15 お茶会という名の話し合い
少し時間を遡り、私達が邸でお茶をしている頃、王宮ではお母様とお養母様が二人でお茶を楽しんでいた。
「ステラは元気にしているかしら?」
「えぇ、順調に回復もしたのでとても元気にしているわ。今日は邸内の散歩を楽しみにしていましたよ」
「それを聞いて安心しましたわ。ステラをよろしくお願いしますね、お義姉様」
「もちろんよ、安心しなさい」
リュス様が思ったより元気そうで良かったわ。
一国の王妃を戴いているのだからこれしきの事で落ち込まれても困るのだけれど。
まぁ、リュス様はどちらかと言うとやられたらじわじわ遣り返す方だから、そんなに心配いらなかったかかしらね。
もしかしたらそういう算段をしているかも知れない。
それに、今はお腹に御子様がいらっしゃるから落ち込んでいる場合でもないわね。
二人でステラの近況等を話をしていると、ようやく国王であるアンセルム・エドヴァルド・グランフェルトと第一王子のヴィンセント・エドヴァルド・グランフェルト、そして夫のアルノルドがやってきた。
「姉上、お久しぶりです」
「久しぶりですね、アンセ」
「伯母上、ご無沙汰をしております」
「ヴィンセント殿下、お久しぶりですわ。お元気そうで何よりです」
私が弟で国王のアンセと甥のヴィンス様に挨拶をしているとアルはリュス様に挨拶を交わしていた。
「王妃殿下、ご無沙汰しております」
「お久しぶりですね。シベリウス辺境伯」
アルは胸に手を当て一礼した。
私達が挨拶を終え、席に着くのを待って侍女達がお茶の支度が終わるのを確認し、アンセは皆に下がるよう指示を出した。
「姉上、此度はステラの事をありがとうございます」
「いいのよ、可愛い姪っ子の事ですもの」
「伯母上、ステラは元気にしていますでしょうか?」
「えぇ、回復もしたので元気にしていますよ」
ヴィンス様は妹大好きで有名だから、今回の件で離れて暮らさなければいけない事への寂しさを怒りに変えているように見受けられた。
落ち込まれるよりは断然良い。
そのままさくっと黒幕を洗い出してくれれば⋯⋯。
「先ずは、皆様揃いましたので先にお渡ししたいものがあります」
アルがそう言って私に目配せしてきたので、三通の手紙を出した。
ステラから預かった大事な手紙を三人の前に出した。
「これは、ステラ様から預かってきたお手紙です。各々アンセ、リュス様、ヴィンス様へ宛てたものですわ」
三者三様の驚きで手紙を受け取った。
「ステラが手紙を⋯⋯?」
「間違いなくステラの字ですわ」
「今すぐ読んでも良いですか⁉」
アンセ、リュス様、ヴィンス様の順に言葉を発したが、最後の言葉に私とアルの言葉が重なった。
「「ダメです」」
「「「何故だ(です)⁉」」」
「先ずは話し合いが先ですよ、お三方。お手紙はお部屋でゆっくり読んでください」
仲良しね、三人でハモるなんて。
やっぱり手紙は帰り際に渡せば良かったかしら⋯⋯。
そんな風に思っているとアルと目が合い、アルも同じことを思ったようだ。
二人で呆れていると、アンセが話し出した。
「で、ステラの様子はどうだ?」
「ステラ様の件で報告があります」
「何か問題があるのか⁉」
アンセが焦ったように聞いてきたので「落ち着きなさいな」と注意をした。
気心知れたものしかいないとはいえ、もう少し落ち着いてほしいものである。
これでも一歩外に出ればガラリと変わるのだから、まぁそれだけ心を許しているということでもあるのだけれど。
