141 二日目の試合
交流会二日目の今日は五、六年の剣技、魔法技、討論会、乗馬、そして三年から五年のダンスに魔道具の披露が行われる。
マティお兄様とティナお姉様はお二人共剣技に出場されるので、観に行きたいのだけれど、午前中は生徒会の役割があるのでお昼からの準々決勝より観戦出来るので楽しみだ。
マティお兄様は優勝候補だけど、ティナお姉様もお強くていつも三位以内に入ってると話を聞いたので、お二人の勇姿を見ることがとても楽しみで今からそわそわしている。
昼からはお養父様と侯爵、そしてセイデリア辺境伯も一緒に観戦予定になっている。
というのも、レグリスのお兄様であるマルクス様が出場するからだ。
因みに、一位から三位は大体いつもこの三人で争っているみたいで、準々決勝からの盛り上がりが凄いとディオお姉様が仰っていた。
くじでトーナメントを決めているけれど、いつも良い具合にこの三人がバラけているので昼からの盛り上がり、特に令嬢方の黄色い歓声が特に凄いのだという。
昼からを楽しみに私とレグリス、ディオお姉様とウィルマさんと一緒に学園の正面ホールに待機している。
ご来場頂いた保護者の方々への会場の案内が主で、各会場とここに魔道具で進行のやり取りをし、保護者の方へ今どのような状況なのかを的確に伝えることが出来るので、お子様方の結果、もしくは途中経過をお伝えすることが出来る。
後はもし何かあった時はここで情報を統括し、判断する為でもある。
あちこちに情報が錯綜すると解決できることも遅くなり、より悪い状況にしない為に全体の情報は一か所で取りまとめている。
勿論ここには私達だけでなく、先生方もいらっしゃるので安心だ。
安心といえど、先生方に助けていただくのは私達では対応出来ないことに対してのみで、これらも一重に私達の能力向上に繋がるお勉強の一環とし、私達生徒が主になって対応している為に、先生方は寛いで⋯⋯基、見守ってくださっている。
私はディオお姉様達と共に競技が始まる一時間半前からここで待機、準備を始める。
保護者の方は一時間前からご来場することが出来、先日来ている方達は会場が分かっているのでそのまま向かうが、今日初めて来られる方には説明が必要で、私達の主な仕事はそういった方々をご案内する。
そして時間の少し前には既に保護者の方々が続々とこちらに向かってきていた。
場所が分かっている方はそちらへと向かい、今日初めて来られる方は此処で一旦足を止め、先ずは丁寧な挨拶をする。
その後どちらへ向かいたいかを確認、道順を説明をしたうえで、途中途中に会場への案内板があるので安心をしていただけるよう伝える。
貴族の方々が多いけれど、平民の方もいらっしゃり、少し気後れしている方も見受けられるが、私達は階級関係なく同じように丁寧な案内を心掛ける。
そうして半時間が経った頃、見知った方々が此方にいらっしゃった。
昨日もいらっしゃっていたし、場所をご存じだと思うのだけれど、何故か私達の所に真っすぐに来られた。
「おはよう、シア」
「おはようございます。お養父様。どうされましたか?」
「シアの姿が見えたから頑張っているか見に来たんだよ」
嬉しいけれど、だけどちょっと恥ずかしいです、お養父様。
これはまさしく“参観日”に子供が頑張っている姿を見に来る親の図だもの。
後ろから先生達の生暖かい視線がとても気になる⋯⋯。
私がそう思っていると、ディオお姉様がお養父様に挨拶をしていた。
「ご無沙汰しておりますわ。シベリウス辺境伯様」
「久しぶりだね。ディオーナ嬢。いつもシアと仲良くしてくれてありがとう」
「私もシアと同じ生徒会でご一緒出来て嬉しいのですわ」
お養父様とディオお姉様がそう言葉を交わしている反対側では、レグリスが騒いでいた。
「何しに来たんだよ!」
「何って、お前がきちんとしているか確認しに来たんだ。他の方々に迷惑をかけていないか?」
「はぁ⁉ 俺が迷惑かけるわけないだろう」
レグリスったら、照れているのか耳元が真っ赤になっていた。
私達は微笑まし気にそのやり取りを見ていたけれど、まだこちらに来られる他の保護者の方もいらっしゃったので「また後で」と一言残し、お養父様とセイデリア辺境伯は少し離れたところで待っていたベリセリウス侯爵達と合流してマティお兄様が出場する会場へと向かっていった。
そして各競技が始まる間近にもなると一旦落ち着いたので私達も休憩を取りながらも時々こちらに会場場所を聞きに来る方々への対応もしつつ、話に花を咲かせていた。
「ようやく一段落ですね」
