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目覚めた世界が私の生きる場所  作者: 月陽
第2章 学園生活の始まり
155/273

155 謁見当日


 お兄様達と共に奥にある宮へと向かう途中、小さい頃に見た変わらない景色に安堵するも、数年振りに足を踏み入れる自身の宮にあの時の事が思い起こされる。

 あの時、私が取った行動が今の様に複雑にさせてしまったのかもしれない。

 だけど後悔するよりも、今までの事は私にとっては良い経験となり今の私があるので、また此処から新たな始まりとなる。

 部屋に着くとモニカが出迎えてくれる。

 


「ステラの宮は母上が整えてくれているから、気に入ると思うんだけど⋯⋯」

「とても素敵ですわ。後でお母様にもお礼を言わないといけませんわね」



 自身の宮の一室に入ると数年前とは違って、成長した私が使いやすい家具へと一新されていて、可愛らしいよりも落ち着いた色合いで統一されていてとても素敵な部屋だ。

 落ち着いているけれど、所々に可愛らしさもあり、とても気に入った。

 私は侯爵を応接室に待たせて、先ずは自身の宮を見て回る。

 何だか探検をしているみたいで楽しい。

 一通り簡単に見て回り、侯爵が待つ応接室へと戻ると、優雅に紅茶を飲みながら待っていた。



「如何でしたか?」

「とっても素敵なお部屋でしたわ!」

「殿下の嬉しそうなお顔を見ると、こちらまで嬉しくなりますね」

「ステラが嬉しそうで良かったよ」



 ソファに座ろうとした時、視界の片隅に此処にはいない筈の侍女がいて、つい声を掛けてしまった。



「エメリがどうしてここに?」

「エステル殿下、(わたくし)もイェルハルド様とアクセリナ様にお願い申し上げ、殿下の専属の侍女としてこちらに移る許可を頂きましたので本日から殿下専属としてお仕えさせていただきます」

「本当に?」

「はい。嘘偽りございません」

「ありがとう、エメリ。これからもよろしくお願いするわ」



 まさかエメリまで私に付いてきてくれるなんて思わなくて、思い掛けずの嬉しい報告だった。

 だけど、お祖父様の離宮から三人も私に付いて来てしまって、少し申し訳なく思う。



「ステラ、お祖父様はステラには甘いから気にする必要ないよ。多分最初からそれを狙っていたと思うから」

「そうなのですか?」

「三人がステラに仕えるかは其々の意志だけどね」

「そこを疑う事はありませんわ。とても有難い事です」



 離宮でいつもきれいに整え、モニカとも仲が良いみたいだし、私だけじゃなくてモニカにとっても嬉しい事だと思う。

 エメリが淹れてくれたお茶を飲み一息つくと、侯爵から明日の事で最終確認がされる。



「明日は臨時の謁見室がありますので、そちらで殿下の近衛と側近、そして侍女達との顔合わせの場となります。人選はこの間お見せした通りで変更はありません。本日は離宮から近衛として転属したオスカル、マルク両名が担当しております。明日から順次担当が変わりますので覚えてください。侍女に関しては午後から王妃殿下よりお話があるでしょう。謁見では、殿下から仕える者達にお言葉を賜ります。この顔合わせは殿下のお披露目だけでなく、近衛、側近侍女達の顔合わせの場でもありますので、殿下にお出まし頂くまでの時間が彼らの交流の時間となるでしょう。学園に通っている学生達も他に誰が側近として指名されているかは知りませんので⋯⋯あぁ、娘とルイス嬢は別ですね」



 確かティナからはルイスを侯爵家に招いてマナーの確認から王族の側近として簡単に教えていると報告を受けている。


 

「その事でお礼が遅くなりましたわ。侯爵、ルイス嬢の事をありがとうございます」

「いえ、私は何もしておりませんよ。ティナとセシルが嬉々としてルイス嬢を仕上げにかかっています」

「成程。ルイス嬢にとっては急な事で、しかも彼女は平民だ。準備が中々難しいだろうからクリスティナ嬢に頼んだんだね」

「はい、お兄様。ティナとルイス嬢は仲が良いですし、彼女に頼むのが最適だと思いましたの」

「昨日から邸に泊まりに来ていますよ。かなり緊張をしているようでした」



 それは緊張、するよね。

 私の側近を受けるのもかなり迷ったはず⋯⋯。

 あっ! 肝心な事を確認しておかないと!



