149 社交会別対向試合二日目
社交会別対抗試合二日目。
会長達にとっては学園最後の交流会。
生徒会室に、私達は会長達が来る前に集まり、今日という日を優勝で終わらそうと皆で話し決意していた。
少しして会長とクラエスさんがいらっしゃり、皆揃ったところで今日の試合がどのようなものでも最後までこの仲間で楽しんで笑顔で終われるように、そう円陣を組んで手を合わせた。
会場へ移動し、今日の試合を確認する。
試合内容は、一種目がお茶の種類、産地を答える問題で、二種目目は魔道具に関しての問題。
そして三種目目は魔物との対峙、ただ、三種目目だけは二試合目に出場する人選が決まっていた。
生徒会からは、レオンお兄様、レグリス、そして私。
注釈として、シベリウス、セイデリア両家の当主の了承を得ているとの事。
これって⋯⋯。
「三種目目に関して言えば、三人の出場が決定しているのは昨日の対処の一環だね」
「それは全然構わないのですが、交流会で魔物と対峙するとはどうやって行うのです?」
レグリスの疑問は私も思ったことで、危険なのではと危機感を感じる。
「アレーナ全体に結界を張り、その中に捕まえた魔物を放つんだよ。そして、それを退治するのだけど、何体退治できるかを競うんだ」
「仮に危険が生じた場合はどうなるのでしょう?」
「それは大丈夫だよ。危険と判断されれば強制終了で先生方が魔物を回収、又はその場で殲滅するから」
会長の口振りからすると、交流会では今回みたいな試合が結構あるのかもしれない。
まぁ私達に異論はないけれどね。
お養父様にきちんと許可を取っているならば。
「三人共落ち着いているね」
「既に実践していますからね。ただ、シアがまた魔法師団に目を付けられそうな気がするけど、心配はそこですね」
そう心配そうにレオンお兄様は私を見る。
剣より魔法が得意といえばそうなので、試合中は魔法を使うだろうけど⋯⋯。
「質問があるのですが、よろしいでしょうか?」
「何かな?」
「その試合に関して何か規定はありますか?」
「というと?」
「剣は、学園の指定したものを使わないといけないとかそういったことは?」
「ないよ」
「良かったです。ありがとうございます」
それを聞いて安心したわ。
片手剣だと難しいもの。
「アリシア嬢は怖くないのかな?」
「どのような魔物が出てくるか分かりませんが、この間のような魔物が出てくることはないでしょうから、怖くはありませんわ。それに、レオンお兄様とレグリスがいるので大丈夫です」
「頼もしいね」
先ずは一種目目は作法の授業でも習っている通り、一人がお茶を淹れて、もう一人が飲み、二人でお茶の種類と産地を答える、というもの。
それをニ種類ずつ三組行い、正解した組に点数が入るのだけど、ただ当てればいいという問題ではなく、お茶の淹れ方や飲み方等の作法も細かく見られるようだ。
ニ種目は、生活に欠かせない魔道具に関しての問題で、使用率に関しては貴族平民関係なく幅広く使われていて、毎年新しい魔道具が開発されたり、今迄の物がより良く改善されたりしているので、学園では選択授業で学ぶ事が出来るそうなのだけど、一般的な知識として入れておくことも大事なので、こうやって交流会で一つの種目として取り入れているそう。
そして三種目が魔物との戦闘。
ニ試合あり二試合目が私達で、一試合目はまだ指名されていない。
時間内にどれだけ魔物を退治できるか、又は一試合に付き魔物は三十体で全て倒せば満点となる。
そんなに難しいことではないわね。
学園で捕らえた魔物なら、そこまで上位の魔物だはないでしょうし。
勿論甘く見るつもりはないし油断するつもりもない。
ただ、昨夜影達と話していた事が頭を過る。
もし、何か干渉をしてきたらただでは済まないと思う。
少し、嫌な予感がするのは気のせいかしら⋯⋯。
「シア、何か気になることでもある?」
「マティお兄様⋯⋯」
お兄様は私が何か考えているのを見て取って、そっと私に話しかけてきた。
私が少し、そう感じている事を話すと、難しい顔をされていた。
ここは学園でシベリウスではないので、私がそう感じるからと言ってどうする事も出来ないのは分かってはいるし、ただ、少し闇の者が絡んでるかもしれないという事で色んなことに対して不安になっているからかもしれない。
「シアがそう感じているなら何かあるかもしれない。だけど⋯⋯」
「分かっていますわ」
