125 子供達の旅立ち
翌日の朝、朝食を終えたくらいに伯父様が私を迎えにいらっしゃったので、私は伯父様と共にシベリウスの邸に戻り離れに来ていた。
子供達にこれからの予定を説明するためだ。
昨日決定した事を分かりやすく説明すると、それはもう目に見えて嬉しそうで、そして安心したのか泣き出す子もいた。
知らない場所にいて本当に帰れるのかも分からない状態では不安で仕方ないものね。
彼らの喜ぶ姿が見れてよかったわ。
私の説明が終わったら、お養父様がその後を引継ぎ説明をすると、最初の頃とは違いそれはもう真剣に話を聞いていた。
出発は明日の朝、少し早い朝食を食べた後に冒険者に扮した騎士とシベリウスを拠点とする冒険者達と共に出発する事となった。
今日のお昼にはシベリウスから冒険者達と騎士達がここに集まってくる。
当日顔合わせより先に顔を合わせて言葉を交わすほうが子供達も安心するだろうという理由からだ。
そして顔合わせ予定のお昼過ぎ、続々と人がこの邸に集まってきた。
シベリウスの冒険者達は知らない間柄ではないので、久しぶりに彼らの姿を見て私も嬉しくなった。
「お嬢! 久しぶりだな」
「ヴィダル! ご無沙汰しておりますわ」
「少し見ない間にさらに背も伸びてまたきれいになったな」
「ありがとうございます。ヴィダルは相変わらずですね。この子達を送る依頼を受けましたの?」
「あぁ、俺だけじゃなくエディ達もいるぞ」
ヴィダルの指示したほうを見ると、そこには魔物の大量発生の際一緒の班と共に戦ったエディ達もいた。
彼らとも挨拶をしていると王国の騎士達も、冒険者達と変わらないような格好でやってきて、お養父様に挨拶をしている。
全員揃ったところで、子供達に会う前に冒険者、騎士達其々が自己紹介をする。
それが終わると早速離れにいる子供達の元へと向かうが、私は先に皆の元へ向かって、送り届けてくれる人達が来たことを皆に伝えてから騎士達を招き入れるが、少し人数の多い大人がこうやってやってくるとやはり少し怖いのか、びくついたり、固まったりする子がいたが、今回の人選は子供に対して柔らかく接することの出来る者で実力者が選ばれているので、気さくに接して話し始めるとすぐに子供と打ち解けて和気あいあいと話が出来ていた。
この分だと明日の出発も、その道中も問題なさそうなので安心する。
既に誰がどの子を担当するか、決まっているようで、其々の担当の子達との交流も行っている。
中にはお菓子等を用意して来た人もいたようで、とても盛り上がっていた。
やはりお菓子の威力は絶大で、子供達の目もキラキラと輝いていて、とても嬉しそうだ。
初めて会った大人達とここまで子供達が楽しそうにしているのを見ると、まだ今回の事件から日は浅いけれど、心に重く残ってしまうのではと心配したけれど、それも大丈夫かもしれない。
ずっと怖い思いを残したまま過ごすのは精神的にも良くないので、今日の笑顔を見るとほっと出来る。
今日はこのまま騎士や冒険者達はこの離れに泊まる事となっているので、夕飯も皆で楽しくいただき、明日の朝は少し早い出発となるので子供達は早くに就寝した。
大人達は明日からの道程の確認等を行い、最終準備をしてから眠りについた。
そして翌日の早朝、子供達も寝坊することなく早く起きだして朝食を頂く。
勿論私も皆を見送るために早くに起きた。
出発の時間が迫ると、皆が庭に出て集まってきた。
子供達はちょっと緊張の面持ちで他の子達とお別れの挨拶をしていた。
攫われたというとても怖い経験をし、短期間ではあったけれど一緒に過ごしたこともあり、やはり別れは寂しいようだ。
そんな子達を周囲の大人達は微笑ましそうに温かな目で見守っていた。
お養父様は各責任者達と最終確認を行っていて、それが終わるとそれぞれの班に分かれ、子供達に話しかけた。
「おはよう。皆よく眠れたかな?」
「「「おはようございます!」」」
「元気みたいで安心したよ。待たせてしまったけれど、今日はようやく皆を親御さんの元へ向けて出発する日となった。皆を送ってくれる者達は信頼して頼っていい。安心して守ってもらいなさい。何か問題が起きたら遠慮なく言いなさい。親元へ戻ったら、怪しい者達には気を付けるように、自分の身を守れるように強くなりなさい」
