルト卿⋯⋯」
「今だけでもアルヴィンと名で呼んで下されば嬉しいです」
「それはお断りしますわ。それよりも今の言葉は真意は? 私は貴方とそれほど交流はありません。それなのにどうしてそこまで想ってくれるのでしょう」
「酷いですね。私は結構本気です。それに交流はしていますよ。学園に通っている時は図書館でお話もしましたし、生徒会でもお会いしておりました。ノルドヴァル嬢からお助けしましたし、入学試験の際は一緒に見回りもしましたよ。それと、私が図書館によく行くのはステラ様にお会いしたかったからです」
「ノルドヴァル嬢の件は助けて頂いたというか、見てたのでしょう? それより! 図書館でよくお会いしてたのって、偶然ではなかったのですか!?」
「偶然ではありませんよ。あの頃はアリシア様でしたが、生徒会の一員ですし噂の事もあり気にかけていたのは事実ですよ」
彼はそう私に真剣な表情で話す。
確かに最終学年と一学年では会う機会ってほぼないに等しいから図書館で会っていたのはかなり稀よね。
だけど、十八歳のエドフェルト卿が十歳の私に好意?
エドフェルト卿って⋯⋯。
「ロリコン?」
「ロ、リコ、ン? とは何でしょう?」
――あっ⋯⋯あぁ! しまった!! つい声に出ちゃった!
今の言葉は記憶の言葉がポロッと出てしまったので、この世界で通用する言葉ではない。
動揺しすぎてやってしまったわ⋯⋯。
どうやって誤魔化そうかしら。
私が考えを巡らせている間に真剣に何かを考えていたエドフェルト卿が「ステラ様はもしかして記⋯⋯」最後まで言い終わらぬ内にノヴルーノがエドフェルト卿の首筋に音もなく短剣を突き付けていた。
「そこまでだ。無用な詮索は止めておけ」
ノヴルーノはぞっとするほど感情のない声で彼に忠告した。
既に私が記憶持ちだと結論付けているのはその表情で分かる。
私が記憶持ちだというのは機密事項で、今回は私の完全な失態で彼のせいではないのだけれど。
「エドフェルト卿、私の失態とはいえ、貴方の結論は胸の内に仕舞っておいてください。決して口外しないように」
「畏まりました。決して口外しないと誓います」
彼の真剣な目を見れば、大丈夫かしら。
後でお兄様達にも伝えておかないといけないわ。
私はノヴルーノに引くよう彼を見るとすっと姿を消した。
影の登場で流石に緊張していたのかほっと息を吐く。
「話を戻しますが、どういう意味でしょうか?」
「先程の言葉ですか? 少女、幼女趣味、と言った意味です」
「⋯⋯ステラ様の中で私はどのように思われているのでしょうか?」
「お兄様の腹黒な側近で、変わった好みの持ち主だと思っています。それよりもエドフェルト卿、貴方は公爵家の嫡男。でしたら私みたいな八も年下よりも歳の近い方がよろしいのでは? 婚約者はいらっしゃらないの?」
「そのような者おりませんし幼女趣味でもありません。それに恋愛に歳の差など些末な事です。先程私がお伝えしたこと、もうお忘れですか?」
「忘れてはいないわ」
そう少し責めるように言うが、別に否定しているわけじゃない。
そろそろ手も離してほしい、何よりそこから私を見上げるのは止めて欲しい。
とても居心地が悪い。
そもそも本気なのか冗談なのか、どっち?
完全に冗談とも思えないような様子だし、だからと言って本気だとも思えない。
「私がステラ様に抱く感情は半分本気です。こう思うのは失礼かもしれませんが、アリシア様の時は妹みたいに思っておりますので」
「成程、分かりましたわ。それよりも、妹みたいに思って下さるのならそろそろ手を離して下さる? 妹に対しての行動ではありませんわ」
「仕方ありませんね」
何が仕方ないのか分からないけれど、何か悪い事を思い付いたかのような表情をした後、私の手にそっと口を寄せた。
――だから妹にするような行動ではないと言ったばかりなのに!
私が固まっている間に彼は何事もなかったかのように席についた。
ティナにしてもエドフェルト卿にしても、何するの!?
