148 嵐の予感
三種目目の始まりは恒例の生徒会の指名から始まる。
今回指名されたのは、必ず指名されると言われていたレグリスが入っていて、表情には出さなかったものの、心の中ではげんなりしていそうなところが少し面白くて笑ってしまいそうになった。
そして残りの三名は、ディオお姉様、クラエスさんとウィルマさんだった。
予想と一人外れたけれど、ほぼ予想通りの人選で、会長は「ほらね」と楽しそうだったのを聞いたレグリスはぼそっと「俺、楽しくない」と呟いていた。
指名された四人は私達の声援を受けながら準備されたアレーナへと向かい準備をする。
一体どのような問題が出るのか楽しみではあるけれど、あの場所で答えるのは中々緊張しそうではある。
レグリスもやはり緊張しているのか、顔が少し硬かったが、ディオお姉様達はそれ程緊張もせずにレグリスを励ましている。
そして始まった第三種目の問題は全部で三十問で一問正解すれば五点。
試合の進み方は先生が問題を出すので、四人の内一人ずつ順番に答えていく。
出題後一分間の内に誰も答えられなかったら、更に一分間四人で相談した後に答えた社交会には2点が入り、それでも答えられなければその問題の点数はない。
一問に付き、答えが複数ある場合、すべて答えれば五点だが、その内答えらなかった答えがあるならその分点数は無い。
最終点数の高い社交会が勝利となる。
全員の準備が整ったところで先生から始まりの挨拶があり、問題が出題されていく。
いかに早く正確に答えられるかなのだけど⋯⋯。
問題が、中々に高難度だったりする。
国内の問題も出るけれど、他国の問題も勿論出題されている。
今、五問まで終わったけれど、どの問題も共通するものがなく、現在の国の王族や元首達の名前から始まり他国の特産品までは出題されてもまぁ分かるでしょう。
だけど、生産量とか去年の取れ高や食品ならそれを使った料理名に宝石類ならどの国地域のどこの鉱山で取れるか、石言葉等一つの問題の中に多くて五つ答えなければならないような問題になっていて、学園で習っている範疇外の問題も出題されているのは流石としか言いようがない。
どれだけ自習しているかも見られているなんてこれは中々難しいと思う。
それが三十問だなんて⋯⋯。
これ、全部答えられる人いるのでしょうか。
そう思っていたら、上級生の方はすらすらと答えていく。
これは聞いているだけでも勉強になるかも。
問題は進んでいき、クラエスさんは淀みなく答えているが、他の三人は苦戦していた。
それでも何とか相談し答えて次の人に繋いでいく。
他の社交会の人達も同じで、偏った知識だけではない事にはちょっと驚いたけれど。
応援している私達といえば、会長の知識力に驚かされている。
今迄の問題に全て答えているのだから、凄いを通り越して怖い。
これにはヴィンスお兄様も嫌なものを見る感じで会長を見ていた。
一度会長の頭の中を覗いてみたいと思ってしまった。
問題も残り二問となり、レグリスが答える番となっていた。
出題された問題はゼフィール国の問題だった。
問題内容は魔国の現在の王の弟妹の名前と何をしているか答える問題だった。
これにはレグリスは淀みなく全て答えて見せた。
まぁレグリスのお母様はレイ様の妹君だし、答えられなかったらきっとベアトリス様にお説教されてしまうよね。
個人戦でもあのような様子だったし。
レグリスの後はクラエスさんが最後の問題に挑戦する番だった。
最終問題は、グランフェルト国内に関する事で、それもつい最近起こった出来事についてだった。
シベリウスとセイデリア、両領で起こった出来事についてだった。
歴史や現在の世界情勢、国々の特色等以外にまさかこの間の事が問題として出題されるとは思わなくて少し驚いた。
内容は魔物の種類に加えて前回に比べて魔物の数の違いや今回取られた対策、そして今回の件で領主一族がどのような働きをしたのかを答えるのだけど、それってこのように出題してもいいのかしら。
そして答えたのは魔物研究会の人達が早かった。
確か王宮に報告義務があるが、それがもう学園でも知れ渡っているの?
