158 すんなり事は運ばない
シベリウス邸で最後の夜を過ごした翌日、学園に登校し受験者達の最後の試験、面接が行われるので、昨日に引き続き私は会長と共に受験者達の案内や先生方のお手伝いを務め、無事に一日が終了した。
受験が終われば明日から通常の学園生活が始まる。
来週の頭に学生達の試験があり、それが終わると冬の休暇が始まるが、私は学園で試験を受ける事無く休学となる。
寮生活も後三日で終りね。
少しだけれど、寮生活を楽しめた事は良い経験となり思い出になる。
翌日から通常の学園生活が始まり、私は相変わらず早めに登校し図書館に来ていた。
朝の読書をし、授業の始まりの前には教室へ入ると、レグリスといつものように挨拶を交わし、クロムヘイム卿とも普通の挨拶をする。
二人共いつもと変わらない様子で、少し安心した。
この日の授業は特に問題なく、来週の試験の話が出たり、皆試験へ向けての勉強で忙しくしている。
試験前にもなると、図書館を利用する人も増えるので、明日からはきっと朝も人が多いでしょうね。
翌日は図書館に行くのをやめて、普通の時間に登校すると、教室にはすでにレグリスがいて勉強をしているようだった。
「おはよう。シア、丁度いい所に! ちょっとここ教えて欲しいんだけど⋯⋯」
「おはよう。どこかしら?」
レグリスに質問された箇所を見て、教えていると続々とクラスメイト達が登校してきたので、人が多くなったからかレグリスは勉強を中断した。
「シア、助かったよ。ありがとう」
「力になれて良かったわ」
「勉強をしていたのですか?」
「私じゃなくてレグリスよ。分からないところを教えていたの」
「シア様に教えて頂くなんて、とても心強いですね! 後で私も教えて欲しいです」
「勿論よ」
シャロン様とエリーカさんがそう言うので、放課後に皆で勉強会をすることになった。
場所は此処で行う事になり、勉強をする人達は仲の良い面々だった。
そして放課後、私達は一緒に勉強をし、教え合って分からないところ、解けない問題を消化していく。
集中する事二時間。
そろそろ寮に戻らないといけないので、また明日続きをする事となり私達は寮に帰ってきた。
そうして過ごす事光曜日、私は今日で一年生として過ごす最後の日。
私は同じ時間帯に登校すると、丁度レグリスとばったり正面ホールで会ったので、一緒に教室へと向かう。
まだ学生は少なく学園内は閑散としている。
レグリスと他愛無い話をしながら階段を上がり、一年の教室がある階に着くと、朝から何を急いでいるのか誰かがこちらに走って来たと思ったら私の事をドンっと押した。
押された先は階下で、まさかの事で避ける事も出来ずに私は重力に逆らえる事無く、階下へと体が傾く。
――何⁉
レグリスが「シア!」と声を上げながら咄嗟に私を掴もうとするが間に合わず、私は目で“彼女”を取り押さえるようにと指示する。
勿論人目があるので影達にも出てこない様にと念を押す。
私はすぐ下に誰もいない事を確認し、足で階段を蹴り弾みで転げ落ちるのを防ぐと、そのまま何とか体制を整え下の踊り場に着地するが、反動で後ろの壁にドンっと鈍い音と共に叩き付けられる。
こちらに上がってきていた生徒から悲鳴が起こるが、そんな事気にしていられない。
――いっ⋯⋯っう⋯⋯
幸い頭を打つことは無かったけれど、背中を強打したせいで一瞬呼吸が苦しくなる。
痛くない筈がない。
背骨に響くようにズキズキとする痛みに思わず顔を顰める。
「シア‼ 大丈夫か⁉」
「な、何とか、平気よ⋯⋯」
『姫様! ご無事ですか⁉』
