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目覚めた世界が私の生きる場所  作者: 月陽
第2章 学園生活の始まり
116/273

116 ご報告

 

 翌日、伝言をノヴルーノにお願いしお父様へお伝えして、その場で返事を貰って戻ってきた。

 お父様の言葉は、朝一で此方に来るという事、そして隠す事なく全て話すようにという怖い伝言付きだ。

 ヴァン様のことは話さなくていいよね。

 話すと何言われるか分からないわ。

 お叱りを受けるだけでは済まないかも!

 悶々と考えながら支度が整い、朝食を頂く為に食堂へ向かった。

 食堂では既にお祖父様達がいらっしゃっていて、まぁ若干機嫌がよろしくないご様子⋯⋯。

 挨拶をして席につき、ちらりとお祖母様を見れば、うん、ヴァン様の事は知られてはいないみたい⋯⋯?

 何だかどちらとも取れるような雰囲気だわ。

 あっ、やっぱり帰るのが遅くなったことか、若しくはレイ様とお会いした事か⋯⋯。

 両方の可能性もあるわよね。

 考え事をしながら食事が終わり、お祖父様達と居間へと移動する。

 お祖父様はずっと難しいお顔をされていて、何となく話しかけられない。

 何となく気まずい⋯⋯。

 そんな空気の中、お父様がいらっしゃったと、部屋に入って来た。



「おはようございます。父上、母上、それにステラ」

「おはよう。ゆっくりだったな」

「おはようございます、お父様。急な事で申し訳ありません」

「いや、だが全部話してもらうぞ」



 確実に機嫌が悪い!

 そしてどこに怒っているか分からないからどうしていいか分からないわ。

 何に対して怒っているのか聞くべき?

 それとも先に話すべきか、だけど空気が重いのを先にどうにかしたい⋯⋯。



「ステラ」

「は、はい!」



 あっ、しまった⋯⋯。

 考え事してたから返事が上擦ってしまったわ!



「何をそんなに動揺しているんだ?」

「いえ、動揺はしていませんよ。ただ⋯⋯」

「ただ?」

「お祖父様もお父様もずっと難しいお顔をされているので、それで⋯⋯」

「あぁすまない。別にステラに怒っているわけではないよ」

「そう、なのですか?」

「何だ? ステラは怒られるようなことしたのか?」

「いえ⋯⋯昨夜は精霊界から戻るのが遅かったですので⋯⋯」

「まぁそれは褒められたことではないが、精霊界で捕まっていたのだろう? ならステラのせいではない」



 では何故そんなに機嫌が悪いのでしょうか⋯⋯。

 取り敢えず話さない事には先には進まないし、機嫌が悪い原因もわかるかな。



「それで、ステラは精霊界で何を聞いてきたんだ?」

「はい。精霊女王様とゼフィール国王陛下にお会いしたのですが⋯⋯」



 私は精霊界でお聞きしたことをお父様達に報告をした。

 一応レイ様といつ知り合ったのかも伝えておいた。

 五歳の頃にお会いしたことは知っているでしょうけど、今回で三度目となるが、まぁそこは話さずにおく。 

 勿論ヴァン様と会った事は内緒である。

 話すと余計に機嫌が悪くなることは分かっているので言えるわけ無い。

 話し終えると、お父様達は更に難しい顔をしていた。



「なるほどな。ラヴィラから遠いゼフィール国にもそのように知られているのだな。あの国がきな臭いのは五年程前から言われていた事だが、大きな動きも無く静観していたんだが⋯⋯最近になって黒い噂が耳に入ってな、警戒はしているのだ。それに⋯⋯」



 そこで言葉が途切れ物凄く不愉快極まりないといった表情を、誰かを射殺さんばかりの冷たい目をしていた。



「何かあったのですか?」

「身の程知らずが、ステラを公子の婚約者にとの打診をしてきたのだ」



 レイ様の仰った通りになっていたのね。

 絶対に嫌ですわね。



「それでどうなさったのですか?」

「あまり驚かないのか?」

「レイフォール陛下がそういった事もあるだろうと仰っておりましたから」

「なるほどな。安心しなさい。あの様な公国にステラをやるつもりは無い。それに何よりも、まだ公に出ていないのにも関わらず、婚約を打診してくる当たりが怪しすぎるだろう」



