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目覚めた世界が私の生きる場所  作者: 月陽
第2章 学園生活の始まり
153/264

153 変わる日常


 翌日、交流会の余韻が残ったまま授業を受ける。

 そして一日の授業が終わると、レグリスと共に生徒会室へと行くと私達が一番に着いたので、皆様が集まったときにいつでもお茶を淹れられるように準備をしながら待っていると、ヴィンスお兄様とレオンお兄様がいらっしゃったので、挨拶をしてお二人にお茶を淹れてお出しすると、お兄様達から美味しいと誉めて頂いた。

 そして待つこと暫く続々と集まり、全員が揃ったのでお茶をお出しして生徒会が始まる。

 今日は最初からハセリウス先生もいらっしゃって、先ずは先日の件から話が始まった。

 まだ解決には至ってはいないが、学園をくまなく調査した所、異常は見当たらないので安心するようにとの事だけど、引き続き調査は行うようだった。

 この間も話しをしたが、何か気付いたことがあれば直ぐに報告するように、と再度伝えられた。

 先生の話が終われば、次期会長であるラグナル様から今後の生徒会についてお話しされた。

 先ずは週末にラグナル様のお邸で生徒会、風紀部、広報部と慰労会を行う事が伝えられたので、昨夜お兄様に確認した通りだったので、お兄様が発言してくださった。



「ラグナル様、申し訳ありませんが、私とシアは欠席させていただきます」

「アリシア嬢はまだ体調が?」

「いえ、体調はもう大丈夫ですが、父から週末は空けておくよう言われているのです。レオンに関してはヴィンセント殿下の護衛もありますので、欠席は私達二人だけです」

「分かった。予定があるならそちらを優先するように」



 すんなりと欠席出来たので良かったわ。

 お兄様には感謝しないと。

 慰労会の話が終わると、次は二週間も切ったけど、入学試験の話題へと移っていった。

 この時期、先生方は交流会後すぐに試験の準備があるので大忙しで、ハセリウス先生もすでに教室からいなくなっていた。

 それはまぁ何時もの事なので気にしない。

 話を戻して、試験に関しては生徒会は先生方の助手をする事になっている。

 そういえば私達の試験の時も先生と上級生の方々がいらっしゃったなと思い出した。

 先生の助手と言っても、試験中に不正がないかの見回りや、試験会場が分からない受験者達の誘導といった裏方役を生徒会と風紀部が行うのでその段取りをしなければならない。

 と言ってもどの教室でどこの誰が受験するかは来週に配られるので、今日はラグナル様からは誰と組んで見回るかを発表するだけみたい。

 これは毎年の事なので、一年と八年主席同士、次席同士、二年と七年の主席、次席同士といった具合に分かれるので私は会長と、レグリスはクラエスさんとの組み合わせとなり、試験中私は会長と行動を共にすることになる。