「そうね。この一時間はとても大変だったわね。シアは初めての交流会はどうかしら?」
「初日に魔法披露が終わってしまったので、少しほっとしています。ですが、これからお兄様達の試合が観れるので、それはとても楽しみですわ」
「レグリスは?」
「んー、拍子抜け。もうちょっと手応えあるかと思ったけど」
「一、二年のうちはそうかもしれないわね。それに今の一、二年には騎士より文官よりの家系の子息が多いもの」
授業も一、二年は基礎から始まるので、剣を扱える人にとっては物足りないものがある。
三年から選択で選べるので、基本以上の、もっと厳しい訓練となるが、それまでの一年と少しは人に教える事も学びつつ、授業を受ける。
「ディオ様は明日だっけ?」
「そうよ。シアは誰を応援するの?」
「明日はレオンお兄様を応援しますわ」
「シアがレオン様の試合を観戦しに行くとなると、殿下が拗そうですわね」
私だってヴィンスお兄様を応援しに行きたいのです!
だけど、今回に関してはお父様からヴィンスお兄様の応援にはいかないようにと念を押されているので我慢するしかない。
同じ日にレオンお兄様の試合があるので、レオンお兄様の応援に行かず、ヴィンスお兄様の応援に行くのは目立つからだ。
ヴィンスお兄様も承知しているけれど、残念がっていた。
同じくらい私も残念なのです。
ただ、レオンお兄様の試合次第で早くに終われば少し見に行けないかなぁと思ったりしている。
そんな甘い思いを心の中で留めつつ、今日の話題はやはりマティお兄様、ティナお姉様、そしてレグリスのお兄様であるマルクス様のお三方。
この三人の中で一番人気がマティお兄様で優勝候補。
ティナお姉様とマルクス様は二位三位を争っていて、その実力は拮抗しているという。
ただ、お互い打倒はマティお兄様のようで、どちらが先にお兄様に勝てるかを競っているのだとか。
だからいつも準々決勝からの盛り上がりが凄くて席を確保するのも大変らしい。
ディオお姉様とウィルマさんの話を聞いて、ますますお昼からの試合が楽しみだ。
そして気づいたら交代の時間になり、次此処で待機するラグナル様達がいらっしゃったので、私達午前中組はそれぞれ昼食に向かった。
私とレグリスはお養父様達と共に昼食を頂くので、レグリスと待ち合わせをしている臨時の大食堂へ向かうと、すでにお養父様達が待っていた。
「皆様、遅くなり申し訳ありません」
「かまわないよ。午前中の試合が思ったより早くに終わったんだ」
お養父様達と合流したところで私達は昼食を頂く。
予めメニューを注文していたようで、私達は直ぐに昼食を頂くことが出来た、と言うのも、ここは臨時の大食堂で、保護者の方々や生徒達で人数もとても多いのだ。
少々雑多な感じになってしまうが、そもそも気にする貴族たちは此処には来ない。
気にする貴族たちは学園内の学生達が利用する方へ行っているようだ。
この面々はそう言ったのを気にしている場合ではない環境に置かれる事も度々あるので、全く気にする様子もなく、私は勿論、レグリスもシャロン様も気にする素振りはない。
シャロン様は午前中から侯爵達と共に試合を観戦していたようで、食事中に試合の様子を教えてくれた。
早い話、上位候補者の三名が一試合一試合をささっと終わらせていったので、早くに終わったようだった。
昼食を早々に食べ終わった後は会場へ向かい席を確保しに向かう。
会場に着くともう既に結構な人数が観覧席にいて、試合への期待が高いのがよく分かる。
それでも丁度一番前の席が数席とその後ろが空いていたのてで、私達はニ列で座る事が出来た。
前には背の低い私達が、後ろには背の高いお養父様達が座った。
まだ始まるまで時間はたっぷりとあるのだけれど、続々と人が集まってきている。
そこには学園の生徒達、特に女性陣が多く見受けられ、話し声がここまで届いてくる。
話の内容は上位で争うお兄様達の事で誰が一番格好いいとか誰が素敵だとかそう言った事に花を咲かせていた。
それを聞いたレグリスは、うんざりした表情をしていた。
「マティアス様達大変だなぁ」
「他人事のように話していますが、レグリス様もきっとそうなります」
「えぇ! 面倒臭い⋯⋯」
「マティお兄様もそうですけど、レグリスは女性陣に人気があってもすげなくあしらいそうよね」
「そうですわね。そしてそこがいいと言う人達が出てきてより人気者になりそうですわ」
「何だそれ⁉」
レグリスは嫌がっているけれど、既に人気が出ている分、もう手遅れだと思う。
それにしても周囲の女性達の盛り上がりときたら!
