131 充実する毎日
今日は朝から学園がとても賑やかだ。
何故なら、討論会の題目や言語が発表されたのでその種目に参加する生徒達は浮足立っていた。
そして今日から一日の授業の終了後に自主練が出来る様に学園が開放される。
場所は決められていているので、必ずそこを使用すること、監督者が必ずいるので、その監督者の指示に従うことを守らなければまならない。
監督者は上級生だったり、先生方が務めるたりする。
放課後に残る生徒が増えるので風紀委員はこれから放課後見回りをすることとなるので忙しいみたいで、同クラスで風紀委員のイデオン様とロベルト様が大変だと話していた。
クラス内では交流会が近づいているのでその話題が大半で、今日も朝から交流会の話に花を咲かせていた。
女子の話題は交流会でも、どの先輩がかっこいいか、誰を見に行くとか、やはりそう言った話で盛り上がっている。
その中にはヴィンスお兄様やマティお兄様達の名前もあがるのだけれど、男性だけではなく、女性の先輩方で、どの方がかっこいいとか、男女関係なく名前が挙がる。
というか、そのような情報を一体どこから集めてくるのか⋯⋯。
クラス内でその情報を持ってくるのは、大体エリーカさんだったりする。
社交会に所属していれば自ずと先輩方からそういった情報が入ってくるのでしょうけれど、内容がとても細かくて何だか“記憶の中”のファンクラブ的な? 何かがあるのかなとさえ思えてくる。
「そういえば、一年生で人気のある生徒は誰だかわかりますか?」
「まだ入学して半年過ぎたくらいよ? 人気のある生徒とかもういるの?」
「アリシア様はそういったことに疎いよね」
「イデオン様はご存じなの?」
「知っているわけじゃないけど、予想はつくかな」
「シャロン様は知っていて?」
「知っています」
「レグリスは?」
「全然興味ないね」
レグリスはそういうと思った。
一年生でもう人気のある生徒とかいるのね。
誰かしらね。
「関係ないという顔をしているけれど、生徒会に入っているお二人もその中に名前が挙がっているからね」
「「えっ?」」
「毎年生徒会の人達は人気みたいですよ」
「私、特に何もしていないのだけれど?」
「俺も⋯⋯」
私とレグリスは首を傾げた。
交流会とかで活躍した! と言ったらまぁ分からなくもないのだけれど、意味が分からない。
「アリシア様もレグリスも入学当初から知られていたからね」
「それって遅れて入学したからかしら?」
「そうともいうね」
それって違う意味でよね?
ただの悪目立ちよね。
「まぁ二人共に一年の中ではずば抜けて強いって言うのもあるよね。自領の事があるから必然だろうけど。上級生も楽しみにしてるみたいだよ。二人が出る剣技と魔法技」
私はレグリスと顔を見合わせ、仲良く溜息をついた。
全く嬉しくない情報を貰ったところで授業の始まりの鐘が鳴ったのでお話をやめ席に着く。
そして放課後、いつもより活気が溢れていて学園に残っている学生もとても多い。
私とレグリスは生徒会室へと行くと、珍しくハセリウス先生がもういらっしゃった。
「二人共、入ってくるなり人を珍獣が現れたような目で見るのは良くないね」
「申し訳ありません。先生がいらっしゃるのが珍しくて⋯⋯」
「珍しいよね。大丈夫。シア達だけじゃないから。このやり取り」
何回もされたのですね、これ。
全員が揃ったところで生徒会が始まる。
今日は種目ごと、学年ごとにどのような日程で行うかを決める。
社交会別対抗試合は毎年最終日に行われ、一番人気の種目だ。
交流会は六日間行われる。
初日から四日目まで剣技と魔法技、同時に別会場で行われる。
ダンスは三日間の日程で、乗馬と討論会も四日間。
魔道具は三日間の予定だ。
後は披露する学年の順番を決めなければならない。
それが決まればトーナメントの組み合わせだ。
これは出場する生徒達自身でくじを引いて決める為、 明後日と明々後日の放課後、一から四、五から八学年で各練習場にて出場する生徒は全員集まり引いてもらい決める。
