138 交流会前日
ティナが私の側近になってからというもの、あの令嬢に絡まれたら直に寮で伝え、夜伝えれなくても朝の自主訓練で会うので、その時に話しをしたりしていると、一緒に自主練しているディオお姉様達も心配して日中も何かと気遣って頂き、絡まれることも少なくなった。
休息日には離宮で新しく魔道具を作成してくれた物を身に着け、効力を確認したり、その日から魔力を解放した状態で身体に馴染むように魔力操作の訓練も始めた。
学園では交流会が目前に迫り、会場の準備や交流会中の進行、予期せぬ出来事が起こった時の対処法、怪我をした人達の治癒を行う場所の確保等の最終調整をし、後は当日を迎えるだけとなっていた。
交流会の前日は午前中で授業が終了し、午後からは明日から始まる交流会の最終準備と最終打合せがあるので、生徒会の皆で昼食を頂き、早々に作業に入る。
私とレグリスはディオお姉様とウィルマさんと共に各会場の見回りをしながら不備がないか最終確認をする。
確認をするといっても、会場の設備等の確認ではなく、この学園で不正を行う者がいてるとは思いたくないが、中にはそう言った者もいる為、その意味合いでの確認だ。
これは生徒会だけでなく、風紀部の人達も行っている。
複数人で確認をした方が何かあった時の証拠の目が必要な為に念には念を入れているという事だった。
過去これで問題になった事が幾度かあったという。
学園にとってもあるまじき事なのだけど、まぁ善良で常識のある人間ばかりではないという事だ。
ディオお姉様達の説明を聞きながら各会場を隅々まで確認していくと、乗馬の会場でこそこそとしている生徒を発見したので、私達は気配を消してそちらに近づいて行った。
「貴方方はそこで何をしていらっしゃるの?」
「えっ!? あっ⋯⋯と、この辺に落とし物をして、それで探しているのですが見つからなくて⋯⋯」
「私達は生徒会です。貴方達、学年とクラス、そして名前を教えて頂いても?」
「一学年Bクラスのコニーです」
「同じくシモンです」
「それで、出場する種目は?」
「あの⋯⋯」
「誤魔化しても調べれば直ぐに分かるわよ」
彼らは気まずそうに俯き、だけど何かに怯えているような、そう言った様子を見せていた。
「⋯⋯種目は、その⋯⋯」
「乗馬ではないのは確実のようね」
そうディオお姉様が言うと二人はビクッと身体を震わせた。
乗馬に出場する生徒ではないにもかかわらず、ここで落とし物をするのは変な話だ。
ウィルマさんは一つの魔道具を取り出し、起動させていたけれど、何の魔道具かは分からなかった。
ただ、暫くすると風紀部の先輩方がいらっしゃって、ディオお姉様達が事の説明をすると、一年生の二人を連れて行った。
そしてこの場に残った私達は、周囲に異常が無いかを調べていると、先生方もいらっしゃったので、状況を説明して後は先生方に任せ次の会場へと向かった。
「今年は何かありそうね、今からこの調子では」
「去年は何もなかったのですか?」
「毎年小さい事は何かしらあるのよ。ちょっとしたいたずら程度の事ね」
「私も悪戯をされて困った事があったの」
「そういえばウィルマも一年の時に嫌がらせされていたわね」
「そう、だけど事が起こる前にディオ様に助けられたのよ。あの時ディオ様はとっても格好良かったわ」
そうウィルマさんが話すとディオお姉様は少し照れた表情をされていたのがとても可愛らしい。
話を聞くと、学園内では身分関係なく平等に学ぶ事を信条としているのだが、やはり身分差や派閥で嫌がらせが行われたりすることもあるというのが現状だ。
そして先程のように平民の入ったばかりの一年生が上の学年の者に使われてしまう、という事もしばしば見受けられるという。
そのような卑怯な真似をして誇りとかはないのかしらね。
まぁないから平気で出来るのでしょうが⋯⋯。
その後は特に異常もなく、見回りが終わって生徒会室へと戻ってくると、同じように見回りをしていた皆様方も少し遅れて帰ってきた。
話を聞くと、他の会場でもこそこそとしている生徒達がいたようで、今年は交流会当日も周囲に目を光らせなければいけない事を風紀部も合流して話し合う。
風紀部に連れていかれた子達の話を聞くと、自らそのような事はしないと、誰かに言われてやったとの事だけど、その相手が誰か分からないとの話だった。
何だか頭に靄がかかって相手の顔を思い出せないと⋯⋯。
それは生徒会の先輩が見つけた生徒達も同じ状況で結局誰の仕業かは分からない。
顔だけでなく、何年生、背の高さ、男か女かも分からない。
これだけ分からないとなると手の打ちようもない。
「今年は久々にちょっと荒れるかもしれないね」
「久々にって、荒れたことがあるのですか?」
会長がそう零すと五学年のレーアさんがそう問うと、「あるね」と短く答えた。
