168 男女の差
セシーリア夫人と共にお母様達のいる所まで向かいながらお話をしていた。
「殿下はとても人気でいらっしゃいますわね。シャロンがご迷惑をお掛けしていないでしょうか?」
「大丈夫ですよ。まさかあれ程感情を表に出される方だとは思いませんでしたわ」
「滅多にあそこまで振り切れないのですけれど⋯⋯余程殿下にお会いしたかったのだと思います。アリシア様の時からとても楽しそうにお話しをしていたものですから」
「そうでしたのね。少し驚きましたわ」
私の前では全くそのような事はなく、落ち着いた雰囲気なのでセシーリア夫人の言葉はとても不思議な感じだわ。
「だから主人が臨時とはいえ殿下の補佐に、ティナが側近として側に仕える事となったと知った時のあの子の悔しがりようときたら⋯⋯」
その時をの事を思い出したのか、苦笑していた。
思ったよりも感情を表に出すのね、シャーロット嬢って。
新しい発見だわ。
夫人の話を聞きながら歩みを進め、ご夫人方の集まる席に着いた。
「セシーリア、ステラを連れてきてくれてありがとう」
「とんでもありませんわ。殿下と二人でお話が出来て役得です」
「貴女ったら中々こちらに来ないんだもの。しびれを切らして呼びに行ってもらったのよ」
「申し訳ありません、お母様。皆さんもお待たせいたしました」
お母様達は私が来るのをずっと待っていたみたいで、ちょっと申し訳なく思う。
思ったよりもあちらで話し込んでたみたい。
「リュシエンヌ様も漸くエステル殿下がお戻りになって一安心でしょう」
「そうね。我が子が漸く戻ってきてとても安堵しています。これもお義姉様のお陰ですわ」
「私としても男ばかりなので、可愛い姪を暫くお育てすることになり、とても楽しかったですわ」
「王女殿下のお顔立ちは陛下そっくりですが、目元や口元などはリュシエンヌ様に良く似ていらっしゃいますわね」
「目元は陛下に似なくて良かったわ。そこまで似てしまったらきつい顔立ちになっていたわね」
伯母様はそう容赦なく話すと、お母様も頷き、他の皆様も控えめながらに頷いていた。
私、自分の容姿について深く気にした事なかったわ。
皆様の話から私はお父様とお母様の良いところを受け継いでいるって事かしら。
「王宮へ戻って間もないという事でしたが、お披露目の時の殿下のお姿は全くそうは思えない程凛としていらっしゃいましたわ」
「確かに。とても堂々とされていて、お戻りになられてばかりだとは到底思いませんでしたわ」
「そういえば、殿下の側近の方々はどのようにお決めになられましたの?」
話は私の側近達に移る。
気になるところではあるわよね。
「陛下が吟味し、シアとして生活をしている時に親しくしていた者達を中心に選びましたわ。その方がこの子も安心できるでしょうから」
「エステル殿下、レグリスはご迷惑をお掛けしておりませんか? あの子に側近が務まるようには思いませんが」
そう話すのはベアトリス様で容赦のない言葉。
後ろに控えるレグリスは苦虫を潰したように顔を顰めている。
「未だ日が浅いですが、セイデリア卿の事は小さい頃より知っていますので安心ですし信頼しております」
「ですが、近くにいながら殿下を護る事が出来なかったでしょう? 本当に申し訳なく思います。役に立た無ければ容赦なく対処して下さって構いませんわ」
流石ベアトリス様と言ったところかしら。
教育に関して容赦がないし、だからこそ安心できるというもの。
「あの時は私が突き落した者を逃がさないよう彼に指示した事ですので、お気になさることありません」
「それにしても情けない事。休暇中、暫くあの子を鍛え直してもよろしいかしら?」
そういえば交流会の出来でもそのような事を話していらっしゃったわね。
セイデリア卿の顔色は悪いけれど、ベアトリス様の顔は本気だわ。
「そうですわね。年明け、領へお戻りになる時でしたら構いませんわ」
「了承頂きありがとうございます。次殿下にお会いする時にはもう少しましになっているよにしておきます」
私が許可を出すと後ろでは項垂れた彼が目に入った。
ヴィクセル嬢が「どんまい」と彼に声を掛けている。
「殿下、同じく娘が役に立たなければ仰ってくださいね。主人に鍛え直してもらうように伝えますので」
そうヴィクセル夫人が言うと、今度は彼女がさぁっと顔を青くさせた。
ヴィクセル嬢のお母様も容赦ない。
外見からは全く想像つかない位優しそうな面差しだけれどね。
「今年も後数日で終わりますが、新年は殿下もお出ましになるのでしょうか?」
「えぇ」
「民衆も殿下のお姿を見る事が出来、今年以上に盛り上がるでしょうね」
「そうですわね。新年はいつも以上に周囲へ気を配らなければなりませんわね」
私は今年初めて参加するのでいつもの様子も知らないので想像がつかないが、普段会う事の出来ない王族が姿を見せれば⋯⋯あっ、よく前世で見た民衆が押しよせるといった、あの感じかしら。
あぁなるとお母様の心配事も分かるわ。
「新年の事に関しては騎士団がいつも以上に気を張ることでしょうね」
「それが騎士団のお仕事ですから」
「年明け一番の大仕事ですものね」
「きっとエステル殿下の近くを誰が配置になるか、揉めるのではないでしょうか」
揉めることは無いのでは?
