121 守られるという事
私は半数の野獣たちに向け、一気に片付けるべく先程とは違いいくつかの氷塊を想造して野獣に向けて放つ。
今は跳躍していないので野獣と言えど私の攻撃を避ける行動は取るが、私もそれをただ放っただけではない。
避ける事は分かっているので、その行動を取った瞬間にパチンッと指を鳴らし氷塊を分裂させ、細かい矢と変化させ無数の矢として野獣を攻撃した。
致命傷にならなくても流石に操られていようと出血が酷ければ動くとは出来ないのでそれを狙ったのだ。
私は残りの野獣が動かなくなるのを見届け少しホッとした⋯⋯が、それも束の間、新たな野獣とやはりラヴィラの、私達をここに連れてきた三人もこちらに現れた。
だが、この三人がここに来たという事は他の子達は無事、なのかしら⋯⋯。
「年齢の割に魔法の扱いに長けているね。ますます気に入ったよ。さて、追加の野獣と人間三人を相手に出来るかな?」
流石にまずい⋯⋯。
今までの事から今話しているのがこの中での指揮官と言ったところだろう事が予想される。
しかも一人失ったのにも関わらず、余裕のようだ。
ノヴルーノとセリニが負けるとは思わないけれど、私という護るべき主がいるのであちらに専念出来ない。
勿論防御を張っているので早々簡単に私達まで手が届かないのでその辺は安心しているだろうけれど、私としてはそれが不安である。
私に手が届かないと分かると、先ずはノヴルーノ達を消そうと動くのは安易に想像ができるし流石にそれは二人に負担がかかり過ぎる。
私が考え迷っていると、先に動いたのは敵だった。
戻ってきた三人が私達の方へと向かってくる!
私は、防御に魔法を重ね何時でも攻撃できるように細工をする。
だが、急に方向転換し、影達の方へと攻撃対象を変え、後ろから襲う形になる!
『二人共! 後ろに気をつけて!』
私がそう二人に注意を飛ばしながら三人に向かって攻撃魔法を放つ!
そちらに気を取られた形で、野獣はこちらに向かってくるが、私は先程防御に重ねた細工を発動させると、体当してきた野獣達を片っ端から凍らせていく。
私が三人に放った攻撃は奴等は躱されたが、私は自ら張った防御魔法から外に出た。
勿論中にいる子供達のために張り続けているが、ノヴルーノ達の負担を減らすためだ。
子供達には一言「決して動かないように」と伝えておく。
やはり私が外へ出たのが分かると二人が私の元へと襲いかかってくる。
私は隙かさず双剣に魔法を纏わせ直ぐに攻撃に転じれるよう構える。
『なっ、何をなさっておられるのですか! いけません!』
『貴方達にばかり負担はかけられない』
あちらはあちらで手は離せないでしょう。
私は私の出来る事をするだけよ。
これでもずっと伯父様やお祖父様達から指南して頂いているのだからそう安々とやられるつもりは無い。
これぐらい対応出来なくては合わせる顔がないわ。
私は相手の動きを冷静に見ながら身体の動きを変える。
敵の一人が真正面から向かって来てた為、私は相手の距離を図りつつ、魔法を纏わせた双剣を敵めがけて抜き放つ!
今は水と風魔法しか使っていない為、剣には風魔法を纏わせていて私が双剣を抜き放つと同時に二振りの鋭い風を伴った風刃が敵の一人を襲い、そのまま絶命した。
その後、もう一人が攻撃をしてきたが咄嗟に防御を張り食い止める。
がそこへまた新たな野獣が現れた。
――一体どれだけ操っているの!
そう声に出して叫んでしまいそうになるのをぐっと我慢しつつ、本当にどんどん湧いて出てくる事にうんざりするが、集中を切らすわけにはいかない。
私は、もう一人のラヴィラの者を相手にしながら距離を取りつつ野獣の動きにも注意を向ける。
ノヴルーノ達もラヴィラの者を一人倒したようだったが、闇の者が厄介なのか、傷を負わせているようだったが、奴等の勢いは全く衰えていない⋯⋯。
それにとてもよくない感じ、不気味な程余裕な様子が気になる。
不安を掻き立てるように笑みを浮かべているのがより一層不気味だ。
だが今私がすべき事は目の前の敵に集中する事。
野獣には魔法で追尾も合わせて想造して放ち、目の前のラヴィラの者を迎え撃つ。
ただの剣技だけなら圧されるが、上手い具合に魔法を駆使しながら相手取る。
何度か打ち合い、私は敵の隙きを見逃さずに隙かさず魔剣を叩き込む!
⋯⋯が敵が崩れ落ちた瞬間、目前に闇の者が現れ、私は咄嗟に防御を展開しようとしたが、間に合わない!
