117 種目決定
休日明けの本日は、交流会の種目の投票日。
投票場所は各学年の入口と校舎へ入る広場に設置されていて、広場は先生が二人と広報部の人達が立っている。
彼等は混み具合で各学年の入口に設置されている投票場所へ誘導しているようだ。
私は図書室に行きたかったので早めに登校した為、広場で先生方に挨拶後早速投票するが、いつもこの時間帯は人が少ないけれど、今日は多くの生徒達が投票所で和気藹々としており、やはり交流会に向けて浮足立っているのか楽しそうにしている。
私もお兄様達にお話を聞いていたので、交流会をとても楽しみだ。
投票後はいつもと同じ様に図書室へ行き借りる本を選ぶ。
今日は物語ではなく、ラヴィラについてもう少し知識を入れておこうと、関連した本を探す。
最近はよくこの場所で会長に会うのだけれど、今日もやはりいらっしゃって、すでに本を読んでいた。
「おはようございます」
「おはよう、アリシア嬢。今日も早いね」
「会長もお早いですわ」
「今日は何を借りるのかな?」
「今日は他国の事についての本にしようかと思っております。会長は⋯⋯ラヴィラの本を読んでいらっしゃるのですか?」
「あぁ、これ? そうだよ。年明けから本格的に宮廷で働くことになるからね。復習も兼ねて色んな国の事を再勉強してるんだよ」
確か会長はお兄様の側近の一人で、既にその手腕を振るっているとお兄様にお聞きしたことがあるのだけれど、こうして常に勉強をされている事に驚く、というより尊敬に値する。
「まぁ父上の期待を裏切るわけにはいかないし、多くの知識はヴィンセント殿下の助けになるからね」
「会長は将来、宰相を目指すのですか?」
「そうだねぇ。一応?」
「一応、ですか?」
「今は殿下の側でお支えしたい、と言うのが一番かな。まぁ将来父上の跡をついで宰相になるにしても王族に仕えるは必須だと私は思うんだ」
やっぱりお兄様はすごい。
側で仕えたいと側近に想われるなんて。
私なんて何にもしていない。
また少し、後ろ向きな感情が表に出る。
私が少しばかり考え込んでいると、会長は話しは変わるけど、とぽつりと呟いた。
「アリシア嬢はもう少し兄達に甘えてもいいんじゃないかな?」
「え? 急に何故そのような事を?」
「いや、かなり大人びているし、遠慮しているように見えるからね。アリシア嬢の年齢だとまだ全然甘えてもいいと思うんだ。私の弟達なんてもう十五歳と十四歳なのに未だに甘えてくるよ。妹なら可愛いんだけどね」
「私もそれなりに甘えておりますわ」
「そう?」
「はい」
「多分マティアス君とレオナルド君の二人はもっとアリシア嬢に甘えて欲しいと思うけどね」
そうなのかな⋯⋯。
結構甘えていると思うのだけれど。
何故急にそのような話になったのかは謎だけれど、もしかしたら私が少し悩みを見せたことで誤解されたのかもしれない。
「さて、そろそろ教室に行かないと遅刻してしまうな」
「そうですね、では会長、失礼いたします」
「また放課後にね」
会長と別れて教室へと向かう。
やはり交流会の話でもちきりだった。
私もレグリス達に挨拶をして話の輪に加わるが、程なくして先生がいらっしゃったので授業が始まる。
授業は更に内容が、難しく、先生の指導もより厳しいものとなった。
交流会に向けてというのもあるけれど、生徒たちが浮足立って、不要な怪我をしないよう、授業も厳しくなっていた。
マナーの授業ではダンスを基本的なステップから一連の流れを習い、言語もヴァレニウス語も日常会話から更に難易度が上がり、ラフな友達同士の話し方から敬語に切り替えて学んでいく。
勿論他の教科も中期に入り更に難しくなっていった。
本日の授業が終わり、レグリスと共に生徒会室に行くと、いつもより人が多く、生徒会の面々だけでなく、風紀、広報部の面々も集まっていた。
初めて会う方々もたくさんいて、風紀、広報合わせて二十六人程だ。
中々広い生徒会室も流石にこれだけの人数だと狭く感じる。
知っている人だと、同じクラスのイデオン様とロベルト様、ディオお姉様のお兄様である、アルヴィド様だけ。
アルヴィド様は相変わらず表情が乏しく、何を考えているか全く読めない。
ディオお姉様からは無愛想で頑固で融通がきかないとの評価なのだけれど、それは変わってないみたい。
皆それぞれ話をしていた所に、パンッパンッと乾いた音が響いた。
ラグナル様が手を叩いて注目させた。
「皆さん揃いましたね。今日は顔合わせも兼ねて生徒会、風紀、そして広報に所属する皆に集まってもらいました。一年の皆は初めて会う人も多いだろうから、簡単な自己紹介を生徒会から順番に行います」