騎士団の事はよく分からないけれど、団長が決めるとかではないのかしら。
私の疑問にヴィクセル夫人が答えてくれた。
「流石に揉めることはありませんわ。そこは第一騎士団の管轄ですし、団長がお決めになる事です。決定に対し異を唱える人はいないでしょう」
「第一騎士団の団長はかなり厳格な方ですものね」
「確かにそうですわね。あの方に逆らえるのって副団長位だとお聞きした事がありますわ」
騎士団の事はあまり知らないので、このお話はとても新鮮だわ。
近衛隊は王宮、宮廷にいる時の主に王族の警護、そして王宮、宮廷外へ出る際に同行するのが第一騎士団だとは知っているけれど、騎士団団長ときちんと挨拶ってまだしていないわ。
近衛団団長はお父様のお側にいるので挨拶は交わしたけれど、各騎士団とはまだなのよね。
騎士団と魔法師団を取り纏める軍部の長官で総団長であるヴィクセル伯爵とはお披露目の際に挨拶はしたけれど。
新年の時に会えるのかしら。
ご夫人方のお話をお聞きしていると、知らない事が知れるのでとても楽しい。
「お話は変わりますけれど、殿下は二学年から復学されるのですよね?」
「その予定ですわ」
「まぁ! では、その間に王妃殿下が開かれるお茶会にはご出席されますの?」
「出来るだけ出席させる予定よ。今まで出来なかったのでその分をこの機会にと思っていますわ」
「では、これからも会う機会が沢山ありそうですわね」
「嬉しいですわね」
ご夫人方とお話をしていると、ヴィンスお兄様が此方にいらっしゃった。
「母上、そろそろステラをお借りしても?」
「もうですか?」
「あちらで痺れを切らしている者達が多いですからね」
「仕方ありませんわね。ステラ、行ってらっしゃい」
「はい、お母様。皆さん失礼いたしますわ」
私はお兄様に連れられ、今度は男性陣が集まっている輪へと移動した。
その前に、セイデリア卿とヴィクセル嬢がマティお従兄様とティナに交代し、休憩とこのお茶会を楽しんで貰う為に予め決めていたのだ。
男性陣は女性陣の様な華やかさというのは無いけれど、容姿の整った方々が多いので、目の保養だ。
「ステラは私の隣だよ」
「はい、お兄様」
「漸くいらっしゃいましたね」
「お待たせいたしましたわ」
「皆、殿下とお話をしたくて待っていたのですよ」
伯父様はそういうと、他の皆さんもその通りだと言わんばかりに頷いている。
私としても普段お仕事で中々言葉を交わすことのない方達と交流できるのは私にとってもいい機会なので嬉しく思う。
「エステル殿下、少しお伺いしたいのですが、先程うちの愚息が顔色を悪くさせていましたが、何かありましたか?」
「あれは、ベアトリス夫人が年明け、領に連れ帰って鍛え直しますと仰ったので、それが原因ですわ」
「あぁ成程。納得致しました」
「もうお背中の具合は宜しいのですか?」
「はい。痛みも無いですし、医師には来週から普通に過ごして良いと許可を貰っています」
私がそう言うと伯父様は私が何をするのか分かったようで釘を指してきた。
「殿下、お背中が治ったからと言ってご無理はいけませんよ。王宮にお戻りになったとはいえ、宮廷での生活、ご自分が思うより疲れは溜まりやすいのですから」
「伯父様を誤魔化すことは出来ませんね」
「ステラ、何をしようとしていたの?」
「何もしなかったら身体が訛りますでしょう? シベリウスでいる時から続けている事をしようと思っていたのです」
「伯父上の言う通り、無理はダメだ。今年も残り数日だけど許可しないよ」
「お兄様⋯⋯」
「そんな顔しても駄目だよ。ステラは直ぐに無理をするからね」
折角訓練できると思ったのに!
