140 勧誘宣言
競技場を出た私達はまず、エリーカさんの順位を確認する為に掲示板へ向かう。
エリーカさんは下から見ていたけれど、私とシャロン様は上から確認していくと、案の定直ぐに見つかった。
「エリーカさん! こちらよ」
「どこですか?」
「ほら、十一位よ! 素晴らしいわ!」
「ほんとに⋯⋯? 私が十一位?」
きちんとエリーカさんのお名前が載っているから嘘ではないけれど、本人は嘘みたいと零していた。
そしてご自分の名前を確認すると、満面の笑みを浮かべようやくほっとしたのか、緊張が解けていた。
「順位の確認も終わったことですし、探しに⋯⋯」
「ちょうど出てきましたね」
私はお二人に声を掛けようとしたところで声が被さってきた。
声のした方を振り返るとマティお兄様を始め、私の家族とベリセリウス侯爵家が揃っていた。
「やはりここで待っていて正解だな」
「えぇ。娘達が一緒で探す手間が省けましたね」
お養父様と侯爵が話しながら近づいてきた。
その後ろにはお養母様達がいらっしゃって、とても優雅に近づいてきて、それだけでも場が華やかだ。
「お父様、観に来ていただいてありがとうございます」
「シャロンの初めての交流会だからね。まずまずな成績だったね」
流石は侯爵、娘にも厳しいわね。
雰囲気は穏やかだけど、言ってることは手厳しいわ。
「ごきげんよう、侯爵様。セシーリア様」
「ごきげんよう。アリシア嬢、一位おめでとう」
「本当に、流石は辺境伯様とオリー様の養女ですわね」
「ありがとうございます」
私はまず侯爵に挨拶をし、お養父様を見ると、とてもいい笑顔で近づいてきた。
「シア、一位おめでとう。とても幻想的で素晴らしい披露だったよ」
「ありがとうございます、お養父様」
そうお礼を伝えると、お養父様はそっと私の頭を撫でた。
ここで頭撫でるの⁉
えっと、物凄く恥ずかしいのですがっ!
訳が分からずお養父様のお顔を見上げると、更に笑みを深くした。
⋯⋯これは周囲へ見せ付けているのですね。
私が養女だという事で侮られないように、いかにお養父様達に可愛がられているかを周囲に知らしめる為。
「お養父様、恥ずかしいですわ」
「ふふっ、可愛いわね、シアは。私達の自慢の養女よ」
「ありがとうございます、お養母様」
お養父様達に褒められ、照れたようにお礼を返す。
分かってはいても恥ずかしいわ、これは。
「ところで、アリシア嬢の後ろで固まっている子は誰かな?」
あっ、お養父様達と話をしていてエリーカさんの事を置いてきぼりにしていたわ!
「お父様、辺境伯様、ご紹介致しますわ。こちらは同じクラスのエリーカさんです」
シャロン様はまずエリーカさんをお養父様達に紹介をした。
「エリーカさん、こちらは私の父、エリオット・ベリセリウス、そして母のセシーリアよ」
シャロン様が侯爵とセシーリア様の紹介が終わったので、次は私がお養父様達をエリーカさんに紹介する。
「そしてこちらは私の養父、アルノルド・シベリウスと養母のオリーヴィアです」
「あ、あの! 初めてお目にかかります。エリーカと申します! ご挨拶が遅れて大変申し訳ありません!」
そうめいいっぱいに挨拶をするエリーカさんの姿を見て、つい可愛いと思ってしまった。
「話は聞いているよ。娘と仲良くしてくれてありがとう」
「シャロンはちょっと表情が読みにくいところがあるでしょう? それなのに友人となってくれてありがとう」
「初めまして。今後もシアと仲良くしてくれると嬉しいよ」
「シアにこんな可愛らしい子がお友達にいるなんて、これからも養女をよろしくお願いするわ」
高位貴族である四人からの丁寧な挨拶を受けて、エリーカさんは真っ赤になってあたふたしていた。
そんな彼女を微笑ましそうにお養父様達は見ていた。
ふと視線を感じてそちらに目を向けると、真っ青になってこちらを見ている二人組がいた。
⋯⋯もしかして?