衝撃と迫る痛みに耐えるように思わずぎゅっと目を瞑る⋯⋯。
だが、来るはずの衝撃と痛みが無く、代わりに聞こえてきたのはくぐもったノヴルーノの声だった。
私ははっと目を開けると、私を庇って左腕に深く突き刺さった短剣が見えた⋯⋯。
『ノヴルーノ‼』
『ぐっ⋯⋯姫様はお下がり、ください。今⋯⋯私に触れませんよう、に⋯⋯』
『だけどっ!』
よく見ると短剣からはどす黒い悪意を感じる。
呪術のようで、とても気味の悪いものを纏いながら何か文字の様なものがノヴルーノの腕を締め付けている。
そちらに気を取られていると更に私達目掛けて襲いかかってきた!
私は防御を張るが、目の前には見慣れた背中が現れた。
『アステール!』
『遅くなり申し訳ございません』
『アステール、ノヴルーノが!』
一瞬ちらりとノヴルーノを見るが、アステールは敵に向き直った。
『姫様、後少しで辺境伯が来られます。それまではご辛抱ください』
やはり伯父様がいらっしゃってるのね!
これで子供達も大丈夫。
それよりも今はノヴルーノよ!
呪術が彼の腕を蝕んでいるのは見て分かる。
だけど私にはそれがなんの呪術なのかが分からない⋯⋯。
呪術は分からなければ下手に触ると取り返しのつかないことになる可能性もある。
だから早く専門家に見せる必要があるのだ!
アステールとルアノーヴァの二人が来たことにより三対二となった事で、奴等は少し焦りを見せ始めた。
『ノヴルーノ! しっかりして』
『⋯⋯これは、呪術です。それもかなり強力な、もの⋯⋯』
ノヴルーノにも解けないのね⋯⋯。
どうしたらいいの⋯⋯。
下手な事は出来ないけど、このままにしておくことも出来ない。
呪術に関して習った時も、その呪術が何かわからない時は下手に触ると悪化させたり悪ければ即死に至る事もあると教わった。
私にはこれが何の呪術なのかが分からない⋯⋯。
無闇に時間が過ぎていき、ノヴルーノも苦痛に耐えているが、冷や汗がすごい。
あまり時間をかけるのは良くない!
――伯父様早く来て!
心の中でそう叫ぶと、聞き慣れた声が耳に入り、それだけでなく、多くの騎士達が近づく音も聞こえた。
「シア! 遅くなってすまない!」
「お養父様!」
私は焦りから悲鳴のようにお養父様を呼ぶ。
「怪我は?」
「私は、大したことありませんわ。けど⋯⋯」
お養父様達が来たことでアステール達は姿を消した。
今はお養父様達が闇の者と対峙している。
『アステール、直ぐにノヴルーノを連れ帰って治療して!』
『姫様のお側を離れるわけにはいきません』
『私の近くにはセリニとルアノーヴァがいるから大丈夫よ。それにお養父様達もいるわ。だからお願い』
『ですが、闇の者を相手に⋯⋯』
『命令です! 今すぐに連れて行きなさい!』
『⋯⋯畏まりました。ですが、姫様は御自分の身を守ることだけをお考え下さい』
『分かったわ⋯⋯』
私がアステールに命じていると、お養父様は容赦なく闇の者を追い詰める。
一人を倒し、あと残り一人。
お養父様と騎士達が追い詰めるが、不気味に微笑んでいる。
「後はお前一人だ。大人しく捕虜となるなら命は取らない」
「ふふっ、今日はこちらが分が悪いようですね。まさか助けが来ようとはね」
「当たり前だ。大事な娘を拐かされて助けに来ぬ親などいない」
「いや、こんなに早く助けに来たのも、貴族が助けに来たのも貴方が初めてですよ」
「娘をお前達のような愚か者に好きにさせるはずがないだよう。此処でゆっくりと話に興じるつもりはない」
お養父様はそういうと即座に攻撃を仕掛ける、が避ける素振りがない。
一体どう言うつもりなのか⋯⋯。
そのままお養父様が放った氷の魔法を載せた斬撃が敵に当たった!
「逃げられたか⋯⋯」
――えっ? 逃げられた⋯⋯?
『今日は大人しく引くけれど、また会う時を楽しみにしているよ』
そう言葉を残して闇の者は去った。
全く以て会いたくない。
だけどこの場が収まってほっとするが、下の子供達はどうなったのか?