五学年の先輩も知らないとなると、六年以上前という事になる。
かなり嫌な思い出なのか、会長は顔を顰めていた。
「あれは私が一年の時で、学園最初の交流会は最悪だったよ」
「確かにな⋯⋯」
会長の言葉に賛同するのは風紀部の部長だった。
問題が起こったのは魔法技の試合中の出来事で、生徒が死ななかったのが幸いな位酷かったらしい。
あれ以来前日は午前中までの授業とし、午後からは交流会の運営に携わっている生徒以外は皆寮に戻らなければならないことになり、当日の試合前には厳しい検査が入り、もし見つけたらそれなりの罰が課せられる。
それは成績にも影響が出るので、小細工をするような人は減ったらしいが、小賢しい者は下級生の階級が下の子達を使うようになったことで、これはかなり問題なのだが、上級生に使われたと分かれば、全くお咎めがないかと言われればそうではないが考慮される。
今回見つかった一学年の生徒達も考慮されるので後は彼らの精神的な配慮が必要でしょう。
誰に頼まれたのか、それとも脅されたのか⋯⋯。
あの様子だと自らというのはあの怯えようでは無いでしょうから、仮に貴族、もし上級生からとなると怖かっただろうと思う。
引きずらなければいいと思うけれど、こればかりは本人次第だ。
明日から始まる交流会も何事も起きなければいいのだけれど。
「⋯⋯今年の交流会も生徒達の安全が第一で皆が楽しく終えられるよう、明日から気を引き締めて皆の協力が必要だからよろしくお願いするよ。そしてここにいる皆も交流会が楽しめるよう、また各自実力を思いっきり出して頑張ってほしい」
「「「はい!」」」
「あっ!!」
会長が話を纏めて終えたと思ったら、急に大きな声を出した。
とても珍しい事で、私達は何事かと皆会長を見るのだけれど⋯⋯。
「どうしたんだ?」
「あー、ごめん。ラグナル。締めはお願いしようと思っていたのに続けて話してしまった⋯⋯」
「いえ、気にしていませんよ」
「お前が気にしなくても私が気にする」
「アルヴィンにしては珍しいな」
「うるさいな。私だってたまにはやらかすさ」
会長の珍しい姿を見た気がする。
そして風紀部の部長とのやり取りも気安くてとても珍しい。
「まぁとにかくだ、明日からの為に今日は皆身体を休めるように」
「結局お前が纏めたな」
「さっきからうるさいなレイダルは!」
本当に珍しい⋯⋯。
もしかしたら場を明るくしようと思っての事かな。
考え過ぎかもしれないけれど、皆先程よりも表情は明るい。
明日生徒会、風紀部と広報部は少し早い時間に集まる事になっているので、遅れないようにと最後ラグナル様からの言葉があり、帰途に着く。
校舎を出るまで、マティお兄様とティナお姉様達と話しながら帰るのだけれど、マティお兄様達は私の事が心配なのか、寮へ帰るのに別れ際まで明日から何かあれば直ぐに言いなさいと、お馴染みの言葉をきちんと聞いて、お兄様には安心してもらえるように約束をする。
お兄様と別れてからはティナお姉様とディオお姉様と共に寮へ向かう中、ディオお姉様も心配そうにしていた。
「シア、最近少し落ち着いたからといって、交流会では気を付けてね。一人になってはダメよ」
「はい、ディオお姉様。気を付けますわ」
「最近はディオもシアへの過保護ぶりが凄いわよ」
「そういうティナ様だって人のこと言えませんわ」
「否定はしないけどね。だけど、交流会で大人しくしているとも思えないのよね」
「同感ですわ」
お二人共が交流会であの令嬢が何かしてくると思っているみたい。
私も同じ考えなのだけど、だからと言って何ができるわけでも無いとは思うのだけど⋯⋯。
今はそれほど嫌な予感もしないし、落ち着いている。
だけど、それにばかり頼るのもよくないので、なるべく一人にならない様にはするけれど、こればかりは何とも言えない。
皆それぞれ種目に参加するのだし、私に構ってはいられないでしょう。
表には出ないけれど、影の皆もいるのだし、楽観しているわけではないけど、交流会を素直に楽しみたいのが本音。
油断はしないけど、先の事は分からないの考えすぎずに明日を迎えようと思う。
「そうだわ! 明日は皆で一緒に学園に行きましょう」
「それいがいいわね!」
「では明日ここで待ち合わせですわね」
「分かりましたわ」
私が少し思考に耽っていると、ディオお姉様からお誘いがあり、明日は一緒に登校することとなった。
部屋に戻って来ると、モニカが出迎え、私は制服から私服へと着替えを済ませている間にモニカはお茶を淹れた後、一通の手紙が差し出してきた。
「シア様、旦那様よりお手紙が届いております」
「お養父様から? 何かしら⋯⋯」
私は手紙に目を通すと、お養父様は私が出場するのは初日なので明日学園に観に行けると、そしてとても楽しみにしていると書いてあった。
とても嬉しい!
