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目覚めた世界が私の生きる場所  作者: 月陽
第2章 学園生活の始まり
109/273

109 小さなお披露

 

 翌日のお茶会当日。

 午前中の執務を昨日と同じようにこなし、少し早い昼食後、モニカやエメルに部屋に連行され、お茶会の時間までに磨かれ、いつも以上に着飾られるが嫌らしくない程度に、品があるよう整えられる。

 うん、二人の腕が良いから今日も間違いないわ。

 用意が整ったので、お祖母様が待つ部屋まで行くと、お母様と伯母様もいらっしゃり、嬉しくてついはしゃいでしまった。



「お母様! ご無沙汰しております。お会いできて嬉しいですわ」

「ステラも、元気そうで安心しました。よく顔を見せて?」



 私はお母様が私の顔に触れたり、頭をそっと撫でてくれたり、それだけで嬉しくて、だけど少し恥ずかしくて、照れてしまった。

 お母様が私を堪能した後、伯母様にご挨拶する。



「伯母様、数日ぶりですね」

「えぇ、ステラはシアの時よりもとても所作が綺麗ね。使い分けているのかしら?」

「使い分けているつもりは無いのですが⋯⋯もしそう見えるなら無意識だと思いますわ」

「あらあら。けど、無意識でもそれで正解よ。シアの時も綺麗だけれど、今のように品があり過ぎると、疑われるわ」



 伯母様に褒められて嬉しくて、今日はお母様と一緒だし、これからだけど、頑張れそうね。

 三人の顔に泥を塗らないよう、気をつけましょう。

 けれど、緊張しすぎると失敗をするので、程々に⋯⋯。

 そうこうしていると、庭園から華やかな声が聞こえてきた。

 ちなみに今日は天気がいいので庭園でのお茶会で、招待客が庭園に集まってきたようだ。

 それから少しして、侍女が全員揃ったと私達を呼びに来たので、揃って会場に向かう。

 私は一番後で、お祖母様達に付いていく。


 会場となった庭園に着くと、招待客のご婦人方は一斉に私達にカーテシーを、乱れなく行い、主催者であるお祖母様が声を掛ける。



「楽なさって」



 そう声を掛けると皆一斉に頭を上げる。



「今日は(わたくし)のお茶会へようこそ。始める前に皆に紹介したい子がいるのよ。さぁ、こちらにいらっしゃい」



 そう言うと、お母様と伯母様は少し立ち位置を移動し、お祖母様とお母様が私を皆の前に誘導すると、いつものご婦人方は驚かなかったけど、初めて会う、宰相の奥様やセシーリア様、残りのお二人方も一瞬驚きに目を見張っていた。

 が、それもほんとに一瞬だった。

 流石は上級貴族でお祖母様達の信頼を寄せる方々だけある。



「こちらは、(わたくし)の孫で現国王夫妻の娘、第一王女であるエステルよ。色んな面白い噂が飛び交っているけれど、ステラはとても元気で過ごしているのよ。そしてとても優秀なの。それを今日は自慢したくてこの場に呼んだの」

「皆様初めまして。エステルです。よろしくお願い致しますわ」



 私がお祖母様に促されて挨拶をすると、皆一斉に再度カーテシーで応えてくれる。

 私は皆様に楽にするよう伝えると先程と同じく頭を上げた。



「紹介も済んだし、始めましょう」



 そうお祖母様の開始の合図でお茶会が始まると、私達の元へ先ずは挨拶に来る。

 先に挨拶をするのはお祖母様と同年代のいつもの御婦人方。

 私も久し振りで挨拶をしていく。

 今日は王妃であるお母様も一緒なので、主催者であるお祖母様に挨拶後、お母様に、そして私に、最後に伯母様に挨拶をしていく。

 そして私は初めて会う宰相家のエドフェルト公爵夫人の丁寧な挨拶をうけ、それに挨拶を返す。

 エドフェルト公爵夫人は学園の生徒会長のお母様だ。

 会長の優しげな面立ちはお母様似ね。

 その後、ベリセリウス侯爵夫人であるセシーリア様。

 (アリシア)としては会っているが、(エステル)としては初めてなので、こちらも丁寧な挨拶を受ける。

 顔を上げたとき、少し意味有りげな視線を投げかけてきたが、私は素知らぬ笑顔で躱す。

 試されたのかしらね。

 その後、もう二人から挨拶を受けて本格的にお茶会が始まると、皆さんはとても楽しそうにお喋りと美味しいお茶に舌鼓を打ち、これはどこのお菓子なのかを、お祖母様に尋ねられる。

