169 一年の終わり、そして新しい年へ
気が付けば今年も今日を含め後三日。
今年の終わりが近づくと、宮廷内の雰囲気もいつもより忙しなく感じる。
私は執務室で書類と睨めっこをしていた。
側近の皆は此処に慣れてきたのか、仕事も効率よく進めている。
侯爵が臨時の補佐に就く期間が決まり、学年末まではいて下さるそうだ。
学園が休暇に入れば側近の皆も此処に通えるので、それまで私を一人にするわけにもいかず、そう決まったようだ。
そして年明け、私とお兄様がシベリウスへ行く日程も決定した。
年明け五日から八日の三泊四日の日程でシベリウス領で過ごす。
私達と一緒に行く人選は近衛が一人ずつとお兄様の側近からはエドフェルト卿、そして私の側近からはティナが一緒に行く事となった。
その前に新年は大聖堂でのお祈りと、大聖堂にあるバルコニーから民衆への挨拶としてお父様達と一緒に立つ事になるのでその日の予定を確認していた。
新年は朝早くから大聖堂に移動し、大司教様と一緒に新年の始まりと新たな一年を平和であるようにとお祈りを捧げる。
その後バルコニーに立ち、それが終わると王宮に戻って来る。
行き帰りは馬車での移動で、私は久しぶりに王都の様子が伺える。
まだ街には下りた事が無いので、いつかお許しを貰ってお忍びで出掛けたい。
今度さらっとお伺いしてみようかしら。
行けるとしても学園に復帰してからだろうけれどね。
三期は休学するのだし、休学中に街へ行く事が許されるとは思っていない。
何よりずる休みをしている気分になってしまうからだ私自身が嫌だから。
私は私で学園からの課題をしたり、自習をする予定だ。
話は変わり、今年のお仕事は今日が最終日なので、側近の皆は明日から休みとなる。
今年、というよりつい一カ月程前から忙しくさせてしまったので、休暇中はゆっくり休んで欲しい。
「皆さんお疲れ様です。明日からお休みに入りますのでゆっくり休んでくださいね」
「ありがとうございます」
「来年は九日からお願いしますね。セイデリア卿は領へ戻るので、次会うのは学園が始まってからになりますけど、訓練頑張ってくださいね」
「はい、ありがとうございます」
セイデリア卿を含めマティお従兄様達もきっと訓練で忙しい事でしょう。
あっ! 肝心な事を忘れていたわ。
「皆さんにお願いがあるのです」
「何でしょうか?」
「マティお従兄様とティナはいいとして、他の皆さんにも此処にいる時は親しくさせていただきたいので、私の事はステラと呼んでくださいね。皆さんの事も愛称で呼んでもいいかしら?」
ほんの少しの間があり、やはりけじめが必要かと思ったけれど、やはりこれからもお世話になるのだしシアの時と同じように、とまではいかないけれど親しく接したいというのはずっと思っていたので、来年からはもっと仲良くなれたらと思う。
お兄様の側近である皆さんもお兄様の事を愛称で呼んでいらっしゃるようですし、次会うのは年明けだし、きりがよく丁度いいかなって思う。
私の提案に皆さんの表情をドキドキしながら見ると嬉しそうにしていらっしゃるので、嫌がられていないようでほっとする。
「どう、かしら?」
「こちらこそ! 私の事はディオとお呼びください」
ディオはそう嬉しそうに言って、ルイスも少しほっとしたような嬉しいような表情をしていた。
レグリスとロベルトのお二人は特に愛称がないのでそのまま呼ぶ事にした。
ただ、二人もちょっと嬉しそうにしていたので、なんだか一気に距離が縮んだように思えた。
ここ以外のところでは今まで通りの呼び方になるけれど、距離が縮まって私も嬉しい。
皆が帰った後、私は侯爵と少しお話をしていた。
「今年中に解決して終わりたかったけれど、出来なかったわ」
「問題が問題ですので、直ぐには難しいですよ」
「それはそうなのですけれど。やはり新年は憂いなく迎えたいですもの」