『背中が痛いけれど、大丈夫。強打したから直ぐには動けないけれど⋯⋯』
――この状況をどうにかしないと⋯⋯。
痛むのを我慢して、マティお兄様に連絡を取る。
『マティお兄様』
『おはよう、シア。何かあったのか?』
『今一年の教室がある階段にいるのですが、こちらに来られますか?』
『直ぐ行く』
痛みを堪えてお兄様にお願いすると、私の声色で何かを察したのか直ぐに来てくれるみたいで少し安心する。
階段の上では、女子生徒がレグリスに「離して!」と叫んでいるけれど、レグリスに掴まれて逃げれるわけがない。
一年生ではなさそうだし、あの様子だと貴族よね。
お兄様はどれぐらいで着くかしら⋯⋯。
私は少し動いてみるけれど、目眩を起こしたようにくらっと目が回る。
打ったのは背中だけど、脳震盪を起こしているかもしれない。
今動くのは不味いわ⋯⋯。
それに少し気持ち悪い。
どれぐらい待ったか分からないけれど、マティお兄様がクランツ先生を伴って走って来てくれた。
この状況を見たお兄様はレグリスが捕まえている令嬢に冷たい一瞥を向けたと思ったら、階段を飛ぶように下りて私の元へと来てくれる。
「シア! 怪我は?」
「背中を強打しましたけど、多分頭にも影響があるのか、少し目眩がします」
「シアを突き落としたのはあれか?」
「そうです」
「二年生か。知っている人かな?」
「いえ、知りませんわ」
私が二年で知っているのは生徒会の二人とノルドヴァル嬢位で、他の方は知らない。
今は先生に宥められて落ち着いているようだけど、どういった理由で私を突き落としたのか⋯⋯。
「気分はどう?」
「先程よりは痛みはましになりましたが⋯⋯」
私はマティお兄様に支えられて立ち上がるがまだ少しふらつきがあり、思わず頭を押さえると、お兄様は少し屈んだと思ったら私を抱き上げた。
「あ、あの、お兄様。恥ずかしいので自分で歩きます」
「無理はダメだよ。今のシアを歩かせる事は出来ないから大人しくしていなさい」
有無を言わさず直ぐに却下されてしまった。
私は抱かれたままレグリス達がいる階に着くと、令嬢は震えていて、先生は困った様子だった。
「シア、頭打ったのか⁉」
「直接頭は打ってはいないけれど、眩暈がするの」
「シベリウスはそのまま医務室へ。セイデリアは私と一緒に教師凍へ。ほら、行くぞ」
先生は令嬢とレグリスを伴って教師棟へと向かい、私はそのまま医務室へと連れていかれた。
医務室に着き、状況を説明して医師に診て貰い、いくつかの質問に答えるが、手のしびれや気持ち悪さも今は無くなり嘔吐感もなく、意識もしっかりしているので、打撲により少し腫れているのと、青あざが出来てしまっているので、安静にして冷やすだけで大丈夫みたい。
一限目の授業は欠席する旨を医師が伝えてくれる。
マティお兄様も付き添いで一緒にいててくれるみたい。
「で、一体何があったのかな?」
「私にもよく分からないのです。レグリスとホールで会いましたので、そのまま一緒に教室へ向かい、教室がある階に着いた時に横手から急いでるように向かってきたかと思うと、私を階下へ突き落した、と言った感じです。まさかの行動で避けることも出来ず、レグリスが咄嗟に手を伸ばしたけれど、掴めなくて、彼女が逃さない為に捕まえる様に伝えたのです」
「ただ急いでいてぶつかった、という事ではないんだね」
「はい。あれは私を狙って突き落したのでしょう」
「狙われる理由は⋯⋯どれか分からないね」
その言葉に思わず苦笑する。
そこへクランツ先生とレグリスが一緒に私の元へやってきた。
「具合はどうだ?」
