150 予感的中
今年の交流会最終試合。
先生の合図で試合が開始される。
レオンお兄様達との話で、先ずレグリスとレオンお兄様が前に出て、私は後ろから魔法で撃退していく事で話をしていたので、すぐさまその布陣を取る。
最初の十体を私達は難なく撃破すると、歓声が起こった。
そして次の五体が出てくるのだけれど、そこから明らかに今までと違いを見せていた。
それはほんの僅かだったかもしれないけれど、普通の魔物の気配とは違っていたし、動きも少し変だった。
だけど、私達は物ともせずに五体を撃破し、次の五体が出てくると、先程よりも嫌な気配が濃くなった。
その気配はお兄様も気付いたようで、レグリスは何か違和感を感じているようだった。
だけど、外で見守っている先生は何も気づいていないようで、私達の戦いに感心しながらただ見ていた。
もしかしたら結界のせいで分からないのかも知れない。
「なぁ! 何かおかしくないか?」
「そうね。さっきから普通ではないわ」
「シア、いつから気づいていたの? 早々に気付いていたなら話して」
「ごめんなさい。だけどこれ位なら対処できるでしょう?」
「問題ないね」
「それに、これであと残り十一体!」
レグリスは疲れも見せずにそう言って十八体目を倒した。
そして私が十九体目を倒すとそこからは一体ずつ追加されていくが、明らかに魔物の目がおかしい事に気付くと、私はお兄様達に注意を促す。
――あれは、あの目は操られている⋯⋯?
あの時、私が攫われた時に見た魔獣の目と同じだった。
操られている目。
私達は陣営を崩さずに同じように相対するのだけれど、動きが普通の魔物とは違っていた。
流石にそれに気づいた先生達が動き始めたのだけど、魔石は自我を持ったように止まる事が無く、魔物が出てくる。
そして残り五体まで倒したところで、次の一体が出てくるのだけれど、ぱっと出てきた瞬間、俊敏な動きで私を目掛けて襲ってきた!
「シア‼」
お兄様がそう私を呼ぶけれど、私は答えることなく、咄嗟に防御魔法で防ぐのだけれど、魔物は怯むことなくその力強い爪で結界を破ろうと動きを見せると同時に、口を大きく開けたと思ったら思ったよりも大きな魔力の塊が見えて、流石に私も不味いと思い、加減も何もなく今迄私を包んでいた防御魔法を反転させて魔物を包み、雷撃を叩きこむ。
「シア! 大丈夫⁉」
「流石に少し驚きましたが、無事ですわ」
「今のはこっちが肝を冷やした⋯⋯まじシアが傷を負うと俺が父上に殺される⋯⋯」
そんな大げさな。
そう思いつつも強ち嘘ではないだろうと心のどこかで思う。
別に余裕とかではないけれど、力み過ぎずにそう思える事が少し余裕があるという事だけど、魔物は後四体。
最後まで油断は禁物だ。
その残り四体も、一体ずつ出てくるのかと思いきや、まさか四体同時に出てきてしまい、流石に私達も魔物から距離を取る。
先生方は、この魔物達を止める事が出来ないのか、外で焦っているようだった。
このおかしな現状を外から止める事が出来ず、しかも外の声が聞こえない事に気が付いた。
「レオンお兄様、外の声が聞こえませんわ」
「これは⋯⋯学園側ではなく、何か別の者に介入されているね。今回もシアの予感が当たったね。今はとにかく残り四体を殲滅しよう。シアは出来るだけ僕の近くにいてね」
「分かりましたわ」
「レグリスは体力はどう? まだ行ける?」
「まだ全然いけますよ!」
「よし。目の前の四体がどのような動きをするか分からないけど、とにかくバラバラにならない事、僕たちの距離を開け過ぎずに戦おう」
「「はい!」」
今は残り四体を倒すことが先決だ。
ただ、魔物と同じように考えてはいけないので私達も慎重になる。
だけど相手は魔物、こちらの意思とは関係なしに襲いかかってくるが、この四体は統率を取っているような動きで、いつもと勝手が違うことでやりにくかった。
外で見ているマティお兄様達も先生方にどうなっているのか、問いただしているようだったけど、その姿が徐々に見えづらくなっていった。
「お兄様⋯⋯」
「分かっているよ。結界に何か細工がされているね」
「外が見えづらい。それにこの重い空気は瘴気じゃないか?」
「レグリスの言う通りだろうね。⋯⋯早く片付けた方がいい」
この空間はあの戦場のような空気の重さだ。
濃い瘴気に晒されるのは流石に私達の身にも悪影響を及ぼす。
私は改めて魔物達を見る⋯⋯。
何となく、全体を見てみると、首元に光るものがあり、私はそこを目を凝らしてよく観察すると、あれは、もしかして!
