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目覚めた世界が私の生きる場所  作者: 月陽
第2章 学園生活の始まり
108/265

108 お茶会の準備

 

 エストレヤに連れられて来てもらったのは、精霊界のフェリーク。

 やっぱりここの空気はあちらと全く違うわ。

 とても綺麗で澄み渡っていて、そしてとても、心が穏やかになる。

 エストレヤは私を連れてアウローラ様の所へ連れて行ってくれた⋯⋯んだけど、精霊ではない、誰かいるようだった。

 しかもあの漆黒の髪の後ろ姿って⋯⋯まさか、よね?



「あら、まぁ!! エステルよく来たわね。こちらにいらっしゃい。会えて嬉しいわ」



 アウローラ様は私に気づいて声を掛けてきた。



「ご無沙汰をしております、アウローラ様。急な訪問をお許しください」

「まぁ! 私がお願いしたことは忘れた? そんな硬い話し方は嫌よ」

「あっ、ごめんなさい」

「まぁいいわ、折角エステルから来てくれたんだもの。とても美しく成長したわね」

「ありがとうございます」



 アウローラ様と言葉をかわした後、私は陛下に頭を下げる。

 あの夜以来となるので少しばかり緊張する。



「レイフォール陛下、ご無沙汰をしております。まさか陛下がいらっしゃるとは知らずに、お邪魔をしてしまい申し訳ありません」

「久し振りだな。気するな。それよりアウローラの言う通り、背が伸びて美しく成長したな。アウローラ同様に口調も砕けていいぞ。此処ではレイと呼べ」



 えー⋯⋯流石にそれは⋯⋯。 

 一国の王に対してそんな軽く接するなんて⋯⋯。

 あぁ、だけど無言の圧力が⋯⋯。



「⋯⋯姫?」

「では、今だけレイ様と呼ばせて頂きます」

「様もいらないんだがな。まぁいいだろう。まずはここに座れ。それよりこんな夜更けにどうしたんだ? 眠れないのか?」

「レイ様の仰るとおりです。眠れずにいたところにエストレヤが来ましたので、久し振りにアウローラ様にお会いしたいと、お願いして連れてきてもらったのです」

「まぁ! それはとっても嬉しいわ! レインの隣じゃなくて、私の元へいらっしゃい」

「よろしいのですか?」

「硬いわ! そして私に遠慮することはいらないわ。早くいらっしゃいな」



 私はそう言われて、アウローラ様の隣に座った。

 陛下の、レイ様の前でこんな事普段なら絶対しないのだけれど、今日は何故かアウローラ様の隣に、側にいたいと思ったのが不思議だ。



「ふふ、可愛いわ。私の愛しいエステル」



 そう言われて何故かとても嬉しくなった。

 心が満たされる。

 先程まで心がざわめいていたけれど、すっと無くなった。

 エストレヤはというと先程まで私が座っていた所に座っていた。



「エステルを連れてきてよかった。表情が戻ったから安心したよ」

「そんなに顔に出ていたかしら⋯⋯」

「んー⋯⋯表情っていうか、エステルの空気がとても不安そうだったからね。本当に不安にさせた奴を懲らしめてやろうかと思ったよ」



 エストレヤの言葉を不思議に思ったのか、レイ様は私を気遣うように問いかけてきた。


 

「何かあったのか?」

「いえ! 特に何もありませんわ。エストレヤもそんな事は言わないで」

「えー、だってエステルが元気ないとか、絶対何かあったでしょう? 何もないなんてないよ! 言ってくれたらそいつを痛い目に遭わせるのに⋯⋯」



 エストレヤはどうして物騒な方向へと考えがいくのか⋯⋯。


 

「ふむ、⋯⋯あぁ、もしかしてヴァレンと何かあったのか?」



 ――なっ!? えぇ!?


 

 何で急にそこを突いてくるの!

 大丈夫、大丈夫よね、表情には出てないはずよ!

 落ち着くのよ、私!