「私達も周囲には気を付けるけど、シアも十分に気を付けて」
「はい」
「後でレオンにも伝えておくよ」
「ありがとうございます」
お兄様とお話していると、時間となったので控室から会場内へと向かい、交流会二日目がいよいよ始まろうとしている。
昨日と同じく内容が伝えられ、一種目目が始まりだ。
一組めに指名されたのは、会長とルイスお姉様だった。
お二人共頑張ろうと声を掛け合い向かう。
会場には先生方が産地がわからないように番号を付けた容器と茶器が用意されていて、先生の開始の合図で四組とも同時にお茶をいれる。
先ずはルイスお姉様がお茶を淹れ、会長が飲んで答えるのだけど、答えは一度用紙に記入し、それをお茶を淹れたルイスお姉様にお渡しして、順番に記入されている種類に産地を読み上げる。
他の人が答えている時に聞いて不正を働かない為に一度用紙に記入するようだ。
全員が答え終われば、先生が正解を発表し、交代となる。
ルイスお姉様も迷うことなく答え、先ず第一試合目はお二人共正解した。
私達の所へ戻ってくると、「簡単すぎたよ」とまぁ、お茶を飲んでいる時でさえ見るからに優雅に余裕綽々だったけれどね。
そして第二試合目に指名されたのは、リアムさんとウィルマさん、第三試合はレーア様とケヴィン様で試合に臨んだ。
結果はリアムさんが当てられず、とても落ち込んでいたけれど他の三人が健闘したので一種目目の結果は風紀と並んでいた。
そして二種目目は実際に魔道具を見て、その用途と開発者の名前を答える事。
この問題は一つの社交会から四名ずつで昨日の三種目目と違い、今回は四人で相談をすることが出来、早く正解した社交会に点数が入る。
用途は知っていても中々開発者までとなると、そこまで答えるのは難しい。
そう思っていると、レオンお兄様から一年ではまだ魔道具に関しては習わないので当てられる事はないと話して下さり、私はかなりほっとした。
この種目で指名されたのは、会長、ラグナル様、マティお兄様とフィリップ様の四人だ。
全員が揃うと、さっそく二種目目が始まる。
魔道具は全部で十五あり、順番に出題されていくのだけど、用途は分かっても私には開発者までは分からないものばかりだ。
だけど、やはり会長は本当に凄くて知らない事が無いんじゃないのかなと思うほど。
ただ、上には上がいて、風紀のレイダル様はもっと凄かった。
たまに相談したりしているようだったけど、殆ど分かっているのかぽんぽんと答えを出していく。
答えているのはレイダル様だけでなく、他の風紀の方も答えてはいるのだけれど、それもレレイダル様が答えを伝えているようだった。
それは生徒会も同じだけれど、他の魔法研究会と歴史部はというと、答えてはいるのだけれど、それでも生徒会と風紀 の間に付け入る事は最後まで出来ずに終わった。
二種目目の結果は惜しくも風紀に負けたけれど、会長はずっと楽し気で、会長を見ているとこちらまで楽しい雰囲気になる。
レイダル様は会長に勝ったことでとっても嬉しそうだった。
二種目目が終わると、お昼休憩となる。
今日は会場の控室でお昼を頂くので、お昼はゆっくり出来そう、といっても前半の試合は応援だけだったので疲れとかは特に無い。
ただ、やはりずっと何か嫌な予感と言うか、そういったモノが心の中に燻っている。
「いよいよ最終種目だね。レオナルド君達は緊張していないかい?」
「いえ、緊張はしていません」
「アリシア嬢とレグリス君はどう?」
「学園で捕獲した魔物がどの種類かは分かりませんので何とも言えませんが、魔物の襲来で遭遇したような魔物は流石に学園内で出してくるとは思っておりませんので、それ程気負う事は無いかと思います」
「私もシアと同意見です」
「確かに話に聞くような魔物が試合で出てくることは無いからね」
私は魔物の事はそれ程心配も何もしていないけれど、ただ、胸騒ぎのようなものは残っていて、何か起こるのではないかと、そちらの方が心配だ。
次の種目の話をしていると、誰かが来たみたいで、一年の私が対応する為ドアを開けると、そこにはお養父様とセイデリア辺境伯様がいらっしゃっていた。
「お養父様、そにれセイデリア辺境伯様まで如何されたのですか?」
「三人に少し話が合ってな。出てこれるかな?」
「分かりましたわ。少しお待ちくださいませ」
お話って試合の事よね。
中の皆様は誰が来たのかと不思議そうにしていたので、私が説明をすると、時間までに戻ってくるよう言われ、レオンお兄様、レグリスと共に部屋を出る。