「ステラ様は前世の記憶持ちです。今回の毒を受け記憶が戻ったそうです」
「なんだ、もっと深刻かと思ったら記憶か⋯⋯、あぁけど、気を付けなければならんな」
「その通りです」
まだ今回狙われた理由が分かっていないため、狙われそうな理由に関しては口外できない。
“記憶”の件はどちらにしてもそう軽々しく口外はできないのだけど。
「辺境伯家ではどこまで記憶の事を知っている?」
「私達二人と上の子二人、そして側近、筆頭執事と侍女長、そしてステラ付きの侍女のモニカの計八人。ちなみに、ステラ様が王女だと知っているのもモニカは別として騎士団長を入れ八人です」
「子供達に知らせて大丈夫か?」
「妹を護るのだと意気込んでいましたので。それに私が色々と叩き込んでるので大丈夫ですよ」
最後の言葉で、アンセとヴィンス様の顔色が悪くなった。
アンセが「まぁ、それなら大丈夫⋯⋯か?」と呟いた。
ヴィンス様は「私の妹なのに⋯⋯」と悔しそうにしていた。
アルの外見だけを見れば優しい面差しに話し方も優しいので外面に惑わされるものは多いけれど、内面は中々苛烈ですものね⋯⋯。
教育も熱心だし、きちんと飴と鞭を使い分けてるので子供達も付いていってるわけだし、うちの子は大丈夫と、妙な安心感がある。
「で、記憶の事だが⋯⋯」
「記憶では成人した女性で、事業主の補佐官のような仕事をしていたようでした。ただ、二十八の歳に事故が起き、その事業主を庇って今に至るようです」
「庶民で働いていたという感じか?」
「貴族とかそういった階級は無かったと話をしていましたね」
階級制は無かったが、ステラの話や様子を見る限り、皆が高等の学びを受け、高い知識を持っているという風に見受けられる。
此処とは違う制度で、小さい頃から同じ教育を受け育っているのだろう。
個々の違いはあるだろうが、もっと話を聞きたいと思う程だ。
ただ、話を聞きすぎると、ステラが此方に馴染めなくなるのではとも思う。
只でさえ、口調が全く年齢にそぐわない上、思考も大人だからだ。
心配ではあるけれど⋯⋯。
「記憶の件に関しては、王宮では我々だけの内に秘めておく」
「それがよろしいかと」
この件に関しては取り敢えず置いておくとして、後は今後の事だ。
「ステラは、辺境伯領で過ごすにあたり、名前は何と?」
「私がアリシア、と名付けましたわ」
私が名付けたことで、アルが関わっていないことに安堵したようだ。
アルが名付けていれば本当に娘を獲られたように思うのだろう。
この二人、というかアンセが一方的に変な対抗心を燃やしているせいでしょうね。仲は良いのだけれど。
「教育はどのように行うつもりだ?」
「シアは勉強に対する意識欲が強いので、座学に関しては、息子達と同じ先生を、私が王女としての淑女教育を施します」
「魔力がやはり多いので、その扱いを私と領の者達でお教えします。本人は強くなることをご希望されていますので、剣の扱いも組み込む予定です」
そう話していると「待て!」と制止の声がかかった。
何か可笑しな事を言ったかしら?
「剣とか教える必要あるか?」
――えっ、私も扱えるのですけど? アンセは一体何を言ってるの?
「本人は学ぶ事に前向きよ。何より教えておいて損はないでしょう?」
「いや、だってまだ五歳だし、可愛いし、それに回復したばかりだろ! あまり無理をさせるな」
いやほんと何を言っているのかしら、この国王は⋯⋯。
あっ、いけない、つい口が滑ってしまったわ。
ともかく、アンセは私も剣を扱えること分かっていて言っているのかしらね?