「マティお兄様」
「どうしたの?」
「あの最後の問題なのですが⋯⋯」
「あぁ、あれね。流石に事が起こったのは皆知っているし、一般向けに情報を公開している事が今回の問題として出題されたんだろうね」
「なるほど⋯⋯」
「だけど、あのように問題以外に私達の事まで言われるのは⋯⋯あまり愉快ではないよね。不愉快だよ」
確かに、愉快ではないわ。
魔物の種類やそれに対しての対策などは出題してもいいと思うけれど、領主一族が行った対策もまぁいいわ。
だけど、問題以外の私見をこのような公で話すなんて⋯⋯。
「今回の問題を考えたのは誰なんだろうね」
「会長も知らないのですか?」
「知らないね。作成しているのは先生方の筈なんだけど、もしかしたら生徒達があんな風に答えるとは思っていなかったのかもしれないね」
「当事者でもない者達がこのような公の場であのような発言をするとは⋯⋯。レオンとシアも自分から領主一族として参加すると、きちんとその意味を理解して領を守ったというのに。あれを聞いて父上達がどう思うか⋯⋯」
「頭が痛いね。まぁ先生方もまさかあのように自分達の考えを発言するとは思わなかっただろうけどね」
そう、ただ単にどのように対策をして街を守ったか、私達の配置だけを答えたならば良かったのだけれど、彼らは自分達の考えや成人していない私達が戦闘に参加した事への批判ともとれる事を話している。
それぞれ考えがあるのは良いと思うけれど、このような公の場で当事者でもない第三者が口を出す事ではない。
途中で先生が「そこまで!」と待ったをかけたけれど、時既に遅し。
お父様へ視線を向ける口元は笑っているけれど目が笑っていないし、ちらりと視線を動かしていけば侯爵はいい笑顔ね。
お養父様達は⋯⋯あっ、うん、見るんじゃなかったわ。
お養父様達の周囲が凍えているのか、人々が恐怖で固まっている。
更に視線を動かせばセイデリア辺境伯もかなり怒っていらっしゃるわ。
色んな意味で終わったわね⋯⋯。
先生方の顔色も悪いし、全く、どうして分別が持てないのかしら。
波乱の第三種目が終了し、私達の所へ戻ってきたクラエスさん達をねぎらいつつ、かなり機嫌の悪いレグリスを宥め、一日目の結果を待つ。
「あぁ! もう何だよあの連中! 俺達を馬鹿にし過ぎだろう!」
「レグリスの怒りは最もだね。私達も呆れているよ」
「その割にはマティアス様、とても冷静ですよね」
「まぁね。私達が何もしなくても父上達の機嫌が氷点下にまで下がっているからね。セイデリア辺境伯様もかなり怒っていらっしゃるよ」
「分かっています。父上の視線浴びただけで射殺されそうな程失言した生徒達を見ていますから」
殺伐とした雰囲気の中、結果が発表される。
明日の試合に進めるのは六ある社交会中、上位二つの社交会のみ。
「⋯⋯第二位は魔法研究会!」
そう発表されると、魔法研究会の方達は歓声を上げた。
そして次は第一位の発表。
「第一位は、生徒会!」
私は明日の試合に進める事へ安堵した。
第一試合目で負けてしまったから、気になっていたので、ほっとする。
だけど先程の事もあるので、私達は魔法研究会程の喜びは無い。
私達の反応を見て、魔物研究会の人達は理由が分かっているのか分かっていないのか、私達から視線を逸らしていた。
先生方から明日の流れの説明が終わると解散となり、私達は生徒会室へと戻ってきた。
「さて、まずは明日の試合に進めた事、皆に感謝するよ。ありがとう。⋯⋯で、先程の魔物研究会の失言だけど、彼らの事は陛下御臨席だった為、ちょっとどうなるか分からないね。だけど、上級生にも関わらず、殿下を始め、当事者のいるシベリウス家とセイデリア家の四人には申し訳なく思う」
会長はそういうと私達に向けて頭を下げた。
「会長が悪いわけではありませんよ。場所を問わず、公であの様に発言をするなど、学園の恥ですね。この件に関しては、正式に両家から学園に対して抗議が来るでしょう」
「双璧を敵に回す、という事は引いては王家に対しても苦言しているようなものなんだけどね。彼の家柄は何だったかな」
「あの者はポールソン子爵家の次男だですよ。クラスは五年のBクラスです。分かっていて仰っていますね、殿下」
「クラスや学年までは一々把握していない」
やっぱり会長のその能力は何なのでしょう。
全生徒把握しているとか言わないでしょうね。
けど、お兄様の側近だけあって、有能には変わりない。
私達が先程の話をしていると、ハセリウス先生が珍しく顔を顰めつつ生徒会室に入ってきた。
「先生、如何でしたか?」