「打撲だけで済みましたので、大丈夫です」
「そうか」
ほっとしたように先生の顔が緩んだが直ぐに引き締まる。
「さっきのは二年のAクラスのエディト・フリュデン男爵令嬢だ。彼女に話を聞いたんだが、口が重くてな。全く理由を話そうとしない。今は違う教師に任せてきたが⋯⋯シベリウスは何か心当たりはないのか?」
「いえ、彼女の事も知りませんし、分かりませんわ」
「まぁシベリウスを突き落したのは認めている。理由が分からないが。で、シベリウスから見た状況を教えてくれるか?」
クランツ先生にその時の状況を話して聞かせた。
それを聞いた先生はレグリスから聞いた話と、彼女、フリュデン男爵令嬢の話と一致するので、後はその理由を探るだけだ。
先生は面倒臭いとでも言うように溜息をつく。
取り敢えず、私には無理をせずに安静にするよう伝え、医務室を出て行った。
私は相手の名前が分かったので、影達に彼女とフリュデン家を調べる様に指示を出す。
「シア、ごめん。間に合わなくて」
「気にしなくていいわ。あの高さ程度なら大丈夫よ」
「無理はしないよう何度も話したと思うんだけどね、私は」
マティお兄様が怒ってる‼
無理は、していませんよ。
していない筈⋯⋯。
「マティお兄様⋯⋯」
「はぁ。シアから目が離せないな。まぁそれも今日が過ぎれば次から何かあっても公に護れるからいいのか⋯⋯? いや、それでもやはり目は離せないな」
後半は独り言のように呟いている。
はぁ。それにしても、折角一年最後の学園生活がこのような事になり残念でなはない。
一体どのような理由で私を突き落としたのか⋯⋯。
私のお披露目が終われば、彼女も一体誰を突き落としたのか知ることになる。
その時のこちらの対処も考えておかないと⋯⋯。
「背中が痛む?」
「いえ、少し考え事を⋯⋯あっ!」
「どうしたの?」
この件、きっともう噂で広がってるわよね?
という事は、ヴィンスお兄様にも知られてしまう!
隠すことは出来ないと分かっていてもまた心配を掛けてしまう。
「何でもありません⋯⋯」
「何でも無いって感じじゃない。何か分かったのか?」
「そちらではなく、もう知られているかしら?」
「多分ね」
「あぁ、そっちの話ですか」
マティお兄様は直ぐに分かったようで答えてくれるが嬉しい答えではない。
そしてレグリスも察しがいい。
私は違う意味で項垂れる。
此処にいらっしゃることは無いと思うけれど、あぁでもレオンお兄様に付いてくる可能性はあるわね。
考えるのをやめて取り敢えず安静にしていると少しうとうとしてしまったみたいで気付いたらレグリスがいなくなっていて、私はお兄様の手を借りて起き上がりお水を頂く。
「背中はどう?」
「直ぐに痛みが引くことはありませんが、動けない程でもありません。レグリスは教室に戻ったのですか?」
「シアが寝たので外で待機しているよ。寝たのは十分程だよ」
十分寝ただけでとてもすっきりしたわ。
後もう少しで一限目も終わるので、私は医務室のベッドから降りるが、マティお兄様は心配そうなお顔でいつでも支えられるように手を差し出している。
私はお兄様の手を借りずに自分で歩いてみると、思ったよりも痛みが引いていたので、これならいけそうだわ。
「大丈夫みたいでよかった」
「ご心配をお掛けしました」
丁度一限終わりの鐘がなり、医師の診察を受けて、無理はしない様にとの言葉と授業を受けても問題ないとの診断で、マティお兄様に付き添われてレグリスと共に教室へと戻ると、シャロン様とエリーカさんが駆け寄ってきた。
「シア様! 話は伺いました。お背中は大丈夫ですか?」