 詳細は次の生徒会で説明をするという事で、通常の生徒会のお仕事をお手伝いをして今日は終了となった。

 寮に帰ると、マティお兄様にお礼の連絡を入れる。



『マティお兄様、今日はありがとうございました』

『お礼は良いよ。シアがちゃんと人に頼る事を覚えたようで安心したよ』

『⋯⋯最近はよくお兄様達に頼っていませんか?』

『そうだね。最近はようやく頼ってくれるようになったね。これからの事を考えると遠慮していてはいけないからそれでいいよ』

『はい。今後も一番にお兄様を頼ってしまうかもしれませんが、これからもよろしくお願いしますわ』

『任せておいて。夜更かしせずにちゃんと寝るんだよ』

『早く寝るようにしますね。おやすみなさい、お兄様』

『おやすみ、シア』



 交流会が終わってからの日常は特に変わった事も無く、楽しく時間が過ぎて行った。

 お父様が仰っていたように、特に魔法師達の勧誘もなく平穏に過ごしている。

 休み前の生徒会でこの間話していた通り、日程は既に聞いていたけれど、受験者数が今年は去年よりも多いらしく、使用する教室も去年より一室増やしたのだとか。

 一教室に何人で試験を行うか、割り振り人数が記載された用紙を確認する。

 今年は平民からの受験者も結構いるようで、当日はやはり受験者の緊張感からか場が結構ぴりつくので問題が起きない様によくよく注意しなければならない。

 私達の時もそんな感じだったのかな。

 そこまで覚えてはいない。

 だけど皆様の話では毎年受験者同士の争いが数件起こったりするそう。

 そんな暇があったら集中すればいいのに、と思わなくもないけれどね。

 もし何か問題が起こったときに対処するのも私達の仕事のうちなので、よく周囲を見ておくようにとの事だった。

 入学試験まで後少し、今年の大きな行事はそれで終わりで冬の休暇が近づく。

 私は休暇に入る前に学園に来れなくなるのだけれど、気分的には一度卒業するような、何だか変な気分にさせられる。

 試験結果が発表された後、社交シーズンの始まりは国王主催で開かれる。

 その場が私のお披露目となる。 

 これからの事を考えていると、ラグナル様の説明が終わり、明日の慰労会の時間の確認がされて今日は終わりとなった。

 私はお兄様達と共にシベリウス邸に戻ると、お養父様が私達を出迎えてくれた。

 一度部屋に戻り着替えを済ませ、暫く部屋でのんびりと過ごす。

 夕食後、私達は何時ものように食後のお茶を人払いをして共にしていた。



「明日の予定は私とマティ、シアは離宮へ。レオンは慰労会への出席だな」

「はい」

「シア、着実に王宮に戻る手筈は整ってきているが、シアの気持ちは大丈夫かな?」

(わたくし)の気持ち、ですか?」



 私の気持ちも何も、王宮に、ようやくお父様達の元へ戻れるのはとても嬉しいので、お養父様の仰っている事がよく理解できなかった。



「アリシアとして学園に通い、同級の者達と親しんでいたのにその環境が大きく変わるだろう? 寂しいと思っているのではないかと思ったんだけど、違ったかな?」

「そうですね⋯⋯全く寂しくない、とは言えませんがそれは最初から分かっていた事ですから」

「自分の中で気持ちが整理できているならいいんだよ。今はまだ私達に甘えていい。だが、王宮に戻ればそうは言っていられない」

「お養父様は(わたくし)に随分と甘いですね」

「嫌だったかな?」

「いえ、とても心地よくて、誘惑に負けそうですわ」



 私はそう少し強がってそう言った。

 そうしないと、本当に甘えてしまいそうになる。

 お養父様はきっとお見通しなのだろうけど、私が何も言わずにいると「甘えてくれなくて残念だ」と少しおどけて言った。



「明日離宮にいらっしゃるのはお父様だけですか?」

「いや、宰相とエリオットも来るだろう」

「お父様もそうですが、お二人もお忙しいのでは?」

「忙しくはあるが、今重要な案件はシアの事だからね。それに、カシミールはちょっと拗ねていてね」

「エドフェルト公爵がですか? 何故?」



 公爵が拗ねるとか想像できないしちょっと⋯⋯意味が分からない。


 

「シアの事を黙っていたからだよ」

「それだけで?」

「それだけで、だ」



 エドフェルト公爵っておちゃめな方なの?

 そんな事ないと思うのだけどね、あの会長のお父様だし。

 まぁいいわ。



「シアはマティを伴って朝早くにあちらへ移動しなさい。朝食もあちらで取れように手配されている」

「分かりましたわ」

「レオンはいつ出掛ける?」

「僕は朝食後に王宮へ、ヴィンセント殿下の元へ行きます」

「そうか皆朝早いな。今日は早く休むようにしなさい」



 お養父様から早く休むように言われ、皆部屋へ戻り、明日はきっと今後の詳細をお話しくださるだろうから、お養父様が言うように本当に早く休んだお陰で、翌日はすっきりと目覚めた。

 そしてマティお兄様とモニカと共に離宮へ行き、離宮の自室に向かう。

 そこにはエメリが待ち構えていてモニカも加わり、私は何時もの如く二人に身を任せてしばらく、いつも可愛く仕上げてくれるのだけれど、今日は少し雰囲気が違った装いになっていた。

 何と言うか、いつも可愛らしさがあったけれど、今日のドレスは可愛さの中にも品を取り入れ、いつもより大人びたデザインになっている。

 モニカとエメリは満足したのかとてもやり切った表情でとても誇らしげだった。

 本当にいつも感謝しかないわ。

 私の準備が整ったら、朝食を頂くためにマティお従兄様と共に食堂へと向かうと、お祖父様、お祖母様が揃って私達を待っていらした。



「おはようございます。お待たせしてしまい、申し訳ございません」

「おはよう。いや。ふむ⋯⋯」

「お祖父様?」

「ん? あぁ、いや。ステラよ先ずは座れ」

「はい、失礼いたします」



 お祖父様にしては珍しく何も言わず、朝食をいただく。

 朝食を取りながら今日の予定をお祖父様から教えて頂くのだけれど、今日も一日の予定がびっしりと入っており今夜は此方に泊まる事も決定で、明日の昼過ぎにシベリウス邸に戻る予定となっている。