 それに答えながら話の輪を広げていく。

 私は初めはお祖母様と一緒にいて、後からお母様達とご一緒する事になっている。

 お祖母様が信頼を寄せる一人、ハセリウス前侯爵夫人。

 あの生徒会顧問のハセリウス先生のお祖母様である。

 なので、顧問の先生の名を聞いたときは驚いた。

 その前侯爵夫人とお話をさせて頂いて、私は頃合いを見て、エメリに合図をし、例のものを持ってきてもらう。



「ハセリウス夫人、以前仰っていたお菓子をご用意しましたの。よろしければ食べてみますか?」

「まぁ! (わたくし)が話した事を覚えていてくださましたの?」

「はい。こちらをどうぞ」



 そう私が話すと、エメルはお菓子を載せたお皿を夫人の前にそっと置いた。

 その話していたお菓子とは、苦味のあるトリュフだ。

 少し前に流行っていたトリュフはとても甘すぎて胃が持たれると話していたので。

 だけど、あの食感が好きだから苦味のある味もあればいいのにと零していらっしゃったのだ。

 なので、ここの、料理人にお願いして、苦味のあるトリュフと、少し塩気のあるトリュフの二種類を密かにお願いしていた。

 苦味や塩加減が難しかったけれど、試行錯誤して、これならいけると思ったのだ。



「あら、ステラったら(わたくし)にも内緒にしていたの?」

「お祖母様に知られたらすぐに自慢してしまうでしょう? だから内密にしていたのですわ」

「まぁ。可愛い孫の事だもの。何でも自慢したいのよ。それで、それは私達の分もあるのかしら」

「勿論ですわ。ですがまずはハセリウス夫人に食べて頂きたくて⋯⋯」

「嬉しいですわ。早速頂きますね」



 そう言うと、夫人はトリュフを苦味のあるものと塩気のものを食べ、とてもいい笑顔になった。



「これは、とても美味しいですわ。トリュフに塩気なんてと思いましたが、これは癖になりそうですわね。苦味のある方も程よいので、少し甘い紅茶にも良く合いますわ。大きさも少し小ぶりにしているので食べやすいですわね。エステル殿下、ありがとうございます」

「喜んでいただけて良かったですわ。皆様もよかったら試してみてくださいませ」



 私の言葉に、侍女たちはトリュフを各テーブルにお出しして、他の皆様方も早速食べて下さった。

 気に入ってくださって良かったわ。

 その後はお母様について一緒にエドフェルト公爵夫人方がいるテーブルへ近づく。

 本来私達王族が各テーブルを回ることなんて無いのだけれど、今日はお祖母様主催でとても気さくなお茶会なので、お母様や伯母様のご友人方ばかりなので堅い集まりではないので少し気楽なものだ。



「皆様楽しんでいらっしゃる?」

「えぇ、それはもう! リュシエンヌ様、王女殿下がご用意されたこのトリュフ、とても美味しいですわ。この見た目が可愛らしいケーキは初めて見ますが、どちらのケーキかしら」

「ふふっ、それもね、ステラの発案なの。始まる前に(わたくし)も聞いて驚いたのよ」

「まぁ! 殿下の発想力は素晴らしいですわね。見た目も可愛らしくて、食べるのが勿体無いですわ」

「リーナは本当に可愛いものが好きよね」

「本当にね」

「もう、皆様からかわないでくださいませ」



 リーナ様というのはエヴェリーナ・ダールグレン子爵夫人。

 ハンナお姉様のお母様だ。

 爵位は低いものの、ダールグレン子爵は有能で宰相の懐刀として有名なのだとか。



「やはり噂というのは当てになりませんわね」



 そうポツリとセシーリア様が零すと、周りのお三方もその通りだと言わんばかりに頷いていた。

 なんの噂?

 そう思ったけれど、私に目を向けたので、私の噂かと納得してしまった。



(わたくし)、ずっと離宮にいるので分からないのですが、どのような噂でしょう? よければ教えて頂きたいですわ」

「そうですね、最近耳に挟みましたのは、王女殿下はとても臆病で、学園にも通えないほど酷いものだとか、容姿もとても王家の血筋で無いくらい醜いとか、素行が悪いので奥宮に隠されている、というのもありましたわね。一番多いのは王女殿下はすでにこの世に居ないと言うのが一番多いですわ」

「まぁ、とても面白い噂ばかりですのね。そなようなお話がお好きな方が多くて驚いてしまいますわ。噂を流している方の前に出て驚かせて差し上げたいです。きっととっても驚いて下さる事でしょうね」



 そう私は暇人ばかりなのかと思いながらにっこりと微笑んで言うと、皆様は流石リュシエンヌ様と国王陛下のお子様だとご納得されていたけど⋯⋯どうして?