「お兄様! 魔物の首元をよく見てください!」
「え? 首元?」
お兄様は私の言葉を聞いて魔物の首元を確認する。
すると、お兄様も何か分かったのか、目を見開いた。
「あれは、じゃああの魔物四体は⋯⋯」
お兄様はとても嫌そうに顔を顰めた。
私もそうしたい。
あれは、ラルフの時と同じだと思う。
同じ首飾りを持っていてい、とても濃い瘴気を放っているから⋯⋯。
ただ、もう魔物化していて助ける事は出来ない。
本当に、嫌な気分になる。
「シア、嫌なのは僕も一緒だよ。だけど、遠慮したらだめだ」
「分かっています」
「どういう事だ?」
「レグリスはセイデリア辺境伯様から聞いてない? 人が魔物になる事」
「⋯⋯聞いてるし実際領でもあったからな。ってまさか⁉」
「そのまさかだと思うわ」
「まじかよ⋯⋯」
一体どうして学園内の交流会で出てくるのかしら。
『姫様、躊躇ってはいけませんよ』
『分かっているわ。それより、この結界は破壊できないのかしら?』
『細工がされているようで、学園側も手出しできていない状況ですね。我々も姫様の近くにおりますので結界の内側の為、すり抜ける事が出来ません。姫様、危険だと思ったら我々は動きますのでご承知ください』
『ギリギリまでは待って』
という事は外の状況は微かに見えている状態での判断になるわね。
魔物を倒せば解けるのかしら。
動きが違うので中々難しいし、そして元が人間という事で躊躇ってしまいそうになる。
けど、結界内に閉じ込められた挙句、攻撃を躊躇っているとやられるのは私達だ。
覚悟は必要で、それはレオンお兄様やレグリスも一緒だった。
私は一呼吸をし、お兄様達の援護をする為迷いを断ち切り前を見据える。
お兄様とレグリスは苦戦しながらも一体を倒していたので残り三体。
ただ、残り三体になったところで、胸元の魔石がとても気持ちの悪い鈍い光を放つと、まさかその三体が溶け合うように融合した!?
流石にこれは不味いと思う。
「シアは決して前に出たらだめだよ。僕の後ろにいて」
「お兄様、これは早く倒さないと、不味いと思いますわ」
「シアの言う通りだな。こいつの気配はやば過ぎる⋯⋯」
この重い瘴気と目の前の魔物から発せられる嫌な空気感が私達を襲う。
怯むわけにはいかないけれど、怯みそうになるのを必死で堪える。
お兄様達の顔色も悪かった。
けど、とても前向きに考えたら三体いたのが一体になったので、三人で集中して攻撃できるのは良いかもしれない。
「シアは遠慮せずにあれに攻撃して。レグリスも同じだよ」
「分かりましたわ」
「はい! 遠慮せずに畳みかけましょう」
「じゃあ、さっさと倒すよ!」
お兄様が鼓舞してくださったので、私もレグリスも恐怖心よりもあれをさっさと倒すという目的の為に対峙する。
体躯が結構大きいので魔法を外すことは無いだろうけれど、それでも慎重になる。
ただの魔物ならいざ知らず、そうではないからだ。
だからと言って慎重になり過ぎるのもこちらが不利になるので、私はお兄様の合図で同時に攻撃魔法を叩きこむ。