「全く、あの馬鹿者は考えなしに発言したようだ。先程陛下より今回の件は学園の交流会での出来事で、大勢の観衆がいる中だったので、学園長の裁可に任せる、とのお言葉だ。ただ、双璧の当主方がかなりお怒りでな。まぁ当然なんだが、学園があのば⋯⋯いや、あの者にそれ相応の対応をしなければ今後一切学生の教育に関して何の協力もしないと、そして学生の教育水準が落ちている事への改善を求めている」
お養父様達の要求は当たり前の事なのだけど、お養父様達からしたらかなり甘いですわね。
もっと違う対応をされると思っていたのだけれど⋯⋯。
「あぁ、後、この手紙を両家の当主方より預かってきたので、シベリウス兄妹とレグリスはよく読んでおきなさい」
「はい。ありがとうございます」
この件は学園で対処するなら、私達が口を出す事ではない。
会長からは明日が交流会の最終日だから、最後まで楽しもうと言葉をかけ、今日は解散となった。
だが、私達は少し教室を借り、マティお兄様達とお養父様からのお手紙を読む。
手紙の内容は、予想通りあの件だ。
「⋯⋯あのポールソンの次男は善意で発言したみたいだね。ただ、私達にとってはそうではないけど」
「どういう事ですか?」
「危険な魔物達が襲ってくるような場所に成人前の子供を前面に出すのは命を危険に晒すという事、未来の守護者達がそこで命を落とすようなことになったらと思うと残念だと思うからの発言だったと。言っている事は分かるけど、それは両家以外の一般論だという事。うちの領やセイデリアではいつ魔物が襲来するか分からないし、普段から討伐に参加しているのでその一般論は当てはまらない。そもそも冒険者ギルドに所属している者達の子供達も希望する者達は小さい頃から早くに訓練を受けて親に付いて討伐に参加しているのだから、あれの発言は現場を知らない温室育ちの言葉に過ぎないんだよ」
マティお兄様のお言葉は結構辛辣で容赦がなかった。
まぁ、確かにその通りではあるのだけれどね。
学園は一体どのような対処をするのだろうか。
「この件に関しては私達には関与しないようにとの念を押してきているので、私達は気にせず明日の交流会最終日を楽しもうか」
「はい、兄上」
「レグリスの方はどうだった?」
「記載している内容は同じような内容ですね。同じく俺達にはこの件に関して何も発言しないようにとの事です」
「ではこの件は終わりだね。さて、寮に帰ろうか。シア、寮まで送っていくよ」
「ありがとうございます」
昼間の件があるので、マティお兄様達は皆で私を女子寮まで送ってくれて、私が寮内に入ったのを見届けてから男子寮へと戻っていった。
寮内に入ると、ティナお姉様が待っていらっしゃてちょっとびっくりした。
「おかえりなさい」
「ただいま帰りました。どうされたのですか?」
「マティアス様達が送ってくださると分かってはいましたが、心配で待っていたのよ」
「ありがとうございます」
「それで、皆で夕食を頂く話をしていたのだけれど、シアも一緒にどうかしら?」
「お誘いいただきありがとうございます。勿論ご一緒させていただきますわ」
「では、また後でね」
ティナお姉様にお部屋の前まで送っていただき、部屋に入るとモニカが出迎えてくれた。
今日は楽しかったけれど、色んな事があって疲れてしまった。
「お疲れですね」
「少し⋯⋯」
「何かあったのですか?」
お茶を飲みながら今日の出来事をモニカに話をしたら、とても心配されてしまった。
結局あれ以来何事も無いのよね。
一体何がしたかったのか。
考えたところで分からないのだけれどね。
「シア様、本当にお気を付けくださいね」
「分かっているわ。寮までマティお兄様達に送っていただいたし、一人になることは無いから」
「明日もですよ」
「モニカ、心配しすぎよ」
「シア様は危険な目に合う確率が高いのですよ。心配し過ぎということはありません」
モニカは此処で待っている身だから、外で危険な目にあっても知らされる事ないものね。
一人にはならないし、いつも危険な事に首を突っ込んでるわけではないけれど、危険な事には近づかないと約束をして、ティナお姉様と約束があるので夕食を食べに食堂へと向かった。
食堂に着くとティナお姉様を始め、ルイスお姉様にディオお姉様、ウィルマさんが揃っていた。
「待っていたわ」
「遅くなり申し訳ありません」
「違うのよ。私達は貴女より少し早く集まっていただけだから」
お姉様達は先に集まって何か話し合っていたみたい。
私が揃ったところで夕食を頂きながら、今日は皆で集まった経緯が話される。
それは昼間の一件だった。
お姉様達も警戒しているようで、私が気を逸らしてしまったことは流石ティナお姉様とそれにディオお姉様も気付いていたようで、明日の交流会がどのような種目か分からないけれど、気を付けようという事だった。
毎年何かしらあるけれど、流石に試合中に今回みたいなことが起こることは無かったらしい。
と、言う事はやっぱり私が狙い⋯⋯?
