160 お披露目に向けて
昼食後、私は予定通りに臨時の執務室を訪れると、待っていましたと言わんばかりのいい笑顔の侯爵に迎え入れられ、対照的に側近の皆はげっそりとしていた。
――一体何があったの?
「侯爵、彼らに何をしたのです?」
「ただの教育ですよ? 少々飛ばし過ぎましたかもしれませんね」
「何事も程々と言う言葉がありますよ」
「殿下の側近ならこれくらいで音を上げて貰っては困ります」
中々容赦ない指導をしているようだった。
本当に外見と中身が合っていないわ。
「きちんとお昼の休憩は挟んだのかしら?」
「勿論ですよ。流石にそこまで鬼畜ではありません」
自分が鬼畜だって自覚はあるのですね。
段々と侯爵に対しての印象が変わってくるわ。
「殿下、午前中にお話ししました書類を纏めておきましたで、先ずはこちらに目を通してください」
「あのような言葉を残していったからとても気になっていたのよ」
私は渡された書類に目を通すと、そこに記載されていたのは私が提案した学園内監査の件の報告書だった。
各学園に今迄取り入れていなかった、内部監査を行う事を各学園に指示した結果が取り纏められていて、学園の教職員達からの意見も記載されていた。
実際内部監査をしてみて改めて仕事への取組みの勉強になった、再確認が出来たという意見もあれば、面倒だと、意味が無い事だという意見もある。
真面目な方は良い意見が多いが、適当、と言えば言葉が悪いけれど、面倒だと思う人もいるでしょう。
様々な意見があるのは良いけれど、大多数は内部監査には前向きだ。
ただ、中には気になる意見もある。
仕事を増やされて不愉快だ、そもそも監査すら必要ないと言う意見が専門学園の中に多かった。
それらの意見に混ざって、記載されていたのは⋯⋯。
『学内で不正が横行しています』
――これは⋯⋯。
「侯爵」
「はい」
「この意見書はいつ頃届いたのかしら? 交流会前に内部監査を行っていたはずだから少し前かしら?」
「いえ、教育部門から今回初めて行った監査の意見書を各学園に求めたのが結果を纏めた頃に初めての試みということで後から意見を求めましたので最近の事です」
学園側に意見書を出すように先に言っておけばもうちょっと早く知りえたでしょうに。
しかもこれは一人だけではない。
一人だけの意見ではなく、複数人がそのように記載しているので一度本格的に調べた方が良さそうね。
「この内部告発ともいえる内容に関しては調査を行っているのかしら?」
「未だです。殿下はどう思われますか?」
「こういった声が上がるならば、何かしらあるのでしょうね。一度きちんと調査を行った方がよろしいわ」
「左様ですね。お披露目翌日には大々的に学園に関しての一切の執務はエステル殿下の管轄で進めることなっておりますので、殿下には書類作成をお願い致します」
それ、もっと前から分かっていたわよね?
何故今言うのかしら⋯⋯
侯爵、思ったより性格悪いかも。
その侯爵は面白そうに私を見ているし。
「元々は陛下の管轄だったのでしょう?」
「仰る通りです」
「離宮で最初に出された課題はただ執務を行う事に関してだけでなくて、この為に?」
「左様です」
最初から決まっていた事なのね。
嫌な事じゃない。
私に任せてもいいかきちんと見て、判断して下さっている事に対しては嬉しく思う。
だからこそこれから頑張れる。
侯爵には側近達の教育に戻って貰い、私は不正に関して調査をする為の教育部門に指示する為の書類作成に集中した。
集中していると周囲の声が聞こえなくなるのは私の悪い癖なんだけれど、今日も変わらずそれが出てしまったようで、マティお従兄様にまさか強打した背中をぽんっとされるとは思わず、痛みで思わずペンを取り落としてしまった。
「お、お従兄様、背中は、止めてくださいませ⋯⋯」
「申し訳ありません。呼んでも全く気付いて頂けませんでしたから、つい」
それはもういい笑顔で言われてしまって、アル伯父様の様な怖さがある。
怒ってはいないけれど、かなり呆れている表情だ。
その癖を直すようにとずっと言われていたのに直っていないから。
「殿下の集中力は、話に聞いていましたが凄いですね」
「感心しないでください。ステラ様にはその癖を直して頂くように再三お願いをしていたのですが、全く直っていないようです」
だからと言って、強打した翌日に背中をぽんっと叩かないで欲しいです!