 確かに。

 だけど公に出ていない私に婚約の打診なんて、本当に何故なのか、気味が悪いわね

 この国に何かするつもりなのかしら⋯⋯。



「アンセよ、アリシアの事がバレている、と言うことはなかろうな?」

「まさか⋯⋯! 学園でもヴィンスには必要以上にアリシアに関わるような事をするなと言ってあるし、此処とは転移で行き来している。シベリウス邸や学園寮で外すことなんてしていないだろう?」

「勿論ですわ。そのような、誰に見られるとも分かりませんのに外しませんわ」

「だよな。ステラはそんな迂闊なことしないだろう」



 お父様にそう言われるととても嬉しい。

 だけど、今の立場としては、アル伯父様と王姉であるオリー伯母様の養女(むすめ)という立場。

 いろんな憶測がある中の一つ、(アリシア)(エステル)だと噂もまだある。

 アリシアは遠縁の子だと五歳の頃に話ししてあるので、そこまで表立った噂ではないのだけれど、だけどまだ疑っている者達もいるのだ。

 まぁ実際は当たっているから何とも言えないのだけれどね。



「何があるか分からんからな、今まで以上に十分気をつけなさい」

「分かりましたわ」

「さて、問題のなのはその“淀み”というやつか」

「難しい問題ではあるな。王都は色んな人間が集まる場所。そして貴族達もまたこの場所にいるのだからな。色んな思惑が蠢く場所だ。淀むというのもわからなくはないからな。だが、それは今更なような気もするが⋯⋯」

「お祖父様の言う通り、今更だと思いますが、陛下はそれらの件には闇の者が関わっている可能性があると仰っておりました。エストレヤの話では昔より淀んできていると話しておりましたし、人の思いだけでそこまで変わるのは可怪しいと思います」



 五年前のラルフの件が有って以降、暫くは森や辺境領内でも実は闇の魔道具を持っていたものが見られた。

 幸い早々に解決していたから何事もなく終わっている。

 それからこの間の大襲来後なそういった事も領では見られなくなったと話していた。

 だけど、シベリウス領と王都では規模が違う。

 そしてここは国民だけでなく、貴族も大勢いる場所。

 容易く解決とはいかないだろう。



「確かにな。それにラヴィラに闇の組織が関わっているとなると、更に面倒だな」

「面倒だが、それはラヴィラ国内の話です。我々は他国に干渉は出来ないので国内で暗躍してる者達を片付けるほうが先決でしょう」

「それはそうだ。お前の事だ、話を聞きながら大体の算段は付けているのだろう?」

「買い被りですよ、父上。まぁ大体どうするかは決めましたので、宮廷(あちら)に戻り次第対応します。父上には引き続き、ステラの事を頼みます」

「任せておけ」



 お父様はそろそろあちらへお戻りになる様で、だけど結局何故機嫌が悪いのかは分からずじまい⋯⋯。



「話は変わるが、レイフォール王とはどのような関係なんだ?」

「えっ、と⋯⋯」



 それは私にも分かりません。

 関係⋯⋯なんだろう?



「相変わらず面倒くさいね!」



 急に第三者の声が響いた。

 その声でお父様達は警戒をしたけれど、私は誰なのかすぐに分かった。

 声の主は本当に面倒くさそうな声で、姿を表して表情を見ても面倒くさそうな顔をしていた。



「エストレヤ、どうしてここに?」

「久しぶりにイルとアンセの顔でも見ようかと思ってね! あっ、セリナも久しぶりー」

「お久しぶりですね」



 エストレヤってやっぱり顔が広いのかしら。

 お祖父様達は何だか疲れたようなお顔をされているわね。

 お祖母様はいつもどおりといった感じ。



「それで、私達に会って何かあるのか?」

「レインとエステルの関係だけど、ただの茶飲み仲間だよ。レインはエステルを娘みたいに心配してるのさ」

「何故、レイフォール殿はステラを心配するんだ?」

「それは心配するよ! エステルみたいな可愛くて頭の良い子は色んなところから狙われるでしょ? 特に闇に囚われたら厄介だよ。勿論僕達の愛し子を早々簡単に彼奴等には渡さないけどね!」

「なるほど。で、僕達の愛し子とはどういうことだ?」

「エステルはアウローラ様と僕が加護を与えているからだよ」

「⋯⋯それは分かっているが、何故ステラなんだ?」

「そんなのエステルだからだよ」



 それって答えになってないよね?