 朝食後、部屋を変えてお祖父様とお従兄様の三人でお父様達がいらっしゃるのを待っていると、先にいらっしゃったのは伯父様だった。



「お待たせいたしました」

「いや、アンセ達がまだだ。時間もまだ早いしな」

「ステラ様は、いつもと雰囲気が違いますね」

「そうだろうな」

「いつものドレスより少しデザインが違うからではないでしょうか?」

「いや、それだけではないな」

 


 私はよく分からずにいると、先程言い掛けていた事をお祖父様が仰った。



「ステラの心の持ちようが変わったんだろう。そのせいだ」

「確かに、昨夜も何時ものシアではなかったですからね」

(わたくし)には分かりませんわ」

「周囲が分かっているからステラが分からなくてもいい。だから気にするなと言ったんだ」



 私自身は何も変わっていないと思うのだけれど、周囲がそう思うならきっと何か変わったのでしょう。

 その後に姿を見せたのはティナだった。

 彼女はお祖父様達に挨拶をした後、私に挨拶をす。



「ティナ、今日の慰労会へ出席しなくてよろしいの?」

「そちらより殿下の事が大事ですわ。あちらは欠席でも問題ありません」


 

 話を聞けば既に私の側近なので今日の話合いに呼ばれたようだった。

 それから少しして、お父様、ベリセリウス侯爵、そしてエドフェルト公爵が揃っていらっしゃった。



「待たせたな」

「おはようございます。お父様」

「おはよう、ステラ。エリオット」

「はい」



 お父様にご挨拶をした後、何故かベリセリウス侯爵に声を掛け、侯爵は返事と共に私の近くに寄ると「失礼します」と声を掛け、私の前に腰を落とす。



「殿下、お手元を失礼してもよろしいでしょうか?」

「何をするのです?」

「魔道具の交換を致します。交換するのは魔力制御で、今迄封じていた比率を変更したものです」

「分かりましたわ」



 何をどうするのかを確認してから腕を上げると、侯爵は私の腕に着けていた魔道具を外し、新しい魔道具へと着け変える。

 そうする事で、今迄自身の魔力の三分の二を封じていたのを逆に三分の二を解放し、封じるのは三分の一のみとなった為、私の魔力は訓練時と同じようにじわじわと身体の中を駆け巡る。

 いつもよりも多くの魔力を感じ、解放感に満ちる。

 最近魔力を解放して訓練していたので難なく自身で制御することが出来るので、やはり日々の訓練は大事だと実感できる。



「上手く制御できていますね」

「訓練の成果が出て良かったですわ」



 魔力制御の比率を変えたので私は本来の自分の声に戻っていた。

 自分の声なのに不思議な感じがする。

 約五年もの間魔力を封じていたのでそう感じるのも不思議ではない。


 

「殿下、王宮に戻られたら常にこちらをお着け頂きます。シベリウス邸に戻られる前にいつもの魔道具に着け変えてくださいね」

「えぇ、分かりましたわ」



 説明を聞き終えたので、私と侯爵もソファに掛けると早速本題に入った。

 今回集まったのは、私のお披露目の日程、王宮に戻る時期、そして王宮に戻ってからの私の側近や近衛の選出に関しての説明と、私の事をどう公表するかだった。

 濃い内容に、身が引き締まる。



「早速だが、決まった事をまず伝えておく。今年の社交の始まりは十二月の三週目の地の曜日だ。その日に王女のお披露目を行う。いつもは社交界デビューを始まりの日に行うのだが、今年は日程を少しずらす事にした。社交界デビューは三週目の週末闇の曜日となる。ステラが実質王宮に戻るのは二週目の週末、光曜日の学園終了後、王宮に戻る事となるが、その前にやるべき事が多々あるので、来週末から離宮経由で王宮に戻ってもらう。今の所質問は?」

「ありませんわ」

「では次に、ステラの側近の件だが、この場にいるマティアスとベリセリウス嬢は決定として、その他はこちらで一通り選別しておいたので目を通しなさい。誰か希望があるなら調査した上で考慮する」



 お父様はそう言うと、エドフェルト公爵から選別され名前が記載された用紙を渡されたので受け取り、目を通す。

 マティお従兄様とティナ以外は、同クラスではレグリスとクロムヘイム卿の名前が記載されていた。

 後は、ディオーナ嬢とルイス嬢の二人で計六名だ。

 マティお兄様は卒業されたら領にお戻りになるので後三年もない。

 人選が(アリシア)と交流のある人達で構成されているのは、私の事を考えてくれての事かしら。

 


