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目覚めた世界が私の生きる場所  作者: 月陽
第2章 学園生活の始まり
164/273

164 侯爵が側にいる理由


 宮廷に行くようになり三日目。

 昨日侯爵にお願いをした件の返事が早くも届いたようだった。

 明日午後からヒュランデル公爵と面会する事が決まり、気になっていた事が明日で終わると思うとほっとする。

 すんなり終われば、だけどね。

 今日の予定としては情報が入ってくるまで動けないので、大人しくお勉強をすることにした。

 侯爵はその間お父様の所へ行くそうなので、私はアルネにお茶を淹れて貰い予習を行う。

 勉強をしているところに声を掛けられたので、一度中断してその声に問いかける。



『どうしたの?』

『二ルソン家の事ですが、三男が学園から姿を消したようです』

『どういう事? 邸に戻った、とかではなく?』

『邸には戻っておりません。今ノルヴィニオが行方を追っています』

『詳しい事は分からないのね』

『申し訳ございません』

『いいわ。また情報が入ったら教えてね。皆気を付けて』

『はっ』



 気になる情報がもたらされ、勉強に集中できなくなってしまったわ。

 何故彼は姿を消したのかしら。

 考えても分からない事ではあるけれど、どうにも気になるわ。

 午前中はその事で頭がいっぱいになり、少し早いけれど休憩を取る事にした。

 昼食後は気分転換にアルネに宮廷の庭園というよりも私のお誕生日会で使用される庭園に案内して貰った。

 そこは大きな温室とはちがうけれど、ガラス張りの大きな温室で暖かくて冬に咲く花で彩られていた。

 中央にはお茶会が出来るようテーブルがあり、私のお誕生日会の準備が進められているようだった。

 丁度一週間後ね。

 話を聞いた時は遠慮したかったけれど、小規模ならばいいかなと諦めが肝心っていうのもあるけれど、だけどお母様が主催して下さるなら楽しみだわ。



「如何ですか?」

「とても素敵な場所ね。宮廷の雰囲気とここは少し違うわね。とても空気がきれいだわ」

「此処の使用は陛下の許可が要りますので、限られたものしか使用できません。管理も徹底されていますので、この場に呼ばれた者達は皆光栄な事なのですよ」

「そうなのね」



 あまり人が入らないのか、王宮の空気に似てる気がする。

 何だかほっとするような、安心できるような場所だ。


 

「少しはお誕生日会に向けて気が乗りましたか?」

「そうね。お母様が主催して下さるし、この場所も素敵だわ。それに(わたくし)の知っている方々もいらっしゃるから、楽しみになってきたわね」

「それはようございました」



 アルネは私がそう答えると優しい笑みを浮かべていた。

 もしかして、心配されていたのかな。

 私は一通り見回って、執務室に戻ると侯爵が私を待っていた。



「お帰りなさいませ。庭園は如何でしたか?」

「とても素敵な場所で、来週が楽しみになりましたわ」

「それは王妃殿下も喜ばれるでしょう」

「陛下の所はもうよろしいの?」

「はい。あちらは問題ありませんよ」



 何か引っかかる言い方ね。

 疑問に思って公爵を見上げると、少し真剣な表情をしていたので、やはり何かあったのね。



「何があったの?」

「昨日シベリウス辺境伯より報告があった件ですが、二ルソン家の三男が学園から姿を消しました」

「その事ね」

「ご存じでしたか」

「姿を消した事だけしか知らないわ」

「未だ詳しい事は分かっておりませんが本日学園に登校しなかったようで、不審に思った担任が寮監に連絡、部屋を確認するとそこにはおらず、彼の持ち物等はそのままですので本当に身一つで行方不明です」

「意味が分からないわね⋯⋯」



 ひとつの可能性としては彼が行ったことは(王女)を傷つける様に言った事、それの罪悪感があるかは分からないけれど、その件で姿を眩ませたのなら分からなくもないわね。

 彼の為人が分からないから何とも言えないけれど。



「それより、その件は陛下も調べているの?」

「二ルソン家について、ですよ。陛下がお調べするよう指示を出しているのは」

「どういう事?」

「別件で調べていたのですが、二ルソン家の者が殿下を突き落としの件に関わっていることから、これはただ学園内のいざこざだけではないとのご判断です」



 何だか複雑な事になりそうね。

 決めつけるのは良くないけれど、ノルドヴァル公爵や闇の者が関わっているのかしら。

 ただ、その時はまだアリシアが突き落とされたのだし、ノルドヴァル家が絡んでる、というよりは闇の者かもしれないわね。

 あっ⋯⋯可能性としたら両方あるわ。

 きちんと報告を待ったほうがいいわね。

 