そして生徒会の控室から少し離れた部屋を借り、お養父様に促されて座る。
「父上、お話と言うのは⋯⋯」
「他でもない、あの生徒が公にお前達を侮辱した件だ。分かっていると思うが、今回のニ試合目のレオン達三人が既に選ばれているのは学園側が提案してきた事に私達が了承した。あれを乗り越えた三人なら学園の交流会ごときで出てくる魔物など、容易いし、三人が他の学生に負けるとも思っていない」
これは絶対にへま出来ないわ。
これで私達がやられる様なことがあれば⋯⋯考えたくないわね。
それはレオンお兄様とレグリスも同じようで、違う意味で若干顔色が悪い。
「父上、質問をよろしいですか?」
「何だ?」
「先日のハセリウス先生の話では、学園側に対してそれ相応の対応をお求めになられたのですよね? それが今回私達成人していない三人が試合に出るだけ、と言うのは些か違うのでは?」
レオンお兄様の仰ることは最もだわ。
私達が試合に出たからと言って、戦えることを見せるだけなんて結局相手側の謝罪が何もない。
それだけでは納得は出来ないわよね。
「レオンの言う事は最もだよ。私達はもうひとつ学園側に要求したことは、生徒達の指導の改善だ。三人の試合後、学園側がどのような対応をするか楽しみだな。それに、あの生徒がどのような態度を示すのか⋯⋯」
お養父様、その笑顔が怖いですよ。
だけど、セイデリア辺境伯様もかなり怒っているのか、いつもの雰囲気は無い。
「と言うわけで、お前達三人は、遠慮なく魔物を殲滅するように! 無様な試合だけはするなよ」
「「「はい!」」」
そして私達は生徒会の控室へと戻ると、マティお兄様が確認してきたので、先程のお養父様からの言葉を伝えると「父上達公認なら、遠慮も手加減もなく思いっきりできるね」と、お養父様そっくりないい笑顔で応援してくれた。
休憩が終わるといよいよ三種目目の魔物との対峙となった。
私達は最後なので、順番が来るのを待つ。
先ず指名されたのは、ラグナル様、ティナお姉様、フィリップ様の三人で、ティナお姉様は個人戦を見ているので知っているけれど、ラグナル様が魔物と対峙するなんて想像できない。
フィリップ様は魔法がお得意だというのは知っているけれど、直接見るのは今回が初めての事。
練習場も学年が離れているので姿を見かけなかったし、交流会では生徒会の先輩方の事がより知ることが出来て楽しい。
順番は現在の成績順なので、現在一位が風紀部、二位が生徒会、三位が魔法研究会で四位が歴史部で、四位の歴史部から試合が始まる。
魔物は全部で三十体で時間制限ありで何体倒せるか⋯⋯。
三十体全ての魔物が一気に放たれることは無く、五体ずつ放たれて、残り一体となると次の五体が放たれる。
三人の連携も大事だし、後々の為に体力をどう使うかが大事になってくる。
歴史部の試合を観る限りでは、最初の十体までは全然強くない魔物でそれ程警戒する事も無さそうだけど、その次からは少し強い魔物が出てきていた。
これって、全員同じ魔物なのかしら。
それとも強さは同じくらいでも別の魔物が出てくることもあるのかな。
同じ魔物だったら対策を取れるという点で私達はかなり有利になるよね。
流石にそれは無いかな。
同じ強さでも個体が違えば特性も変わるので、違うかもしれない。
それは次の魔法研究会の試合を観て確信した。
やはり魔物の種類が違う。
強さで言うと、歴史部の試合の十体までと同じ位の魔物達だった。
私が分析をしていると、レオンお兄様とレグリスも同じく試合を見逃すことなく集中して観察していた。
そして生徒会の順がやってくると、ラグナル様、ティナお姉様とフィリップ様が準備をする。
「君達なら平気だろうけど、無理はせずにね!」
「はい。行ってきます」
「全て殲滅致しますわ」
「足を引っ張らない様に頑張ってきます」
皆様とても落ち着いていらして、特にティナお姉様に関してはとてもやる気に満ちていた。
フィリップ様は控えめでしたけど、その目は言葉とは違い、自信に溢れている。
そして第三試合が始まり、魔物が放たれる。
ティナお姉様は剣を、ラグナル様とフィリップ様は魔法を使うようだった。
最初の十体の殲滅は今のところ一番早い。
というか、ラグナル様ってあんなにお強かったのですね。
どちらかと言うと文系で落ち着いていて、運動とかそちらは苦手とされているような雰囲気なので、そう思っていたのが覆された。