「ステラはこんなに可愛らしくて、(わたくし)の自慢の姪なのよ。そのような噂があるなんてね。料理をするのが楽しみだわ」

「伯母様、料理は(わたくし)が致しますわ」

「そうね、貴女なら自分で出来そうね」

「まぁ、お母様を頼ってはくれないのかしら」

「勿論頼りにしておりますわ。(わたくし)ではまだ分からない事が沢山ありますもの。お母様に色々と教えていただきたいです」



 ご夫人方界隈の噂話なんて、私の耳には届かないし、捌き方なんてまだまだ未熟すぎて分からないものね。

 お祖母様やお母様達から習うのが一番よ。



「ところで、殿下は学園に通われないのですか?」

「陛下のお許しがまだ出ないのよ。何かお考えがあるようで、まだ先ですわね。ただ、ステラにはずっと我慢をさせているので申し訳なく思うわ」

「お母様、(わたくし)なら大丈夫ですわ。離宮(ここ)でお祖父様を始め、お祖母様や時には伯母様や伯父様から沢山学んでますもの。我慢なんてしておりませんわ」

「オリーヴィア様はわかるのですが、シベリウス辺境伯からも学んでいるのですか?」

「えぇ。伯父様の教え方はとても分かりやすいのです」

「辺境伯はとても厳しくて容赦が無いとの評判ですが⋯⋯」

「そうでしょうか? 伯父様は時に厳しいですけれど、優しいですわ」



 そうなの?

 特にそんなふうに思ったことは無いのだけれど⋯⋯。

 普通じゃないのかな?

 皆様のお顔色が少し悪いわ。

 伯父様ってそんなに鬼畜なの?



「貴女の周囲の人達はみんな厳しい人が多いので、感覚が麻痺しているのよ。学園に入れば差が分かるようになるから今は気にしなくていいわ」

「分かりましたわ」



 まだ実技も始まっていないので、差がわからないわ。

 けど、そんなに厳しいので有名なのね。

 まぁ確かに伯父様は容赦はないと思うけれど。


 学園の話から其々のお子様方の話に移っていった。

 会長の話や、ハンナお姉様にティナお姉様やシャーロット様の事、そしてもうお一方はフェストランド侯爵夫人で、今度会長になるラグナル様のお母様だ。

 (アリシア)として皆様を知っているので、何故か陰で色々と聞いてしまったという、悪いことをしているような感覚に陥る。

 仕方ないのだけれどね。

 お兄様達の話も聞き、そして、やはりと思ったけれど、(アリシア)の事にも話が飛んだ。



「息子から話を聞いたのですけど、オリーヴィア様の養女のアリシア様はとても優秀だと息子が話しておりましたわ」

「あの子は読書がとても好きな娘で寝る間際まで読んでるくらいよ。学園でも毎朝図書室に通っていると聞いているわ。放っておくと、集中しすぎて周囲の声が聞こえなくなるので、息子達から図書室で本を読むのを禁止されたと嘆いていたわ」



 呆れたように話す伯母様。

 そこまで話してしまうことないのでは!?



「それにお兄様方の溺愛が凄いと聞いておりますわ」

「そうね、我が家に娘がいないので、シアが来てからというもの、皆あの子を可愛がっていますわね。確言う(わたくし)も娘ができて嬉しくて、ついつい甘やかしたくなるのよ」