「エリーカさん、あちらの方々はもしかして⋯⋯」
「あっ! 養父母です!」
やはりエリーカさんご両親だったみたい。
だけど何故真っ青に?
疑問に思っていると案外あっさりとその理由がわかった。
「申し訳ありません! 娘が何か粗相を致しましたでしょうか⁉」
「いえ、そのように謝るものではありませんよ。お嬢さんはきちんと挨拶をされていましたよ」
「そうでしたか⋯⋯私はてっきり何か粗相があったのかと。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。エリーカの養父でアーロンと申します。隣は妻のブレンダです」
ご両親は商売をされているだけあってとても丁寧に挨拶をされていて、その後私達とも挨拶をした後、親同士で話をされていたので、私達子供同士で話に花を咲かしているとマティお兄様が私達に近づいてきた。
「シア、そろそろお兄様の事も思い出してくれるかな?」
「マティお兄様! お兄様もご覧になっていたのですか?」
「勿論だよ。とても上手くできていて良かったよ。ただ、ちょっとやり過ぎな感じもしたけどね」
「ごめんなさい」
「謝ることじゃないよ。だけど王宮の魔法師団に目を付けられると面倒臭いから、そこが心配だけどね」
それ、既に手遅れかもしれません⋯⋯。
ちょっと気まずく、思わず視線をそらしてしまったら、お兄様は目敏く私に気付き、私の両頬を挟んで視線を上げさせた。
「何を隠しているのかな?」
「隠しているわけではないのですが⋯⋯」
「約束通り、教えてくれる?」
無言の圧力に負けて⋯⋯別に隠しているわけではないし、負けてもいない!
私は素直にお兄様に評価が記載された用紙をお渡しした。
それを読んだお兄様は笑顔だけど纏う雰囲気はがらっと変わり、その用紙をそのままお養父様にお渡しした。
お養父様はそれを読んで「はぁ⋯⋯」と溜息を溢した。
「シア、この件は無視していいよ。もし個人的に接触してきたら直ぐに言いなさい。因みにレオンも暫く付き纏われていた」
「学生に付き纏う時間なんてあるのですか?」
「まぁ最近は穏やかだからね。忙しい、という事はないが。⋯⋯あぁ、良い事を思いついた。シア、もし付き纏われたら必ず名前を聞いておきなさい、いいね?」
「分かりましたわ」
お養父様は何かを思い付いたように、少し黒い笑みを浮かべていた。
一体何を思いついたのか⋯⋯
何となく、分かってしまった。
侯爵もお養父様の考えが分かったのか、頷いている。
エリーカさんの養父母は何のことかわからず、だけどお養父様のご様子から近付かないほうがいいと思ったのか、静観していた。
ここで侯爵は仕事に戻らないといけないみたいで、宮廷へと戻っていき、私とマティお兄様は生徒会のお仕事があるのでそちらへ向かうため、お養父様達やシャロン様達と一旦別れた。
お昼からは一、二年の剣技決勝、乗馬の決勝、ダンス、討論会が行われる。
私は少し遅い昼食後にマティお兄様達と共に明日の準備を行う。
明日は、五、六年の剣技に魔法技、乗馬に討論会、三から五年のダンス、そして二、三年の魔道具の披露が始まる。
私達は明日から始まる魔道具の披露会場へ確認しに行くと、披露する学生、二、三年の生徒達がここに集まっている。
魔道具に関しては一年生はまだ参加で出来ないので、一年生の姿はない。
皆様真剣に最終調整に勤しんでいて、調整が終わった生徒達の魔道具には一つずつ保護の魔道具をつけ、翌日披露するまで誰にも触れられないようにする。
マティお兄様に説明を受けながら見回り、特に怪しい様子も無いし、そもそもここの管理は先生方なので、一応名目上見回っているといった感じだ。
その後、ダンス会場に移動すると、先に見回っていたラグナル様とルイスお姉様と合流した。
「お疲れ様、二人共」
「お疲れ様です。こちらは終わったのですか?」
「今終わったところだ。そうだ。アリシア嬢、一位おめでとう」
「ありがとうございます」
「会場にいた人達が噂していたけれど、とっても凄い事をしたのでしょう? 私も見たかったわ」
「そんなに凄かったのでしょうか?」