「えぇ。大丈夫ですわ。ご心配をお掛けしました」
「話を聞いた時は驚きました。何故シア様を突き落したのですか?」
「それは私も知りたいところですわ」
私がシャロン様とエリーカさんの二人と話していると、マティお兄様が「お昼に迎えに来るよ」と言葉を残して教室に戻っていった。
クラス内の皆に心配されつつ、午前中の授業は座学だったので問題なく授業を受ける。
お昼はマティお兄様がいらっしゃるのを待つので、シャロン様達には今日はお昼がご一緒出来ないことを伝える。
迎えに来たお兄様と共に食堂へ行き、今日は珍しくマティお兄様と二人だった。
昼食を選んだ後、窓際の人が少ない席に座る。
最近冷え込んできたので、窓際に座る人が少なく、お話をするにはもってこいだ。
「お兄様、珍しいですわね」
「こうやってシアと二人で食事をいただくのは今まで無かったからね。最初で最後かな」
「そうですわね。アリシアとは最初で最後ですわね」
私としては最後だけれど、今後二人でっていうのもそう無いと思う。
こうやって学園の食堂ならあり得るのかな。
先の事はわからないけれどね。
「背中の痛みは少しはましになったかな?」
「普通に歩くには問題ありませんが、少し身体を曲げたりすると、やはり痛みますわね。それだけで私をお昼にと誘ったわけではありませんよね?」
「お昼を誘ったのは昼食後に教師棟に行くことになっているんだよ」
「そうだったのですね。やっぱり純粋にお昼に誘って頂いたわけではなかったのですね。少し拗ねてしまいます」
マティお兄様と二人でお食事なんて初めてなのに、そういう理由からだったのかと、拗ねたくなる。
そんな私を見たお兄様は、笑いながら言い訳をしてきた。
「シア、拗ねないで。二人で昼食を食べたかったのは本当だよ。そこに教師棟へ行くという理由が付随しただけで、最初からお昼に誘うつもりだったんだよ」
「本当ですか?」
「嘘は言わないよ」
「信じて差し上げますわ」
私はおどけたようにそう答えると、お兄様はまた笑っていた。
お兄様と二人のお食事は楽しくて、少し寂しくもあった。
食事が終わったら二人で教師棟のクランツ先生の所へ行くと、その場には居なくて、他の先生方に確認したら学園長室へ行くようにとの指示だった。
私とマティお兄様は顔を見合わせた。
何か嫌な予感がする⋯⋯。
取り敢えずは、言われた通りに学園長室へと向かい、入室の許可を取って部屋へと入ると、そこには学園長を始め、ヴィンスお兄様、レオンお兄様、クランツ先生とベリセリウス侯爵がいらっしゃった。
何故此処に侯爵が? と思ったけれど、よく考えたら私にはまだお父様の影が付いてることをすっかりと忘れていた。
私の状況はお父様に筒抜けだ。
それは兎も角、室内を見れば、クランツ先生の顔色が悪く、大体どういう状況か察しがつく。
私が室内の様子を確認しているとヴィンスお兄様が私の元へと来て、徐ろに私の頬を両手で包み込む。
「ステラ、階段から突き落とされたって聞いたけど、容態はどう? 痛まない?」
お兄様は私を本来の名で呼んだので、私の予想が正しかった。
「今はそれ程痛みませんわ。身体を動かした時はまだ痛みますが。ヴィンスお兄様、ご心配をお掛けして申し訳ありません」
「ステラが謝る事じゃないよ。謝るべきは私の大事なステラを突き落した馬鹿な女だ」
「お兄様、私が突き落された理由が分かったのですか?」
「まだ調査中。だけどね、私は怒っているんだよ」
そうでしょうね。
その表情を見れば分かりますわ。
だからと言って馬鹿な女って⋯⋯お口が悪いですよ?