ラグナル様がそう言うと、会長から順に自己紹介をしていく。
生徒会の紹介が終わると、風紀部に移り、自己紹介が始まる。
風紀部会長のアルヴィド様の自己紹介から始まり、風紀部は生徒会と同じく十六人で同クラスのイデオン様とロベルト様がいらっしゃった。
広報部は全部で十人で、一年生が一人でAクラスの子がいた。
全員の自己紹介が終わったところで、ラグナル様から今朝の投票結果が伝えられる。
今年の交流会は、剣技、魔法技、乗馬、魔道具、社交会別対抗試合、外国語討論会、ダンスの全七種に決まったので、広報から明日生徒達が登校するときに分かるように掲示する事となっており、今週の光曜日の朝礼時にどの種目に参加するか、クラスごとに纏め、本格的に交流会に向けて始動する。
そして闇曜日はここにいる生徒会、風紀部、広報部の人達で、次期生徒会会長のラグナル様のお屋敷でお茶会ならぬ決起会が催されるので、時間等が伝えられた。
こうやって予定が沢山入るのはわくわくするし、とても楽しい。
この後は広報部は掲示のための準備があるので彼らの部屋へ移動した。
私達も今日は他にはなく、解散となった。
そして翌日の朝登校すると、種目が公開されていたのと、先生からは光曜日までにどの種目に参加するかを決めておくようにとの説明があった。
私はまだどの種目に参加するかを悩んでいる。
どうしようかなぁ。
「おはよう、シア。そんなところでどうしたの?」
「マティお兄様。おはようございます。いえ、どの種目に参加するか悩んでいるのです。お兄様はどの種目に参加されるのですか?」
「私は今回は討論会に参加するよ。シアは何で悩んでいるの?」
「魔法技が気になるのですけれど⋯⋯」
「シアなら軽く優勝できるだろうね」
「いえ、そういう事ではなくて⋯⋯」
「何か悩み事かな? 今日のお昼は一緒にとろう。そのときにゆっくり話を聞くよ。今ここで聞くような話ではなさそうだしね」
「よろしいのですか?」
「勿論だよ。可愛い妹の悩みを聞くのは兄の役目だよ」
「ありがとうございます、お兄様」
「ではまたお昼にね」
「はい」
お兄様と別れ、教室へと向かう室内は今日も交流会の話題でとても盛り上がっていた。
迷っている人もいればもうどの種目に参加するか決めている人もいる。
私は一度お兄様に相談してから決めよう。
そして午前の授業が終わり、エリーカさん達に今日のお昼は一緒できないことを伝え、教室を出ようとしたその時、廊下が騒がしくなった。
その理由はすぐにわかったけれど⋯⋯何故お兄様がここに?
「シア、迎えに来たよ」
「ヴィンセント殿下がどうしてこちらへ?」
「私が迎えに来たら駄目だったかな?」
「いえ、恐縮です⋯⋯ですが本日はマティお兄様とのお約束があるのですが⋯⋯」
「私も一緒では駄目かな?」
「そのようなことはありませんわ。光栄に存じます」
もう⋯⋯ヴィンスお兄様がいらっしゃったら騒がしくなってしまうのは無理もないわ。
それよりも何故お兄様が迎えにいらっしゃったのかしら
私はマティお兄様と二人で話すと思っていたのだけれど。
「シア、殿下だけじゃなくて私もいるからね」
「レオンお兄様も迎えに来てくださったのですか?」
「兄上に話を聞いて迎えに来たよ」
ヴィンスお兄様が来た事によって物凄く注目を浴びている。
また変な噂が立たなければいいけれど⋯⋯。
ヴィンスお兄様がいる事でいつもの食堂ではなく、学園に通い始めた当初に呼ばれて一度来たことのある個室の方へ案内された。
そこにはマティお兄様が先に待っていた。
「待たせたな」
「いえ。シアびっくりさせたね。だけどシアの話はここの方がいいと思って殿下にお話をしたんだよ」
「そうだったのですね。お気遣いありがとうございます」
「まずは座ろう。シアは私の隣においで」
そういうと、ヴィンスお兄様は私を隣へエスコートしてくれた。
ここには今身内だけなのでほっとする。
「食べながら話そうか」
お兄様の言葉で食事と私が何を悩んでいるのかをお話した。
悩みとは、魔法技に出たいなと思うのだけれど、シベリウスでも規格外だと驚かれたし、影達にも同じ年齢の子達より比べ物にならないと言われている。
それに、あまり目立つのも良くはないと思う。
そう考えるとどの種目に参加するか悩むところなのよね。
「なるほどね。シアの悩みは分かったよ。だけどそれほど気にする必要はないから出たい種目に出るといいよ」
「ですが殿下⋯⋯」
「シア、ここでは呼び方が違うでしょ」
「お従兄様」
「よろしい」
もう、誰かに聞かれたらどうするのかしら⋯⋯。
此処って防音になっているの?