「「「はい!」」」
皆とってもいい返事でそしてお養父様のお話をよく聞いていた。
「シアも皆に何かないかい?」
「えっ? そうですね。皆さん、少しの間でしたがお話が出来て楽しかったですわ。皆さんがお父様、お母様の元へ無事に戻られる事を祈っております。元気に過ごしてくださいね」
「あの! シア様。辺境伯様。 本当にありがとうございました!」
「「「ありがとうございました!」」」
そう皆でお礼を言われた時、無茶をしたけれど、頑張ってよかったとそう思えた。
お養父様も普段そんなに微笑まないけれど、今はとても穏やかなお顔をされていて、お養父様も子供達が心を開き、以前よりも少し強く、前を向く姿勢に安堵されたのかも。
「さぁ、そろそろ出発の時間だ。子供達を無事に親元まで送り届けるように。道中の無事を祈る!」
「「「はっ!」」」
お養父様のお言葉の後、国外の、ヴァレニウス、アルバネーゼ、ゼフィール、リアン共和国の子供達は一旦グランフェルトの其々の近い国境まで一気に転移での移動となる。
ヴァレニウス、アルバネーゼの子達はシベリウスへ、ゼフィール国の子はセイデリアへ、リアン共和国の子はフリデールへ順次転移していった。
国内の子達は皆王都の子達ではないので、各領へ送るのだが、この邸からだと目立つので、一旦王都の外まで転移し、そこから移動となるので、やはりこちらも転移して行った。
「無事に出発したな」
「そうですね。皆さん無事に着くといいのですけれど」
「楽観は出来ないが実力者揃いだ。後は彼らを信じるだけだよ」
「そうですわね。⋯⋯なんだか一気に静かになってしまいましたわね」
「そうだな。寂しいかい?」
「いえ、やっと皆さんを親御さんに帰してあげられる、その日を迎えられたのでほっとしています」
やはり親元へ帰るまでは皆も本当の意味での安心は出来ないだろう。
まだ甘えたい年頃の子達だものね。
「シア」
「どうされました?」
「いや、シアが学園に戻るまでは私もこちらにいるつもりだ。その間に何かやりたいことはあるかな?」
「そうですわね⋯⋯」
やりたい事、というか街に行ってみたいという願望はあるけれど、まだ今回の件から日も浅い日、何があるかわからないから言えないわね。
邸内だと出来ることも限られるのだけれど⋯⋯。
「お養父様、折角ですので稽古をつけていただきたいですわ」
「それはいいけれど⋯⋯私としてはもっと違う事を期待していたのだけどね」
「違う事、ですか?」
「勿論稽古もつけよう。だけど他にも何かないのかい?」
そう返されるような気がしたわ。
他に⋯⋯。
「お養父様とゆっくりと色んなお話もしたいです。この先そういった時間も中々取れなくなりますから⋯⋯」
「あぁ、そうだな。それなら今日は昼から予定がないからゆっくりと話をしようか。稽古は明日でどうだ?」
「それで大丈夫ですわ」
「この後は一度離宮へ報告に行くので、シアも一緒に行こうか」
「はい」
私達はまず離宮へ、お祖父様の元へ無事に出発したことを報告に伺った。
本当は王宮へお父様へ報告すべきことなのだけれど、この件に関しては公にはできないので、私が絡んでいるので余計になのだけれど、なので全てお祖父様経由でお父様へ報告がなされている。
お祖父様へ報告後、邸に戻り昼食まではお養父様も仕事を片付けるようで執務室へ。
私は部屋で大人しく読書をして過ごす。
昼食後、お養父様とお茶をしながら話をする。
気になっていることがあるのでそれも聞いておこうと思う。
「シア、一応一段落したので、予定通り来週頭から学園に通える。まぁシアの成績なら遅れる、という事も無いだろうけど、友人との交流は大事にしないとね」
「はい。それに交流会の事もありますしね」
「そうだな。結局シアはどれに参加するんだ?」
「私は魔法技に参加いたします」
「シアなら優勝間違いないだろうね」
「二学年の方と一緒ですし、まだ分かりませんわよ」
「分かるよ」
何を根拠に仰っているのでしょう?