これは生徒会と広報と協力して作成していくので、人数は多いのでそこまで大変でもなく、毎年すんなりと作成しているみたい。
今週はちょっと忙しくなりそうだけど、予想はつくけれど交流会が近づくにつれて更に忙しさは増すのでやりがいはあり、色んな事が起こるけれど、学園生活を満喫していると思う。
生徒会がある時は練習に行けないが、翌日からは私も魔法技の練習の為、訓練場へと向かう。
同クラスではシャロン様とエリーカさんと一緒なので訓練場に一緒に向かう。
二人は昨日から練習しているらしく、どんな感じなのか教えてくれた。
一年生はまとめて先生が監督でついてくれるらしくて、分からない事とか教えて欲しい事等あれば指導してくれるみたい。
訓練場に着くと、既に上級生達が練習に励んでいて人数も多い。
学年ごとに訓練場所が決まっているので、私はシャロン様達に付いていくと、そこには他のクラスの生徒や同クラスの人達もすでに練習を始めていた。
私達がこの訓練場を使用する時は、先ず先生に挨拶をしなければならない。
挨拶は勿論大事なのだけれど、誰が練習に来ていたのかを把握しておくためだという。
もし何かあったときの為なのだとか。
「クランツ先生。ごきげんよう」
「今日はシベリウスも来たのか」
「はい。昨日は生徒会がありましたので、あちらが無い日は練習をしたいと思います」
「わかった。注意点としては、一年は必ず教師がいる中で練習を行ってもらう。無理はしない事、生徒同士のいざこざもご法度。そうなった場合は三日間使用禁止となる。無理をしない事、以上だ。何か質問は?」
「いえ、ありません」
「何か質問があればいつでも聞くように」
「はい。ありがとうございます」
先生からの注意事項を聞き終わると、早速シャロン様達と練習を始める。
一、二年は試合形式ではないので基本的な魔力操作に加えてどれだけ自由に想造し点数で争うので、私も基本的な事をもう一度おさらいをする。
交流会当日は自分の得意なものを自由に想造していいので、交流会までに何をするか決めておかないと。
私は無属性のでどうしようか悩むところ。
一人で色々想造そながら悩んでいると、エリーカさんに話しかけられた。
「シア様、どうしたらそんなに上手に操作することが出来るのですか? 何かコツとかは?」
「そうね⋯⋯私はは周囲にある色んな所から手掛かりを得ているの。例えばエリーカさんの属性は風なので、今もこうして外で感じる風を肌で感じるの。そして周囲を見れば木々達が風に揺られているでしょう? そういったところから手掛かりを得ているわ」
「自然を見て手掛かりを得るなんて! ありがとうございます。やってみます」
人によってやり方とかは違うでしょうけど、少しでも助けになるのなら思ったのだけれど、ちょっと抽象的過ぎたしら。
私は“記憶”があるので、あちらを元にしているからかなりズルをしている気分になる。
たまに皆がどうしているか見てみたり、新しい事をしてみたりと、色々試していたらあっという間に時間が過ぎ、先生の合図で皆手をとめ、先生に挨拶をして帰途に着く。
私はシャロン様達と一緒に寮へと戻り、そのまま夕食を頂いて部屋に戻り汗を流す。
一日の終わりにゆっくり出来るこの時間が好きだったりする。
湯から上がると、モニカがハーブティーを入れてくれた。
お茶を楽しんでいると、報告が入ってきた。
『姫様、アルバネーゼとリオン共和国に向かった子供達ですが、無事に親元へ帰ったと報告がありました』
『大分時間がかかったけれど、無事に帰れてよかったわ。報告をありがとう』
『それともうひとつ報告が。ノヴルーノですが週末には戻れる目処が立ちました』
『本当に⁉』
『はい』
『良かった。もう大丈夫なのね』
『⋯⋯傷云々に関しては問題ありませんが、大丈夫かと聞かれると、大丈夫ではないと思います』
どういうこと?
傷は問題ないけど大丈夫じゃないって⋯⋯もしかして⋯⋯。
『そんなに訓練がきついの?』
『姫様を守る為ですからね。生易しくはありませんよ。後、長の見た目に騙されてはいけません』
ベリセリウス侯爵って私が思っているよりもそんなに見た目と中身が違うの?