 お祖父様達もなんとも言えない顔をして黙ってしまったわ。

 私もきっと同じような顔をしている。

 それにしても、私まで茶飲み仲間だなんて恐れ多いわ。



「それにしてもイルはだいぶ老けたねぇ」

「せめて渋くなったと言え!」

「あははー! アンセは⋯⋯やっぱり老けた?」

「おい! 俺はまだ老け込むような歳じゃない! 訂正しろ!」



 エストレヤにかかれば、お祖父様もお父様も手のひらでコロコロっていう感じ?

 だけど、結局何しに来たのかしら。



「それで、本題はなんだ?」

「本題? 人ってしがらみとか色々と面倒でしょ? だからエステルが心配で見に来たんだ。昨夜はゆっくりエステルと話も出来なかったからね」

「何で話ができなかったんだ?」



 ちょっと待って!

 エストレヤは何を話す気⁉

 嫌な予感しかしないんだけどーーー?!



「エス⋯⋯」

「だってエステルってばヴァレンと話ししてたからねぇ」



 言っちゃった!

 何でバラすのよ⁉

 お祖父様とお父様の温度が一気に下がったわ!

 折角お祖母様が内緒にしてくださっていたのに⋯⋯。

 お祖母様は「あらあら⋯⋯」と特に何とも感じていない様子。



「ステラよ、ちゃんと話せ」

「ステラがそんな隠し事をするなんてお父様は悲しいな」



 ⋯⋯何だろう、何か違和感があるんだけど。

 思ったよりお祖父様達のお声が変わらない⋯⋯。

 もっと怒られるかと思ったんだけど、その様子もない。

 勿論機嫌が悪いのは悪い。

 ただ、今日お会いした時には既に機嫌がよろしくなかったし⋯⋯。

 あれ、もしかして私が精霊界でヴァン様にお会いした事をご存知でいらっしゃる?

 けど、それを知っているのは私の影達とお祖母様とモニカだけのはず。

 影達が話すのは無いわね。

 話すとしたらお祖母様かモニカ⋯⋯。

 と言ったらお祖母様しかいないよね?

 お祖父様達には内密にしてくれるって頷いて⋯⋯あっ!

 お祖母様はお話になっていないけど、もしかしてお祖父様達の影の仕業⁉



「お父様、お祖父様、ご報告せずに申し訳ありません」

「謝ってほしいわけじゃない。ステラのことが心配で聞いてるんだよ。ステラはヴァレンティーン王太子をどのように思ってるんだ?」

「エステルとヴァレンは番同士だよ! エステルもちゃんと認識してるよね? と言うか、昨夜ようやく気づいたんだよね」



 何てことを言うのよ!

 エストレヤは私をどうしたいの⁉

 お二人の視線が痛いわ!



「⋯⋯エストレヤの言ってる事は本当か?」

「あの、そういうふうに認識しているかと聞かれると、分からないのですけれど⋯⋯」

「ではどう思ったいるんだ?」



 あっ、墓穴掘った⋯⋯。

 その質問になりますよね。



「怒らないから話してみなさい」



 そう言ってじっと私を見つめてくるお父様。

 何を言われても耐えるかのような瞳だ。

 嘘はつけないし、下手に誤魔化すのはやめた方がいいわね。

 私は恥ずかしいのを押し殺し、諦めて努めて普通に話せるよう一度深呼吸をした。




(わたくし)は⋯⋯ヴァレンティーン殿下をお慕いしています」



 うぅ⋯⋯言っちゃった!

 恥ずかしくてお父様たちを直視できない!

 私は素直に話したのに、何も仰らないで嫌な静けさに包まれている。

 せめて何か仰って!

 とても長いような沈黙の後、二人仲良く溜息をついた。



「本気か?」

「⋯⋯ステラのそんな顔は見たくない!」

「二人共情けないね、エステルの幸せを願えないんだ? 僕はそんな事無いからね、僕はいつでもエステルの味方だし“大事な愛しい娘”だからね」



 愛しい娘⋯⋯。

 今までそんな風に言ったことないのに何故かその言葉がいつまでも心に残る。

 エストレヤが言ったこの言葉が何故ここまで気になるのだろう。

 だけど何だか不思議と懐かしいような⋯⋯。



「それで、ステラよ。本気で奴を想っているのか?」

「はい⋯⋯」

「はぁ⋯⋯全く、よりによって何故そこなんだ」

「お祖父様、何故そのように仰るのですか?」

「⋯⋯お前の様子から分かってはいたが、やはりまだ知らないのか」



 私の質問にぼそっと呟いたけれど、何と言ったか聞き取れず、首を傾げると何でもないというように手を振った。



「ステラ、何故私達が素直に喜ばないかは直接あの者に聞きなさい」

「分かりましたわ」

「ステラがあの者を想う気持ちは尊重するが、そう簡単に許すことは出来ない。それだけは覚えておきなさい」

「⋯⋯はい」



 よく分からないけれど、お父様はよく思っていない様子で声に覇気がない。


 