やり過ぎだとお兄様には言われてしまいましたけど、全員の披露を見ていないので分からないし、凄いと言われても二位のフェルセン様の魔法披露も本当に凄かったから私の披露がそこまで評価頂けるのは、勿論嬉しいけれど、少し気後れしてしまう。
「シア、後でどれだけ凄いのか教えてあげるよ」
「はい、お兄様」
後程お兄様から詳細を教えて頂けるなら納得出来るかな。
宮廷の魔法師から受けた評価って評価じゃなくてただの勧誘だったから⋯⋯。
そもそも、あの人達ってちゃんとお仕事しているのかな。
「シア、次に行くよ」
「分かりましたわ」
考えに耽っていると、お兄様に呼ばれたので次は討論会の会場へ、マティお兄様、そしてラグナル様達と共に向かい同じように会場を見回り、問題が無かったので生徒会室に戻るとレグリスが競技終わりでがこちらに戻っていた。
「レグリス、お疲れ様です」
「シア! 聞いたよ。一位おめでとう」
「ありがとう。レグリスはどうだったの?」
「どうだったと思う?」
「その感じだと、優勝かしら?」
「当たり! 勝ってよかった⋯⋯」
最後は安心したようにほっとしていたけれど、負けたら何かあったのかしら。
皆不思議に思ったようで、ルイスお姉様がレグリスに聞くと、若干青褪めつつ、何処かで聞いたことのあるような事を話した。
「俺、もし無様な負け方していたら父上達から半殺しにされていたから⋯⋯」
なるほど、セイデリアでも中々厳しい訓練を課しているのか、レグリスは遠い目になっていた。
マティお兄様達も気持ちが分かるのか、頷いているのラグナル様は「シベリウスとセイデリアは大変だな」としみじみと仰っていた。
全員揃うまで少し待つ間に今日の試合を振り返っていた。
レグリスが出場した剣技での試合では、元々幼い頃から倣っていた人達が出てるので人数は多くはなかったが、中々白熱した試合が繰り広げられていたそうだけど、実戦経験がこの年で豊富なレグリスはやはり群を抜いていたそうで、だけど一回戦が優勝候補だった為、かなり白熱した試合で観客席からの声援も凄く、その優勝候補であるアランさんを下さしてレグリスが勝利したものだからレグリスの評価はとても高く、そして上級生方、勿論令嬢達からの熱い眼差しが増えたのだとか。
これからレグリスは令嬢達に狙われるだろうと揶揄うように会長はそう話していた。
本人はとても嫌そうに顔を顰めていたけれど。
ちなみに、ノルドヴァル令息は一回戦で敗退したそうだ。
相手は私と同じクラスのイデオン様で相手をあっさりと負かし、見応えのない試合だったみたいで、レグリス達の後だから余計にそう思えたのかもしれないと。
そして話は私が出場した魔法技の話、というよりも何故か私の話になっていた。
「アリシア嬢、あれをここで再現できる?」
「出来ますが⋯⋯」
「言葉にするより実際見たほうが早い! 皆も見たいだろう?」
「見に行けなかったから見てみたいですね!」
見れなかったレグリスは会長の言葉に頷いていて、ルイスお姉様も同じく期待するような眼差しで私を見ていた。
剣技はここでは無理だけれど、魔法ならまぁ、いいのかな?
「アリシア嬢、皆見たいと言っているよ。私も最後をちらりと見ただけだから、最初から見たいな」
会長がそう言うなら⋯⋯。
一輪だと分かりにくいので、四輪の花を小さめにすれば大丈夫かな。
私は両手の掌を上に向けて合わせる。
ここにいる皆は少し離れ、だけど私の魔法披露が見えやすいように半円陣の様に位置取り興味津々でこちらを見ている。
午前中の魔法披露と同じように炎の四輪の花を出し、同じ手順で最後花を散らすまで披露する。
砕け散った花が無くなるまで見届けた後、皆様の方へ視線を向けると、とても驚いたような表情をしていたり、キラキラした瞳を見せていたり、反応は様々だけど、一拍後に拍手が送られたのでとても嬉しかった。
「これを皆が噂していたんだ! けどこれ、規模がもっと凄かったってことだよな?」
「規模って言う程の事でもないわ」
「シア⋯⋯」
「はい、マティお兄様」
ちょっと呆れを含んだ声で呼ばれたのだけど、呆れられるような事したかな?
