147 第二試合
私の試合の一件から時間が経ち、交流会一種目目が終了した。
勝利したのは魔物研究会だった。
そして続けて二種目目に移る。
二種目目は魔石割でこれは魔力を使って魔石を割るので、魔力操作をいかに上手く行えるかで決まるので、名前だけで見ると有利なのは魔法研究会だと思われる。
そして今回生徒会の出場者を指名できるのは、一種目目で勝利した魔法研究会は三名指名するのだけれど、その指名されたのは、ヴィンスお兄様、レオンお兄様とまたもや私だった。
断る事が出来たならお断りたいところだけれど、指名されたからには出るしかない。
というか、ヴィンスお兄様とレオンお兄様も魔法がお得意でいらっしゃるのに指名するなんて、魔法研究会の方達はきちんと試合をしたいと思っているのか、それともただお兄様達の魔法を扱うところを見たいだけなのだろうか。
「シアはまた指名されたね」
「何故指名されたかよく分かりませんわ」
「それは、今回指名するのが魔法研究会だからだよ。彼らは魔法操作が得意なアリシア嬢の魔法を間近くで見たいのが本音だろうね」
「それを聞きますと、魔法師団の方を思い出すのでご遠慮したいところですわ」
「そうだろうけど、無理だね」
会長は何故か楽しげだ。
だけど、ヴィンスお兄様の表情は笑顔だけどら何か考えておられるご様子。
やはり先程の件が引っかかっているのでしょう。
それはマティお兄様や他の方々も一緒のようで、心配そうに私を見ているけれど、会長も言ったように指名されてしまったので、やるしかない。
今度は負けるつもりはないわ。
そして魔石割の第一試合目が始まる。
三人の内、先ず指名されたのはレオンお兄様でとても気軽に「勝ってくるよ」と楽しそうにアレーナへと向かっていった。
「レオナルド君は楽しそうだね」
「レオンは魔法に関しては本当に楽しそうに駆使しますからね」
「髪色は別として外見は王姉殿下に似てとても綺麗で優しい見た目で温和な性格だから勘違いしやすいが、相反して彼は過激な一面があるな」
「ラグナル様の仰る通りですね。レオナルド様は笑顔で人を攻撃できる方ですもの」
皆様言いたい放題で、だけどやっぱりレオンお兄様もお養父様の血を濃く継いでいるのだとよく分かる。
改めてお兄様に視線を向けると、第一試合目が始まろうとしていた。
お兄様は両手首に魔石を付けたようで、その大きさは結構小さ目で大体直径3センチ程の魔石だった。
あれを狙うのは、本当に魔法操作が上手くないと難しいかも。
そんな中でもお兄様は気負う事なく始まりの合図を待っていた。
そして開始の合図と同時に、其々が狙ったようにレオンお兄様を狙って魔法を放っていた!
だけど、お兄様は慌てる事も無く全ての攻撃を防いでいた。
それも普通に防ぐことをせずに、煙幕のように辺りには視線を遮るような靄が掛かったと思ったら、辺りでパリンッっと小気味いい音があちこちで鳴り響いた。
その音が聞こえなくなったら辺りの靄はきれいさっぱり無くなっていて、アレーナ上の人達の姿が鮮明になった。
見えてきたのは座り込んでる人や立っているけど呆然としている人、悔しがっている人がいたが、お兄様は一人涼しいお顔で立っていらした。
他の方々の魔石は二つとも割れてしまっているようで、一瞬にしてお兄様の勝利が決まっていた。
「流石だね! 見ていてスカッとするよ」
「レオンの後に出るのは嫌になるよ」
「殿下、そのような謙遜はしないでください」
「そうですよ。それにレオナルド様の後に指名されるのが殿下かアリシア嬢か、まだ分かりませんよ」
会長は変わらず楽しそうに感想を述べたと思ったら、ヴィンスお兄様は一言ぽつりと零した。
そういえば、お兄様が魔法を使われるのを見るのは初めてかも⋯⋯。
そう思うととても嬉しくて顔が綻びそうになったけれど、いけないと思って直ぐに引き締めた。
「レオナルド君、お疲れ様。流石だね」
「ありがとうございます、会長」
「レオンお兄様、一瞬で決めるなんて凄いですわ!」
「シアに良いとこ見せたかったからね」
次はお兄様か私のどちらが指名されるのだろうか⋯⋯。
次の試合を、指名されるのを待っていると、名前を呼ばれたのはヴィンスお兄様だった。
「さて、レオンに負けないようささっと終わらせてこよう」
「殿下、頑張ってください!」
「指名するのが魔法研究会で良かったです、本当に」
「何故でしょうか?」
疑問に思ったレグリスが二年のケヴィン様に質問をしていた。