「殿下、発言が未成年のものではありません」
「侯爵、言葉を変えればいいと思っていませんか?」
お決まりの突っ込みを入れられて、流石に慣れてしまったのでさらっと流してしまう。
「今年は色んな事がありましたわね」
「特に殿下にとっては激動でしたね。今年はシベリウスで魔物達と対峙し、学園に入学、そして学園内でも多々事が起こりましたからね。気の休まる日が少なかったのではありませんか?」
「そうね。色んな事が起こったけれど、それなりに楽しい一年でしたわ」
「それなら良いのですけれど、お忙しい一年でしたのでゆっくりする暇がなかったのでは⋯⋯」
侯爵はそう少し心配そうに言って、じっと私を見てくる。
「何か気になる事でもあるのですか?」
「いえ、殿下は何かやりたいことは無いのですか?」
「ありますよ」
私は即答した。
やりたい事なら沢山あるが出来るかは微妙。
「教えていただけますか?」
「そうですね⋯⋯」
私がやりたい事は、溜まっている読書、剣や魔法の訓練に王都散策、王都の色んなお菓子を食べてみたいし、後は彼女とは別件で大聖堂の“語り部屋”を一度自分の目で見てみたいというのもある。
後はこの国の色んな地域を見てみたいし、他国にも興味がある。
それは流石に難しいのは分かるから初めから口にはしないけどね。
「殿下?」
「何でもないわ」
「殿下は欲がありませんね」
「そうかしら? 欲を言える程知らないだけよ。それより何故お聞きになったの?」
「特に深い意味はありませんよ。話の流れで聞いてみただけです」
侯爵の表情は分からないのよね。
本当に聞いただけなのか何なのか。
まぁいいわ。
「侯爵には今年沢山お世話になったわ。私の臨時の補佐に就いてくださってありがとう」
「いえ。お礼を言われる様な事ではありません。殿下を危険な目に合わせてしまい、まして学生時分しか味わえない生活の一時を奪う様な形となり、申し訳なく思っております」
侯爵はそう言うと目を伏せた。
それらの件に関しては侯爵が悪いわけではないのだし、そのように気にする事でもない。
思う事はあったけれど、今はもう何も気にしていない。
「侯爵のせいではないのですから、そのように思う必要はありませんわ」
「いいえ、私達大人のせいですよ。いくら殿下と言えどまだ未成年ですからね。⋯⋯まぁご本人はお考えが大人びていらっしゃるので不本意かもしれませんが」
後半が台無し!
本当にちょいちょい私を揶揄ってくるわね。
だから私は笑って「知ってて誂っていますよね」と答えると、「勿論です」と悪びれずに肯定した。
清々しい程に素直というか何と言うか⋯⋯。
「ところで、彼等はどうですか?」
「宮廷にも慣れてきたようですし、飲み込みも早いので問題ありませんよ」
「ルイス嬢も緊張が取れて活き活きとしているのを見ると安心ですね。彼女の身辺は問題ないですか?」
「今の所は問題ありません。ですがまだ油断は出来ませんね」
「引き続きお願いしますね」
「畏まりました。⋯⋯ところでひとつお願いしたいことがあります」
「何かしら?」
侯爵はそう言うと真剣に私を見てきたので、少し身構えた。
「私も殿下と親しくさせて頂きたく思いますが、名前で呼んでいただければと思います」
「⋯⋯侯爵、それはお父様が怒るのではなくて? 真剣に何を言うかと思えば、緊張して損したわ」
「おや、いけませんか?」
「本気で仰っているの?」
「大いに本気です。お小さい頃から見守ってきたのでアルだけずるいと思っていたのですよ」
「ずるいって⋯⋯大体アル伯父様は私の伯父様だからであって⋯⋯」
「いけませんか?」
侯爵はかなり本気なのかぐいぐいと来るので仰け反ってしまう。
そんな私達のやり取りを見ていたアルネがそっぽを向いて笑っているのが目に入る。
ほら、何時も真面目なアルネに笑われてしまったじゃない!