地味に痛い⋯⋯。
「殿下、集中されるのは良い事ですが、休息も大事ですよ。私は陛下に用事がありますので一度宮廷に参ります。その間は側近の者達と休憩をなさってください」
侯爵はそう言うと、部屋を退室した。
そして私達は休憩を取る事となり、エメリ達が手早くお茶とお茶菓子の準備整える。
真剣で少し緊張感があった空気が一気に柔らぐ。
「侯爵の教育に慣れましたか?」
「クリスティナ嬢がいるのであれですが、侯爵様の見た目に騙されますね」
「レグリス君の言う通りよ。大体父の見た目に騙されている方が大多数ですわね」
「だからこそ陛下の側近としていらっしゃるのでは?」
「それもありますわね」
「ルイス嬢はこの場の雰囲気に慣れたかしら?」
「先週よりは慣れました。ですが今は緊張している場合ではなくて、侯爵様についていくのに必死です」
緊張している暇が無い事は良い事ね。
それだけ集中できているという事だし。
ただ、此処ではなくて宮廷で執務を行うようになったらまた緊張するかもしれないわね。
「学園の試験は皆さん問題ないですか?」
「そちらは問題ありませんよ」
皆さん試験は問題ないみたい。
だけど何か気になるのか、クロムヘイム卿が発言をした。
「ひとつ質問をよろしいですか?」
「何かしら?」
「殿下は二学年まで休学されますよね? 試験は如何されるのですか? 二学年に上がるのにも試験は必須の筈ですが」
「それは、休学者に対しての試験とは別にもうひとつ課題が課せられるのよ。試験に関しては私達の担任であるクランツ先生が宮廷にいらっしゃって、執務室で試験を受けるの。そしてそれとは別にいくつかの課題を提出する事によって成績が決まり、その成績によって二学年時の順位が決まるのよ」
「休学者に対しての措置が学園にはあるの。休学に理由にもよるけれど。殿下の場合はその対象になるので、問題なく二学年に上がられるわ」
まだ試験も受けていないのにティナったら迷いなく答えたわ。
これ、私がいい成績取れなかったらどうするおつもりかしら。
ティナを見ると問題なと言った風ににっこりと笑みを浮かべているけれど、侯爵と同じ笑みだわ、あれ⋯⋯。
やはり親子ね。
そっくりだわ。
「ステラ様が問題なく上がられるのは心配していないけど、心配なのはお披露目後の学園の様子だな」
「確かに。私達一年のクラスが一番騒がしくなるでしょう」
確かに、クロムヘイム卿が言う通り、私のいるSクラスが一番騒がしくなるでしょうね。
「お披露目が済みましたら、私達が側近だという事は周囲に知られても問題は無いのですか?」
「いえ、ご自分からそうだと周知させるのは控えて下さいね。貴方方のご両親にもそのように伝えております。宮廷に登城するようになれば自ずと周囲に知れ渡りましょう。それまでは口を噤んでください。後皆さんにお願いがあるのですが、学園での様子を登城した時に教えてくださるかしら」
「「「畏まりました」」」
やはり実際に学園の様子を肌で感じて聞いている皆に教えて貰う事でよりクラス内の様子や学園内の反応が分かると思う。
勿論影の皆にお願いしても良い事だけれど、彼らの目線と学園に通う学生の目線ではまた感じ方も違うと思う。
私達の話が一息ついたところで侯爵が宮廷から戻って来たので其々続きを行い、暗くなる前に今日の教育が終了した。
次側近の皆に会うのは一週間後になる。
その一週間でどのような話を持ってくるか、色んな意味で楽しみにしている。
皆が帰った後、私は侯爵と少し話をしてから宮へと戻って来た。
明日は一日安静日でゆっくり休み、明後日のお披露目の為に備える事を言い渡されているので、出席者の確認を一応しておこうかしら。
訓練もしたかったけれど、背中がまだ痛いし無理は出来ないからね。
夜、医師の診断で悪化はしていないので安心すると、今夜、そして明日一日は絶対安静に、翌日のお披露目のダンスと貴族達との交流で背中に負担が掛かるだろうから次回の診察はお披露目から戻ってきたら診ますと今日の診察が終わった。