勿論直ぐに次に動けるようにレグリスが相手を見据えている。
魔法攻撃は効いているようだけど、回復が早いのかぴんぴんしている。
嫌な感じだわ。
「これ、回復する暇を与えたらずっと続きそうだね」
「ですね」
「兎に角、相手の特性も分からないから、様子を見ながら攻撃しよう」
「そうですね」
確かに、融合してしまってどのようなモノになったのかも検討が付かない。
お兄様の言う通り、私達は探りながら攻撃をしていくが、どれも効いているようで効いていないので、ただただ私達の体力が奪われていくだけで、このままではいけないと危機感が募る。
それにしても、あの尻尾が気になるわ。
さっきから見ていれば、攻撃を受けたらあの尻尾が鈍く光っている気がする⋯⋯。
『ねぇ、あの尻尾って何かあるのかな?』
『もしかしたら、あの魔物が回復するのには尻尾が関係あるかもしれません』
動物の尻尾と比べるのはどうかと思うけれど、尻尾に実用的な役割ってあまりないのよね。
勿論動物によっては攻様々な役割を持っているのもいるけれど⋯⋯。
ただ、動物と違って魔物の尻尾って本当に多種多様だと思う。
魔物研究会ではないけれど、魔物って奥が深い、って感心している場合ではないんだけれど。
あの尻尾を切ってみる価値はあるかもしれない。
「お兄様、レグリス。魔物の正面は暫くお任せしてもよろしいかしら?」
「シア? 何をする気?」
「後ろの尻尾を切ります! ですので、こちらはお任せしますわ」
「はぁ⁉ シア、無茶はしないで!」
お兄様に止められそうになったけれど、私は丁度あの魔物の後ろを見据えて転移する。
目に見えているのでそう難しい事ではないけれど、集中力はかなり必要になるが、いい具合に移動できたので、私は勢いを殺さずに双剣に氷魔力を乗せて尻尾を切り落とすと同時に再生できない様に氷で覆うと、魔物は痛がるような咆哮を上げた。
「お兄様達、今です!」
私が声を掛けると同時に、お兄様とレグリスは魔物へ向けて鋭い攻撃を仕掛けた!
そして傷つけられた魔物の裂傷は⋯⋯うん、やっぱり尻尾を切り離して正解だったわ。
私も後ろから攻撃魔法を放ち挟み撃ちに出来たので、尻尾を無くした魔物は私達の攻撃魔法で思ったよりも呆気なく消滅した。
そして魔物が消滅したことで結界内に充満していた瘴気が嘘のように晴れたと思ったら、細工されていた結界もパリンッと音を立てて壊れた。
――やっと終わった⋯⋯。
何だかとても疲れたわ。
それに、頭が痛い⋯⋯。
「シア! 大丈夫?」
「お兄様。大丈夫ですわ」
「大丈夫って顔じゃないけど。⋯⋯もしかして、頭痛かったり眩暈起こしてない?」
「んー⋯⋯ちょっとするかも?」
「魔力の使い過ぎだよそれ! 無茶しないでって言ったのに!」
魔力の使い過ぎ⋯⋯これ後で絶対叱られるわ、色んな所から⋯⋯。
「三人共無事か⁉」
「マティ兄上、怪我は大したことないですが、シアが魔力の使い過ぎで眩暈と頭痛を起こしています」
「直ぐに医務室へ連れて行こう」
「待ちなさい」
この声⋯⋯お養父様?