「殿下、侯爵様は殿下が思っているよりも頑固でいらっしゃいますので、此処だけという括りを設けて許可されてはいかがでしょう?」
あら? 侯爵に対して気安いわね。
この二人はどういう関係?
疑問に思っているとアルネが答えてくれた。
「私は元々ベリセリウス侯爵家でお世話になっていたので、侯爵様の事はお小さい頃から存じているのですよ」
「そうだったの? というか、周囲に侯爵家の人間が多すぎない? よく不満が出てこないわね」
「人聞きが悪いですよ。アルネは確かに侯爵家にいましたが、五年程前にイェルハルド様に引き抜かれて二年前までは離宮で勤めていたのですよ」
「それって⋯⋯」
「殿下のお考えの通りです」
まさかそんな前から私の事を考えて動いていらっしゃったなんて。
あぁけど先を見据えて動くのは当たり前の事だわ。
私はまだまだね。
「それで話を戻しますが、如何ですか?」
「仕方ないわね。此処にいる間だけ、ですよ。それと、お父様と喧嘩になる様な事は止めて下さいね」
「ありがとうございます。ステラ様の寛大な心に感謝いたします」
何だかわざとらしいわ。
侯爵、じゃなかったエリオット卿は満足そうだからまぁいいかな。
お世話になっているのは事実だし、それくらいは良しとしましょう。
翌日、私はお母様から新年の振舞の復習をし、流れと大聖堂でのお祈りの流れを再確認したり、ゆっくりと読書をして過ごした。
そして今年も後数時間迫った夜、私はお父様達家族全員でゆっくり過ごしていた。
「今年も色んな事があったな。一番はステラがこうして此処に戻って来たことが喜ばしい事だ」
「そうね。こうして年の瀬に家族が集まれることが何よりだわ。昨年は気が気でなかったもの」
「本当だよ。ステラはシベリウスで魔物と対峙してるなんて、此処でぬくぬく居てることが苦痛で仕方なかったよ」
「その節はご心配をお掛けして申し訳ありませんでした」
そこを言われてしまうと私は何も言えないわ。
けどあの時自分だけ安全な所に逃げるのは嫌だったのよ。
「ステラのいう事は最もだし、心配はしたがこうして元気に私達の前にいるんだ。それだけでいい」
お父様はそう分かっているという風に私に笑いかけてくれた。
今こうして無事にいるのは護ってくれたクラースやアステールにノヴルーノ達、そしてしへまりうのギルドの皆のお陰で、領へ行ったら皆にお礼を言わないといけないわね。
「ステラ、年明けの三期、学園を休学する事についてもすまない」
「いえ、私が此処に戻った事でまだ落ち着いてはいないのでしょう? 分かっていますわ」
「悪いな。折角の学園生活を奪ってしまって」
「大丈夫です。その分此処で自習したり出来る事を致します。⋯⋯ひとつお願いがあるのですが」
「何だ?」
「私も訓練をしてもよろしいでしょうか? 此処で難しいなら、お祖父様にお願いしてもよろしいのでしょうか?」
私がそう言うと何故かお父様には笑われてしまった。
お母様やヴィンスお兄様は困った子だと言わんばかりの表情だ。
「全く、ステラはそんなに強くなってどうするんだ?」
「強くはありませんわ。自衛する事も大事だと思います。それと学園に復帰した時の為にも勉強の一環ですわ」
「自衛出来る事に越したことは無いが⋯⋯、私としてはステラには護られる事にも慣れて欲しんだがな」
「勿論分かっていますわ。だけど、いざという時、動けなかったら話にならないと思います」
「ステラも私達の血を濃く継いでるからな。血の気が多い」
「お父様達の娘だから仕方ありませんわね」
私がそう言い返すとお父様とお母様も嬉しそうにしていたので、お二人共血の気は多いと思う。
お父様は見ていても分かるけれど、お母様もどちらかと言うと好戦的だと思うのよね。