「侯爵、確認があるのだけれど⋯⋯」

「はい、何でしょうか?」

(アリシア)の事を皆に伝えるのですか?」

「はい、伝えます。お披露目までは口止めを致しますが、側近が何も知らないのは如何なものかと」

「それはそうね⋯⋯」

「気が重い?」

「そのような事はありませんが、(アリシア)と仲良くして頂いてましたので、やはり反応は気になりますわね」

「何か問題があったら私に必ず話すんだよ」

「お兄様、何かあったら⋯⋯一体何をされるのですか?」

「それはその時のお楽しみだね」



 これ、何かあっても話したらいけないわね。

 爽やかだけど、笑顔が黒いわ⋯⋯。

 何故だか侯爵の笑顔も怖く感じるのは気のせいかしら。



「明日の件で他にご質問はございますか?」

「そうね。謁見終了後から彼らの教育を始めるのかしら?」

「はい。時間が許す限り教育を施します」



 侯爵は本気のようで、これはある程度で止めてあげないといけないかも。

 他に特に質問もないので、侯爵は宮廷へと戻っていった。

 お昼はお父様を除き、お母様、ヴィンスお兄様とフレッドと一緒にいただき、お昼からはお兄様もご予定があるようで、昼食後は宮廷の方へと向かった。

 私はお母様達と食後のお茶を楽しんでいる。



「こうして貴女とゆっくりするのも久しぶりですね」

「お母様とは離宮で皆様とのお茶会以来ですわ」

「そうね。フレッドもずっと貴女の帰りを待っていたのよ」

「ずっと待っていました! ヴィンス兄上にずっと姉上の話を聞いて、羨ましくて。頑張ってお手紙も書きましたけど、ずっと会いたかったです」

(わたくし)もよ。それにフレッドのお手紙は字も上手に書けていて一生懸命お勉強を頑張っているのだと感心したわ」



 私が褒めると嬉しそうに満面の笑みを浮かべていた。

 


 ――可愛いすぎる‼



 ぎゅっとしたいけど我慢よ!

 そんな私をお母様は困った子を見るような、けど温かい目で見つめていた。



「さぁ、ステラは今から明日と、来週のお披露目の衣装の最終仕上げがあるわ。フレッド、貴方はそろそろ部屋に戻りなさい」

「母上、僕も一緒ではダメですか?」

「いけませんよ。夕食は共にできますから、貴方はお勉強があるでしょう? お姉様に褒めてもらいたいなら頑張りなさい」

「姉上、頑張ったら褒めてくれますか?」

「勿論よ」

「では頑張ってきます!」



 フレッドは意気込んで戻っていき、私とお母様は衣装を合わせに向かう。

 部屋に着くと既にお針子達が揃っていて準備万端と言った感じだ。

 ちなみに、お針子達は離宮でもお世話になっている方達だった。



「さぁ、ステラ! 始めましょう」



 お母様の気合が凄くて圧倒されそうだけど、それに押されていては叱られるわ。

 先に仕上げないといけないのは明日着用するドレスで、ほぼ仕上がってはいるけれど、最終仕上げが未だで、先ずは試着をし、手直し個所をお母様が指摘していく。

 そして先に選んでいた宝飾類も私が試着したことで、私に合わなければ変更されたりと事細かく決めていく事約一時間。

 漸く解放され、私はお茶を頂きほっとする。

 一息付いたのも束の間、次はお披露目のドレスを試着し、先程と同じように最終仕上げに向けて合わせていく。

 お披露目で着用するドレスの方がとても繊細で細やかな部分まで凝っていて鏡で確認してもとても素敵だと思うが、お母様に言わせたらまだ駄目だという事だった。

 こうやってお母様と一緒にドレスを合わせるのは初めての事なので、お母様の満足がいくまでお付き合いをする。

 やはりお洒落に手抜きはダメだという事。

 私も王女としてこれからは流行りを作っていかなくてはいけないので、こういった部分も見習わなくてはならず、面倒だとは思っていられない。

 逆の立場なら嬉々として参加するのだけれど、自分自身の事となるとおざなりになりそうになる所は直さないといけないと自身でも分かっているので、口を閉じそうになるけれど、頑張ってお母様が悩んでる部分に意見を出してみると、嬉しそうに「それがいいわ!」と直ぐにお直しがされ、ようやく納得がいったのか、お披露目のドレスも決まった。

 後は仕上がりを待つのみ。

 ちなみにお披露目のドレスを決めている間に、明日のドレスの最終仕上げを終わらせたそうで、その手腕に感動する。

 お披露目のドレスは持ち帰って仕上げてくれるそうで、今この場にあるのは明日着用するドレスとアクセサリー、靴があり、モニカとエメリはそれらを慎重にお母様の侍女と共に私の部屋へと運ぶ。

