118 親睦会
生徒会室に入り、皆様に挨拶をする。
まだ全員揃ってはいないので、私とレグリスは全員揃うまでの間、先輩方のお仕事をお手伝いしながら二年にあがった時の為に覚えていく。
暫くして全員が揃ったので交流会の話が始まり、まず始めに交流会別対抗試合の説明がされた。
勿論生徒会も参加はするのだけれど、生徒会はまぁ成績優秀者の集まりなので、少しばかり参加に際しての決まりがあるらしい。
対抗試合は三種目の総合得点で争うのだけれど、その三種目に誰が出るかはその社交会内で決めれるが、生徒会だけは相手側からの指名制でその場で決まる為、誰が出るかはその時にならないと分からないとので特にそこを決める必要はないみたい。
今日しなければいけないのは、今朝記入した用紙の仕分けだ。
学年別、種目別に先ずは分けて人数の確認を行い、未提出、記載されていない者がないかの確認も併せて行う。
そこから二学年ずつに纏め、どの種目が計何人参加なのか、人数を記載していく。
今日はこれをまとめて終了し、来週からは去年までの内容を確認しながら今年はどのような内容にするかを決めていく。
流石に来週からは顧問のハセリウス先生も必ず来られるみたい。
来週からの予定も決まり、明日のお茶会の時間の確認をして今日は解散となった。
私はマティお兄様達と一緒にシベリウスの邸に帰り、ゆっくりと過ごす。
夕食をお兄様達と楽しく話しながら頂いた後に部屋に戻ってきたのだけれど、時間が経つに連れて何となく違和感、というか何かもやもやというか少し不安を感じた。
明日のお茶会に不安を感じる要素はないのだけれど⋯⋯。
ただ、今までも同じ様に感じた事がある事なので、考えすぎるのは良くないけれど、何かあるのでは、考えてしまうのは仕方ない事。
『姫様、何か気になることでもございますか?』
『気になる、というか少し不安、言葉にするのは難しいのだけど⋯⋯』
『何かを感じていらっしゃる?』
『そうね、そんな感じね。今までに感じた事があるのと同じようなものよ』
『姫様のその感覚はよく当たりますので、我々も警戒を強めます』
『お願いね』
何も起こらなければいいのだけれど⋯⋯。
取り敢えずノヴルーノには伝えたので負担を増やしてしまうのは申し訳ないけれど、私自身も警戒を怠らなければ、もし何か起こったとしても防げるかな。
⋯⋯いえ、そんな簡単にはいかないわよね。
勿論影達を疑っているとかではないのだけれど。
レイ様達の話を聞く限りではそう簡単ではないわよね。
まだ私の予感だけで、私に何かあるのか、それとも他の誰かかもしれない。
今考えても分からないし、寝不足になっても良くないから早く寝て明日に備えよう。
私はいつも寝る時間よりも早めに休むことにした。
そして翌日。
やはりどこかすっきりとしない気分で目が覚めたけれど、今日はラグナル様のお邸で親睦会があるのでとりあず準備をする。
何時もより少し早いお昼を頂き、モニカに準備を整えてもらって、お兄様達と共に向かう。
フェストランド侯爵邸に着くと、ラグナル様が出迎えてくれた。
「ようこそフェストランド邸へ」
「ごきげんよう。お招き頂きありがとうございます。本日はよろしくお願い致します」
マティお兄様が代表で挨拶をして、私達はラグナル様に礼をする。
私達は挨拶が済んだので、侍女の案内でお茶会の会場である庭園に案内される。
そこには既に会長とクラエスさんがおり、お二人で談笑していらっしゃった。
「会長、クラエスさん。ごきげんよう」
「来たね、シベリウスの三兄妹」
「ごきげんよう。三人共」
私達は会長達と挨拶を交わし、そのまま一緒に雑談に興じる。
「アリシア嬢の制服以外の装いを初めて見るけど、とても可愛らしいね」
「ありがとうございます。会長とクラエスさんもとても新鮮ですわ」
「男の服なんて代り映えしないよ」
「そんな事ありませんわ。会長もクラエスさんもとても素敵です」
「可愛らしい令嬢にそう言ってもらえると光栄ですね」
会長は言わずもがなクラエスさんもお顔立ちが整っていて平民だけれど色んな女性に人気なのだとか。
その噂通りかっちりとキメていると格好良さも一際増している気がする。
私がお二人を褒めると、マティお兄様達から鋭い視線が飛んできた。
えっと⋯⋯なんで怒ってらっしゃるのかしら?