翌日は安静にしながらもお母様とのお茶を楽しんでいた。
ゆったりとソファに座って極力背中に負担が掛からない様にクッションを使って座る。
今日は少しお行儀が悪くてもお母様に叱られることは無い。
今日の話題は先日、お母様主催のお茶会の件だった。
「昨日のお茶会で面白い話が聞けたのよ。貴女に関する事でね」
「どのようにを言われていたのでしょう?」
「ふふっ、知りたい? もう笑いを堪えるのが大変だったわ」
お母様はそうおっしゃいますが、目が全く笑っていません。
一体どんなことを言われていたのか。
というか、お母様主催のお茶会で私の悪気地をよく言えますね。
「お母様?」
「ふふっ、ごめんなさい。お話を聞いたのは、ノルドヴァル公爵家の取り巻きのご夫人方からよ。彼女達はね、貴女に会った事も無いのによく知っているような口振りでこう話すのよ。『王女殿下は周囲の目が気になり外にも出られないのですよ』ですって! 学園に全く通う気配も無ければいつまで経っても公の場に姿を見せる気配もないのでそう話しているの。他にもね、『害される恐怖に怯えていらっしゃるのよ』とか『容姿に自信がなくていらっしゃる』とかね。遠回しにそう話していたけれど、それを聞いて笑いを堪えるのが本当に大変だったのよ。お義姉様もかなり我慢してらっしゃったし。貴女の事を知ったらあの方達、どう思うでしょうね。お披露目が楽しみだわ」
「お母様、私で遊ばないでくださいませ」
「遊んでいませんよ。ただ、私達の可愛いステラが臆病だなんて。それにあの者達は貴女の事を醜いっていうのよ。こんなに可愛いのに!」
可愛いっていうのは親の贔屓目でしょうから何とも言えないけれど、私の容姿を悪し様に話すのは、両親であるお父様とお母様へ対しての間接的な悪口よね。
お母様もそれは分かっていらっしゃるだろうけれど、私への悪口が許せないようで物ともしていない。
「だからね、明日は貴女の事をとっても可愛いのよって自慢したいから、貴女の準備には私も参加しますからね」
「お母様もご自身のご準備がありますのに?」
「私の事より貴女の方が大事です! 貴女のお披露目なのですよ」
いえ、この国の王妃であるお母様のご準備も大事だと思いますけど⋯⋯。
お母様の事だから勿論手抜かりは無いでしょうけれどね。
ただ、お母様の言葉に突っ込みを入れたくなってしまったのです。
「明日は何時以上にとても可愛らしく且つ上品に仕上げますからね。ふふっ、明日が楽しみですわね」
「お手柔らかにお願い致しますわ」
――明日が怖いわ⋯⋯。
夕食時もお母様はお父様達に明日の意気込みをお話していたら、お父様もそれに乗ってしまって私には今日は早く寝るようにと、明日楽しみにしていると。
きっと昨日のお茶会の事を事細かくお聞きになっているのね。
お兄様からは「明日のエスコート、そしてダンスを楽しみにしているよ」と、とても嬉しそうに仰った。
うん、それは私もとても楽しみにしていて、私的には本来のお披露目よりもそちらが楽しみで仕方がない。
それにはお母様監修の元、朝から準備と言う名の戦場を潜り抜けなければならない。
それを思うと気が重いけれど、お兄様の隣に立つのだから手は抜けないので頑張って耐えようと思う。
そして翌日、その準備は朝起きた時から始まった。
私はされるがままなのだけれどね。
大変なのはモニカを筆頭に私の侍女達だ。
それにしても眠いわ⋯⋯。
「殿下、しゃきっと起きてくださいませ。今日は何時もよりも完璧にとの王妃殿下よりの仰せですのでより念入りにご準備が必要です」
「分かっているわ」
いつもよりモニカの声が険しい。
何か怒っているのか⋯⋯あぁ、昨日お母様とのお茶会の時にモニカもいたからお話聞いていたわよね。
それで怒っているのかしら?