 この後はお母様と二人でお茶をゆっくりと頂く。



「ステラのドレスを選べてとても楽しいわ。明日がとても楽しみね」

「お母様、素敵なお部屋にドレスの準備までありがとうございます」

「可愛い娘の為ですもの。当たり前の事よ。それにやっと母として娘と一緒にドレスを仕立てることが出来たんだもの。勿論貴女を立派に育ててくれたお義姉様には感謝しているわ。だけど、その時間を一緒にいてあげられなかったのは、やはり寂しく思うわね」



 お母様はそう本音を零した。

 


「お母様にはこれから色んな事を教えて頂きたいですわ。(わたくし)はまだまだ未熟ですもの」

「ステラったら⋯⋯。そうね。此処に戻って来たのでこれからが大変よね。これからはお母様を頼って頂戴。いつでも力になるわ」

「とても心強いですわ」



 お母様に教えて頂かないといけない事は沢山ある。

 困った令嬢の捌き方やお茶会での振舞い等、これは男性には分からないものだからお母様に教えて頂きたい。

 王宮(ここ)に戻って来たという事は、私の行動が逐一見られているという事。

 お父様、お母様の足手纏いになりたくはない。

 お祖母様や伯母様からも学んではいるけれど、学ぶ事を辞めたらそこまでだから。

 


「お母様、これからよろしくお願い致します」

「ステラったら改まって。勿論よ」



 お母様に今後のお願いをしたところで、明日からについての話に戻る。

 お伺いしたのは私の侍女の事だ。

 モニカが筆頭侍女としているのは確認しているし、エメリも私の侍女として仕えてくれるのも先程分かった事。

 残りの人達はお母様の采配だから、侯爵も知らないようだったし⋯⋯。



「貴女の専属侍女はモニカを筆頭にエメリを入れて全員で六人よ。身元は隅々まで調べているから安心しなさい。だけど、何が起こるか分からないのが王宮だから、貴女自身で見極める事も重要よ。それは側近に関しても同じ事です。よく覚えておきなさい」

「はい、お母様。肝に銘じます」

「シベリウスで色んな事を経験してきたステラなら、大丈夫よ。自分を信じなさい」

「はい」



 お母様とのお茶会後、一度自室へと戻り、ゆっくりと部屋を見て回る。

 先程は侯爵を待たせていたし、さっと見て回っただけだったので、部屋を見て回った後は庭園に向かう。

 きれいに手入れされたお庭は空気がとてもきれいだと感じる位に澄んでいた。

 雪が舞っていて寒いけれど、それが気にならない位綺麗だった。

 少しの間お外で風景を堪能していたのだけれど、モニカに「風邪を引くといけないからお戻りください」と心配そうに言われたので、部屋に戻り温かいお茶を淹れて貰い冷えた身体を温める。

 いつの間にか冬の季節になっていたのね。

 交流会中も寒かったけれど、雪はまだ降ってはいなかった。

 そういえば、去年の今頃の試験中も雪が降っていたわね。

 あれからもう一年。

 この一年は五歳の頃と同じ位濃い一年だった気がするわ。

 私が過去を振り返っていると、心配そうにモニカが声を掛けてきた。



「お疲れですか?」

「大丈夫よ。(わたくし)よりもモニカ達は疲れていないかしら? 慌ただしくこちらに戻ることになったのだし」

「いえ、(わたくし)達は大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます」

「明日からは侍女が増えるけれど、慣れるまでは色々と大変でしょう? 無理はしないでね」

「はい。ありがとうございます。ステラ様もご無理はなさらずに」

「気を付けるわ」



 無理をして倒れてしまってはお父様達に心配させてしまうものね。

 時刻はまだ夕方を過ぎたくらいだけれど、外はすっかりと暗くなり始めている。

 夕食までは部屋で明日の事を考えたり、ゆっくりと過ごして、夕食は家族水入らずでいただいた。

 お父様は明日の事で心配事はないかと聞いてきたけれど、それほど心配はしていない。

 明日は私一人で臨むので、少し心配しているようだった。

 私一人っていうわけではないのだけれどね。

 ベリセリウス侯爵もいるのだし。

 お母様には朝から準備があるので、今日は早めに休むようにと言われて、昨日に引き続き今日は早くに眠りについた。


 そして翌日。

 昨夜の方が寝れないと思っていたけれど、案外ぐっすりと眠れた。

 そしてお母様が仰っていたように、朝からエメリとモニカの二人に加えて、今朝はお母様の侍女も加わり、磨かれている⋯⋯。

 謁見はお昼からなんだけど、朝から念入りの準備始まった。

 私はされるがままなのだけれど、気持ちが良くて寝てしまいそうになる。

 髪はハーフアップだけれど、複雑に編み込まれていてとても可愛く仕上がり、先日選んだヘアアクセサリーを着ける。

 軽くメイクをしてからドレスを着用し、アクセサリーを着けて完成!