レオンお兄様は呆れた感じでため息をついてらっしゃるし、私何かまずいことを言ったかしら。
そんな私達を見ていた会長達は面白そうに笑ってらっしゃった。
「相変わらず過保護だね、君達は」
「否定はしませんが、シアのことが心配なだけです。会長、クラエスさん、くれぐれもシアに懸想しませんように」
「いや、アリシア嬢は可愛らしいけど弁えているから安心していいですよ」
――どんな会話ですか!
「マティお兄様、クラエスさんに失礼ですわ!」
「シア、父上に言われてる事覚えてる?」
「お養父様に言われたこと、ですか?」
「そうだよ」
それって、小さい頃から言われているアレですか?
それなら覚えていますけど、今のはそれに当てはまるのかな。
普通に会話の一貫だと思うのだけど。
「はぁ。シアは相変わらずわかってないね」
「君達を見ていると、アリシア嬢に好きな人ができたら一悶着ありそうだね」
「相手がきちんとした方なら文句はないですけど、害虫が付くのは問題ですよ」
「害虫ね⋯⋯」
私を置いてけぼりにして話を進めているけれど、害虫って何?
私が首をひねっていると、レオンお兄様が「気にしなくていいよ」とこそっと話してくれた。
気にしなくていいなら気にしないでおこう。
前みたいに気になって聞いてあわあわしたくないものね。
そんな雑談をしていると、徐々に人が集まりだした。
生徒会、風紀、広報の皆様が集まる。
制服でないからガラリと印象が変わる人もいれば、そうでない人もいるので、一瞬誰か分からない方もいらっしゃった。
皆さんと挨拶をし、全員揃うのを待つ。
ほとんど揃ったところで、ラグナル様はヴィンスお兄様を伴って庭園に姿を表した。
学園の親睦会とはいえ、第一王子であるお兄様に全員揃って礼をすると、お兄様は「楽にするように」と一言。
そしてここからは生徒会次期会長であるラグナル様からお言葉が発せられる。
「本日は我が邸にお集まり頂き、ありがとうございます。今年の交流会に向けての親睦会なので、学園と同じく階級関係なしに楽しみ、これから助け合う仲間として絆を深め、今年の交流会を終了まで大きな怪我もなく無事に開催出来るよう、皆様のご助力をよろしくお願いします。さて、堅苦しい挨拶はここまでにして今日はお楽しみください」
ラグナル様の挨拶が済み、親睦会が始まった。
私達一年生は初めてのことでレグリスと一緒にいたけれど、そこにはもう二人、同じクラスのイデオン様とロベルト様が一緒にいて、ちなみに彼は風紀部に所属していて学園以外で話すのも初めてだった。
「レグリスとは教室や寮でも話すけど、アリシア様とは不思議な感じがするな」
「そうか?」
「レグリスはアリシア様とは幼い頃からの知り合いだからそうでもないだろうけど」
「まぁそれもそうか。だけど、気をつけたほうがいいぞ」
「何に?」
「シアの兄貴達、物凄い過保護だからさ、シアに寄る男は蹴散らされるぞ」
「いや、別にそういう感じで近づかないから大丈夫だろ?」
「どうだかなぁ」
「⋯⋯三人共、何気に失礼じゃない? 私で遊んでないかしら?」
「遊んでないよ、本当の事だろう」
「お兄様達が過保護なのは認めるけれど。今日その話を聞くのは二度目なの。この話はここまでよ」
全く⋯⋯お二人に何話してるのか。
私達四人はしばらく他愛ない話をしていたのだけれど、そこへお姉様方がやってきた。
「四人共、一年生だけで固まってたら駄目でしょう。親睦会なんだから」
「ごめんなさい、ティナお姉様」
「彼は確かロベルト君とイデオン君だったわね。貴方達は何に参加するのかしら?」
「私は討論会に参加します」
「私は剣技に参加します」
「ロベルト君は私と同じね」
「ルイスお姉様も討論会に参加されるのですか?」
「そうよ。私は文官を目指しているから将来に向けてはやはり討論会を選択するわ」
ルイスお姉様は武芸も秀でているので、そちらに参加されるのかと思ったけれど、文官を目指しているなら討論会への参加は納得よね。