「あの会に所属している人達は皆魔法に目がないから、勝敗関係なく、魔法の得意な人を間近くで観察したいだけなんだよ」
「なるほど」
やっぱり魔法師団のあの人と同じ匂いがするわ。
話をしていると、ヴィンスお兄様は魔石を両手首につけて準備が整っていた。
初めて見るお兄様の試合に内心の興奮が止まらない。
『姫様、落ち着いてください』
『大いに落ち着いているわ』
『お顔が緩みそうですよ』
その言葉にはっとしてまた引き締める。
けど、すぐに緩みそうになるのを止められない。
『だってお兄様の試合を観るの初めてだし、何より剣をお使いになっているところは見たことあるけど、魔法を使っているお姿を見るのは初めてなんだもの!』
『姫様⋯⋯』
私が興奮気味にアステール達にそう話すと、少し呆れたような声音を出されたけれど、私の事をよく分かってくれているので、これ以上注意される事なく見逃してくれた。
そして試合が始まる。
『アステール』
『はい』
『お兄様の影達も周囲には注視しているだろうけど、皆も気を付けて見ていて。お兄様に何かあってはいけないから』
『畏まりました』
私の時みたいな事が無いように⋯⋯。
そして試合が始まる。
お兄様の人気も本当に凄くて、歓声が鳴り響く。
レオンお兄様の時とは違い、一斉に狙われることはなかったけれど、お兄様は余裕の表情で攻撃を防ぎながら他の方達の動きを確認していたと思ったら、お兄様以外の方達の魔石が一気に割れた⋯⋯。
これには出場者達も何が起こったのか分からず、驚いていた。
『風、かしら?』
『そうです。ヴィンセント殿下は他の者達の魔石の位置を確認し、瞬時に魔石を包むように風魔法を使用し、一気に圧力をかけて割ったようですね』
『お兄様が魔法を使った瞬間が直ぐに分からなかったわ』
レオンお兄様もヴィンスお兄様も本当に凄いわ。
私も見習って、もっと頑張らないと!
というか、このお二人の後に出るの、嫌だわ⋯⋯。
さっきまでと違い気分が下がる。
「シア、次は得意な魔法だし頑張って!」
「殿下とお兄様の後に出るのは、なんだか緊張しますわ」
「シアはシアのやり方でいいのよ」
「それは分かっているのですけど⋯⋯」
レオンお兄様やディオお姉様に励まされていたら、お兄様が戻っていらっしゃった。
「お疲れ様です。流石ですね」
「もう少しさらっと終わらせたかったのだけどね。取り敢えずシアには安心して試合をして欲しいから頑張ったよ」
「殿下、ありがとうございます」
「けど、試合中は気を付けて。危険だと思ったらすぐ引く事、約束してね」
「はい。分かりましたわ」
ヴィンスお兄様とそう約束をして第三試合に臨む。
私はアレーナへと上がると、渡された魔石を両手首に着ける。
魔石はそれ程重くはなく、着けていても気にならない。
腕にしようかとも迷ったけれど、そのまま手首にしよう。
他の皆さんを見てみると、手首だったり腕だったり様々だ。
「準備は整ったな。では、第二種目三試合目、始め!」
先生の号令で試合が始まる。
レオンお兄様の時みたいに真っ先に狙われるかと思ったけれど、特に狙われる事なく逆に警戒をされているようだった。
真っ先に私は自身の魔石周辺に防護魔法をかけておく。
これは特に禁止されていないので問題はない。
――さて、ここからどうしようかしら⋯⋯。
レオンお兄様は周囲に目くらましをし魔石を割り、ヴィンスお兄様は全員の魔石を一気に割って見せた。
同じ事をしても面白くはないし、真似をしたと思われたくもない。
何より今日はお父様が観に来ていらっしゃるので、良いところを見せたいというのもある。
勿論先程不本意にも負けてしまったので、今回負けるつもりもない。
一度深呼吸をして気持ちを整え、魔法を展開する。
あまり色んな事をするのはまたやり過ぎだと言われかねないので、お養父様の養女としてお養父様の得意な魔法と、個人戦での披露したものを応用することにした。
私が魔法を使用し始めたことで他の人達が警戒を強めた。
警戒は私自身に対してなので、皆さんの気を逸らすために私は個人戦で使用した魔法披露をこの場で再現した。
そうする事で私から周囲へと視線が逸れたので、その隙を狙って皆さんの魔石に氷の花を咲かせてから一気にパリンッと割った。
最後はヴィンスお兄様と同じような形になったけれど、過程は違うから同じ、とは言われないわよね。
「そこまで!」
先生の声で試合終了ととなり、この第二種目は私達生徒会の完全勝利となった。
勝てて良かったわ。