ちらりとモニカを見ると、私の視線に気づいた彼女はにっこりと微笑んで「ステラ様がいかに素敵な方なのか、全員に知らしめてやりましょう!」だって⋯⋯。
モニカもやる気に火が付いていたのね。
そしてここの侍女全員がこんなに闘志に燃えていて、もう彼女達に全てを委ねた方がいいわ。
午前中ゆったりとマッサージをされて髪の手入れも入念に行う。
お昼を挟んで午後からは湯に浸かって最終磨かれ、部屋へと戻ると、お母様がいつの間にかやってきていた。
「進み具合はどうかしら?」
「滞りなく進んでおります。少し休憩を挟んでドレスの着付けにはいります」
「では、私と一緒にお茶をしましょうか」
「お母様のご準備は宜しいのですか?」
「問題ないわ」
小休憩をお母様と共にする。
その小休憩中にお披露目のお浚いを行う。
貴族達には今日は私のお披露目の件は伏せてあるので、私が登場する事で大きな衝撃が走る事でしょう。
侯爵からも言われている通り、強気な私を伏せて、少し大人しく見える様に振舞いなさいと。
まだ公の経験が不足している私にどこまでそう出来るか分からないけれど、頑張って演技しなければならない。
演技と言っても自然に見える様にしなければならず、難しい所。
お母様は私に出来ると信じているようで、それが程よい緊張感を私に与える。
休憩後、髪を結いドレスの着付けをし、最後に宝飾類を付けて完成。
ドレスの着付けの間、いくつかモニカに指示を出してお母様もご自分の準備の為にお戻りになっていて、完成後に少し手直しがされる。
髪はまだ未成年なのでハーフアップだけれど、複雑に結い上げてあり、レースを絡めて後ろで花が作られ、中央には紫色の強い青みがかったタンザナイトが煌めいている。
ネックレスとイヤリングは髪につけている宝飾とお揃いで華奢だけど細やかなデザインで全体のバランスを崩さず、綺麗にまとまっている。
ドレスはチュールを重ね合わせ薄紫色で、腰回りには嫌味にならない位の濃い紫色、青色を主に使った小花が散りばめられ、後ろは濃い紫のリボンも特徴だ。
全体的に王家の色でまとめられた姿は愛らしさが全面に出ていて、だけど濃いめの色を入れる事で愛らしさの中にも凛とした印象がある。
仕上がった姿を見てモニカ達はやりきったという表情をしていた。
「とてもお可愛らしいですわ!」
「本当に! 皆様きっと驚かれますわ」
皆褒めてくれるけれど、皆のお陰で可愛くなったのだからお礼を伝えると、嬉しそうにしていた。
先ずは団欒の間に集まるのだけれど、お兄様がお迎えに来てくれるそうなので、それまでは部屋でゆっくりとすると、それほど待たずしてお兄様が来訪されたと告げられたので中はお通しするように伝える。
「お待たせって、ステラ! 凄く素敵だよ。やっぱり私の妹は世界一可愛いな」
「お兄様、褒め過ぎです。ですがお兄様は世界一格好いいですわ。私のドレスとお揃いなのですね。とても嬉しいです」
「私が今日一日エスコートするからね。ステラと揃えたんだよ」
細やかな意匠や色味がお兄様とお揃いなのでとても嬉しく思う。
お兄様も同じ気持ちなのかとても嬉しそうだ。
そんな私達を見ていたモニカ達は良く似た私達が一緒にいる事で顔を染めて温かな目で見守られている事に気付かなかった。
「さぁ、父上達のところへ行こうか。首を長くして待っているよ」
「はい、お兄様」
ヴィンスお兄様に手を差し出されたのでその手に添えると、お兄様のエスコートでお父様達が待つ団欒の間へと向かった。
部屋に着くと、正装のお父様と着飾ったお母様が待っていらっしゃって、二人共お揃いの衣装で美男美女だから、両親ながらに見惚れてしまう。