内心荒れ狂ってるけれど、表には出さず彼に視線を向けると優雅にモニカが淹れ直したお茶を飲んでいた。
その大人な余裕に何だかムッとする。
「少しは殿下が周囲に対して与える影響をご自覚くださいましたか?」
「どこかの誰かのおかげでよぉく、分かりましたわ!」
「それなら良かったです。殿下に想いを伝えたかいがありました」
あぁほんとに彼の余裕の笑顔にムッとしてしまうわ。
冷静にいなきゃだめよ。
そう自身に言い聞かせる。
やっと私にとって頭を悩ませる話が終わると、少し雑談をし、先程までのやり取りのような事も無く、お茶会が終了したが、当の私は疲労困憊で疲れきっていた。
エドフェルト卿に部屋まで送っていただき、ようやく一息つく。
「ステラ様、お疲れさまでした」
「モニカ⋯⋯とっても疲れたわ」
「よく耐えていらっしゃいましたよ。⋯⋯ステラ様、大丈夫ですか?」
「何?」
「いえ、あの方の事がありますのにエドフェルト卿の言葉にステラ様の御心が心配です」
「そうね⋯⋯半分本気だと言ってたものね。本当に驚いたけれど、私も⋯⋯どうなるか分からないわ。今はただ半分私の胸の内に秘めておくだけね。半分は妹のようだとも言ってましたものね。だけどモニカ、誰にも漏らしてはダメよ」
「心得ております」
昼食まではまだ一時間あるわね。
本当に疲れたわ。
「モニカ、少し寝るから時間になったら起こしてくれる?」
「畏まりました。ゆっくりお休みくださいませ」
私は疲労していたのか直ぐに寝入ってしまった。
起こされた時はぐっすり寝れたようで頭もすっきりとしていたので、休んで正解。
私は身支度を整えていたらティナが迎えに来たので食堂へと向かった。
「来たわね」
「お待たせいたしました」
「ステラ様、お疲れですか?」
「大丈夫ですわ」
「では皆揃ったのでいただこうか」
伯父様の言葉で食事が始まる。
私は伯母様から何かしら追及されるかと思ったけれど、予測に反して何もなかった。
エドフェルト卿が伯母様に対して何か言ったのかしら?
それともお兄様かしら。
私としては追及されずにほっとする反面、少し身構えもする。
昼食は取り敢えず穏やかに終わり、食後の休憩後に私達は騎士団へと向かった。
マティお従兄様とレオンお従兄様は先に騎士団へ向かったみたいで、馬車に乗っているのは私とお兄様、ティナとエドフェルト卿が乗っている。
騎士団まではそれほど時間がかからず到着する。
馬車から降りると、マティお従兄様とレオンお従兄様にシベリウス騎士団団長のハルドと数人の騎士が揃っていた。
そして私とお兄様が降りるとさっと騎士の礼を取る。
「お待ちしておりました」
「二人共こっちで待ってたのか?」
「はい」
「お二人共こちらへ」
伯父様が私達を誘導する。
「エリアス様、彼はシベリウス騎士団の団長、ベルンハルド・ミルヴェーデンです」
「お初にお目にかかります。シベリウス騎士団の団長を預かっております、ベルンハルド・ミルヴェーデンと申します。以後お見知りおきを」
「今はエリアスと名乗っているからそのように」
「畏まりました。ではご案内させていただきます」
応接室へ向かいながら騎士団の説明がされ、お兄様とティナは興味津々で話を聞いている。
しばらく歩いていくと応接室に着いたので中へと入る。
ソファに落ち着くト温かいお茶が準備される。
朝は降っていなかったが先程から雪が振り始めて気温も下がっているので、とてもほっこりする。
「此方は雪が降るとこんなに寒いんだな」
「そうですね。ですが今日はまだましですよ」
「これでましなのか⋯⋯」
「この地に住むものは慣れておりますのでこれぐらいではものともしませんよ」
私もこちらに来たときはこの寒さに凍えそうだったけど慣れるとそうでもないのよね。
ここに来て初めての冬を思い出して懐かしさを感じていたらハルドに「姫様」と呼ばれたので意識を戻す。
「この度は無事にお戻りになられましたこと、おめでとうございます」
「ありがとう。急にあちらに戻ることになりましたので、シベリウスの皆さんにきちんと挨拶も出来ずにいましたが、今回こちらに来ることができましたので、ようやく皆さんに挨拶に伺うことが出来ましたわ。五年間私を護っていただき、感謝しています。ありがとう」
漸くお礼を伝える事が出来たけれど、もうひとり、直接お礼を言いたい人がいるが、ここに彼の姿がない。
「ハルド、今日クラースは騎士団に来ていますか?」
「あー⋯⋯それが⋯⋯」
「彼に何かあったの?」
「あったといえばあります」
何故勿体ぶった言い方をするのかしら。
今の言い方だと、彼に何かが起こった、という訳ではなさそうだというのは分かる。
騎士団を辞めたとか⋯⋯?