私は皆様が待つ所まで戻ると、温かく迎えてくれた。
「おめでとう! いや、凄いのを見せてもらったよ。あれ、個人戦の時の応用だよね?」
「ありがとうございます。会長の仰る通りですわ」
「とても素敵だったわ。流石ね」
「シア、おめでとう! 完全勝利だよ!」
会長を始め皆様に褒めて頂いてとっても嬉しいし、お役に立てて良かったわ。
一種目目では全く役に立たなかったので、少しでも挽回できた事に安心する。
第二試合が終わったところで少し遅いお昼休憩となる。
別会場で行っている組と入れ替わりで休憩をとるといった感じだ。
先ず、王族の方々が観覧席から移動する。
お父様達は学食ではなく、別で設けている場所でお食事をするみたいで、先に移動するのを見送り、そこから私達出場した生徒が移動する。
今日は生徒会全員で一緒にお昼を頂くので、とても新鮮だ。
食堂や臨時の食堂はいっぱいなので、対抗試合に出た社交会の面々は各々の割り当てられた教室で頂くことになっており、私達は生徒会室で昼食をとる。
生徒会室に戻ってくると、既に食事の準備が整えられていた。
後は自分達でお茶を淹れるだけとなっているので、私とレグリスでお茶の準備をして、皆様にお出しする。
そして会長の言葉でお食事が始まると、試合の事で話が盛り上がる。
「さっきの試合は爽快だったね。レオナルド君から始まりアリシア嬢まで魔石を割られる事なく危なげなく勝利するなんて!」
「会長の言う通りですね。この人選を指名した魔法研究会には感謝しないといけませんね」
「まぁ、あの会は三人の魔法が間近くで見れたので、今頃は大いに盛り上がっていると思いますよ」
「確かに、ルイス嬢の言う通りだろうな」
会長を始め、クラエスさん、ルイスお姉様にラグナル様と盛り上がっていた。
私はと言うと、話を聞きながらも先程の一種目、私の試合の事でルアノーヴァからの報告を受けていた。
『姫様、遅くなり申し訳ありません』
『大丈夫よ。何かわかった?』
『姫様に殺気を放った者を追いましたが、転移で消えました。痕跡までも追跡いたしましたが、錯乱の魔法が掛けられていたため、何処の手の者か探すことが叶わずで、申し訳ございません』
『そう。会長達の見解では、学園に対しての嫌がらせだと思っているようだけれど、そのあたりはどう見る?』
『仮に学園に対しての嫌がらせにしては手が込んでいるかと⋯⋯』
『そうよね。やはり狙いは私なのかしら』
『この件に関しては陛下も動かれています。王家の影が調査に動いておりますので、姫様の元に戻り、周囲に警戒せよと、陛下からの言葉で戻ってまいりました』
『目的が分からないから、こちらからは何も出来ないわね』
一体何がしたいのかしら。
私を狙うにしても事故を装う今回のやり方はかなりお粗末だと思うし、国内一の学園で、しかも王族がいらっしゃって警護も十分で、そんな中で私に殺気を放つなんて絶対バレると、怪しいから警戒してくださいと言っているようなものだと思うのだけど。
何にせよ、今の状態では何も分からないから考えても仕方ないかしら。
「シア、さっきのって初日の魔法技より手が込んでなかった?」
考えに耽っていると、レオンお兄様から話しかけられた。
「そうですわね。レオンお兄様と殿下の試合を観て、同じような事をするのもどうかと思いましたので、それなら個人戦で披露したのを少し変えてみましたの」
「シアの個人戦を見ていない人にとっては嬉しかったと思うよ」
「そうなのですか?」
「私は間近くで見る事が出来て嬉しかったわよ。何か参考にしたものがあるのかしら?」
ティナお姉様にそう聞かれたので、私が参考にしたのはお養父様だと答えた。
お養父様が得意としている魔法だし、二つ名にちなんで披露したのだけれど、よくよく考えたらお養父様に何も話していないわ⋯⋯。
気付かれているかしら。
もしかしたらお養母様は気付いていらっしゃるかもしれない。
「シア、それは父上のあれにちなんだの?」
「そうですわ。勝手に参考にしたのですけど、何も言われなかったので大丈夫でしょうか⋯⋯」
「父上は気付いていらっしゃるだろうね。大丈夫だよ。絶対喜んでるから」
「それを聞いて安心いたしました」
怒られることは無いとは思うけど、やっぱり勝手にしたら気分良くないかもしれないもの。
マティお兄様がそういうなら大丈夫よね。
「さて、次の試合は誰が指名されるかな」
「見た目で言えば、レグリスが指名されるでしょうね」
「なんで俺⁉」