 今は昼食とては軽くお茶と軽食をいただいている。

 時間帯も丁度だけれど、それ程お腹と空いていないので軽食にしてもらった。

 食べ終わり、少しゆっくりと寛ぐ。

 


「エステル殿下、王妃殿下がいらっしゃっております」

「お通しして」



 お母様がいらっしゃったので、私はお出迎えの為に立ち上がった。

 部屋に入ってくると、嬉しそうにこちらにささっと優雅にいらっしゃって私の最終確認をして満足そうに頷いた。



「素敵よ、ステラ! 皆びっくりするわよ」

「モニカ達皆のお陰ですわ。何よりお母様の見立てのお陰です」

「ふふっ。早く皆に自慢したいわ。緊張はしていないかしら?」

「大丈夫ですわ」

「アンセが来れない事を嘆いていたのよ。ヴィンスとフレッドは謁見が終わった頃に此処に来るでしょう」



 お母様とお話をしていると、誰か来たようだった。

 いらっしゃったのはベリセリウス侯爵で、今日は侯爵も何時もよりかっちりとした格好をしていて隙が無い感じだった。

 


「失礼いたします」

「ごきげんよう。あら、侯爵も随分ときちんとした服装ね」

「王妃殿下、エステル殿下。本日もご機嫌麗しく存じます。エステル殿下の初めての行事となりますからね。失敗は許されません」

「侯爵、本日はよろしくお願いしますね」

「お任せください」



 私はそう侯爵に言葉を掛けたのだけれど、彼は私を見てとても優し気な笑みを見せた。



「本日の殿下のお姿を見たらきっと皆噂等は馬鹿馬鹿しいと納得するでしょう。まぁ噂に惑わされない者達を選別していますので、その心配はありませんが、殿下にお仕え出来る事に誇りを持つで事でしょう」



 私の姿を見ただけで?

 意味わからないけれど、侯爵は本気でそう思っているようだった。



「侯爵、流石にそれは言いすぎでしょう」

「いえ、言い過ぎではありませんよ」



 駄目だわ。

 彼に何を言っても無駄な気がする。

 それよりも⋯⋯



「そろそろ集まっている頃かしら?」

「はい。既に全員が揃っており、其々が交流を図っている頃ですね。殿下には時間通りにお出まし頂きます」

「分かりましたわ」



 時間を確認すると、後半時間あるので、待っている間にお母様との時間を楽しみながら時間まで過ごした。





***




 本日はエステル殿下との謁見の日。

 私は朝から準備を行うのだけれど、問題はルイスよ。

 彼女は私の一つ歳上の平民の先輩で、学園では生徒会でヴィンセント殿下と話すこともあり、王族といっても殿下とは普通に接しているが、王宮に赴くのは初めての事なのでかなり緊張をしているのよね。

 いくら頭が良くてしっかりしていてもこればかりは勝手が違うから、慣れるまで時間がかかりそうだわ。

 私の準備が整ったのでルイスの様子でも見に行こうかしら。

 自室を出て客室に行くと緊張した面持ちのルイスがちょこんとソファに座っていた。

 何だか子犬みたいで可愛いわ。

 彼女を観察していると、私に気付いて立ち上がった。



「ティナ、私こういった装いに慣れてなくて、変じゃないかしら?」

「そんな事ないわ。良く似合っているわよ」

「本当? ダメだわ、緊張しすぎてどうしていいかわからないわ⋯⋯」

「まだ時間があるのだし、少しお茶を飲んでゆっくり落ち着きましょう」



 私はルイスを落ち着かせるためにソファへと促す。

 そこにお母様が様子を見にいらっしゃった。



「ルイス嬢は大丈夫かしら?」

「大分緊張をしていますわ」

「セシーリア様、申し訳ありません」

「謝る事ではないわ。初めて王宮へ行くのだし、何よりもエステル殿下への初めての謁見だものね。緊張するのは当たり前の事よ」

「お母様の言う通りよ」

「今回の側近の件を了承したの私ですが、未だに何故殿下の側近に選ばれたかが分からないのです。私は貴族ではなくて平民ですし⋯⋯」



 ――それは⋯⋯、流石に何も言えないのよね。



 側近に選んだのは陛下方であって殿下ではない。

 多分殿下のお話しをお聞きになったか、お調べになったか⋯⋯。

 