「そのような顔をするな。あの者が私を納得させるだけの誠意を見せれば⋯⋯そしてステラが竜族に嫁ぐ事をきちんと理解すれば、その時にまた話そう」

「はい、お父様」



 この話が一段落し、お父様達はかなりの複雑さと難しい顔を、そして若干の諦めが混ざった溜息をつき、エストレヤに向き直った。



「この話をするために来たのか?」

「レインとの関係やヴァレンとの事も過保護なアンセ達はエステルに対して厳しくするんじゃないかって思ったんだよ。だから様子見に来たんだよ」

「なるほどな」

「後はこれ、レインから預かってきたよ」



 そういと、何もない空中に一通の手紙が現れた。

 その手紙はお父様の元で止まり、手に取った。



「確かにお預かりした」

「うん、ちゃんと渡したし。あっ! 最後に忠告! 僕達の愛し子へあまり厳しくしないように! じゃあまたね!」



 言いたい事を言ってささっと帰っていったエストレヤには流石精霊、自由すぎると呆れてしまった。

 お父様達も若干疲れたような表情だ。



「ステラは厄介な者達から好かれる傾向があるのか⋯⋯」

「今更だろう、諦めろ」

「はぁ。取り敢えず王宮へ戻るが、ステラ、よく周囲には気を付けなさい」

「はい。お父様もあまりご無理なさらないでくださいね」

「ありがとう。では父上、母上、失礼します」

「あぁ」



 お父様は王宮へと戻っていった。

 お祖父様の表情はまだ渋いまま。

 やっぱりヴァン様のことが引っ掛かっているのかしら。

 一体何があるのかしら⋯⋯。



「ステラ」

「はい、お祖父様」

「先程の続きだが、本気か?」

「はい⋯⋯ですが、お祖父様達が何を危惧なさっているのかが分からなくて⋯⋯」

「その事に関しては、アンセから話した通り、ヴァレニウスの王太子に直接聞くがいい。本当は真っ先にその事をお前に話してから気持ちを話すべきだった。だが、先にステラの心を奪ったあの者をそう安々と許す事はできないぞ」



 一体何があるの⋯⋯。

 お祖父様は先程の複雑な表情の中に怒り、そして何故か少し悲しみみたいな感情が混ざっている⋯⋯。

 どうして?



「お祖父様⋯⋯(わたくし)は間違っているのでしょうか。お祖父様達が、反対なさるなら⋯⋯」

「ステラ、大丈夫よ。(わたくし)達は何も全てを反対しているわけではないのよ。ただ、肝心な事が貴女に伝わっていない事に対して懸念しているのよ」

「すまない。不安にさせたな。アクシィの言う通り間違ってはいないし、反対というわけでもない。番としか添い遂げれないという点ではお前を悲しませる事はないだろうから安心と言えば安心なんだがな。だが、話さなくてはならない事を失念しているあの王太子は順序を間違えた。この事は許し難い。だがステラも一つ失念しているな。重要な事をな⋯⋯」

「重要な事、ですか?」

「重要だがとても簡単な事だ。今はただ、あれを想う気持ちが強いのだろうが賢いお前なら冷静に考えれば直ぐに分かることだ」



 何だろう⋯⋯。

 重要なことだけど簡単なこと。

 お祖父様は直に分かると仰ったけれど、分からない。



「よく考えるといい。さて、そろそろ昼食の時間だ。行こうか」

「はい」



 答えが分からず、だけど、絶対反対だというわけでもないというお祖父様のお心が分からないままとなった事に不安を覚えた。

 ヴァン様にお伺いすれば解決するのだろうか⋯⋯。

 ただ、お祖父様達の様子を見ていたら簡単なことではないと思う。

 伯父様も同じ様な様子を見せていたし、だけどお祖母様や伯母様は積極的なような感じなのがお祖父様達とは反応が反対なのよね。

 お祖父様に言われたことは考えるとして、今度お会いしたときに聞いてみましょう。


ご覧頂きありがとうございます。

ブクマや評価をありがとうございます。

次話も楽しんでいただければとても嬉しく思います。

次回は火曜日に更新しますので、よろしくお願い致します。

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