「お養父様、階下に数人の子供達が囚われています!」
「それなら心配ないよ。騎士を残して、今頃は保護している。安心しなさい。それよりも⋯⋯」
お養父様はそう言いながら私に近づいてくると、怪我がないか確認をし、大きな怪我がないと分かりほっとしたようにぎゅっと抱き締めてくれた。
「ご無事で安堵致しました⋯⋯」
「心配をお掛けしてごめんなさい。助けに来て頂いて感謝します」
私はかなり緊張をしていたけれど、やっと力が抜けた。
お養父様は騎士達に指示を飛ばし、子供達の保護と現在地がラヴィラ国内と言う事もあり、早急にグランフェルトに戻る必要がある。
今回の事はラヴィラとしても国内で起こった事が公になるのは困るのでこの件には関わらないようだ。
まぁラヴィラというよりも、この地を治めている領主の意向ということだ。
早い話、自領でこのような事があったとなると、それは大きな責任問題という事になる。
そこを突かれたくない領主とグランフェルトの貴族が攫われたのを公にしたくないこちらの意向が一致した結果、領主はお養父様や騎士達が動くのを容認する形となり、救出後は速やかにグランフェルトへ戻り、今回の件についてはラヴィラには責任追及をしない事になった。
勿論、責任追及はしないが、私達はさらなる警戒が必要な事を今回の件で再確認したわけだが⋯⋯。
後子供達は一旦グランフェルト預かりとするようで、落ち着いたら子供達から話を聞き、その後はきちんと親元へ帰す算段をするという。
まだお養父様のお考えなので、勿論親元へは帰すが今回の件をどこまで理解していて、そのまま帰して害意をもたらさないか、後のことを考えないといけない。
下に残っていた騎士達は、子供達と共に先にグランフェルトに戻ったとの知らせがこちらに届き、周囲を見回り、物的証拠等を、闇の者達への手掛かりになるような物が無いかの確認していた騎士達もこちらに集まってきた。
詳しい話は後にして、私達も転移でグランフェルトに、シベリウスの邸へと帰ってきた。
私はお養父様の指示で先に離宮の、お祖父様の騎士達と共に離宮へ転移する。
もう明け方という時間帯だけれど、部屋へ案内されるとそこにはお祖父様達が寝ずにいらっしゃって、私を確認すると険しい表情からほっとした、安心した表情を見せ、お祖母様は涙を見せていた。
「お祖父様、お祖母様。この度はご心配おかけしました事、申し訳ございません」
「いや、無事で何よりだ」
「よく顔を見せて頂戴! あぁ⋯⋯本当に無事で良かったわ」
私はお祖母様に抱きしめられた。
その後すぐに話をするのかと思いきや、一度ゆっくりと休むように言われ、モニカとエメリと共に部屋に戻りゆっくり湯に浸かり、寝室へと押し込まれた。
モニカにも大分心配をかけてしまったので大人しく寝室に、ベッドへと入る。
ただ、私はノヴルーノの事が心配で寝付けなかった。
気配を見てもアステールはまだ戻っていない。
私は体を起こして不安を吐き出す様に一息付く。
「セリニ、ルアノーヴァ」
私は側にいてる二人を呼ぶとすぐに私の前に姿を見せた。
「姫様、この度は事前に防ぐ事が出来ず、誠に申し訳ございませんでした」
「いいの。セリニ達がいてくれたから気丈でいられたのよ。ありがとう」
「私は姫様が強制転移された折、呪術に弾かれお側にいる事が出来ず影として不甲斐なく思っております。如何様にも罰をお受け致します」
「ルアノーヴァ、罰なんて与えないわ。ちゃんと私のそばに来てくれたでしょう? 私も、嫌な予感がしていたにも関わらず避けることができなかったもの⋯⋯」
本当に情けないわ⋯⋯。
何が起こるか、分からないと言うのはあるけれど、もうちょっと警戒しておくべきだったのよ。
「二人共、今回の件でまた更に狙われるかもしれないわ。だからこれからも宜しくね」
「勿論でございます。我々は姫様の影。御身を必ずお守りいたします」
「ありがとう。⋯⋯それで、ノヴルーノは大丈夫なの? 何か聞いてない?」
「⋯⋯申し訳ございません。我々にもまだ知らされてはいません」
「姫様、先ずは御身を休めてください。お起きになられたら何か分かっていることでしょう」
「様子を見てきて、とお願いしても⋯⋯」
「今はその命は聞くことは出来兼ねます。姫様の周囲を手薄にするわけにはいきません」
「⋯⋯分かっているわ」
「今はお休みください」
心配で直ぐに眠れる気配はないのだけれど⋯⋯。
モニカと同じくセリニ達の心配も伝わってくるので、とりあえず目は瞑る。
だけど、今日の出来事を振り返ると、もう少し上手く立ち回れたのではないかと、ノヴルーノにあんな怪我をさせなくて済んだのではと考えてしまう。
自身の未熟さを痛感した。
いくら護衛で私の影だからと言っても一人の人間で感情もあって、誠心誠意私に仕えてくれている。
それが私のせいで怪我をさせるのはまだ心では納得できない。
頭では分かっている。
それが彼らの仕事で私の代わりに傷を負うことになろうとも⋯⋯分かってはいるのだけど、それを目の当たりにすると心が揺れる。
心穏やかじゃいられない。
はぁと重いため息をつくと花のとてもゆったりとできる様な香りがふわっとした。
私は「エストレヤ⋯⋯」と呼び掛けたつもりだったが、声にならず夢へと旅立った。
「エステル、愛しい娘。ゆっくりおやすみ」
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次回は、21日に更新予定です。