「何もありませんわ。そもそも、殿下とお会いすることもありませんし」

「ふぅん?」



 ――あっ、疑ってる⋯⋯。



「エステル、ヴァレンに何かされたの? あいつを不幸にしてきていい?」

「だめよ! エストレヤはそうやって直ぐに相手に何かしようとするんだから!」

「ふふっ、エステルは恋で悩んでるのね!」

「アウローラ様! どうしてそうなるのですか? 違いますわ」

「可愛いわぁ! ヴァレンに何か言われたの? あの子のことも昔から知っているけれど、貴女に何か不届きなこと言ったのなら、私が叱ってあげるわ」

「待って下さい、本当に違いますから! アウローラ様も物騒なこと言わないで!」



 精霊ってこんなに過激なの!?

 過激でいいの!?

 精霊に対しての見方がガラリと変わるわ。



「ふむ、ヴァレンと連絡を取り合ってないということは無いだろう。手紙位は送ってるはずだな。となれば、その手紙の内容か⋯⋯彼奴は器用に何でもこなすが、こういった事には疎そうだ。ヴァレンに何も言われないのか、それとも冷たくされたのか?」

「⋯⋯冷たく等言われません」



 レイ様まで何を言っているの!?

 私は何とか言葉を返す。

 どうして殿下へと理由をつけるのか⋯⋯それに私は何でこんなに動揺しているの?

 何も言われない、最近は確かにそうね、何も言われないわ。

 ってそうではなくて、どうして此処でもこんな話になっているの!

 あぁ、嫌だわ⋯⋯。

 折角心が穏やかになったと思ったのに⋯⋯。

 どうしてこんな思いしなくてはいけないの?

 どうしてこんなに心がギスギスするの?

 何も分からないわ!

 そう思った瞬間、魔力がぶわっと膨れ上がった!



「姫!」

「だめよ、エステル、落ち着いて! からかってごめんなさい。だから落ち着いて⋯⋯ね?」



 アウローラ様に抱きしめられて「大丈夫よ」と何か暖かなものに包まれるような感覚が懐かしい⋯⋯。

 先程までの負の感情が霧散されていく。

 ⋯⋯私さっき、何を考えていたんだっけ?

 忘れちゃった⋯⋯。

 けど、何を考えていたのかなんてどうでもいいわ。

 きっと大した事じゃないわ。

 今はこんなにも暖かくて、懐かしくて、前にもこんな事があった様な⋯⋯。



「眠らせたのか?」

「えぇ、あのままだと暴走してしまっていたわ⋯⋯」

「姫は自分の気持ちを理解していないのだな。何故気持ちが穏やかじゃなくなるのかが分かっていない」

「そこは仕方ないわ⋯⋯この子にも理由があるのよ。それよりもよ! 全く⋯⋯この娘に何をしてくれたのかしら、彼は」



 アウローラは憤慨するが、レインフォールは苦笑しながら彼女に答える。


 

「あー⋯⋯まぁなんとなく想像はつくな。姫に会えなくて鬱憤が溜まってるんだろう。それが姫にとっては良くない方へ転んだだけだ。ヴァレンはこういった事に不器用だからな。これは彼奴の失態だ。何を言ったかは知らんが、今度会ったら注意しといてやろう。お前達はやり過ぎるから手を出すなよ。特にエストレヤはな」



 言われたエストレヤは普段見せないような顔の顰める。


 