ティナお姉様は魔法技に、ディオお姉様は剣技に参加されるそうで、観に来てね、と念を押された。
お姉様方を交え他愛ない話をしていると、今度はお兄様方がいらっしゃって更に人数が増えた。
話はやはり交流会の事で、私達に色々と教えてくれる。
話を聞くところによれば、ティナお姉様もディオお姉様も優勝候補なのだとか、毎年一、二を争っているらしい。
マティお兄様も剣技や魔法技に参加をしていれば優勝候補だけれど、お兄様曰く、色んな種目に出るのもいい経験だし、一番は魔法技や剣技に出た時の応援の女性陣が後々面倒臭いから避けた、との理由もあるみたい。
それはレオンお兄様も一緒だけれど、レオンお兄様は魔法技に出るとの事。
ちなみにヴィンスお兄様は剣技に参加されるようだ。
一、二年の剣技は同じくトーナメント制だが、一年はまだ実技の授業がないので参加する生徒は少ないが、魔法技は三、四年からトーナメント制だが、一、二年はどれだけ魔力操作に長けているかを争う事になる。
そして、その判定は先生方は勿論、観戦している生徒も判定に参加できるそうだ。
先生達だけではなく、観戦する生徒達の心も掴まなければまならないので、結果が出るまではどうなるかは分からない、というのも魔法技の楽しさでもある。
乗馬は障害物を超えたり、その正確さと速さを競う事で、いくら速くても障害物をきれいに越えられなかったり、上手に乗りこなせていなかったりすると減点対象となる。
勿論落馬は論外。
魔道具に関しては、来週中に発表される各競技参加リストを見て、数人で魔道具を制作してもいいし、勿論一人での参加もありなのだが、再来週には一人参加か数名で組むのか提出しなければならない。
そして更にその次の週までにどのような魔道具を制作するのかを提出し、交流会当日にお披露目となる。
討論会も発表される参加リストを見て自分達で組を作り提出が必要で、
これらも、再来週中には学年により言語と主題が発表される。
ダンスもパートナーを決めなければならないので、これも同じく要提出で、組を作る種目は、二学年混同でも問題はなく、必ずしも一年は一年生だけで組まなければならない、と言うことはない。
誰と組むかもこの交流会の意義のひとつだ。
社交会別対抗試合の内容自体は再来週までに各社交会で何がやりたいか決められた内容から三種目投票し、最も多い種目を争う。
そして、私達生徒会は参加する人選は当日指名制となるので応援だけになるのか、はたまた指名されて参加するのかは当日のお楽しみだ。
いつの間にか先輩方も交えて詳しく教えて貰い、交流会が近づいているという実感が湧いてくると共にお兄様達の格好いい姿を観れるのが楽しみで心が躍る。
交流会の話の後は、それぞれの趣味や特技の話に移り、生徒会、風紀、広報の人達が入り交じり楽しく過ごす。
話は段々と恋愛話にと発展し、話を聞いていると上級生の皆様は大体婚約者がいらっしゃるようで、どうやって出逢ったのかや皆興味津々で聞いていた。
そうしたらやはり私達にも話は回ってくるわけで⋯⋯。
「一年生はどうなんだい? 学園にも慣れた頃だろうし他に目を向ける余裕が出てくる頃だろう?」
「私は特に何もありませんわね」
「私も右に同じく」
「二人に同じです」
「「「つまんないなぁ」」」
どこの世界でも恋愛話は楽しいようだ。
「三人はアリシア嬢の事はどう思ってるんだい? 同じクラスにこんな可愛い子がいるのに」
「ただの親友」
「友人です」
「右に同じく」
「ほんとかなぁ?」
「「「本当です」」」
と風紀の、ロベルト様達の先輩方からのからかいのお言葉。
私を巻き込まないでほしいわ。
「ちなみにアリシア嬢は三人の事をどう思ってるんだ?」
「三人共クラスメイトで大事なお友達ですわ」
「ふむ、アリシア嬢は誰か想ってる人がいるのかな?」
「いえ、おりませんわ」
「ふぅん? 私の感ではいそうな気がするんだけどね」
何、この人!
私、顔にも態度にも出していないのに鋭い!