お父様は交流会の最終日に来られるようだから私の魔法技の初日には見に来れないので、残念に思っていたらお養父様がいらっしゃると分かって気分が上がる。
モニカにも分かったようで、「良かったですね」と一緒に喜んでくれた。
明日から始まる交流会、そして私は初日である明日なので楽しみと程よい緊張がある。
会長の言葉が少し気になったりはするけれど、少し気分が高揚している自覚がある。
「シア様、明日からの交流会を本当に楽しみにされているのですね。気持ちが溢れ出ていますよ」
「えっ! そんなに浮かれているかしら?」
「いえ、とても久しぶりにシア様のそのような嬉しそうなお顔を見たものでしたから⋯⋯、私もとても嬉しいです」
「私もモニカの笑顔が見れて嬉しいわ」
確かに最近嬉しい事は少なかったかもしれないわね。
私が笑ったことでモニカも笑顔になるならいっぱい笑いたいと思うわ。
いっぱい心配を掛けているし、ずっと一緒にいてくれているから。
「如何されましたか?」
「何でもないわ。明日は少し早く学園に行かなくてはいけないの。だから今日は早めに休むわね」
「それがよろしいかと」
「モニカも早く休んでね」
「ありがとうございます」
明日から少し早く登校して生徒会のお仕事があるので、早く休んで英気を養わないとね。
モニカとおやすみの挨拶をして今夜はすぐに眠りについた。
そして翌日の朝、早い時間帯に起きて朝食を頂きに食堂へ向かう。
今日から交流会なので、私達生徒会や風紀部、広報が早くに登校するので寮の食堂も朝早くから開いていて、人も少なく、丁度ティナお姉様が食堂にいらっしゃった。
「おはようございます」
「おはよう、シア。昨夜はよく眠れたかしら?」
「はい、早くに休みましたのでとてもすっきりと目が覚めましたわ。ティナお姉様はいかがですか?」
「私もよ。今日から楽しみね」
「とても楽しみですわ! ですが、少し緊張もしております」
「シアは初日の今日ですものね。頑張ってね」
「はい、頑張りますわ」
お姉様と楽しく話をしながら食事を頂いていると、遅れてディオお姉様もいらっしゃった。
少し慌て気味で私達の元へ来て一緒にお食事をする。
まだ眠そうだけれど、ご飯はしっかりと食べていた。
お食事が終わると一旦部屋に下がり、準備を整えて寮のホールへと行くと、まだお姉様達はいらっしゃっていなかったが、それも少し待っただけで直ぐにティナお姉様とディオお姉様がいらっしゃった。
「ごめんなさい、お待たせしてしまって」
「いえ、それほどでもありませんわ」
「では行きましょうか」
私達は学園の会議室へ行くと、既に会長やラグナル様達、上級生の方が揃っていて、ちなみに今日は流石にハセリウス先生も早かった。
暫く待って全員が揃うと、まずは会長がさらっと朝の挨拶をして、早々にラグナル様に場所を譲った。
その姿を見た風紀のレイダル様は、「今日は忘れなかったな」と軽口を叩き、会長の怖い笑顔を向けられていた。
ラグナル様は特に気負い事なく私達を見て挨拶を始める。
「おはようございます。今日から六日間交流会が始まります。大きな混乱、怪我無く生徒達が心から楽しめるよう私達は全力を尽くして進めて参りたいので、皆様のお力添え頂きたく、どうか六日間、ご協力をよろしくお願いいたします」
「「「はい!」」」
ラグナル様も余計な事を言わず、挨拶を終わらせ今日の一日の試合の内容の確認と今日は種目に参加しない方の役割を再確認し、私達は生徒が一堂に集まる会場へと移動した。
ご覧頂きありがとうございます。
ブクマ、評価、いいねをありがとうございます。
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次回は十五日に更新しますので、次話も楽しんでいただけたら嬉しいです。
よろしくお願い致します。