「ちなみに、その別件と言うのは?」

「その件につきましてはお答え出来かねます」

「そう」

 


 教えて頂けるとは思っていないけれど、兎に角新しい情報が入るまでは結局私は何も出来ないわね。

 


「殿下、待つ事も大事ですよ」

「分かっているわ。ただ分からない事だらけだと思って、少しもどかしいわね」

「そうですね。上に立つ者は齎される情報を精査して判断をせねばなりません。その情報が果たして正しいのかどうか、疑問に思われる事もあるでしょう。相手方が一枚上手で嘘の情報を掴まされる事もあります。ですので陛下もご自分の目と耳で聞きたがるのですよ。それを抑えるのは我々の役目でもあります。我慢を強いられることですが、これも殿下のお仕事のひとつです」



 待つ事が仕事。

 今は訓練も出来なくてもどかしいというのに。

 立場上仕方ないのは分かるけれど、動きたくなっちゃう。



「殿下、週末には側近達も登城しますので、午後からは少し彼等とお話されるのがよろしいでしょう。午前中の内に出来る事を詰め込んでおきますので」

「分かったわ。ありがとう」



 少し側近達の事が気の毒だと思いつつも侯爵との話が一段落したところでふとノルヴィニオが戻って来た気配を感じた。

 

 

『遅くなり申し訳ございません』

『何か分かったの?』

『はい』

『二ルソン家についてなら侯爵も知っているから一緒に聞くわ』



 此処には侯爵とアルネしかいないので、ノルヴィニオに出てきて話をするように伝えた。

 


「御前失礼いたします」

「お疲れ様。何か分かったの?」

「はい。二ルソン家の三男、イーサクは大聖堂に現れました。フリュデン男爵令嬢と接触した模様です」

「どうやって令嬢と会ったの? 彼女とは簡単に面会できない筈よ」

「それが、普通に面会しておりました。丁度アンデル伯爵がいらっしゃり、伯爵同席のもとでの事です。その後イーサクはアンデル伯爵家の家臣に付き添われ学園に戻っております」



 学園に戻ったのは良いけれど、態々抜け出してまで会いに行く理由は何かしら。

 会うならもうすぐ休暇に入るのだからそれからでもいい筈なのに。


 

「彼女に何を話しに来たのか内容は聞いたの?」

「はい。姫様の事に関してです。既に姫様がアリシア様だという事は周知の事実ですので、イーサクもかなり動揺しているようでした。まさかこのような事になるとは思っていなかったようです。王女殿下を傷つけたい気持ちは一切無かったのだと、アンデル伯爵と男爵令嬢に訴えておりました。ただ誰が彼に命じたかまでは言いませんでした。言えない理由があるのか脅されているようにも感じられますので引き続きルアノーヴァが見張っております」

「ありがとう。また何か分かったら直ぐに知らせてね」

「御意」



 まだ誰がそう言ったかまでは分からないのね。

 やっぱり直接話したいわね。

 もどかしいわ!

 私がそう思っているとすっと温かいお茶が差し出された。



「少しご休憩なさってください」

「ありがとう」



 お茶のお供に種類の違うスコーンも準備され、遠慮なくいただく。

 甘い物が美味しいわ。

 ただ、スコーンは口の中の水分が持っていかれるけれどね。

 侯爵もお茶を飲みながら考えているようだった。



「何故それだけで彼女に会いに行ったのでしょうね」

「誰かに言いたかったのではないでしょうか。誰かに話す事で自身の過ちを軽くしたいと思ったのかもしれません」

「話したとしても軽くなるわけありませんけれど。心理的にはそうなのかもしれませんね」



 誰かに話すだけで心が軽くなる事は分かるけれど、犯した過ちは軽くならない。

 多分そこまでは分かっていないでしょうけれど。

 先ずは何を脅されているか、そこが分かれば進展しそうだけど、そう簡単に分かるかしらね。



「話は変わりますが、殿下がきちんと影を使えているようで安心いたしました」



 どういう事?