知りたいような、知りたくないような⋯⋯。
『アステール、教えてくれてありがとう』
とにかく、ノヴルーノが戻ってくるのは嬉しいわ。
それに子供達も皆無事に戻ったようで安心したし、一つ心配事が減ったわ。
次に考えなきゃいけないのはお父様との話し合い。
何を聞くか、ある程度纏めておかないと。
聞きそびれの無いように⋯⋯。
それから数日が過ぎた。
その間にトーナメントを決めるためのくじを引くだけでもちょっとしたお祭り騒ぎになったり、私もそれのお手伝いをしたり、色んな上級生の方達と言葉を交わしたりと忙しくしていたので週末まであっという間に過ぎていった。
生徒会では広報と協力してトーナメント表を仕上げ、来週地の曜日に公表することとなった。
これで大きく決めないといけないことは終わり、種目の日程も決め終わったので、それも合わせて公表するらしく、広報公表まで準備に忙しそうだった。
あっという間に今週も過ぎていき、気づけば光曜日でお父様との話し合いの前日の夜だった。
明日は朝食をここで終えた後、離宮へお父様に会いに行く。
はぁ⋯⋯少し緊張するわ。
きちんと話せるかしら。
お父様の甘やかな言葉に流されてはダメ。
緊張から少し顔を伏せて頭の中で聞く事を、明日の事を反芻する。
それは思ったよりも深く思考を巡らせていたようで⋯⋯。
『姫様!』
『っ! びっくりした⋯⋯どうしたの?』
『少しは気が散りましたか?』
『わざと? 意地悪ね』
もう! 本当に驚いたわ。
驚きすぎてちょっと心臓が痛いわ。
まぁお陰で緊張も吹っ飛んじゃったけど。
『何かあった? 私を驚かせるだけで話しかけないでしょう?』
『何があったと思いますか?』
『勿体ぶるわね』
『私の口からは申せません』
何それ⋯⋯アステールってたまに意地悪するのよね。
まぁ、一番私の傍にいて表でも私の護衛をしていたから一番慣れているし、一番気安いのは事実。
ルアノーヴァもここまでとはいかなくても、もう少し普通に話せるようになってもいいのに、全く変わらないのよね。
殆ど私とは話さないものね。
それより、アステールは何を隠しているのかしら。
「御前失礼いたします」
えっ? この声は⋯⋯。
考え事から現実に引き戻された、暫く聞かなかった声。
ぱっと顔をあげるとそこには怪我で少し側を離れていた影の姿があった。
「ノヴルーノ!」
「はい。長らくお側を離れましたこと、申し訳ございませんでした。本日からまた姫様の影としてお仕えさせていただきます」
「お帰りなさい。ノヴルーノ、この間は私を守ってくれてありがとう。またよろしくお願いするわ」
「はっ。有難きお言葉⋯⋯姫様?」
私は彼の側に寄り、そっと彼の左肩に触れた。
片腕が無い⋯⋯本来ある袖の膨らみがなく、彼の腕が無いことを突き付けられる。
だけど謝る事はしない。
それは主として出来ないから⋯⋯。
ノヴルーノは私を守ったので誇るべきであって、謝るのは彼の教示を傷つける。
「本当にありがとう」
「姫様はお優しいですね」
「あら、お礼を言うのは当たり前のことよ。皆は私の誇りよ」
『姫様⋯⋯』
あれ? 何故か黙ってしまったわ。
目の前のノヴルーノを見ると、本当に珍しく嬉しそうに顔を綻ばせていた。
笑った顔がなんだか可愛い。
流石に大人の男性本人にそんな事言えないけれどね。
「訓練は大丈夫だったの? アステールがとても厳しいようなことを言っていたけれど」
「問題ありません。姫様を守る為ですので、どのような訓練でも耐えられます」
それって、暗にとっても厳しいけど耐えますって事よね?
伯父様と比べてどのくらい厳しいんだろうか⋯⋯。
「訓練お疲れ様。休まなくても大丈夫なの?」
「問題ありません」
「ならいいけど、無理はしないでね」
「はい」
ノヴルーノはそういうと姿を消した。
腕が無いのを見ると、やはり心が痛むけれど、それを表に出してはいけないのでぐっと我慢する。
今は元気に戻ってきてくれただけで良かった。
伯父様に提案したことが実現できればいいのだけれど⋯⋯。
あっ、明日の事を考えるていたのに大分脱線してしまった。
けど、考えは纏めたので後は明日を迎えるだけ。
睡眠不足にならないように早めに寝なきゃね。
そして翌日。
お兄様達と朝食を頂いた後に離宮へと転移し、一度部屋でお父様に会う為に準備をし、話をする為に部屋へと赴いた。
お待たせするわけにはいかないので、時間より早く来たのでお父様はまだいらっしゃっていない。
何だろう、こう面接を受けるような緊張感がある。
ただ、お父様とお話をするだけだというのに⋯⋯。
そういえば、お父様とは何気ない会話はあるけれど、真剣に二人で話すことは今回が初めての事。
だから余計に緊張するわ。
はぁ⋯⋯。
溜息は良くないけれど、出てしまう。
「ステラ様、緊張しすぎですよ」
「モニカから見てもやっぱり緊張しているように見える?」
「えぇ。ステラ様が陛下に何をお話ししようとしているかは分かりませんが、血のつながったお父様ですので、そう緊張されることはありませんわ」
「そうなのだけれどね。今日みたいに真剣なお話をするのは初めてですもの。父としてではなく、陛下としてのお考えをお伺いするので、やはり緊張するわ」
「なるほど、それでそのように緊張されているのですね」
モニカは納得したのか、頷いていた。
けど、ここにモニカがいてくれてよかったわ。
少し話をしただけでちょっと緊張が解れた。
そこへお父様がいらっしゃったと声がかかったので、私は立ち上がりお父様をお迎えする。
「おはよう、ステラ。待たせてしまったか?」
「おはようございます、お父様。いえ、私も今来たところですわ」
「そうか。立ち話もなんだ、座りなさい」
「はい。失礼致します」
お父様の勧めでソファへ掛けると、モニカがお茶の準備を整え終えると、お父様は皆に下がるよう手を振った。
「二人きりの方がいいだろう。早速だがステラの話を聞こうか」
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