突っ込みませんけどね。
「侯爵は何故こちらに?」
「私は先に状況の説明に参りました。エステル殿下のお披露目前にこのような事が起こるのは想定外でしたが、お披露目後に騒ぎになるのは目に見えております。カルネウス卿は既にご存じですが、担任であるクランツ卿には先に説明をしておいた方が良いとの陛下の判断です」
やはり学園長はご存じでしたのね。
そして事情を知ったクランツ先生はこの顔色と⋯⋯。
「クランツ先生、心労を増やしてしまい、申し訳ありませんわ」
「いえ、まさかアリシア嬢が王女殿下だとは思わず⋯⋯先程ベリセリウス侯爵様からお伺いした時は物理的に首が飛ぶかと思いました」
「大袈裟ですわ。先生に何かされたわけではありませんよ」
「それはそうなんだが⋯⋯いえ、殿下の仰る通りなのですが」
先生、かなり動揺されてますね。
此処は学園なのだし、今まで通りで構わないのに。
「侯爵、一体先生に何を仰ったのですか?」
「私は王女殿下の説明を行っただけですよ」
「それだけで何故先生はここまで動揺されているのですか?」
「ステラ様、それはヴィンセント殿下が少し⋯⋯かなりご立腹でいらっしゃっるから、かな」
そう話すのはレオンお兄様。
そのレオンお兄様も怒っているのがよくわかる。
「お兄様、先生に何を話したのですか?」
「何も言ってないよ。ただ、やっていい事と悪い事の区別もつかず、人に害意を与えたにも関わらず、謝罪もしないような生徒を生み出しているこの学園の指導の質が落ちているのでは? と言っただけだよ」
確かにその通りではあるのですが⋯⋯。
「確かにお兄様の言う事も一理ありますが、各家の教育の問題や、其々属している派閥の上からの圧力などでやりたくも無い事をしている、という事もありますわよ。擁護するつもりはありませんけれど、弱い者が一番被害を受けるのも事実ですわ。先生方だけを責めても仕方ありません」
私がお兄様にそう言うと、豪快な笑い声が響いた。
誰の笑い声かと思ったら、まさか学園長が笑っていた。
今の話の中で笑う要素なんて無かったかと思うのだけれど?
私とお兄様が二人で首を傾げていると、また笑い声が響いた。
「カルネウス卿、流石に笑い過ぎですよ」
「⋯⋯申し訳ない。はぁ、久々に可笑しかったわ」
「学園長⋯⋯」
お兄様が少し低い声でそう言うと「申し訳ありません」と態度を改めた。
「この国の未来は安泰ですね。殿下方のお考えがしっかりしていらっしゃる。さて、話を戻します。今回王女殿下を突き落した生徒ですが、学園内で起こった事、また本人の精神状態が良くないと判断し、冬の休暇明けまで謹慎処分を課す事にしました。フリュデン嬢には謹慎中の間に最近出来ました、大聖堂に併設された“語り部屋”に通う事も申し伝えてあります」
「あの施設は平民の間では話題になっておりますよ。とても好評のようですね」
侯爵はそう私の方に視線を向けつつ話したところを見たら、その施設の発案者が私だと知っているのね。
それはそうか、臨時とはいえ私の補佐官だし、何よりお父様の側近なのだから知っていて当然ね。
「披露目が済んでない上、害を受けたのが辺境伯令嬢なので、学園がその判断を下したのなら学園内で起きた事なので、口は出さないが、披露目が終わってもまだステラに手を出す者がいたら容赦なく口出しするのでそのおつもりで」
「承知いたしました。流石に学園内と言えど、王家の者に手を出したのなら、その内容にもよりますが、王家の意に従います」
何だか素直に喜べないし納得できない。
私が難しい顔をしていると、慰める様にマティお兄様に頭を優しく撫でられた。
この中でまだ私をマティお兄様の妹として接して下さり、その心遣いに心が安らぐ。
「マティ、私を差し置いてステラの頭を撫でるな」