伯父様だけでなくお兄様も厳しいわ。
私が残念がっていると、他の皆さんは忍び笑いを漏らしていた。
「エステル殿下は色んな事にとても熱心でいらっしゃるのですね」
「交流会での殿下の魔法披露を拝見致しましたが、そう訓練をなさらなくても大丈夫だと思うのですが」
「あれには私も度肝を抜かれましたよ。あのような繊細な披露を見るのは初めてです」
セイデリア辺境伯は感心した様に、ヒュランデル公爵は少し心配そうにそう話し、ベリセリウス侯爵は褒めて下さった。
というか、公爵は魔法披露を観に来ていらっしゃったのね。
一年にお子様はいらっしゃらないのに何故と思わなくも無いのだけれど。
まぁいっか。
「殿下がお戻りになり、宮廷内では殿下の噂で持ち切りですよ」
「噂になる様な事ありましたでしょうか?」
一体どのような噂なのか。
何か好き勝手言われてそうだけれど。
「殿下にとっては迷惑かもしれませんが、宮廷内で働く者達は貴族だけではありませんからね。皆殿下を一目見たいと、どうやったら会えるのかと休憩中に宮廷内をうろうろするものが続出しているようですよ」
なにそれ⋯⋯怖いんだけど!
休憩してるなら休憩すればいいのに。
そもそも私、宮廷内をうろつく事ないし、執務室から出る時ってお兄様の執務室かお父様の所か、王宮に帰る時くらいだからうろついても私に会う事って無いと思うわよ。
「殿下が執務室からお出になる事はそうありませんからね。うろついても会う事はないでしょう。それでも可能性があるならばと皆期待しているのでしょう」
「まぁ私達は夜会やこうしてお茶会などでお会いする機会もありますが、宮廷で働いているからと言っても平民にとっては王族の方々と会える機会というのはそうありませんからね。少しの可能性にでも掛けたくなるのでしょう」
確かに会う機会ってそうないかもしれないけれど、当事者だからその気持ちがよく分からない。
「不思議そうなお顔をされていらっしゃいますね」
「そこまで会いたいものなのかしら?」
「それはそうでしょう。殿下はご本人ですから分からないかもしれませんが、やはり自国の王族に興味がある事は良い事ですよ。お二人を目の前にして言う事でも無いかも知れませんが、民に興味を無くされたらそれまでです」
「その通りだな。関心を持たれなくなったら国としては危うい」
侯爵とお兄様の話している事は分かる。
関心が無くなるという事は国に興味が無いか、国政に対して信用がないか⋯⋯。
いずれにしても国として存続するには上がしっかりと運営する必要があり、また国民に対してこちらから関心を持たなければならない。
だから王女に関心が集まる、というのは良い事なんだろうけど、内心では会ってどうするの? って思ってしまうのは許してほしい。
「ステラはやっぱり鈍感だよね」
「確かに」
「ヴィンセント殿下の仰る通りですね」
「皆私の事を鈍感だと言い過ぎではないかしら?」
「人っていうのは美しいものに目が無いのですよ。殿下の場合、芸術やドレスで考えて頂いたらより分かりやすいかも知れませんね」
「どういう事?」
私がそう質問をすると、侯爵は説明をしてくれた。
芸術、例えば絵画は幅広く評価されることもあるが、美しい絵や色彩で人の目を奪い、音楽では耳で美しい音色で魅了される。
ドレスで例えるなら美しいデザインに肌触りの良い良質な布、それらを飾るレースや宝飾品。
どの分野でもより美しいものに人々は感心し魅了する。
それらと同じで、人同士もより優れた容姿に技量、性格に惹かれるでしょう。
王家の血筋の方々は皆美しい容姿をお持ちですし、それだけでなく人を引き付ける魅力があり、何よりもこの国の模範と成るべき方々。
そして滅多に会う事が出来ないという、希少価値が付随して皆憧れて会いたくなるものなのですよ。
会えばそれが彼等にとっては自慢になり喜びになるのです。
不敬罪にしないでくださいね、と忘れずに一言。
流石侯爵。
「⋯⋯ですので、その稀な方々が近くにいると一目で良いから会いたいと思うのは人としての衝動的な行動だという事です。お判りいただけましたか?」
「侯爵の話している事は理解できるけれど、そこに私が対象者という事が今一実感が持てませんわ」
「だから鈍感だと言われるのですよ」
「娘達の態度を見ていても分かりませんか?」
「あの有名人に会ったような喜びに満ちた瞳で見つめられたら流石に分かります」
私のその言葉に呆れを含み「その通りなのですけどね」と呟いた一言。
まぁ王族と言うだけで有名人と言えば有名人よね。
ただ実感が持てないだけで。