「何か要望はあるか?」

「いえ、ありませんわ。お父様、お気遣いありがとうございます」

「いや、一番はステラが過ごしやすい環境にする事が大事だ。打診はステラの了承を得たから今日中には本人達に通知するので決定は来週に伝えよう」

「よろしくお願い致します」

「次に近衛の件だが、十名を選抜してある。その中には離宮で護衛している二人、オスカルとマルクも入っている」

「お父様、そのお二人は離宮(ここ)の騎士ですよね?」

「そうだが、選抜の際に一応二人に確認したら、自らステラに仕える事を希望したのでな、あの二人はお前にやる」



 お祖父様、やるってそんなモノみたいに⋯⋯。

 だけど自ら私に仕える事を希望するなんて、後でお礼を言わないといけないわ。



「ありがとうございます、お祖父様」

「礼は不要だ」

「残りの八人はこちらで決めてある。二枚目に記載してあるから目を通しておきなさい」

「はい」



 お父様に言われて目を通すけれど、顔と名前が一致しないことにはきちんと覚えられないけれど、お名前だけは憶えておきましょう。

 


「侍女に関してはモニカがステラの筆頭侍女となる。他は王妃が選別しているので王宮に戻ったときに分かるだろう」



 お父様の雰囲気が少し変わった。

 私の事をどう公表するかのお話に入るみたい。

 事実を事実として公表すると、隠す部分は隠すようだけれど⋯⋯。



「この先は私からご説明させて頂きます」

 


 お父様から説明があるかと思ったけれど、言葉を引き付いだのはエドフェルト公爵だった。



「エステル殿下のお披露目の際に今迄の経緯をお話します。話しの内容としましては事実を伝える部分とそうでないところがありますので、詳細をお伝えさせて頂きます。先ず初めに⋯⋯」



 公爵は公表する内容を話し始めた。

 本来であれば八歳でお披露目を行うが、何故今になったのか⋯⋯。

 それは私が五歳の頃から闇の者に狙われ始めた時期でもあり、何より毒を盛られ、内部にも協力者がいた事から(王女)の身を護るために離宮へ、前国王陛下の元へ移し、療養すると世間一般向けにそう噂として流したが、実際は陛下の姉君が嫁がれたシベリウス辺境領で療養、そして暫く安全の為に領で過ごす事となり、シベリウス辺境伯の養女として生活をされていた。

 その間に協力者を一層するつもりだったが殿下が離宮でお過ごしの為、下手に手が出せないからか行動が下火になり捜査が困難となったが、社交界デビューまでには一掃し、王宮へ戻る予定にしていたところ、今回学園交流会の際の事件で(アリシア)が狙われている事が更に(王女)を危険から公に護る事も出来ない為に(王女)をあるべき場所にす事となったと。

 隠匿する部分は、(アリシア)が一度闇の者に攫われたという事は、公には知られていない。

 知られずに済んでいるので、態々醜聞を広める事も無い。

 そして闇の者達が人を魔物へと変える術を持っている事、王家はノルドヴァル公爵家を確信を持って注視している事だ。

 


「殆ど事実として公表いたしますので、殿下にとってもそれ程負担になる事はないかと。ただ、殿下には気を付けて頂きたいことがございます」

「何かしら?」

「ご自身の事です。精霊の加護を得ている事は内密にお願いします」

「それは、分かりましたけど、何故公爵がご存じなのです?」

「私が話したからだ」

「お父様が?」

「安心しなさい。カシミールはこちら側だ」

「いえ、そこを心配しているのではなく⋯⋯」

「殿下がまだ王宮にいらっしゃった頃の話ですが、まだお小さい殿下が庭園で歌を歌っているのをお聞きした事がございます」



 歌? そういえばあの頃は結構歌っていた気がするわ。

 けどそれが何かあるの?



「ご自覚無いかも知れませんが、殿下が歌を歌われると周囲がとても騒がしくなります。私は精霊を見る事は出来ませんが、感じる事は出来ますので」

「そう、だったかしら⋯⋯」



 王宮にいてた時⋯⋯。

 歌、歌っていたわね。

 それも“記憶”の中の歌でこちらの歌じゃない。

 確かに色んな小さい精霊達が歌を歌うと喜んでいたわ。

 そういえば、シベリウスでいる時に歌を歌うことは無かったし、あの頃はそれどころじゃなかったし。



「思い出されましたか?」

「微かに覚えいるわ」

「王宮に戻られましたら、歌う時は王族専用の庭園のみにして頂きたく思います」

「気を付けますわ」



 公爵から気を付けるよう注意をされたが、シベリウスにいる時は歌っていないから、多分歌う事ないと思うわ。

 


「殿下、大丈夫だというお顔をされていますが、シベリウスでも歌っていらっしゃいましたよ」

「え⁉ 歌った覚えはないけれど⋯⋯いつ?」

「歌う、と言うよりも口遊んでいらっしゃいましたね」

「何処で⋯⋯」

「庭園を散策している時や、森に討伐に行った時等ですね」

「伯父様、そういう時は止めてください! 恥ずかしいですわ⋯⋯」

「皆殿下の歌に癒されておりましたので。何より楽しそうにしていらっしゃいましたのでお止めしませんでした」



 恥ずかしすぎる!