「さっきも言ったけどね、やり過ぎなんだよ」
また言われてしまった⋯⋯。
私がちょっぴり不満に思っていると、お兄様は他の方々の披露した内容を教えてくださって、何故私がやり過ぎなのかを懇切丁寧に教えてくれた。
それを聞くと、納得は出来る。
「アリシア嬢は凄いね。だけど、宮廷の魔法師団には気を付けたほうがいいよ」
「会長、既に手遅れです」
「手遅れ?」
「宮廷魔法師団の評価に入団して欲しいという評価ではなくて既に勧誘が始まっていますので、レオンの時みたいにお暇な方々に付き纏われるかもしれません」
「レオナルド君の時は既に殿下の側近として側にいたから、付き纏われると言っても最初こそしつこかったけど、その後はあっさり引いたでしょう? だけど、アリシア嬢は、ちょっと大変かもしれないね。勧誘は何も交流会の間だけではないからね」
皆様に心配そうな眼差しを向けられたけれど、そこまで付きまとわれるものなのかしら。
けど、ただ将来入団して欲しいという勧誘だけならそこまで心配する必要もないのかなと思うのだけれど、皆様がそこまで心配の目を向けるとなると、普通に勧誘されるだけでは終わらないのかもしれない。
会長の話では、上級生の授業では宮廷魔法師団を講師に招いて授業を行う事もあるそうで、学内に魔法師団の方がいてもおかしい事ではないので、そこで交流会の成績上位者を早い内から将来有望な人材を集めているそうで、これが中々しつこいみたい。
嫌ならはっきりと断った方がいいのだが、それでも諦めないみたいで、一度ならず問題になったのが、しつこすぎる付きまといで勧誘が全面禁止になった事もあるという。
だけど、やはり王国内でもこの学園の優秀な生徒を確保する為には早い内から目をつけて話をし、働いて貰う為には普段からの交流が大事だと、どのような仕事でやりがいがあるかを話し興味を持って貰って是非働いて欲しいと、卒業間近だと欲しい人材も集まらないと、だから酷い勧誘はご法度だけど、節度を守って接するならばと許可を出し今に至ると。
だからそれほど酷い事にはならないだろうが、もし、限度を超えた勧誘があれば直ぐに言うようにと、会長にも言われ約束をした。
そのような話をしていたらいつの間にか全員揃っていて、ヴィンスお兄様やレオンお兄様にも勧誘には本当に気を付けるようにと、そして一位おめでとうとお祝いの言葉を頂いた。
話が一段落したので、明日の種目の確認、自分達の持ち回りの確認をして今日は一日が終了した。
寮まではルイスお姉様にティナお姉様とディオお姉様、そして今日はウィルマさんも一緒だ。
ウィルマさんはディオお姉様と同じ学年で、今迄もたまに一緒に帰ったりしていて、今日は一緒に帰れるみたい。
「初めての交流会はどうだったかしら?」
「そうですわね。あっという間に一日が過ぎてしまいましたわ」
「私も一年の時は緊張しすぎて、記憶が曖昧だったの。 アリシア様は緊張はされませんでしたか?」
「緊張しましたわ。お養父様達が観に来ていたので、下手な事は出来ませんから」
「辺境伯様に観られているのは緊張致しますわね。終わってからはお会いになられたの?」
「はい、会場入り口で待っていらっしゃって、ティナお姉様のお父様にもお会いしましたわ。シャロン様とご一緒でしたので」
「父と辺境伯様は友人同士ですから、観戦もご一緒だったのでしょう」
ティナお姉様の言う通りでお養父様と侯爵は一緒に観戦をしていた。
お養父様に話を聞けば、学園に来るのも一緒に来たらしい。
今思えば何かお二人でお話しされていたのかもしれないわね。
話に花を咲かせながら帰ると寮に着くのも早く感じる。
私達はまた明日と挨拶を交わし、朝一緒に学園へ向かう約束をしてそれぞれの部屋へと帰っていった。
ご覧頂きありがとうございます。
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次回は二十二日に更新致しますので、よろしくお願い致します。