疑問に思ったけれど、お兄様の事だからそんな簡単なヘマはしないでしょう。
「先程の続きですけれど⋯⋯」
「話は勿論父上に聞いているからシアの懸念も分かる。だからといってそこまで学園祭活を犠牲にすることない。シアは沢山の事を我慢しているんだから、学園生活ぐらい楽しみなさい。やりたい事をやってもいいんだよ。何かあったとしても必ず守る。私もマティ達も近くにいるし、シアにも影が付いている」
「お従兄様⋯⋯」
「相変わらず遠慮しすぎだよ。もっと我儘になってもいいのにね。どうやったらもっともっと頼ってくれるのかな、私の可愛い妹は」
十分に我儘だと思うのだけれどね。
まだお会いして間もない会長にも言われてしまったし、それほど私は遠慮しているように見えるのかしら。
私としては遠慮というより、事前に防げるところは防ぎたいだけなのだけれど、それが遠慮に見えるのかもしれない。
「それでシアは何に参加したいの?」
「一番興味があるのは魔法技で、その次は剣技です」
「なるほど。一、二年の魔法技は魔力をいかに正確に発動できるか、魔力操作を競うからそこまで懸念することはないよ。三、四年からは試合になるからより目立つけどね。剣技は一、二年も同じく試合形式だ」
「お従兄様は何に参加されるのですか?」
「私は剣技に参加するよ。レオンは魔法技だろう? マティは何に参加するんだ?」
「今年は外国語討論会に参加予定です」
「それはマティ目当ての令嬢達はさぞ残念がるだろうな。マティの雄姿が拝めないとなると」
「私の知った事ではありませんね」
ヴィンスお兄様はからかうようにそう言うと、マティお兄様は鬱陶しそうにバッサリと言い捨てた。
私もお兄様の戦うところを見たかったのだけれど、参加されないのなら仕方ないわ。
私はそう考えながらお兄様をじっと見つめていたようで、お兄様は不思議そうに私をみた。
「どうしたの?」
「あっ、ごめんなさい。ちょっと考え事をしていたので⋯⋯」
「話してごらん?」
「いえ、大したことではないのです」
「シア? さっき話した事、もう忘れたの?」
「⋯⋯ただ、マティお兄様のかっこいい姿が見られないのが少し残念なだけですわ」
お兄様に見つめられて思わずぽろって本音が出てしまった。
「やはり剣技に参加しようかな」
「え? あ、いえ! 私が見たいだけですし、シベリウスでも見れますもの。お兄様はやりたい事をなさってくださいね」
「シアは気にしなくていいよ。決めるのはマティだ。皆シアには弱いからな」
「否定はしませんよ」
レオンお兄様もマティお兄様の言葉に頷いていた。
私、余計なこと言ってしまったわ。
マティお兄様は本気で参加種目を変えそうだもの。
お兄様方は私に甘すぎだわ。
⋯⋯だけど、格好いいお兄様達を拝見で出来るのは嬉しいのも事実だし。
あっ、討論会に参加したとしてもマティお兄様なら話している姿も格好良いと思うわ!
私も大概お兄様達には弱いよね。
「さて、そろそろ休憩も終わりだな。話を戻すけど、シアは考えすぎずにやりたい事をやりなさい。魔法技に出たいと聞いて、私は初めてシアの魔法を近くで見られるからとても楽しみにしているんだよ」
「お従兄様⋯⋯ありがとうございます」
「いいよ。学園ではシアと触れ合う事を自制しているからね。嬉しかったよ。マティ達にも感謝する」
離宮ではお兄様にたまにお会いしているけれど、学園でこうやって会って話す事を極力減らしているから、マティお兄様達は機会を作ってくださったのね。
お兄様達の優しさがとても嬉しい。
「どうしたの?」
「マティお兄様、レオンお兄様。ありがとうございます」
「シアが喜んでくれたなら私達も嬉しいよ。午後からの授業も頑張ってね」
お兄様達との昼食を終え、午後からの授業に向かう。
話をした事で少しすっきりとし、懸念は残るものの、やはり学園祭活を楽しみたいと言う事もあり、魔法技にしようかな。
まだ光曜日まで日はあるし、もう少しだけ考えてもいいかもしれない。
それから数日が経ち、光曜日を迎えていた。
教室内で私達はどの種目に参加するかの記入を行っていた。
あれから少し悩んだけれど、モニカや影達もお兄様達と同じ意見で私が参加したい種目に参加したらいいと、何かあったとしても必ず守ります、との影達の言葉もあり、私はやはり魔法技に参加することに決めたので、用紙に名前と参加種目を記入し提出する。
これで参加する種目は決定である。
社交会別対抗試合への参加の有無は各社交会内で決めるので、まだ期限があるのできっと今日の生徒会で説明があるかと思われる。
こうやって種目が決まると、更に楽しみが増し、それはクラスの皆も同じのようで、楽しみだという雰囲気に包まれていた。
私は魔法技もだけれど、社交会別対抗試合も楽しみの一つなので、今日の生徒会の集まりを楽しみにしながらも今日の授業を真面目に受け、放課後にレグリスと共に生徒会室へと向かった。
ご覧頂き、ありがとうございます。
ブクマや評価をありがとうございます。
今月仕事が多忙の為、遅くてすみませんが次回は23日に更新致します。
お待たせしてしまいますが、次話も楽しんでいただけたら嬉しいです。
よろしくお願い致します。