「⋯⋯分かっているよ。僕はそろそろエステルをあちらに連れて行くよ。朝までに帰すと約束したからね」

「お願いね」



 何か皆が話しているけれど、ちゃんと朝までに離宮に戻れることに少し安心した。

 ふわふわと揺れる意識の中で、ちゃんと離宮のベッドに戻ったと感覚で分かった。



「ごめんね、おやすみ、僕の可愛いエステル」



 エストレヤ⋯⋯。

 約束守ってくれてありがとう。



 夢現にそう思って私は意識を手放した⋯⋯。




 翌日、目を覚ました時にはエストレヤ、アウローラ様とレインフォール陛下にお会いした事は覚えていたけれど、何を話したかまでは全然思い出せなかった。

 だけど、ちゃんと朝までに戻ってきたことにはエストレヤに今度お礼を言わないと。



『おはよう。昨夜は急にごめんなさい』

『いえ、精霊界は我々は入れませんので、お戻りになられるまで気が気ではありませんでしたが⋯⋯無事なお姿を見て安堵いたしました』

『大丈夫よ。エストレヤとアウローラ様は私に何かすることはないわ』

『それでもです。精霊界は我々にとっては未知の場所故、姫様が安全だと申されても、心配にはなります』



 心配性な影達ね。

 けど、きっとまた行くと思うから、そう心積もりはしておいてほしいわね。



『頻繁に行くことはないと思うわ。けど、また行くと思うから、その時は信じて待っていて欲しいの』

『その時は今回みたいに急ではなく、先に教えて頂ければと⋯⋯』

『善処するわ』



 彼らにそう言い、朝の支度の為に鈴を鳴らした。



 初日のお祖父様の言葉通り、この三日間は本当に厳しい授業を受け、四日目の今日からは実際に書類を見て采配出来るかを確認される。

 勿論、私が見ても問題ない書類のみを宮廷から持ってきたものだ。

 ちなみに、その書類を持ってきたのはお父様の側近で、事情を知るお馴染みのベリセリウス侯爵だ。


 

 ――この人、忙しい筈なのによく来るわよね。



 いつも爽やかに現れる侯爵はこれもまた爽やかに挨拶をする。



「おはようございます、エステル殿下」

「おはよう。ベリセリウス侯爵」

「以前よりも更に所作に磨きがかかりましたね」

「お祖母様の教育のおかげですわ」



 さり気なく侯爵からも見られているようだ。

 他人からの評価をこの様に貰えるのは有り難いことだ。


 

「イェルハルド様、こちらに書類をお持ちしました」

「あぁ、ご苦労。すぐに戻るのか?」

「いえ、殿下の采配を待ってから持ち帰ります」



 それって、侯爵は私の執務を見学していくってこと?

 先生が二人になったみたいで何だか嫌だわ⋯⋯。

 だけど、実際執務を手伝うようになったらこれが当たり前になるのよね。

 なんだか緊張するわね。



「⋯⋯ふむ、まぁいい。ではステラよ、早速これらを読んでどうするか話してみなさい」

「はい。お預かり致します」



 私はお祖父様から書類を受け取り、読み進める。

 書類は大体学園の事だった。

 読み進めていくと、私からは特に問題がなさそうな事ばかりなのでそのまま進めても良さそう。

 だけど、ひとつはこの間の問題になった件で監査を実際どう進めるかの内容が書いてあったが⋯⋯。



「侯爵、質問をいいかしら?」

「勿論です」

「学園の監査の件なのですけれど、今まではどうしていたのでしょう?」

「今までは年に一度、宮廷から文官が学園を訪れて一人一人面談という形で話を聞き、教育に問題がないかの確認をしております。最も気をつけていたのは金銭の管理ですね。不正を働くとしたら、お金が一番関わっていますので、書類の確認も行っております」

「それだけかしら?」

「今まではそれだけです」



 ――杜撰過ぎない?


 

 けど、ここではそれが当たり前なのかしら。

 今回の監査を二回行う、と言うことに関しても、あまり厳しくない様な感じだ。

 これだと、またやらかす気がするわね。

 これは一体誰が考えたのかしら。



「殿下?」

「ステラよ、どうだ?」

「こちらの書類に関してはそのままでも問題ないと思います。ですが、この学園の監査については再考の余地があります。これだとまた同じことが起こりかねません」

「何故でしょうか?」

「体制が何も変わっていないからですわ。ただ、監査を二回にしたところで内容が同じならする意味がありません。時間の無駄です。勿論お金の流れを確認するのはそのまま必要です。ですが、それ以外が面談だけなどとは。学園を運営するに当たり、ある程度何をどのように進めるか、業務の規定があるはずですよね?」