「先程殿下が仰った通り、お披露目が済んでいませんので未だ私達の可愛いシアですからね。咎められる筋合いはありません」
「⋯⋯その言い方、本当に伯父上にそっくりだな」
「お褒めに預かり恐縮です」
お兄様達の関係って、何だかお父様とお養父様に似ているわ。
話が一段落したところで、クランツ先生には明々後日のお披露目終了後まで私の事を他言しない様に口止めをして、私達は午後からの授業に戻る。
その後、生徒会室へと足を運び次週は学内試験、その試験が終わった冬の休暇となり休暇が終われば卒業パーティーの準備が始まる。
私は今回参加する事が出来なくてとても残念に思うが、仕方ない事。
今後の予定を確認し終わると、週明けの試験の為に今日は早く終わり其々試験を頑張るようにとのラグナル様のお言葉で今日の生徒会が終了した。
私にとっても暫く此処ともお別れだ。
少し物淋しいと感じるが、それも数カ月の事で学園の話は王宮でお兄様からも側近の皆からも話は聞けるのでそれを楽しみに過ごそうと思う。
お兄様達と学園から邸へと戻ってきたら、お養父様が私達の帰りを待っていた。
「お帰り。シア、背中の痛みは?」
「ただいま帰りました、お養父様。何もしなければ痛むことはありませんわ」
「それを聞いて安心したよ。先ずは中に入ろうか」
一度自室に戻って着替えを済ます。
この部屋を使用するのも今日で終わりね。
着替え終わりお養父様の待つ部屋に行くと、すでに着替えを済ませたお兄様達も揃っていた。
「話は聞いた。頭から落ちなくて本当に良かった」
「私もよく自分で回避出来たと思いますわ。咄嗟の事でしたので」
「あの令嬢に関してはアンセの方でも調査しているからその内分かるだろう。さて⋯⋯」
お養父様は言葉を切り、少し言い淀んだ。
表情からは何も読み取れないのだけれど、少し、瞳が揺れている気がする。
「シア、今から離宮へ皆で行こうか。オリーとアレクは既に離宮で私達の事を待っている」
「はい。お養父様」
私達は邸の転移陣のある部屋へ移動する。
部屋に入ると、レオンお兄様に呼ばれたので振り向くとぎゅっと抱きしめられた。
「レオンお兄様?」
「シアと気軽に触れ合えるのが最後だからね。大体兄上は今日はシアと二人で昼食を食べたんでしょう! どうして僕を誘ってくれなかったのですか⋯⋯」
まさかのレオンお兄様が拗ねていた。
私を離さずにマティお兄様を睨むように見るが、本人には言えないけれど、可愛く思う。
「レオンは沢山シアと一緒にいただろう。私はシアと二人っきりで食事をしたことが無かったからね。今日しかなかったんだよ」
そう言うとレオンお兄様ごと私を抱きしめた。
「シア、これからはこうして触れ合う事は出来ないけれど、側で護るから、気になる事は何でも話してね」
「僕はヴィンス様の側にいる事が多いけど、僕も力になるからね」
「マティお兄様、レオンお兄様。ありがとうございます。頼りにしておりますわ」
お養父様は私達のやり取りを見ていたが、こちらに近寄り、お兄様達ごと私を抱きしめた。
「シア、マティとレオンを扱き使ってやりなさい。私も、この先もシアの味方だからね」
「お養父様もありがとうございます。本当に、お養父様達と一緒に過ごせた事は私にとって一番の宝物ですわ」
お養父様からふわっと頭をぽんぽんとされたと思った、お兄様達にも「そろそろ離れなさい」と言葉を掛けた。
「あまり待たせるとアンセが煩いからな。そろそろ行こうか」
「はい、お養父様」
先程までの少ししんみりとした空気を払拭するかのように明るく言うと、私達は離宮へと転移した。
ご覧頂きありがとうございます。
ブクマ、評価、いいねをありがとうございます。
とても嬉しいです!
次回は六月二日に更新致しますので、楽しんていただけたら嬉しいです。
よろしくお願い致します。