外の様子が全く分からなかったけれど、お養父様は此方に降りてきていたのね。
「シアは私が預かる。お前達は此処でやる事があるだろう? ユリウス、悪いが此方の事は任せた」
「あぁ、此処はいいからアリシア嬢の事が先決だ。気にするな」
セイデリア辺境伯様もいらっしゃっていたのね。
それはそうか。
レグリスも戦っていたものね。
それにしても頭がとても痛いわ⋯⋯。
私はお養父様に運ばれて会場内の医務室へと連れてこられていた。
そこで魔力回復薬を飲み、横になる。
「シア、大丈夫か?」
「怪我は大したことは⋯⋯ただ頭がとても痛いです」
「全く、無茶をし過ぎだ」
「ごめんなさい」
「とにかく無事でよかった。よくやったな」
「お兄様とレグリスが一緒だったからですわ」
「それでもだ。本当に無事でよかった」
かなり心配を掛けてしまったらしく、お養父様は安堵の息をついた。
学園に入ってから心配ばかりかけているわね。
「お養父様⋯⋯」
「詳しい話は回復してからだよ。側にいるからもう少し休みなさい」
私はお養父様に優しく頭を撫でられ、その優しい手付きに安心して目を閉じるとすとんと眠りに落ちた。
回復薬を飲んで直ぐに寝てしまうとは⋯⋯。
相当無理をしたのだな。
だが、あの結界内で取り乱したりせずに自分達で対処した事に対しては、三人の成長は誇らしく、褒めないといけないが、複雑なところだ。
ステラ様は本来守られる立場にあるというのに、自ら身を護るために動くことを一切躊躇わない。
公の場なのでまだ影が堂々と動けないのは分かるが、本来のお立場に戻ったときが少し心配だな。
ステラ様のことだからご自身で対処しようと動かれるかもしれない。
それにしても、ステラ様の行動力には驚かされる。
私はステラ様の寝顔にかかっていた横髪を払う。
魔力は回復薬を飲んだので戻ってきてはいるが、まだ少し顔色が悪い。
ステラ様の心配をしていたら学園の医務官より声を掛けられた。
「シベリウス辺境伯様、セイデリア辺境伯様がいらっしゃっておりますが⋯⋯」
「こちらに通してくれ」
「畏まりました」
直ぐにユリウスが此方にやってきた。
表情を見る限りでは何の進展もない感じだな。
「アリシア嬢の様子は?」
「今は回復薬を飲んでよく眠っている」
「大丈夫なのか?」
「あぁ、問題はないよ。ただあの中で色々探っていたのだろう。安心したら一気に身体にきたのだろうな。それより、あちらはどうなった?」
「陛下の指示で今回の件は学園と王宮側が協力して調べることになった。今は交流会の閉会式が簡単に進められている。それが終われば生徒会は一旦生徒会室に戻るから、それから彼らにも話を聞くつもりだ」
「そうか」
まだ少し時間はあるな。
ギリギリまでは眠らせてあげたい。
少しずつだが顔色も戻ってきている。
アンセは気になっているだろうな。
流石に表には出していなかったが、内心では気が気でなかったはずだ。
暫くすると、会場での閉会式を終え、観戦していた人々は帰途につき始めているとの現状を確認し、私達も話を聞きに行かねばならない。
生徒会室へ向かうべく、シアを起こした。
「シア、起きなさい」
「ぅん⋯⋯」
夢現にお養父様の声が聞こえる⋯⋯。
だけど眠たさが勝って直ぐに応えることができない。
「シア」
何時もなら寝かせてくれるのだけれど、再度呼ばれたので頑張って目を開けると、お養父とセイデリア辺境伯様が気遣うような表情で私を見ていた。
「⋯⋯お養父様?」
「あぁ、すまない。もう少し寝かせてやりたいがあの結界内にいた三人と、それを近くで見ていた生徒会全員から話を聞くことになっているから今から生徒会室へ向かうが、体調はどうだ?」
「はい、少し寝たので先程よりは大丈夫ですわ」
「では行こうか」
私はお養父様とセイデリア辺境伯様と共に生徒会室へと向かう。
生徒達は既に疎らで残っている生徒は少ない。
生徒会室に着くと、生徒会の面々の他、学園長、ハセリウス先生、王宮の調査官らしき人が室内に待機していた。
「遅くなりました」
「お待ちしておりました。アリシア嬢は大丈夫でしたか?」
「はい。ご心配をお掛けして申し訳ありません」
「いや、顔色も良さそうで安心したよ」
学園長はあまり表情が変わらない方だけど、今は安心したようなそんなほっとした表情にも見える。
そして会長を始め、皆様が私を見て安心したように表情が緩んだのが見えた。
学園長に促されて私達も席に着くと、早速本題に入った。
「全員揃ったので始めよう。先ずは生徒諸君、交流会お疲れ様。対抗試合の最終戦の件だが、学園側と宮廷が合同で捜査をする事となった。先ず彼女達を紹介しよう。宮廷の調査官でイェリン・レーヴ殿とバート殿だ。そしてシベリウス辺境伯、セイデリア辺境伯のお二方も同席される。事実と何か気付いた事、感じた事を正確に話すように」