一見穏やかに見えるけど、お茶会の話を聞いていると余計にそう思える。
「明日は早くに大聖堂へ移動する。フレッドはまだ此処で留守番だから私達が戻ってきたら一緒に昼食を共にしよう」
「僕も早く大きくなって父上達と一緒にお仕事がしたいです」
「フレッド、まだ可愛い子供で良いのよ。それにお披露目が済んだら忙しくなるわ。今の内だけよ?」
フレッドはちょっと拗ねているけれどきちんと分かっているので「はい」と返事をした。
明日の予定の確認が終われば、私達は明日の為に早々に宮へ戻る。
就寝前にはモニカ達に今年のお礼を言い、部屋を下がった。
そして挨拶をしなければならないのはモニカ達だけでなく、いつも私を護ってくれている皆にもきちんとお礼を伝えたかったので、出てきてもらう。
年の瀬という事もあり、今夜は全員揃っていて、こうやって全員と一斉に会うのは初めてかもしれない。
「今年はルアノーヴァとセリニ、ノルヴィニオの三人が新しく私の影になってくれて、改めてお礼を言うわ。ありがとう」
「勿体ないお言葉」
「今年も沢山の事が起こったけれど、護ってくれてありがとう。特にノヴルーノには感謝しているわ」
「姫様をお護りする事が出来、幸せです」
それで幸せにならないで欲しいんだけど、ノヴルーノの目が本気なので突っ込むのは止めておこう。
そんな私の心情が分かったのか、アステールは笑いを噛み殺しているのが分かる。
「年明けは交代できちんと休んでね」
「姫様に言わた通り、きちんと休みますのでご安心ください」
「皆、来年もよろしくね」
「「「はっ!」」」
そして翌日、夜も明けきっていない時間帯に起きて準備を始める。
モニカ達が部屋に来ると新年の挨拶をして、新年早々に準備を手伝ってくれる皆にお礼を伝えると皆張り切って進めてくれた。
外はまだ真っ暗だけど雪が降っているのが分かる。
大聖堂に行く頃には止んでいてくれたらいいけれど。
私は何時もと同じようにされるがままの状態で、髪を結ってくれている時、また眠気が襲ってきたけれど、寝ずに頑張って起きていた。
いつの間にか外は少し明るくなってきていて、雪も止んでいた。
支度が整うと少し一息つく。
温かい紅茶に一口大にカットされたパンを頂く。
そうしているとお兄様が私を迎えに来て下さった。
「ステラ、新年おめでとう。今年もよろしくね」
「お兄様。新年おめでとうございます。こちらこそよろしくお願い致しますわ」
「準備は良いね? 行こうか」
私はお兄様のエスコートで王宮の入口に向かう。
大聖堂までは馬車で向かうので、私にとってはエステルとして初めて城の外に出る。
これにはわくわくが止められない。
王宮のホールに着くと、お父様達が来られるのを少し待つ。
その間お兄様と他愛無い話をしていると、お父様達がいらっしゃった。
「ヴィンス、ステラ。新年おめでとう」
「父上、母上。新年おめでとうございます」
お父様とお母様からの挨拶を受け、私達も挨拶を返す。
そして早速馬車に乗り大聖堂へと移動する。
大聖堂までは馬車で半時間強の距離だ。
お父様とお母様、お兄様と私に分かれて二台の馬車で移動する。
先導するのは第一騎士団で私達の周囲は近衛が固めるといった具合だ。
私は馬車の窓から外の景色を楽しむ。
外は雪が積もっていて少し明るくなった陽光にキラキラと輝いていた。
私は外の様子に夢中で見ていたが、時折お兄様とお話をしながらも外に視線を向ける。
景色を楽しんでいるとあっという間に大聖堂に着き、私はお兄様が差し出して下さった手に添えて馬車を降りる。
私は初めて王都の地に降り立った。
目の前には神官達が待ち構えていて私達を出迎える。