「ルイスは生徒会の一員だし、学園での成績もいいのだし、そこを考慮されたのではないかしら。ルイス、平民とか関係ないわ。この国は実力主義なのよ。悲観しすぎよ」

「ルイス嬢、理由が知りたければ直接お伺いすればいいのよ」



 お母様ったら、そんなこと言ったら余計に緊張するのではないかしら。

 ちらりとルイスを見れば、「それは流石に無理です」と青褪めた顔で呟いている。



「大丈夫よ。行くまでは緊張するかもしれないけれど、殿下とお会いすれば緊張も解けるわ。今から心配しても仕方ないでしょう」

「はい⋯⋯」

「大丈夫よ。堂々と行ってらっしゃい」



 お母様はそうルイスを励まし、時間より少し早いけれど王宮へと向かった。

 いつもの正面入り口ではなく、もうひとつあるの入口へと向かい、そこから中へと入る。

 王宮は広く、手前側に王家主催で開かれるパーティーで使用する控室やホール、そして国賓がいらっしゃった時に泊まる客室等があり、奥側が王族の方々が住まう宮となる。

 普段謁見を行うのは宮廷の方なのだけど、今回はまだお披露目をされていないエステル殿下の側近と近衛、側で仕える侍女達の謁見という事で、こちら王宮で行う事になり、私も社交界デビュー以来足を踏み入れる。

 王宮の侍従の案内で謁見室へと導かれ、私達でも早い時間にこちらに来たのだけれど、室内に通されると、既に近衛の皆様は揃っているようだった。

 視線を動かせば、マティアス様がそこにいらっしゃったので、私とルイスはそちらへと足を向けた。



「マティアス様、ごきげんよう」

「ごきげんよう。クリスティナ嬢、ルイス嬢」

「ごきげんよう」

「⋯⋯ルイス嬢は、大分緊張してるね」



 マティアス様はルイスを見て苦笑していた。

 暫く三人で話していると、ディオとレグリス君、ロベルト君の三人が一緒にこちらへと近づいてきた。



「ごきげんよう。ティナ様とルイスさんもご一緒でしたのね! マティアス様はいらっしゃると思っていたけれど、やはりいらっしゃいましたね」

「ごきげんよう。貴女も指名されていたのね。それと、レグリス君と確か風紀のロベルト君ね」

「ごきげんよう。知った面々でちょっと安心しました」

「貴方達一緒に来たの?」

「いえ、俺達入口で丁度一緒になって、それでここまで共に来たのです」

「そうだったのね」



 これで全員揃ったわね。

 そっと周囲を見つつ、暫くは緊張をほぐすかのように他愛ない話をしていたけれど、ふと時間を確認すれば⋯⋯後五分で始まるわね。

 思ったよりも時間が経つのが早かったわ。

 そろそろという事で、私達は私語をやめて殿下をお迎えする為にきれいに並び、時間まで少しの間待つと、横にある扉から父であるベリセリウス侯爵が入ってきた。

 今日は朝から会わなかったけれど、あの装い、お父様は殿下の補佐に付いたのかしら⋯⋯。

 壇上にある椅子の下の段に立つと、私達を一瞥した後、挨拶から始まり説明を行う。

 



「今回は急な事にも関わらず打診した全員が欠ける事無くエステル王女殿下の近衛、側近、侍女が揃ったことに、陛下は深く感謝しておられます。先ずは陛下からのお言葉をお伝えます」



 陛下からは、『急な打診にも関わらず、王女に仕える事を了承してくれたことに感謝する。公に出るようになればまた狙われもするだろう。それについて皆の心に刻んで護って欲しい。そして王女の執務の補佐として、側近達には手助けを頼む。王女が快適に過ごせるよう、侍女達には尽力して欲しい』と。


 陛下が殿下を如何に想っているかが分かる内容だった。

 お言葉が伝えられた後、横の扉に立っていた侍従が殿下の来訪を告げた。

 私達は一斉に殿下をお迎えする為、礼をとる。

 そして扉が開き「王女殿下のご入来です」との声で、殿下が此方に、三段高くなった椅子へと歩みを進めているのを気配で感じ取る。

 お座りになり、一拍置いた後に私達に声を掛けられる。



「楽にしてくださいね」



 そう優しく涼やかな声が響いた。


ご覧頂き、ありがとうございます。

ブクマ、評価、いいねをありがとうございます。

とても嬉しいです!

次回は二十四日に更新いたしますので、よろしくお願い致します。

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