勿論自身が王族だという自覚はあるし、責任も付きまとう事も分かっている。
だけど、その実感を早く自覚して持ちなさいという事だとはきちんと理解しているけれど、どこか他人事の様にどうしても思ってしまう。
こう、その対象が自分だと思うと、なんだか言いしれぬもやもやとした感情を持ってしまうのだ。
「まだ十分とは言えませんが、少しでもご自覚が持てたのなら陛下も安心しますでしょう」
「侯爵は厳しいですね」
「そのような事はありませんよ。全ては殿下の御為です」
「ベリセリウス侯爵の心配事も分かりますが、殿下の対応はとてもこちらに戻られたばかりだとは思えませんでしたよ。私に対してもきちんと対処しておりましたので」
「ステラの欠点は自分自身の事だけだからね」
ヒュランデル公爵は擁護して下さったけれど、お兄様はきっぱりと私のダメ出しを行う。
私自身でも何となく分かっているから否定は出来ない。
そもそもこのような話は普通しない、というか出来ないわよね。
王家に、お父様を信頼し仕えて下さっている方々だから話が出来るのであって、普通はこのように曝け出して話をすることは出来ない。
何かあった時に私が足を引っ張りかねないから。
結局この面々だと教育とか仕事とか、そのような話が多いわ。
やはり男性と女性では話の内容が全く異なる。
どちらの話もいいけれど、何故だかこちらの方が安心するのはやっぱり不味いと思うのよね。
口に出せば叱られるのが分かっているから言わないけれど。
「どうしたの?」
「いえ。色んな方とこうしてお話が出来てとても楽しいと思いまして」
「どちらかと言うと、今はステラのダメ出しをしていたから何処に楽しい要素があったのか分からないんだけど」
「ふふっ。それも含めて、です。お兄様が分からなくても、私が楽しいのだから良いのです」
私が楽しそうに笑うとお兄様もつられて笑顔になり更に伯父様達も笑顔に包まれた。
お誕生日パーティーが終わり少し部屋でゆっくりした後、今度は身内だけでお誕生日のお祝いをしてくださるので、私だけいつもの時間より少し遅れて皆が待つ部屋へと入ると、そこにはお父様達だけでなく、お祖父様とお祖母様もいらっしゃった。
「ステラ、お誕生日おめでとう」
「お祖父様、お祖母様! ありがとうございます。まさかお祖父様達もいらっしゃるとは思いませんでしたわ」
「可愛い孫の誕生日だからな。こっちで苛められてはいないか?」
「大丈夫ですわ」
「ステラは頑張り屋さんだから心配なのよ」
「お祖母様、まだそれ程何もしていませんからきちんと休んでいます」
「そう?」
お祖母様にはかなり心配されているみたい。
話はひとまず置いといて、皆でお食事をいただく。
今夜は私の好きな料理が沢山並んでいる。
毎年そうなのだけど、その時々によって好きなお料理が変わったりするので、私の好みに合わせて作ってくださっているのがより一層嬉しい。
昼間のパーティーでお祝いはしてくださったけれど、去年までここに伯父様達も一緒にいてお祝いして下さっていたのだけれど、今年からはいないのがやっぱり少し寂しく感じてしまう。
「ステラ、王宮での暮らしはどうだ?」
「慣れましたわ」
「宮廷はどうだ? 貴族達に煩わされていないか?」
「はい。まだお話させて頂いた方々は少ないですもの。問題ありません」
「ならいいが⋯⋯」
「アンセに無理は言われていないかしら?」
「お祖母様、大丈夫ですわ。お父様はお優しいですもの」
「父上も母上も心配し過ぎではないですか? それにまるで私がステラを苛めているみたいな言いよう、私が可愛い娘を苛めるわけないでしょう」
お祖母様はまた私がお父様に無理を言われているのではないかと心配しているみたいだった。
疑わし気にお父様を見つめるが、お父様は嫌そうにしている。
だけどお祖父様もお祖母様もそんなお父様をむししている。
「あぁそうだ。ステラ、私からのプレゼントだ」
「ありがとうございます!」
毎年だけれど、お祖父様は手渡しでプレゼントをしてくださる。
お祖父様に限らず、お父様達も皆そうだ。
先にお祖父様から頂いてしまったので、お父様がちょっと拗ねているけれど、ありがとうのお礼とそのままお父様のお隣に座ると嬉しそうに機嫌が直ったのでよかった。
機嫌が直ったけれど、お祖父様の次の一言で機嫌が急降下してしまった。
「ステラ、どこぞの奴からステラ宛に贈り物を預かっている。ステラの宮に運ばせたから後で確認しておくように」
「どなたですか?」
誰だろうか。
お祖父様に預けるって⋯⋯隣から冷えた空気を感じ取ってちらっとお父様を見上げると、目が完全に据わっていた!