 侯爵の言っている事が分からずに首を傾げると、その意味を教えてくれた。



「殿下はお優しいですからね。彼等にきちんと命じる事が出来るか、少し気にかかっていたのですが、杞憂でした」

「そういう事ね。彼等が傷つくの嫌です。ですが、彼等の仕事を奪っていい事にはなりませんから」



 私のその言葉を聞いて満足そうに頷いた。

 侯爵からそろそろヴィンセント殿下が戻られる頃だと、お兄様の執務室まで送ってもらい、侯爵はそのままお父様の元へ向かった。

 お兄様の執務室で待つ事少し、今日はお兄様をお出迎えすることが出来た。

 お兄様は嬉しそうなお顔を見ると安心する。



「今日は何をしていたのかな?」

「来週の件で庭園を見に行っていました」

「ステラのお誕生日までもう一週間だね。私からのプレゼント、楽しみにしていてね」

「はい。あっ、当日はお兄様もいらっしゃるのですか?」

「当たり前だよ! ちゃんと予定は空けている。ステラをエスコートするのは私の役目だからね。誰にも渡さない」



 お兄様ったら、そんな真剣に言わなくても。

 でもお兄様がエスコートしなければ、きっとマティお従兄様にお願いする事になるものね。

 どちらにしてもお兄様達以外で私をエスコートする人なんていないわ。



「我々もご招待頂いておりますので、出席させていただきます」

「そういえば招待客一覧の中に入っていたわ」



 エドフェルト家、ベリセリウス家の二家も勿論招待客の中に入っているので、お二人も参加して下さるみたい。


 

「私達からのプレゼントも楽しみにしていて下さいね」

「そんなに気を使わなくてもよろしいのに」

「気を使っているわけではありませんよ。殿下にお渡ししたいので準備をしたのです」

「おい! 二人共まさかとは思うがステラに気があるわけじゃないだろうな」

「違いますよ。純粋にお祝いがしたいだけです」

「ヴィルの言う通りです」

「ヴィンス様は妹姫の事となると目の色が変わり過ぎですよ」

「変な虫が付いたら困るだろう」

「私達はそう変な虫ではないですけどね。身元もしっかりしているわけですし」

「二人共腹が黒いだろう」

「「失礼ですね」」


 

 お二人がお兄様と仲が良さそうに言い合いをしているのを見てちょっと羨ましくて、無意識に「お兄様と仲がとても良いので羨ましいです」と呟いたのを三人に拾われてしまった。



「ステラ、この二人は()()()側近だよ? ステラが羨ましがる必要ないからね」

「ですが、(わたくし)の知らないお兄様を知っていらっしゃるでしょう? やはり羨ましいですわ」

「私からすればマティ達が羨ましいよ。私の知らないステラを知っているんだからね」



 ⋯⋯それもそうね。

 私はシベリウスで過ごしていたんだから、お兄様が知らない私もいるんだったわ。



「ごめんなさい」

「いいんだよ。悪いのはこいつらだから」

「流石に酷くないですか?」

「私達でも傷つきますよ」



 それを聞いて思わず声を出して笑うと、三人共一瞬虚を突かれたような表情をしたけれど、最後は苦笑していた。



「そういえば、学園も明日で終わりですね」

「あぁ、明後日から休暇に入る。⋯⋯あっステラの成績だけどね、代わりに見てきたよ。首席のままだから安心してね」

「そうでしたか。ありがとうございます」



 そういえば成績の事はすっかり忘れていたわ。

 お兄様達の事も聞けば、お兄様は勿論の事エドフェルト卿も首席だという。

 そしてベリセリウス卿はと言うと、五位なんだとか。

 だけどよくよく話を聞けばそれはわざとらしい。

 そこは色んな事情もあるようで、はぐらかされたけれど、きっと家の事よね。

 今日も少しお邪魔した後、お兄様達もお仕事があるので挨拶をして部屋を後にした。

 

 今日はそのまま王宮へと戻り、夕食まではゆっくりと過ごす。

 部屋から見る外の景色はもうすっかり暗くなっていたけれど、昼間と違って雪が深々と降っており、この分だと明日は雪が積もってそうね。

 少し窓を開けて外を見ていたけれど、風邪を引いたらいけないからと早々に窓を閉められてしまった。

 そして夕食の時間となり、食堂へ行くとフレッドが先に来ていて待っていたが、私もそう待つ事なくお父様とお母様が揃った。

 ヴィンスお兄様は今日は一緒に食べられないみたいなので、早速お食事をいただく。

 食事の間にお父様から早速明日の事を突っ込まれた。



「ステラ、明日ヒュランデル公爵と会うそうだな」

「はい。早く会って話を終わらせておきたいと思います。いつまでも引きずるのは嫌ですもの」

「彼奴は生真面目だからな。まぁ話を聞いてやったら気も収まるだろう。悪い奴ではないんだが⋯⋯」



 まだ挨拶を交わしただけなのだけれど、お父様が言うように悪い印象は全くないわね。

 生真面目っていうのも何だかわかる気がする。

 明日きちんとお話をしたらどんな方がわかるでしょう。

 あっ、そうだ!