私とお兄様はお父様達の後ろから付いて行き、神官達の挨拶を受ける。
その後彼等の先導で大聖堂内部へと移動する。
内部は趣のある作りで一つ一つの細工がとてもきめ細やかな芸術作品の中を歩いているようだった。
向かうのは最奥にある礼拝堂で、そこに着くと、想像していたよりは少しこじんまりしていて、大司教様と司祭の二人が待っていた。
「お待ちしておりました」
「待たせたな」
簡単な挨拶をした後、お父様は私に近くへ来るよう促されたので、お父様の近くに歩み寄る。
大司教様を間近くで見ると、結構お歳を召されているように見えるが、その眼差しは優しくもあり力強さも見えるので本来のお年よりも若く感じられる。
「ステラ、我が国の聖堂を取り纏める大司教のアウグスティンだ。大司教、この子は第一王女のエステル。会うのは赤子の時以来だな」
「はい。王女殿下、ご無沙汰しております。このように大きくご成長されました事、誠に喜ばしく、また王宮へお戻りになられました事、お慶び申し上げます」
「初めまして、とご挨拶させてください。大司教様。私もお会いできて嬉しく存じます」
私は大司教様に挨拶をしすると包み込むような優しい表情を返して下さった。
紹介が終わると早速昨年の感謝と新年の挨拶、この一年の国の安寧を願って大司教様を筆頭に私達も神々に祈りを捧げる。
お祈りの作法や言葉をお祖父様の教育の中で習っていたので、大司教様の口上と共に口ずさむ。
時間にすると一時間程だが、祈りの間、王宮よりもとても静謐な雰囲気に包まれて、一切の物音がなく、聞こえるのは大司教様の声と私達の声のみ。
それもどことなく音楽の様に奏でられていてそれがより一層この場の清浄さを生み出しているように思う。
真剣にお祈りをしていたら時間なんて無い様なものであっという間に終わってしまった。
祈りが終わると私達は大聖堂にある王家の者達が使用する一室に移動し、時間までその場で待機となる。
その間、お父様は大司教様とお話をされていて私達も同じ部屋にいるのでお父様達のお話を聞いたり、お兄様とお話をしたりして過ごす。
暫くすると司祭が「お時間です」と呼びに来たのでお父様達と大聖堂のバルコニーへと移動する。
「ステラは初めての事で緊張していないか?」
「緊張はしておりませんわ」
「そうか。民衆によくステラの元気な姿を見せなさい。皆この国の王女を一目見たくて押し寄せているからな」
「はい、お父様」
私達が民衆に姿を見せる場所に近づくにつれ、まだ姿を現していないというのに期待と新年を祝う歓声がここまで聞こえてくる。
「まだ姿を見せていないのに歓声がここまで届くのですね」
「いつ聞いても凄いよ。民衆の期待がそれだけ高いという事だからね。父上達が姿を見せると地鳴りの様に聞こえるよ。今年は特に、ステラが立つからね。もっと凄いかも知れない」
「何だか恥ずかしいですわね」
「私もいるから大丈夫だよ」
そしてその場所に着き、幕に仕切られた手前側で待機する。
私達が揃うと、幕の両脇に立っている近衛が中央から両側に幕を開けると歓声が沸いた。
その歓声を聞きながら先ず、お父様がお母様をエスコートし幕の向こう側へ、民衆へと姿を見せると、何処から声が出ているのかと言いたいくらいに大歓声が響いた。
この国を、引いては国王と王妃を称える言葉、そして新年のお祝いと感謝の言葉が聞こえる。
そして次は私達の番だ。
私はお兄様のエスコートでお父様達の後ろまでくると、お兄様はお父様側へ、私はお母様の右隣へと向かう。
私達が姿を見せると、また大歓声に沸く。
ただ先程と違って私に対しての驚きと期待に満ちた声、口々にお兄様だけでなく私を称える言葉も聞こえる。