レグリスは若干煩そうに顔を顰めていて「これ試合始まったらどうなるんだ?」ってぼやいていた。
言いたいことはとてもよく分かる。
本当に、試合が始まったらもっと歓声が凄い事になりそうよね。
「貴方達、これぐらいでうんざりしていてどうするの?」
「お養母様?」
「どういう事でしょうか?」
「私達が学生の頃、もっと酷かったのよ」
「オリー様の仰る通りですよ」
「お母様まで。当時何かあったのですか?」
「令嬢達の行き過ぎた観戦のお陰で試合が中断したこともあるのよ。私達の年代の女性達は今よりもっと力が有り余っていたわね」
「本当に。今の子達は少々大人しすぎるわ」
お養母様のお話を聞いていたお養父様とセイデリア辺境伯は当時を思い出してか、何とも言えない表情をされていた。
一人侯爵だけは何事も無いかのようにセシーリア様に同意していたけれど。
お養母様の時って一体どんなに荒れていたのかしらね。
荒れるっていうのは違うかもしれないけれど、とても激しい感じだった、ということかしら。
そう話をしていると、午後からの準々決勝がそろそろ始まるようで、審判や王宮の騎士団数名が正面の席に着いていた。
「確か準々決勝の初戦はティナでしたわね」
「そうだよ。今回あの子がどこまでいけるか⋯⋯」
「お姉様は準決勝でマティアス様に負けて三位決定戦で勝って、最終三位です」
「シャロン、もう少しティナを応援してあげたらどうかしら」
「事実ですわ」
シャロン様、容赦ない評価ですわね。
セシーリア様が呆れていらっしゃるわ。
侯爵は特に気にする風でもなく、楽しみだという風に会場を見ている。
「お姉様への評価が容赦ないですわね」
「マルクスは今回決勝でしか当たらないから、あいつにとってはそれまでの試合は準備運動といった感じだな」
「マティとクリスティナ嬢との準決勝がまずは見どころだな」
何だろう、その他当たる方々のご両親が聞けば侮られていると怒られても仕方がないような会話で、お養父様達の事を何も知らないって事は無いだろうけど、知っていても知らなくても周囲から見ればただの親バカ集団だと思われても仕方がないのうな内容だ。
実際は主要な辺境を守っている”双璧”の二家と王国一の魔法使いと称されている国王の側近が揃っていて、そんな人達の評価だから、嘘は言っていないし、厳しい評価だと思う。
顔ぶれで言えば、各夫人方も元王女で現国王の姉、セイデリア辺境伯夫人はゼフィール国現国王の末の妹君、セシーリア様は侯爵に次ぐ魔法の使い手。
これだけ聞くととても豪華な顔触れよね。
というかよく此れだけの面々が揃ったことにも驚くわ。
「出てきたな」
「あら? ティナったら何時もにましてやる気に満ちているわ」
「そうみたいだね。ティナも無様な所は見せられないだろうからね」
侯爵はそう笑顔で話すけれど、それって⋯⋯私に、ですよね?