「明日、公爵に会うのに何か気を付けなければならない事とかありますか?」

「いや、ヒュランデル公爵については特にない。ステラが思うようにしたらいいよ」

「分かりましたわ。ありがとうございます」



 明日の事を考えていたらお母様から来週の私の誕生日会の件についての話があり、明日の午前中何もなければ衣装の試着をするのに空けて空けておきなさいと言われた。

 特に急ぎの予定は無い為、明日の午前中は王宮に留まることになった。

 侯爵にはお父様が伝えてくれるそうなので特に問題はない。


 そして翌日、朝食が終わりお母様主導の元でドレスの試着を何着もしている。

 来週着用するドレスは真っ先に試着し、変更箇所が決まれば後は仕上げて貰う。

 今試着しているのは年明けに民衆の前に出る時の衣装合わせをしている。

 こちらもお兄様とお揃いのデザインで進められていて、大体は決まっているのだけれど、細かい部分でお母様から指示が飛ぶ。

 これが決まれば次は普段着用するドレスや執務を行うと時の、まぁ仕事用のドレスに関しては私がデザインしたものを仮縫いしたのを試着しお母様に審査して貰うのだけれど何だか緊張するわ。

 試験を受けているような感覚だ。

 執務をしているときは全体的に落ち着いた、袖が邪魔にならないようなデザインにしているが、地味にならないようにそれとなくスカート部分や背面には華やかさを持たせている。

 それが良かったのかお母様に合格点を頂けた。

 午前中はこれだけで終わってしまい、昼食を頂いた後は宮廷へと向かう。

 執務室につくと侯爵とアルネに挨拶をして予定の確認と新しい情報がないかの確認をし、面会時間まで書類に目を通す。

 そして時間通り公爵がこちらにいらっしゃったとの事で中へ通すよう指示する。



「失礼いたします」

「ごきげんよう。お待ちしておりましたわ」

「王女殿下におかれましてはお機嫌麗しく、本日は貴重なお時間を頂きありがとうございます」



 私は公爵にソファを勧め、私も対面に座り、ベリセリウス侯爵は私の後ろに立つ。

 肝心の公爵は席につかず、その場で膝をついた。



(わたくし)に話があるということですけれど、どのようなお話かしら?」



 私が公爵の行動に言及せず声を掛けると、さらに深く謝罪の意を示す。


 

「元とはいえ、公爵家におりましたデジレアとサンドラの件です。当時アリシア様には多大なご迷惑を、そして王女殿下に対してはご不快な思いをさせてしまった事、改めてお詫び申し上げます」



 なるほど、生真面目とお父様が評していたけれど、本当に真面目な方ね。

 間違ってはいないのだけれど、ここまでされるとは思わかなったわ。

 とは言え、あの噂に関しては流石の私も悲しくなったわけで、過ぎた事とは言え思い出すとやはり嫌な思いはある。

 


「既に過ぎた事で彼女達に関しても処罰は終わっています。それに公爵自身も陛下からお咎めがあったのでしょう?」

「はい。一ヶ月の謹慎に加え半年間の減俸そして陛下よりお叱りを受けました」



 ――お叱り⋯⋯?



 前半は分かるけれど、お叱りって⋯⋯お父様は何を公爵に話したの?

 ちらりと侯爵を見上げると、理由を教えてくれた。

 自身の意志とは関係なく再婚したとはいえ、家庭を顧みず家にも帰らないのは如何なものかと。

 前妻の子供達のこともあるのでこれからは宮廷に泊まらずさっさと帰れ! と言うことをつらつらとお父様に説教されたらしい。

 成程、納得しました。



「今ではそれらを守り過ごしているのかしら?」

「はい。宮廷には泊まらず、邸に帰っております」

「それで、ご子息達とも交流は図れているの?」

「はい。一カ月の謹慎中に子供達にもこっ酷く叱られました。陛下からきちんと彼等の話を聞くようにとの事で、謹慎中は丁度学園の休暇期間でしたので、あの子達の気持ちが知れて申し訳無さで猛省致しました」