ちょっと怖い⋯⋯。
「そこまで! シアでからかうのは止めてください!」
「レオンの言う通り、私達の大事な妹で遊ぶのは見過ごせないな」
「おや、アリシア嬢は大事にされてるんだね」
「ハンネス君、アリシア嬢で遊ぶのは止めたほうがいいよ。妹至上主義の兄達を敵に回してしまうよ」
「それは怖いですね」
そう会長は釘を差した。
ちなみにハンネスさんは平民で、ギルド王都本店のギルドマスターのご子息らしく、かなり油断ならぬ性格をしているらしい。
そしてマティお兄様と同じクラス。
「マティアス様はあんなにモテて選びたい放題なのに誰もいないのも不思議だよねぇ?」
今度は標的をお兄様に絞ったようで、マティお兄様対ハンネスさんになっていた。
お兄様はさも面倒臭そうに相手をしていて、あんなお兄様を見るのは新鮮で、だけどやっぱりお養父様とよく似ている。
二人のやり取りは周囲を呆れさせていたが、なんだかだで仲がいいのかしら?
暫く聞いていると段々と話の方向性が変わってきて、ハンネスさんが余計な一言を仰った⋯⋯。
「マティアス様との言い合いは楽しいですね! あっ、妹君であるアリシア嬢と婚姻すれば兄弟になれますね! そしたら今後も楽し⋯⋯」
「ハンネス、巫山戯るのはそこまでだ。シアはお前にはやらない。次に余計なことを言えば⋯⋯分かっているよね?」
暖かかったこの場が一気に冷えた!
それはもう寒すぎて凍えるくらい⋯⋯。
ほんとにマティお兄様の怒り方がお養父様そっくり。
凍える空気の中、私は恐る恐る周囲を見渡せばレオンお兄様も笑顔のまま怒っているし、ヴィンスお兄様に至っては、表立って何も言えない分表情からは分からないけれど、機嫌が悪いのは見て分かる。
他の先輩方は馬鹿なやつと呆れた表情でハンネスさんを見ている。
「マティお兄様、落ち着いてくださいませ」
「シア、あぁ、ごめんね。だけどシアと婚姻したいとか巫山戯る事を言うハンネスが悪いんだよ。可愛い妹にあんな根性の曲がった者は不釣り合いだから、シアも気をつけてね」
「はい、気をつけます」
私はお兄様にそう素直に頷いた。
ハンネスさんはやり過ぎたとばかりに、私にも謝罪してきたので「お兄様達で遊ばないでください」と伝えておいた。
一瞬ひやりとしたけれど、それからは和やかに親睦会が進み、いつもの事ながらレグリスとディオお姉様がまたからかわれていたり、先輩方の今までの交流会での活躍ぶり等を聞いているとお開きの時間になり、お兄様達と共に皆様に挨拶をして、邸を後にした。
親睦会の最中は特に何も感じていなかったのだけれど、帰り際になりまた不安に襲われる。
私じゃなくて誰かに何かあるのかな⋯⋯。
ヴィンスお兄様は何事も無く王宮に戻ったかしら。
『ルアノーヴァ、お兄様が無事に王宮に戻られたか確認してくれる?』
『殿下にも影が付いておりますので心配はないかと』
『それでも、気になるの』
『ですが姫様の護りを手薄にするわけにはいきません』
『今はマティお兄様とレオンお兄様はがいるから大丈夫よ。だからお願いできる?』
『⋯⋯畏まりました。確認してまいります。けっしてお二人の側を離れませんように』
『分かったわ。ありがとう』
何事もなければそれでいいわ。
ただ、確認しなければ余計に不安になる。
「シア? どうしたの?」
「レオンお兄様⋯⋯いえ、何もありませんわ」
「何もないって感じじゃないよ、何か気になることがあるんだね?」
そう確信しているような話しぶりだ。
当たっているのだけれど、心配は掛けたくないのよね。
だけど⋯⋯。
「⋯⋯少し、何か起こるような、そんな感じがするのです」
「シアの感はよく当たるから、気になるね」
「親睦会中はどうだったの?」
「特にそこまで気にはなりませんでした」
「もう少しで邸に着くから、着いたらシアは私達と共にいる事、いいね?」
「はい、お兄様」
そう話している内にシベリウスの邸に着いたので、お兄様達が馬車を降り、私も続いて降りようとしたその時、急に視界が暗転した⋯⋯。
遠くでお兄様達が私を呼ぶ声がしたけれど、答えられることなくそのまま意識が遠のいた⋯⋯。
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