それとも⋯⋯。
「伯父様、彼はシベリウスにはいるのですか?」
「⋯⋯いえ、おりません」
元々はギルド所属だって言ってたから旅に出たのかしら。
残念だわ。
お礼を言いたかったのに、言えないのは本当に残念だ。
だけど何故シベリウスを出たのかしら。
「クラースはギルドに戻ったのですか? 元々はギルドに所属していたのですよね?」
「彼はギルドには戻っていません。彼の行先は王都です」
「王都?」
ますます疑問が広がる。
王都に何をしに行ったの?
「王都のシベリウス邸ですか?」
「いえ、違います」
「伯父様?」
「彼奴は今頃宮廷にいるでしょう。騎士団の中途採用に合格したと連絡があったので、今はどの騎士団に配属されるか決める為に各団で働いてます」
聞き間違い、ではないのよね?
宮廷の騎士団にいるの?
どうして急に。
「彼は何故宮廷の騎士団に?」
「理由はシアだよ」
「私? 何かしたかしら?」
「何もしていませんよ。ただ彼は事情を知りませんので、本来なら貴女は休暇中此処で暮らし、彼は護衛をするのが仕事です。ですが、貴女が王女だったと噂で知り、彼のギルド時代の事情が王都へ行くきっかけになったという訳です。それは一つの小さな理由ですが、最大の理由は少しでも貴女を護る事が出来ればと、彼を動かしたのですよ」
「大体の理由は分かりましたけど、宮廷の騎士団に入っても、私に会えるかどうかも分からないでしょう? クラースは⋯⋯」
「それも全て分かった上で、です。貴女の人徳ですよ」
人徳と言われても⋯⋯勿論嬉しいには嬉しいが、彼が宮廷の騎士団にいるという事は、私から一介の騎士に簡単に声は掛けられない。
お礼が言えないのだ。
「彼に直接お礼が言えなくて残念です」
「大丈夫ですよ。貴女の想いは彼には分かっているでしょう」
言葉できちんと伝えたかったのにな。
だけどクラースが自身で行動したなら、それを止める権利は無いので、宮廷の騎士団で頑張って欲しいと思う。
少しでも姿が観れたらなと思うので、それとなく侯爵に頼んでみようかしら。
「そういえば、私が一緒に訓練をしていたカリーナ達は元気かしら?」
「彼女達なら正式に騎士団入りとなりましたよ」
「そうなのね! 彼女達には会えるかしら?」
「勿論です。この時間帯は外で訓練中ですので行きましょう」
良かった。
カリーナ達には会えるのね。
私達は伯父様の案内で外の訓練場へと向かうが、お兄様はシベリウスの事が知りたいようで、ハルドと話をしながら待っている、との事で外へ向かうのは私とマティお従兄様、ティナと私の近衛の四人だ。
私は久しぶりに足を踏み入れるけれど、相変わらずな様子にほっとする。
訓練場には沢山の騎士達が訓練をしていて、その中にはカリーナの父であるリンデルの姿もあった。
私達に教えてくれていた先生方はまた新しく入った訓練生についているという。
まだ座学の段階で此処にはいない。
私達が訓練場に姿を現したのに気付いた騎士団の皆さんはさっと礼を取るが、伯父様が「かまわず続ける様に」と言った事で訓練に戻っていった。
そして新人騎士達が訓練している所に着くと、私達に気付き、先程の騎士たち同様近くに集まり礼を取る。
「皆楽にするように」
「「「はい」」」
顔をあげ、私の姿を認めると驚いた表情がありありと浮かんでいた。
「皆も既に知っての通りだが、今日は殿下がお忍びで来られ、共に訓練したお前達に挨拶がしたいとのご希望でこちらにいらっしゃったので、失礼の無いように」
伯父様はちょっと脅し気味にそういうと私の為に場所を開けた。
私が前に進むと皆さんは少し緊張した面持ちでさっと騎士の礼を取る。
「楽にしてくださいね。先程伯父様が申した通り、お忍びですので、今まで通りアリシアとして接してください」
私がそう話すと、どうしたらいいのか分からないといった雰囲気だ。
「あの、本当にアリシア様が王女様、なのですか?」