だけど私の優勝を信じて下さっているのでとても嬉しく、何より交流会に参加するのはとても楽しみだわ。
優勝に関してはその日にならないと分かりませんけれど。
交流会の話から、お兄様達の去年のお話を聞いたり、お養父様達の時代の交流会の内容を教えていただいたりと、後はお父様達の学園時代のお話も聞くことができ、お義父様のお話はとても面白く、またいろんなお話を聞くことが出来てとても楽しいし、嬉しかった。
「そういえば、シアは私に何か聞きたいことがあるのではないのかい?」
「何故お分かりになったのですか?」
「分かるよ。娘の事だからね」
「お養父様には敵いませんわ」
私もまだまだだわ。
きっと顔に出ていたのね。
もっと精進しようと思いつつ、お養父様に「実は⋯⋯」と私は聞きたいことを話した。
内容としては義手や義足など、そういったものが此処にあるか、また作成可能かを聞きたかった。
だけど、あるならきっとノヴルーノにも使っているはずだし、そもそも私に説明をするはず。
だから此処には無いと仮定しているのだけど、お養父様に聞くとやはりここにはそういった物は無いそうで、それがどのような物なのかをお養父様に詳しく説明をすると、用途は分かったが作り方をどうするか。
その人に合わせて作成しなければならないと言うのと、耐久性の問題や清潔にしなければならないし⋯⋯。
私も流石に義手の作り方までは知らない。
義手を魔道具の一種として作成するのはどうだろうか。
耐久性、細かい動きなどを魔力で補う⋯⋯ダメね。
魔力の無いものは使えないわ。
それに、仮に騎士達に採用するとして、そこに魔力を使用したとして、戦っている最中も常に魔力が消費していくのでこの案は却下ね。
「作り方はともかく、その案自体は素晴らしいな。シア、義手や義足等の件は一度領の職人に伝えてみよう」
「はい、よろしくお願い致します」
いつも案を出しては職人さんに丸投げ、とまではいかずとも、本職の方に任せた方が良い物が出来るので任せっきりなので申し訳ないのだけれど、だけどこれが作成できたらかなり便利になると思うし、希望にもなる。
「そうだ。シアに報告がある」
「何でしょう?」
「以前に話していた、心に問題を抱えている人達を助ける機関の話だが、時間はかかったがようやく試験的に運用が開始される。まぁ、貴族連中が利用するかは微妙だが⋯⋯平民には利用しやすいよう工夫がされている。これがその仔細を書いた書類だよ」
「私が見てもよろしいのですか? お養父様の主導ではないのでしょう?」
「あぁ、私ではない。この件に関しては上の話し合いでアンデル伯爵が行っている。彼は穏やかな方で人のそういった機微に敏感な方なんだ。それに信頼も信用もできるから安心しなさい。勿論シアの案だとは話していない。とても可愛いくて聡明な謎に包まれた娘の案だとは話したけどね」
「⋯⋯それってかなり怪しくないでしょうか?」
「まぁ、謎でいいんだよ。シアが本来いるべき場所に戻ったら種明かしはするよ」
怪しさしかないのによく主導で動くことを引き受けましたね、そのアンデル伯爵は⋯⋯。
だけど、ここまでいうのならきっと大丈夫なのでしょう。
アンデル伯爵って確かブルーノ医師の愛弟子だったはず。
次期筆頭王宮医師。
そんな方がこの件を主導でされるなんて、お忙しくないのかしら?
疑問に思いつつも、私は渡された書類に目を通す。
試験運用だけあって場所は王都の大聖堂で場所を設けるようだった。
実際話を聞いたりするのは医学を学んだ医学者や神官が行うようで、守秘義務についても部屋は魔道具で完全に防音にし、外には一切漏れないようにしている。
勿論話した内容は管理し、再度来られた時に同じ話を繰り返し聞くのではなく、きちんと内容が分かるように徹底管理してその管理の仕方も責任者を二人に絞り且つ魔道具にて開閉をする鍵の役割持ち、保管場所も専用の部屋を設けたようだ。
勿論その小部屋の鍵も二重にし、その管理もその責任者二人のようだ。
話を聞く側の人選もアンデル伯爵自身が行う徹底ぶり。
かなり気を使っているのが分かる。
大々的に宣伝はしないものの、中には神官に話を聞いて欲しいと来訪する人達もいることからそこに決まったようだ。
ただ、試験運用が始まったら話を聞くのはアンデル伯爵が選んだ人達が対応していく。
その対応する人達の資料も中にあった。
名前や経歴、記憶でいうところの履歴書みたいな物だ。
違う点で言えば、履歴書は自身で書くものだが、これは第三者が調べた経歴だった。
それが分かるのが性格や普段の行動、言動等が挙げられる。
その詳細がどうやって調べたのか事細かに書かれていた。
だけど、かなり繊細な事案なのでこの方が安心できる。
「お養父様、ありがとうございます」
「不備はあったかな?」
「いえ、ここまで綿密に決めて頂いているならいけるかと。ですが運用すればまた改善点等は出てくるかと思いますが⋯⋯」
「そうだな。では一旦これで始動しよう」
これが上手くいき、今後浸透していって人々の心配事、人に言いづらい悩み等が改善または解決出来れば、闇の者によっての被害者や犠牲者を防げれば⋯⋯。
勿論それだけでなく、人々が少しでも心が軽く生活できればいう事がない。
生きていれば悩むことだっていっぱいあるけれど、それが軽くなるだけでも気持ちが変わるもの。
うまく軌道に乗ってくれればいいな。
「私にも状況が届くようになっているので、シアにも報告するから安心しなさい」
「ありがとうございます」
私にも進捗状況を教えていただけるようだ。
言い出したので状況は気になるものね。
お話が一段落し、明日の稽古の件について話が移る。
明日は午前中はお養父様もお仕事があるので、午後から稽古をつけていただけるようで、何がしたいかを聞かれたので、今は魔法より剣術を教えてほしいので、剣の稽古をお願いした。
魔法に比べたら全然だめだと思う。
お養父様の稽古は厳しいけれどそれだけ身になるのでお兄様達がちょっと羨ましかったりする。
私はたまにしか教えていただけなかったから⋯⋯。
明日がとても楽しみになってきたわ。
それに、明日の夕刻にはマティお兄様達も邸に戻られるのでとても楽しみにしている。
お養父様とのお話が終わり、夕食を食べた後、ゆっくり休むように私は無理をせずに明日の為に早めに眠りについた。
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次回は18日に更新致しますので、よろしくお願い致します。