けどよくよく考えたらティナお姉様の真剣な試合って初めて見るわ。
いつもは練習でしか見たことが無いから、これはいい機会ね。
それにしても⋯⋯。
「お姉様への応援がこんなに沢山いらっしゃるなんて驚きです」
「本当ですわね。男女関係なく、ですわね」
「クリスティナ様はモテモテだよな」
「レグリス、他に言い方ないのかしら」
「だってその通りだろう?」
確かにそうなのだけれどね、だからと言ってモテモテって言い方は⋯⋯まぁいいわ。
今は試合を見守る事が大事よ。
お喋りはここまで、紹介が終わって試合が始まる。
相手は五学年の方で男性で、力では流石に負けるけど、お姉様と比べて気迫も実力も全然違った。
ものの数分で試合が終わってしまった。
「悪くないね」
「ふふっ。ティナも腕を上げましたわね。それにまだまだ伸びしろがあるわ。一度手合わせも兼ねて教えてあげたいくらいだわ」
「まぁ。ベティ様にそう言って頂けるなんて、ティナも喜びますわ」
ベティ様ことベアトリス様はレイ様の妹君でかなりの剣の使い手なのだそうで、レグリスは母に全く歯が立たないと、それは悔しそうに話していた。
話をしていると優勝候補の一人である、マティお兄様が姿を現した途端、先程よりも黄色い歓声が大きく上がった。
これは、中々耳に響いて痛いくらいだわ。
それはシャロン様やレグリスも感じたみたいで顔を顰めていた。
「相変わらずあの子の人気も凄いわね」
「耳が痛いな。どこからこんな声が出てくるのやら」
「彼はアルに似ているからね。学生時代を思い出すよ」
「嫌な思い出だよ」
後ろでお養母様達が話をしているのも微かに聞こえる程度で、この黄色い歓声に搔き消されている。
気を取り直してマティお兄様を見ると、まさか目が合うとは思わず、お兄様は私にふっと微笑んでくれたので私も微笑んで返したのだけど、私達の周囲にいた女性陣が何を勘違いしたのか「私に微笑んでくれた⁉」と口々に話していた。
「相変わらず女性陣と言うのは都合のいい様に捉えるな」
「今のはシアに微笑んだというのに。可愛らしい反応と言えば聞こえはいいけれど」
「妹好きにも困った奴だな」
「お兄様もまさかこうなるとは思っていなかったのではないのでしょうか」
そのマティお兄様だけれど、こちらも時間がかからず直ぐに試合終了となった。
やはり一番の見所は準決勝からね。
ティナお姉様もマティお兄様も学生の実力を超えているのではないかしら。
マルクス様はその次の次の試合だけれど、その前の試合も結構直ぐに決着が付いていた。
勝利した方は準決勝でマルクス様と当たるのだけど、唯一五学年で準決勝進出を決めたので、それなりにお強いみたい。
そして準々決勝の最終試合は、レグリスのお兄様のマルクス様だ。
「やっと兄上の試合が観れる」
「どれだけ実力が上がったか楽しみだな」
「無様な戦いをしたら何か新たな訓練を考えないといけないわね」
「母上、それ怖いから!」
「何を言っているの。貴方の訓練はもう考えてあるわ。帰ってきたら楽しみにしておきなさい」
「⋯⋯まじ帰りたくない」
レグリスは心底嫌だといった風に呟いた。
可哀相に⋯⋯。
セイデリア辺境伯よりお母様で辺境伯夫人の方が厳しいのかしら。
元がゼフィールの方だし、あのレイ様の妹君だし、そう生易しい方ではないのは確かよね。
どんまい! そして頑張って、と心の中でしか応援出来ないけどね。
さて、そのマルクス様はと言うと、うん、普通に強いわ。
相手の方が可哀相に思えてくる。
これで準々決勝は終わり、十分休憩後、準決勝が始まるので、今はわざわと先程の試合の話で盛り上がっていた。
それは私達の後ろに座っている方々も同じだった。
「やはり盛り上がるのは準決勝からだね」
「去年よりは全体的に大分腕は上がっているようだけど、それでもあの子達にはまだまだ及ばないわね」
「お父様、この学園の剣術指南の質はそれ程ではないのてすか?」
「そうではないよ。流石に騎士魔法専門学園に比べたら全体的に落ちるけれど、あの三人の実力がずば抜けているだけで、決して教える技術の質が低いわけではない」
確かに騎士魔法専門学園に比べたらここは総合的に学べる学園なので流石にあちらと比べるのは違う。
「シア」
「はい、お養父様」
「魔法師から勧誘は受けていないね?」
「そうですね、今の所は何もありませんわ」
「それならよかった。何かあったら直に言うんだよ」
「分かりましたわ」
そういえば、何も接触は無かったわね。
お養父様のことだから、もしかして先手を打ったのかな。
暫く話に花を咲かせているといつ間にか十分が経ち準決勝が始まろうとしていた。
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次回は二十四日に更新いたしますので、よろしくお願い致します。