「確かに、男だけだとつまらないですものね」

「あら、イーリスも今から頑張ればよろしいですわ。まだまだ若いのだし」

「流石に今からでは大変ですわ」

「年の離れた妹が出来れば、上の兄達はきっと率先して子育てに関わります。それに、エドフェルト公爵も喜ぶでしょう?」

「ですが、また男の子なら大変ですもの」

「こればかりは産まれるまで分かりませんものね」



 男ばかりの兄弟は大変そうよね。

 ちなみにイーリス様はエドフェルト公爵夫人のお名前。

 エドフェルト公爵家は男三兄弟なのだ。

 そして会長は公爵家の嫡男。



「現実的なのは、あの子達が彼女を連れてきたら可愛がることですわね。良い子と出会ってくれれば良いのですけれど。全く気配がないのが気掛かりだわ」

「貴女の息子なら大丈夫なのではなくて?」

「ふふっ、問題は私の息子よ。あの子ったらシア以外の女の子を毛嫌いしてますもの⋯⋯何処かの誰かさんにそっくりだわ」

「マティアス様は辺境伯にとても良く似ておられるのですね」

「性格はそっくりよ」



 確かにマティお兄様は伯父様によく似ていらっしゃるものね。

 けど、別に私以外の人を毛嫌いしてるわけではないと思うのだけど⋯⋯。



「エステル殿下のような方がお嫁に来ていただけると嬉しいですわね」

「残念ですけど、ステラはだめよ」

「あら、すでに決まっていらっしゃるのですか?」

「決まってはいませんわ。ですが、この子を望んでいる方はいらっしゃいますわね」



 えっ! そんな人いるの!?

 思わずお母様のお顔を見ると、呆れた顔で私を見返した。

 何故呆れていらっしゃるの?

 小首を傾げて悩んでいると、伯母様からも同じ様な目で見つめられた⋯⋯。

 何故!?



「気が早いので陛下が全面的に拒否していらっしゃるの。婚約者を決めるにしても、陛下の許可が出て表舞台に戻ってからの話になりますから、まだまだ先ですわね」



 まぁ、確かにそうよね。

 私が死んでる説や、元々いない説が出てるくらいだもの。

 今そんな話が出たとしても面白可笑しく噂されて終わりよね。

 それよりも誰かが気になるわ。

 物好きな方がいらっしゃるものね。


 話は子供達の恋愛話に変わっていき、盛り上がっていたけれど、そろそろお開きの時間となり、お祖母様は私の事を秘密にしながらも恙無く過ごしている事を心に留め置くようにと一言言い、皆様名残惜しそうにしながらも帰途についた。

 だが、一人だけ残った者がいる。

 それはセシーリア・ベリセリウス侯爵夫人。

 私の事を伝えるからだ。



「ステラ、こちらにいらっしゃい」

「はい、お母様」



 お母様に呼ばれ、近くに寄ると手を差し出されたのでその手に自身の手を重ねると、魔道具を装着され、私の外見は(アリシア)となっていた。



「セシル、ステラはアリシアとして今動いているのよ。声で気づいたでしょうけど。まだ暫くはこのままだから、シアとして会うこともあるでしょう。何かあればよろしくお願いするわ」

「畏まりました。改めてご挨拶申し上げます。セシーリア・ベリセリウスと申します。今迄の非礼をお許しください」

「顔を上げてください。こちらこそ、姿を変えているのですから、何も気にする必要はありませんわ。これからもよろしくお願いしますね」

「はい。よろしくお願い致します」



 私はまた魔道具を外され、(エステル)に戻る。

 挨拶が終わるの見計らったかのように、お祖父様とベリセリウス侯爵が姿を表した。



「アクシィ、終わったのか?」

「えぇ。セシーリアにステラを紹介したところですよ」

「あら、お父様。どうなさったの?」

「オリーか、久し振りだな。お前はもう少しここに顔を出せ」

「あら、便りがないのは元気な証拠でしょう」

「貴女の場合は連絡が何もなさすぎなのよ」



 伯母様もお祖父様達の手に掛かれば子供のようで、いつもと違う伯母様の一面が見れた気がする。

 お祖父様達が戯れているのを他所に、侯爵は私に近付いてきた。



「殿下、アリシア様として行動をされている時に何かありましたら、どうぞセシーリアをお使い下さい」

「候爵、その言い方はどうかと思うのですけど⋯⋯」

「王女殿下、彼の言う通りですわ。何時でもお頼りください。それがベリセリウス家のお役目で御座います」

「分かりました。その時はお願いしますね」



 何かあるかはわからないけれど、頼れる人が増えるのは頼もしい。

 今日のもうひとつの目的であったのでしょうセシーリア様との挨拶が終わると、彼女は離宮を後にした。

 見送った後、オリー伯母様も「帰ってくるのを待っているわ」と私に言い残し、シベリウスへと戻っていった。

 お母様はというと、まだ時間が大丈夫なようで、私達と共に部屋に戻り、お話をするようだ。

 

ご覧いただきありがとうございます。

ブクマも嬉しいですし、励みになります。

次話も楽しんでいただけると嬉しいです。

次回更新は火曜日になります。

よろしくお願い致します。

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