お父様がここまで怒るって、あ! もしかして⋯⋯。
私はお母様やお祖母様のお顔をみると、それはとても良い笑顔で私を見ているので、ヴァン様からの贈り物かしら!
私がそこに思い至ると、当たりだと言わんばかりにお祖母様が頷いていらっしゃった。
ただ、隣の空気が寒すぎて、素直に喜べない。
取り敢えずはお祖父様にお礼を伝えると、とっても渋いお顔で頷いた。
話題を変える様にお母様がお話を逸らして下さったので、お二人共さっと冷えた空気が消えて、そこからは楽しい話に花を咲かせた。
楽しい時間というのはあっという間で、私は部屋でヴァン様からの贈り物を開けていた。
まだ私が此方に戻った事は知らせていないし、知らないだろうと思うけれど、他国に知られるのは時間の問題だと思う。
いつもお手紙のやり取りは魔道具でしているけれど、今日は贈り物と一緒にお手紙が挟んであった。
お手紙を読むと、お祝いの言葉から始まり、私を気遣う言葉が書いてあり、お手紙を読むだけで心が暖まる。
私は早速お手紙と贈り物のお礼のお返事を手紙に認めて送る。
流石に交流会の出来事は伝えていないけれど、もしその事が知られてしまうと精霊界に呼び出されてしまうわよね。
精霊界で思い出したけれど、エストレヤってきっと何でも知ってるわよね。
珍しく何も言ってこないし、知っていたらヴァン様にも話して良そうだし。
もしかして知らない?
それとも、何かあったのかしら。
気になりだしたらとても気になるわ。
呼んだら来てくれるかしら。
私は心の中でエストレヤを呼んでみる。
「久しぶりだね!」
「エストレヤ! 本当に久しぶりね。あれから会っていなかったもの。元気にしていたの?」
「勿論だよ! エステルがどうしているか、僕はずっと見てたんだけどね。忙しそうだったから見守るだけにしてたんだよ」
「そうだったのね」
「エステルがこっちに戻ったから、此処に住む精霊達も皆いつもより元気だよね」
「そうなの? ずっと楽しそうに揺らめいているからずっとこんな感じなのかと思っていたわ」
「ここの空気は澄んでいるからね。元気は良いよ。だけどエステルが戻ってからの方がずっと楽しそうだよ」
そうなんだ。
と言っても私は何もしていないのだけれどね。
干渉しすぎるのも良くないだろうし、私も見ているだけなんだけど。
「そういえば、エストレヤは私が王宮に戻ったのも、もしかして交流会での出来事も知っているの?」
「知ってるよ。あっ! 安心してね。ヴァレンには何も言ってないから。レインも知らないからね」
「それを聞いて安心したわ」
知られてしまうと心配を掛けてしまうから、黙っていてくれた事に感謝しかない。
そうだ!
「エストレヤ、前にお願いした事、覚えてる?」
「勿論! 今から行く?」
「流石に今日は止めておくわ。けど、近い内にお願いしてもいい?」
「勿論だよ! 楽しみにしているね」
「ありがとう」
私がそうお願いをすると、エストレヤは私と話も出来たから満足したのか「またねー!」と何時ものように元気に去っていったかと思うと直ぐに戻って来た。
「エステル!」
「どうしたの?」
「お誕生日おめでとう! 伝えるの忘れるところだったよ」
「ありがとう」
お礼を伝えると、徐に近づいてきて私の額にキスをして颯爽と去っていった。
その変わらない姿にほっとすると、急に眠気に襲われた。
きっとエストレヤの仕業ね。
私はその眠気に逆らわず、そのまま眠りについた。
ご覧頂きありがとうございます。
ブクマ、いいね、評価をいただき、ありがとうございます。
次回は十二日に更新いたしますので、次話も楽しんでいただけたら嬉しいです。
よろしくお願い致します。