あの子が妖精のように可愛らしいのは否定しないけど、何故かモヤモヤするわ。
私から不穏な空気を感じ取ったのか言い訳をしてきた。
「姉上がどうとかではなくて! まだ回復して体力落ちているだろう! まだ座学だけでもよいのではないか? 大体、辺境伯領、あちらは強者揃いだろう! あの子にはまだ早いと思う!」
辺境伯領に強者揃いなのも毒から回復したてなのも否定はしない。が、習うなら早い方がいい。
本人も体力が無くて落ち込んでいたし、それにシアは素質があると思う。
「アンセ、五月蝿いわよ。本人は体力がないのを気にしていたし、学べるものは全て学びたいと希望しているのよ。子供のやる気を削ぐなんて親のやることかしら?」
「だがな⋯⋯」
「あなた、ここはお義姉様達に任せてみましょう」
まだうじうじと言うアンセを制したのはリュス様だ。
「伯母上、ステラは⋯⋯いや、シアは本当に自分から学びたいと言ったのですか?」
「えぇ。本人の口から聞きましたよ」
「そうですか、分かりました。よろしくお願いします」
ヴィンス様はそう言って頭を下げた。
妹に甘いだけでは無さそうね。
はぁ⋯⋯とアンセは大きなため息を付いて「無理だけはさせてくれるな」と項垂れていた。
「お任せください」
アルはいい笑顔でそう答えたら、アンセは胡散臭そうに見ていた。
「それで、魔道具は巧く作動しているのか?」
魔道具とは、シアが今身に着けている姿を変えるための腕輪の事。
「目立つ髪と瞳は私と同じに、大きすぎる魔力を抑える魔石、呪術を弾き飛ばす魔石も組み込んでいますので、シアが王女だとは分かりませんし、魔石もオリーが用意したものだから安心でしょう」
「アルと同じ色⋯⋯」またもや引っ掛かったみたいにアンセは呟いた。
親バカ、過保護にもほどがある。
ちょっと鬱陶しいわね⋯⋯。
「取り敢えず、対策が取れてるなら良い」
気を取り直したのか、思ったよりあっさりと真面目な雰囲気に戻った。
「王宮でのステラの所在についてだか、先に話している通り暫く療養という形になる。所在は前国王夫妻が現在住んでいる離宮だ。既に父上達に話を通し了承済みの上対策済みだ。あそこの人選は厳しい上、まぁ⋯⋯手を出すには中々勇気のいる連中が揃ってるからそこで療養していると言っても大丈夫だろう」
前国王夫妻がいるのはミーサ離宮という郊外の森林近くにあり、悠々自適に暮らしている。
だが、まだまだ現役で通じる人達なので何かあったとしても対処してのけるでしょう。
孫娘をとても可愛がっているので、逆に本当に住めと言われなかったのかと少し不思議に思っていると、アンセと目があった。
――あぁ、やっぱり言われたのね。
アンセの目が死んだ魚のようになっていた。
可愛がるだけじゃダメなのよね。
身内に面倒な人達が多いと思うのは気のせいではないはず⋯⋯。
「王宮内でこの事実を知るものは? 何処まで知らせているのかしら?」
王宮内でも国王周辺の限られたものしか知らせてはいないだろうとは思うのだけれど、知っておいた方が何かあった時の為に連携がとれるようにしておいた方がいい。
「それなら、私の側近エリオット・ベリセリウスとリュスの筆頭侍女のファンヌ・バーリの二人だ」
なるほど⋯⋯。
この二人なら大体王宮内の動きを監視出来るでしょうね。
噂話や行動等。
知らせる範囲を極少数にすることによって、事実を知らぬ者達は憶測で噂をたてるでしょう。
その中で何かしら手を貸したもの、関わったものが尻尾を出す可能性も高い。
ここに少し真実を混ぜて噂を態と流せばより真実味が増す。
まぁ、これこそ二人の得意技でしょうね。
これで黒幕が判れば良いのだけれど⋯⋯。
まぁそこは王宮内部で頑張って貰いましょう。
ここまで話し合い、お開きとなった。
きっとこの後は三人共自室で手紙を読みふけるでしょうね⋯⋯。
その様子を安易に想像することができて私は少し笑ってしまったわ。
ご覧いただき、ありがとうございます。
ブクマありがとうございます。
次話もよろしくお願い致します。