「ステラ⋯⋯これは可愛すぎるな。彼奴等の前に出すのが勿体ない。というか、此処に閉じ込めておきたいな」
「何を言っているのです? 逆ですわ! こんなに愛らしい娘を見せびらかして自慢したいですわ。閉じ込めるなんて勿体無い事は出来ませんよ」
お父様は監禁したいと言っているのも同じ様な言葉で、お母様は見せびらかしたいなんて⋯⋯。
どちらも遠慮したいですわ。
「父上、母上。ステラが引いていますよ。そういった言動は程々にされたほうがよろしいかと」
「あぁ、すまない。あまりにも可愛らしくてな。いや、勿論普段から可愛いが、今日は一段と輝いているからな。⋯⋯やっぱり出したくないな。虫が寄ってきそうだ」
最後の方はブツブツと呟いていて何を言っているかよく分からなかったけれど、何か真剣に悩んでるご様子。
「お父様は何を悩んでおられるのです?」
「父上は置いといていいよ」
「ステラ、とても可愛いわ。やはり私達の子よ。ヴィンスと並んだらきっと皆色めき立つわね」
「ステラ言い寄ってきた馬鹿な奴らは全員覚えておきなさい。後で纏めて処理する」
――物騒過ぎですよ! お父様‼
「父上、大丈夫ですよ。私が側で纏めて蹴散らしますから」
「あぁ、任せたぞ」
このお二人このままにしておいていいのかしら。
ちらりとお母様を見ると、優雅に微笑んで二人を見守っている感じだ。
私が変なのかしら⋯⋯。
何だか不安になるわ。
「ステラ、この間も話した通りに今日はヴィンスと一緒に行動しなさい。決して一人にならない様にな。エリオットからも言われたかと思うがノルドヴァル公爵が寄ってきたらか弱い振りをするように。いいな」
「分かりましたわ」
「何かあっても近衛が二人付いている。もし一人になってしまったら彼らと一緒に行動しなさい」
「はい」
「今夜は少し早く夜会が始まるが、二十時には会場を後にし宮へ戻るように。まだ二人共未成年だからな。夜は早く寝なさい」
「分かりましたわ」
お父様から幾つか注意事項を言われ、少し雑談をしていると、侍従が「そろそろお時間です」と彼の言葉で私達は会場へと移動する。
会場に近づくにつれてざわざわと話声や人々の動きが伝わってくる。
私達が入場するのは王族の入口なので、貴族達とすれ違うことは無い。
入口には近衛二人が護っている。
私達が扉の前に着くと、少し待ち先ずは国王であるお父様とお母様が入場すると、先程までの喧騒が嘘みたいに静まり返って、お父様達を出迎えている。
お父様達が入場すると一旦扉が閉まる。
私は人知れず深呼吸をした。
「ステラ、緊張してる?」
「お兄様。緊張しないと思っていましたけれど、やはり少し緊張しているようです。情けないですわね⋯⋯」
「情けなくないよ。ステラが大勢の貴族の前に出るのは初めての事だから緊張するのは当たり前だよ。私も緊張したからね。私が一緒だから大丈夫。何があっても護るから」
「お兄様が側にいて下さるから心強いですわ」
少し弱気になってしまった私をお兄様が慰めて下さり、少し気持ちが落ち着く。
お兄様がいて下さって本当に良かったわ。
ホールではお父様が貴族達に向けて挨拶をし、それが終わると私達の番だ。
入場を促すお言葉と同時に扉が開くと、煌びやかな光が眼前に広がり、お父様とお母様が私達を優しい目で見つめる。
「さぁ、ステラ。行こうか」
「はい、お兄様!」
私はお兄様のエスコートで扉の向こうへ一歩踏み出した。
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