学園長の話が終わると、調査員のレーヴ様に代わり、話を進めるようで、前に出てきた。
調査員と言うのは軍部の所属で主に貴族関係の調査を行う部署だ。
勿論街で起こった出来事もあちらで対処できない事案に関しても調査も行う。
「では、先ずは外から観戦している時に何時から異変に気付いたのか、どのような事が起こっていたか、怪しいものがいたか順に答えて頂きます」
そして会長から順番に話していき、レーヴ様はそれに対し細かく質問をする、といった具合に進められた。
外から観戦していた会長達が明らかにおかしいと感じたのは残り五体となった頃だった。
外から見ても魔物達の動きに疑問を感じ、それから徐々に結界が少しずつ鈍い色に変わっていった。
怪しい者は周囲にはいなかったが、結界に薄っすらとした鈍い光が見えたとの事で、ただそれが何かまでは分からず、最初はそれが誰かが干渉したせいだとは思わなかったそうだ。
後になって何かが干渉したせいで結界を解くことが出来ず、外からは何も出来なかったのだと分かったが、それが分かったとして干渉者を始末するか若しくは自力で結界を破壊するかしかない。
破壊するにしても周囲への影響を考えなければならない。
ただ大勢の観客がいる中で大きな騒ぎにすることも出来ず、外から私達が魔物を倒しきるのを信じて待っていた、との事だった。
確かにお父様がいらっしゃる交流会で、それも多くの貴族平民が観戦しに来ていた場で事を大きくする事は出来ないでしょう。
マティお兄様とヴィンスお兄様は今は口を噤んでいるけれど、他に何か気付いたことがあるようだった。
この場で言わないのは余計に場が混乱するから、そして私が関係しているからでしょうね。
それにしても、あのバートっていう人、何だか気になるわ⋯⋯。
何だろう、何か違和感が感じられる。
一人頭を捻っていると、次は結界内で魔物と相対した私達への聞き取りが始まった。
まずはレオンお兄様から、そして私とレグリスの順で話していく。
私達は領の事があるので、特に隠す事無く話をすると、同じように質問をされたのでその時の状況を思い出しながら質問に答える。
そうしているとかなり時間が経ってしまったようで、外は日が暮れようとしていたので、まだ未成年もいる事から今日はここまでとなった。
休日の間に学園の先生方と王宮の調査員が捜査を進めるそうで、休日の間に何か思う出したことがあれば直ぐに知らせるようにとレーヴ様から言葉で今日はお開きとなった。
明日から二日間は休日なので、私達はお養父様と共に邸へと戻る為、馬車に乗る。
「シア、疲れていないかい?」
「流石に少し疲れましたわ」
「明日から三日間休みだ。今日はゆっくり休んで、混み入った話は明日にしよう」
「三日間のお休みなのですか? 二日ではなく?」
「今回の一件で一日延びたんだよ」
そうだったのね。
休めるのはとても嬉しい。
「レオンお兄様、遅くなりましたけど、お怪我は⋯⋯」
「僕のは大したことないよ。一番はシアに大きな怪我が無くてよかったけど、魔力を使い過ぎるまで頑張るなんて、本当に心配したんだよ」
「外から見ていて本当にハラハラしたよ。大きな怪我が無くて良かったけど、何も出来ず外から見ていて歯痒かった」
反対の立場でもそう思うからお兄様の気持ちは分かる。
あの場にヴィンスお兄様ではなくて良かったと心からそう思う。
――あっ! 全然お兄様とお話していない!
私はちょっと不味いと思った。
それにお父様もいらっしゃっていたし⋯⋯。
今夜お手紙を書かなきゃ!
だけど先にお兄様からお手紙届きそうな気もしなくもない。
私が少し顔色を悪くしていると、心配そうにお養父様に覗き込まれた。
「顔色が悪いが、何処か具合が悪いのか?」
「え、いえ。体調に問題はありませんが⋯⋯」
「何か心配事か?」
「私ではなく、あの方達にもかなり心配おかけしてしまったと、今そのことに気付いてしまって⋯⋯」
「⋯⋯もうちょっと早く思い出してあげなさい。かなり心配をしていたし、自分を律するのに必死だったろうね。邸に着けば何かあるだろう」
お養父様に呆れられてしまったけれど、忘れていたわけじゃないわ!
言い訳にしかならないだろうけど、それだけあの時は真剣だったのよ。
ちょっと落ち込んでいると慰めるように頭を撫でられた。
お父様達からどんなことを言われても素直に聞こうと思っているといつの間にか邸の敷地に入っていた。
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