「本当です。今まで偽っていた事は申し訳ないですが、私がアリシアとして此処で過ごしたことは事実で、皆さんと一緒に訓練してきたことも嘘ではありません。私にとってはいい経験となり、王宮にいれば経験出来なかったことがこちらで出来たこと、カリーナ達と共に成長出来たことは私にはとても大切な思い出です。今までありがとう」
私は素直な思いをカリーナ達に伝えた。
歳も近く一緒に訓練してきた彼女達と過ごした日々は大切な時間だったから。
「お礼を言うなら私達です! 私達の方こそシア様には沢山学ばせていただきました。一緒に訓練できてとても楽しかったです。りがとうございました!」
カリーナはそう言って勢いよく頭を下げた。
カリーナに続き一緒に訓練したエリクやジル、そしてルイにエミーリオ達とも言葉を交わした。
その後、私に訓練をしてくださった先生方とも挨拶をして応接室へと戻って来た。
お兄様はハルドから色んな話を聞いたようで満足げにしている。
「お帰り。その様子では沢山話が出来たようだね」
「はい、お兄様。お兄様もとても楽しそうに見えますわ」
「そうだね。面白い話が沢山聞けて有意義だったよ」
「それは良かったですわ」
お兄様も楽しそうで良かったわ。
騎士団での予定も終わったので、私達は邸へと戻って来た。
夕食までは少し時間もあるし、私は伯母様とティナの三人でお茶を楽しんでいる。
「伯母様はクラースの件ご存じでしたか?」
「えぇ、知っているわ。貴女のお披露目三日後に王都の邸に来ましたからね」
「早くないですか?」
「私も驚いたわ。それ程早くシベリウス領で知られるとは思わなかったから。だけど彼も行動力があるわよね。王都まで馬を飛ばしてこなければ流石に一日でここまで来れないわよ」
「それ程ステラ様のお力になりたかったのですね」
クラースがそれ程に行動力があったなんて。
最初は私の護衛を断っていたのに、その頃とは雲泥の差ね。
だけど彼は真面目だし、力もあると思うから、あちらの騎士団でも頑張って欲しいと思う。
直接言えないのは残念だけれど。
「明日は領主館へ行くのよね?」
「はい。朝から領主館へ行き、それからまた街へ行きます」
「エーヴェに何か依頼していたのね」
「私だけでなく、ティナとエドフェルト卿も注文をしていましたわ」
「あら、クリスティナ嬢は何を注文したのかしら?」
「お父様とお兄様にはタイとタイリングを、お母様とシャロンにはお揃いの髪留めをお願いしましたわ。とても素敵な意匠で、一目で気に入りましたの」
「まぁ。それは侯爵を始め皆さん喜ばれるでしょうね」
「いえ、喜んではくれるでしょうけど、それよりも羨ましがられますわ」
ティナはそう言って何故か嬉しそう? 勝ち誇ったような表情をしていた。
それを見た伯母様は面白そうに笑っていたけれど、何となく理由が分かってしまって、私としては複雑。
「ステラは何か注文したの?」
「はい。皆お揃いで普段使いできるものにしました」
「それは、アンセ達の喜びようが目に浮かぶわね」
「喜んでくださるといいのですけど」
「最愛の娘からの贈り物を喜ばない馬鹿ではないわ」
「伯母様、お父様に対してお言葉がきつすぎますわ」
伯母様はお父様のお姉様だから容赦なさすぎです。
ティナもいるというのに発言が良くないですわ。
私は少し非難するように話すと安心した様に「申し訳ありません」と謝罪した。
――これは私がどのように対応するか、試されていたのね。
その予測は伯母様の表情から当たっていると思う。
もう。何時でも何処でも試されてるのは気を抜けないわ。
けど、こうして伯母様からの試練は今後受ける事はぐっと減るので、寂しくもなる。
私が思いに耽っていると、伯母様とティナは楽しそうに話に花を咲かせ、時折私も話に混ざり、楽しい一時を過ごした。
ご覧頂きありがとうございます。
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よろしくお願い致します。