闇の者の仕業だとお養父様は仰っていたし、他に何か分かったことがあるのかしら。
というか、きちんと教えて頂けるのかしら。
私が考えに耽っていると、明日の試合の事に話が変わっていた。
「そういえば、明日の試合は生徒会、魔法研究会と、後はどこなのでしょう?」
「後の二つは、歴史部と風紀部ですわ」
「今年は風紀部も残ったのですね」
「昨年は違ったのですか?」
「昨年は生徒会だけでなく風紀部も二日目には進めなかったのよ」
「そうなのですか⁉」
「意外?」
「はい。少し驚きました」
「昨年は当たりが悪かったのよ。ほら、私達生徒会は指名されて出場するでしょう? 昨年は色々調べられて私達が不得意の分野で当てられるものだから⋯⋯言い訳にしかならないけれどね」
そうディオお姉様は悔しそうに零していた。
私だったら正々堂々と試合に臨みたいと思うけれどね。
まぁ考え方なんて人其々だし。
明日の試合予想もしつつ、何が起こるか分からないから皆で気を付けましょうと、会長とクラエスさんの最後の交流会を優勝で終わらせたいと一致団結し、何よりも何事もなく交流会が終えられるようにしましょうと思いをひとつにした。
部屋へ戻り先に就寝の準備をし、今日の事を改めて考えていた。
考えても答えは出ないのだけど、目的が分からないってね。
『姫様、陛下よりお手紙を預かっております』
『お父様から?』
何かしら⋯⋯今日の事で何か教えていただけるのかな。
手紙を読んでみると、今日の交流会の件だった。
先ずは私の二試合目の魔石割について、お父様からは誉め言葉が綴られていたのを読んで、とても嬉しくなった。
その次に、一試合目の件についてだ。
お養父様からも教えて頂いた通り、私に殺気を放ったのは闇の者で間違いがないとの事。
目的までは分からないが、明日も何かしら仕掛けてくるだろうから警戒を怠らない様にとの注意を促す言葉が添えられていた。
お父様のお考えでは学園に対してではなく、この間の事から私に対してか、ただそれにしては大胆なやり方に疑問を覚えると、他の目的があって私が狙われているように仕向けたのか⋯⋯。
『皆はどう思う?』
『これは私の考えですが、今はただ姫様を見定めているだけのような気がします』
『どういう事?』
『あの者達は魔力の多い人々を狙っているのは事実でそれは階級関係なくです。ですが、今この国では姫様が公に姿を現してはいません。そこに関心を持たれているのかもしれません。ラヴィラの件もありますので、仮にラヴィラと闇の者が深い関係にあったとして、姫様に対して婚約を打診する当たり、闇の者にとっても興味が湧いていたのではないかと』
『全く嬉しくないわね』
『左様ですね。ですが、アリシア様が姫様だと一度は皆考えるでしょう。それは事実ではありますが周囲にそのように悟らせてはいませんので、学生達はそう思わないでしょう。ただ、あの者達はそうではありません』
『そうね。あの者達にとってはきっと色んな事を疑ってかかるでしょうし、そう言った者達は変に鼻が利くのよね。だからと言って学園であのように目立つ行動をするかしら?』
『それは、学園の今までの交流会の実情を調べたのではないかと。度々交流会を邪魔している連中がいるようですが、彼らの真似をしているだけかと。そうする事で姫様から学園に対しての嫌がらせだと思わせることが出来ますからね』
嬉しくないわ、それ。
けど問題はそこではない。
今回のように私達の、生活の身近に闇の者がそこまで近づいている事が由々しき問題で、私だけでなく他の皆も気をつけなければならない。
私には皆がいるけれど、貴族といえど影がついているわけではない。
休日ともなれば護衛はいてるでしょうけれど、普段は自身の身は自身で守らなければならないのが普通の事だから。
狙いが私で、私のせいで周りの皆を巻き込んでしまったら申し訳なく思う。
『姫様? 何か気になることでも?』
『何でもないわ。この手紙、お父様に届けてくれる?』
『お預かり致します』
私はお父様へお手紙を認めて届けてもらう。
明日、どうなるか分からないけれど、早めに休んで体調は整えて、今は明日の交流会に集中しよう。
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次回は来週二十六日に更新いたしますので、次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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