やはり人を見た目で判断してはいけないわ。
順調に倒していき、残り十体となると、それなりに強い魔物が出てきた。
残り十体となると、一体倒すことに一体追加されていくが、お姉様達はものともせずに倒していき、時間内で三十体全てを倒しきった。
三組終わった時点で三十体倒せたのは魔法研究会と生徒会だけど、魔法研究会よりも断然時間は早く、余裕を見せている。
「流石だね。見ていて安心するよ。三人ともお疲れ様」
「ありがとうございます。二人のお陰ですね」
「ラグナル様とフィリップ様がとてもいい動きをされますので、安心して戦えましたわ」
「いえ、クリスティナ嬢が私達の動きをよく見ていらっしゃったので、それに合わせる事が出来て良かったです」
三人がそれぞれを称えるというのはこの生徒会内が良好で本当に良い方達だなと思う。
見ていてとても気持ちがいい。
そして一試合目の第四組の風紀部は同じクラスのイデオン様が出場するようだった。
彼は主に剣を使用するようで、腰に佩いでいた。
そして試合開始の合図で次々と魔物を倒していく。
風紀部も三十体倒すことが出来たけれど、時間は魔法研究会より少し遅かったので、この時点で三種目だけの結果で見れば、一位が生徒会、二位に魔法研究会、三位に風紀部、四位に歴史部の順位だ。
そして次はこの順位の下の順から始まるので、私達の試合は最終となる。
まぁ、結果云々に関わらず、私達の試合は最後になるだろうと、お養父様にも言われていたので驚きはないけれど、最後っていうのがちょっぴり緊張する。
そして二試合目が順に始まっていく。
一試合目より二試合目の方が魔物が強い気がする。
これは気のせいでもなんでもなく、本当に強い魔物が用意されていた。
といっても学園内での事だから、シベリウスで対峙したようなものではないけれど。
刻々と試合が過ぎて行くのを見ていると、刻々と過ぎる時間の中で、嫌な感じが膨れていく感じが拭えない。
試合よりもそちらの方が緊張するが、時間は止まらないので、魔法研究会の試合も終盤に差し掛かったので、レオンお兄様に促されて準備を始める。
と言っても普段使用している剣を腰に帯剣するだけなのだけれどね。
準備は控室で済ませているので、大層な事はしない。
「シア、緊張していないかい?」
「それほどではありませんが⋯⋯」
「まだ、緊張よりも嫌な気配がする?」
「はい」
「今の所は不穏な動きも、試合を妨害されている事も無いけれど⋯⋯、シアが感じている事だから気になるね。父上達も周囲に警戒はしているようだけど」
レオンお兄様とお話をしていると、マティお兄様が近づいてきた。
「シア、無理はしないようにね。危険を感じたらレオンの側に行きなさい。レオンはシアを守るように」
「勿論です」
「レオンお兄様、もし何かあったとしても、私を守るのに無理だけはしないでくださいね」
「シアに心配かけない様に努力はするよ」
マティお兄様にも心配されつつも、魔法研究会の試合が終わり、今年の交流会最終試合になる私達の順となったので、会長から言葉が掛けられる
「今回の最終試合は異例の事とは言え、今年の交流会の最終試合。三人共魔物の襲来に立ち向かっているとはいえ、怪我には気を付けて」
「はい。行ってまいります」
「アリシア嬢とレグリス君も怪我無く思いっきりやってくるといい」
「はい」
「容赦するつもりはないです」
レグリスったらやる気が有り余り過ぎじゃないかしら。
やる気が先行して失敗しないかちょっと心配になるわ。
だけど私も人の事は言えない。
嫌な感じは徐々に大きくなって消えることは無い。
『姫様、お気を付けください』
『ありがとう。十分に気を付けるわ。結界が張られると言っても、周囲に注意しておいて』
『心得ております』
交流会での試合には彼らが関与することは無いので、周囲に目を向けて貰い、私は私で試合に集中する。
アレーナに上がり、私達三人の準備が整うと、先生から最終確認が行われる。
今回成人していない私達三人なので、先生も少し緊張しているようだった。
だけど、私達の試合を観れば、それも杞憂に終わるわ。
そして魔物を捕えている魔石の準備がされると、周囲に結界が張られ、いよいよ最終試合が始まる。
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