「いかに生徒会で次席と言えど、外見は勉強が苦手そうに見えるもの。それに一年だし」
「絶対に指名されないのは会長よね」
「最後の対抗試合なんだから指名してくれてもいいんだけどね」
「博識な会長には次の試合は全員一致で却下されますよ」
確かに、次の種目は広範囲も広範囲過ぎる問題だしね。
博識な会長が出たら会長の独壇場になってしまいそうよね。
それはそれで見てみたい気もしますけど。
「では、誰が指名されるか、当ててみる? 全員で」
「一人はレグリスで決定だと思いますわ」
「それ以外は?」
「そうですわね⋯⋯」
そうやって三種目目で誰が指名されるかを多数決で予測し、私達の中ではレグリス、リアムさん、ディオお姉様にクラエスさんの四人かな、となった。
流石に一人も上級生の指名が無いのは、という事で、会長は遠慮したいけど副会長ならば、と言ったところじゃないかと言うのが理由だ。
その予想が何処まで当たるかを楽しみに、昼食も終わったことだし、早めに会場へ移動しようという事で、生徒会室を後にした。
移動中、前方に王族の方々がいらっしゃるようで遠巻きにしている人だかりが見えた。
そこにはお父様達だけではなく、お養父様やお養母様も一緒のようだ。
私達も会場に向かっているので、人だかりの方へと近づくと、お養父様が此方に気付いてお父様に断りをいれてこちらにやってきたので、私達はお養父様に挨拶をする。
「少し娘をお借りしてもよろしいかな」
「勿論です。時間内にお戻りいただれば構いません」
そう会長と言葉を交わしたと思ったら、私に付いて来るように言われた。
何かしら⋯⋯。
向かった先は木陰になっているベンチに座るように言われたのでそこに落ち着くと、先程の件を気にしている風だった。
「あれから異変はないかい?」
「ありませんわ」
「ならいいんだが⋯⋯」
「何か分かったのですか?」
「あぁ、狙いがまだ分からないんだけどね。ただ、闇の者が手を出してきた可能性が高くなった」
「⋯⋯このように大勢集まっている今日に、ですか? そのように大胆な行動に出るなんて」
「奴らの行動など、分かりたくはないがな。ただ、今日みたいな日だからこそ、かもしれないな」
「それは⋯⋯逆に私達に警戒を促しているようなものではないでしょうか?」
意味が分からないわ。
一体何がしたいのかしら。
狙いは、学生だと思わせて⋯⋯。
「もしかして、狙いはお、いえ、陛下や殿下でしょうか?」
「その可能性は否定できない。だが、今日の陛下の予定は三種目目までご臨席するのは周知されているので、それを急に変更するわけにもいかない。陛下には近衛と影、ましてエリオットも側にいるからあちらは平気だろうが、問題はヴィンセント殿下とシアだよ」
「王族が狙いなら、今の私は大丈夫、とまでは言いませんが大丈夫ではないでしょうか」
「いや、この間の件もあるからシアも対象に入っていて間違いないだろう。だから今まで以上に警戒をしておいて欲しい」
「それは、私よりも殿下に仰るべきでは?」
「殿下には既に影からも報告を受けているだろう」
「お養父様? 何故私には直接お声を掛けたのですか?」
「怪しまれない為だよ。私が直接声を掛けることで、シアがシベリウスの者だと、私が大切にしている娘だと思うだろう」
あっ、お養父様はいつの間にか私達の周囲に防音魔法をかけていたのね。
全く気付かなかったわ。
そこへお養母様もこちらにいらっしゃった。
「シア、先程の試合は素晴らしかったわね」
「ありがとうございます、お養母様」
「お話は終わったかしら?」
「あぁ、粗方終わったよ」
「気を付けるのよ」
「分かっていますわ」
「そろそろ会場に送っていくよ。時間に遅れるのは良くないからね」
「ありがとうございます、お養父様」
お話が終わり、お養父様達に会場まで送っていただく。
その間、試合を観た感想を話して頂いたり、そしてお養母様にはやはりバレていたようで、あの氷の花はお養父様の二つ名からだと言われると、何となく恥ずかしくなった。
お養父様は嬉しそうにしていたけれどね。
そこはマティお兄様の仰ったとおりだった。
会場の、生徒会の控室まで送っていただき、去り際にも心配そうに「気を付けてと」と一言言って観覧席の方へと向かっていった。
控室に入ると、皆様に温かく迎えてくださり、全員揃ったところで採算試合に向けて会場内へと向かった。
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