私はその声に圧倒されつつも優雅に手を振って応えると、また大歓声に包まれる。
恥ずかしくも思うし、期待されていると思うとこれから更に頑張ろうと私にとって大きな力となる。
そう民衆に応える事暫く、先にお父様とお母様が下がり、私とお兄様は寄り添って兄妹の仲が良いところを民衆に見せる。
そうする事で安心感を与えるからだ。
家族内、それも王家内の仲が悪いと民に不安を与えてしまう。
私とお兄様は揃って民衆に応え、最後はお兄様と見合ってまた笑顔を民衆へと魅せる。
そして幕の内へと下がった。
私達が下がっても未だに歓声が聞こえてくるのはそれ程にこの国が安定して支持を得ている証拠で、私達はそれに応えなければならない。
私は私に出来る事を従事しようと心に誓う。
「ヴィンス、ステラ。お疲れ。特にステラは新しい事ばかりで疲れてないか?」
「新鮮な事ばかりで楽しいですわ。疲れは感じておりません」
「そうか。では王宮へ戻ろう」
私達は此方に来た時とはまた様相の違う馬車に乗る。
帰りは屋根の無い馬車に乗り王都の街中を通り王宮へと戻る。
屋根がないなんて寒いと思うけれど、魔石で温められているので寒さはなく、快適に乗れる仕様となっている。
お兄様より先に馬車へと乗り、お兄様が私の隣に座り、出発する。
周囲には大聖堂に集まっていた民衆が囲んでいるが、私達とは距離がある。
騎士団が私達に近づけない様にしているが、彼等も節度を守っているので混乱はないみたい。
私達は馬車から民衆に向け手を振る。
先程よりもぐっと近いので表情がよく分かり、笑顔で私達を見ていた。
私はお兄様と時々お話をしながら共に民衆に応える。
王宮が見えてきた頃、私は民衆の中に同クラスのエリーカさん、そして彼女のご両親を見つけた。
彼女も私の方を見ていて目が合うと、少し緊張を孕んだ様な期待を込めた様な複雑な表情をしていたが、私は嬉しくて彼女に笑顔を向け手を振ると、彼女もぱぁっと笑顔になって私に手を振ってくれた。
それは一瞬の事だったけれど、私にとっては嬉しい事で、きっと彼女もそうだろう。
私が嬉しくて声に出ていたようで、お兄様が「どうしたの?」と聞いてきたので、先程の出来事を話すと、「よかったね」と優しく言ってくださった。
王宮へと戻って来ると、フレッドを筆頭に王宮で勤める者達が私達を出迎える為に寒い中外で待っていた。
「お帰りなさい。父上、母上」
「ただいま、フレッド。寒くはないか?」
「はい、大丈夫です。あっ、兄上と姉上もお帰りなさい!」
「ただいま。フレッド」
「お前達、寒いだろう? 早く中に入りなさい」
「はい」
私達が外で話をしていたらお父様が見兼ねて早く中へ入るよう促した。
私達は中へ、一旦宮に戻って着替えをし、昼食を頂くために食堂へ向かう。
お父様、お兄様とフレッドが既に揃っていた。
「お待たせいたしました」
「いや、疲れては、いなさそうだな?」
「はい。大丈夫ですわ」
「ステラは良い事があったんだよね」
「良い事?」
「王宮へ戻って来る途中で同じクラスの子が私に手を振ってくださって笑って下さったのです。私ではないと既にご存じでいらっしゃるのに憂いなく笑って下さって、とても嬉しかったのです」
「そうか」
私が嬉しそうにそう話せば、お父様は安心した様だった。
きっと私のこれからの学園生活を心配して下さっているのでしょう。
話をしているとお母様がいらっしゃったので、私達は昼食を揃っていただき、この日は家族でゆっくりと過ごした。
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次回は十四日に更新いたしますので、楽しんでいただけたらと思います。
よろしくお願い致します。