 かなりご子息達の言葉が響いたのか、言葉のトーンがずしんと重かった。

 反省しているのなら私としては別に言うことはないし、そもそもあの件に関しては公爵がいくら家庭を思っていたとしても、元夫人達の元々の性格だとどちらにしてもそうなっていただろうとも思う。

 こればかりは何とも言えないけれどね。



「公爵の謝罪は受け取ります」

「感謝いたします」


 

 謝罪を受け取った私は公爵に座るよう促し、少し公爵とお話しをしたのだけれど、言葉の端々から真面目で誠実さが伝わってくるので、公爵自身にはとても好感が持てる。

 あまり引き留めるのも申し訳ないのであまり長く話す事無く公爵は仕事へと戻っていった。

 問題もなくヒュランデル公爵の件は片付いた。

 


「意外でした」

「急にどうしたのですか?」



 一息つくと侯爵が話しかけてきたのは良いけれど、意外って何がでしょう?

 


「ヒュランデル公爵が謝罪の為跪いた時、直ぐに顔を上げる様に言わなかった事です。殿下はお優しくていらっしゃいますので直ぐにお許しになるのかと思いました」

「そうした方が良かったかしら?」

「いいえ。そのご対応でよろしいですよ。お優しいだけでない事が分かって良かったと思います。優しさを見せる事も大事ですが、侮られることもございます。ヒュランデル公爵はそのような人物ではありませんが、今後どの貴族相手でもご対応にはお気を付けください」

「えぇ。気を付けるわ」



 侯爵は私がどのような対応をするのか窺っていたみたいね。

 お父様の指示かしら。

 あ、補佐と言いつつ、私の対応も見られているのかもしれないわ。

 きっとそうね。

 今頃気付いてしまったわ⋯⋯。



「如何されましたか?」

「いえ、今更ながらに何故お忙しい侯爵を(わたくし)の臨時の補佐に付けたのか、その理由に思い当って⋯⋯気付くのが遅いわね」



 私はそう苦笑しながら答えると、侯爵は驚いたような表情を浮かべた。



「因みに、その理由と言うのをお聞かせ願いますか?」

「ただ単に(わたくし)の側近達の教育だけでなく、(わたくし)の執務の様子や貴族達への対応を見定めているのではなくて?」

「殿下は鋭いですね」

「そうではありません。(わたくし)が気付くようにと話しているのかは分かりませんが、先程の話を聞いてそうだと思ったのですよ」

「特に殿下が気付くよう話をしたわけではありません」



 嘘か本当かは分からないけれど、本人がそう言うならそういう事にしておきましょう。

 この話は終わりで、今日はこの他何か進展があったわけでもなく、明日の予定の確認を行う。

 明日は一週間振りに側近達が登城するので、侯爵は彼等の教育を行い、私は午前中お母様とお約束がある為、午後から宮廷に行くことになっている。



 ――あっ! 肝心なことを忘れていたわ⋯⋯。



「侯爵、相談があるのだけれどいいかしら?」

「はい。何でしょう?」

「明日から宮廷に側近達が登城するけれど、そうすれば彼等が(わたくし)の側近だと周囲にも直ぐに知れ渡りますよね? ルイス嬢は大丈夫かしら?」

「確かに、彼女だけ平民ですからね。他の貴族子息は別として、暫く彼女にそれとなく護衛を付けたほうが良いかもしれません」



 侯爵は私の危惧を直ぐに理解してくれた。

 もし私が狙われるとしたら周囲の人達も危険に陥る可能性は十分にある。

 平民である彼女は勿論学園で学んでいるので少しは自衛することは出来るでしょう。

 だけど、相手が貴族ならそう簡単にはいかない。

 宮廷内で一人で行動することは暫くさせないとしても、問題はご自宅に帰る時や街にいる時が危険だと思うので、侯爵が手配してくれることになった。

 絶対に大丈夫とは言えないけれど、これで少しは安心かな。

 どのように手配したかは明日確認するとして、明日は一週間ぶりに皆に会えるのでとても楽しみね。

 明日の事を思うと自然と笑みが溢れた。

 

ご覧頂きありがとうございます。

ブクマ、いいね、評価を頂き、とても嬉しいです!

本当にありがとうございます。


次回は二十三日に更新致しますので、楽しんでいただければ嬉しいです。

よろしくお願い致します。

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