 思わず両手で顔を覆ってしまった。

 穴があったら入りたい気分。

 周囲から忍び笑いが聞こえてくる。

 


「ステラ、久しぶりに聞かせてくれるか?」

「お断りいたしますわ!」

「父には歌ってくれないのか?」

「こんなに沢山の方がいらっしゃるのに、歌いませんわ」

「では楽しみは取っておくとしよう」



 お父様はそう私を少し揶揄うように言うと、急に真面目な顔をしたかと思うと、エドフェルト公爵とベリセリウス侯爵、そしてアル伯父様に順番に視線をやる。



「これからは家族の時間だ。お前達は王宮へ戻れ」

 


 そう言い追い出した。

 そこにはマティお従兄様とティナも同様で部屋を下がる。

 言い方はあれだけど、最初から決めていたのか五人は特に何も言わず、私達に挨拶を王宮へと戻っていった。

 一体何の話をするのかしら。



「ステラ、先程までの話で何か気になるところはないか?」

「特にありませんわ。殆ど事実ですから」

「下手に嘘を付いて態々敵に我々を攻撃する口実を与えたくないからな。ただ、あの五人にも伝えていない、ステラ自身の事だが⋯⋯」



 私自身の事⋯⋯?

 何か隠すようなことあったかしら。



「鑑定魔法が使える事は秘匿しておきなさい。ステラがそれを使える事を知っているのは此処にいる三人と、ヴィンスだけだ」

「お母様にも内密に?」

「あぁ、極力知らない方がいい」

「分かりましたわ」

「ステラよ。前にも話したが、鑑定魔法は希少価値が高いので知られると狙われやすくなる。お前を危険に晒す口実は全て機密事項だ」

「それにしては、先程の公爵の説明では私を使い相手を挑発するような事をなさいますよね」

「公に戻れば正々堂々と守れるからな」

「矛盾していませんか?」



 私が公に戻れば堂々と守れるって、それはそうだけれど、それだったら離宮で療養後にまた王宮に戻れば良かったはず。

 一度シベリウスに行ったとしても五年もの間離れる必要もなかったのではと、やはり胸の内がもやっとする。

 


「ステラが言いたいことは分かるが、あの時と今では状況が違う。何故か分かるか?」



 あの時と違う事⋯⋯。

 あれから厳密には五年足らずだけれど、私が成長した事?

 勉強をして周囲の情勢が理解出来たから?

 私の様子を見ていたお父様は苦笑して教えてくれた。



「ステラが健康に育ち、尚且、私達の遥か上を行く成長を見せてくれた。それは年齢だけでなく、物事を冷静に判断し、それなりに自衛が出来る程に強く成長したからだ。あの頃とは雲泥の差だ。王宮に戻ってきて何かあったとしても冷静に対処でき、もし護衛に何かあったとしても逃げることもできるだろう。だからだよ」



 お父様は私の心配をしていて、私がそれなりに自衛出来るようになった事に安心をして、予定よりも早く王宮に戻すように決めたのもあるという。

 詳しく話を聞けば、私がシベリウスで過ごしている間も王宮では私に関して探りを入れてくる者達がいたという。

 私が戻れば何か仕掛けてくる事は大いに考えられること、私に接触してくる貴族が出てくるだろうと、お披露目直前までは伏せておくけれど、王女宮を整えていると完全に隠すことは出来ないので、お披露目前に何とか私に接触しようと考える輩も出てくるかもしれないから気を付けなさい、とお父様から注意をするよう言われた。

 王宮内にある王族の住まいは入口が別とはいえ、完全に外界と遮断できるかと言ったら難しい。

 私が戻るにあたって、私の住まいを整えていたら流石にバレるだろうことも想像に難くない。

 そしてお母様主導の元、私の宮が整え始めているので、既に噂が飛び交っている事も教えて頂いた。

 暫くは王宮だけでなく学園でも騒がしくなりそうね。


  

ご覧頂きありがとうございます。

誤字報告、ブクマ、評価、いいねをありがとうございます。

とても嬉しいです。

次回は十七日に更新致しますので、楽しんでいただけたら嬉しいです。

よろしくお願い致します。

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