「はい。それぞれの業務には規定はあります。その規定に則って進めていきます」

「では、その規定に則って業務が出来ているか、遵守しているかは確認はしているのですか? 其々に書類があるはずですよね? その確認をしなければ、守られているかなんて分かりませんわ。もしかしたら改ざんされている可能性もあるでしょう。そこまで調べなければ、また同じようなことが起こると思います。後、改善が、あるとすれば、監査を宮廷の文官だけではなく、内部監査も行えばより緊張感は持てますよね? 勿論信用、信頼出来る人選は必要でしょうけれど。内部の者も目を光らせていると分かれば、実際行えばそんな不正を考える暇はありませんわね」



 私が説明をすると、お二人は唖然としていた。

 えっ、何で?

 ⋯⋯あっ! 私何も考えずに偉そうな事いいすぎた!?

 年相応じゃないよね!

 やってしまったわ⋯⋯。

 けど、時すでに遅し⋯⋯。



「あの、お祖父様?」

「はっ、ははははっ! あぁ、ステラは本当に凄いな! そこまで考えるとは思わなかったぞ!」

「イェルハルド様の仰る通り⋯⋯まさかこれほど詳細な案が上がるとは思いませんでした」

「もっと砕けた案が出るかとは思ったがな」

「ですが、殿下の案は実行するに値しますね。早速奏上しましょう。勿論陛下にはエステル殿下の草案だと申し上げますよ。これは陛下の試験でもあるのですから」

「試験だったのですか⋯⋯?」

「殿下がどうお考えになって、どのような案を出すのか、それをそのまま陛下に報告する予定でした。案が良ければ採用しよと」



 私、色々と試験されているのね⋯⋯。

 これは気が抜けないわ。

 勿論真面目にどれも取り組むけれど。

 というか、いまいちお祖父様の笑いのツボが分からないわ。

 けれど、私がやり過ぎた訳ではない事が分かりそれはよかったわ。



「ステラに執務をやらせても問題なさそうだな」

「お祖父様、これだけで判断なさらないで下さいませ」

「いや、一連のやり取りを聞いて、そう判断しただけだ。ステラは分からない事をエリオットに質問をしていたろう? そういった事も大事だからな。それも出来ていたのが良かった。勝手な想像で判断をしない事が大事だ」

「殿下の執務は安心出来ますよ。勿論分からない事の方が多いかとは思いますが、きちんと質問できる事は良い事です。自信をお持ちください」

「ありがとう。そう言って貰えると自信がつくわ」

「殿下の良いところは傲らないところですね。少し謙虚過ぎるような気もしますが⋯⋯」

「そこは私も気にしているところだな」



 そう言った二人にじっと見つめられて、居心地が悪い。

 謙虚ではないと思うのだけど、第三者から見た意見だから、そうなのだろうけど、どの部分がと聞きたい。



「さて、殿下の初めての執務が終わりましたので、私はそろそろ戻ります。陛下もそわそわして待っているでしょうからね」

「あぁ、お疲れ。アンセにはステラの様子をよく話しておけ」

「畏まりました。殿下もお疲れ様でした」

「ありがとう、侯爵。お父様に宜しくお伝え下さい」

「はい。では失礼いたします」



 侯爵が王宮に帰っていったので、私とお祖父様は調度お昼時なので、食堂へと向かった。

 初めての執務で緊張していたのか、とてもお腹が空いていて、出された食事も残さずに完食した。

 その後のお祖母様の淑女教育では、明日のお茶会の準備を手伝いながら勉強をする。

 王族ともなれば、流行りを世に出すのも仕事のひとつと言えるので、美容、宝飾、ドレスやお菓子も何が流行っているかとか、新作の物や時には自ら作り出すこともあるので、中々大変なのである。

 今回、お祖母様は国外から取り寄せたお菓子を並べるようだ。

 見栄えが綺麗で品があるお菓子とか⋯⋯。

 そしてそれを盛り付けるお皿もまた繊細で綺麗だった。

 一つひとつの模様も芸術的だ。

 お祖母様の質問に答えていくのだけれど、これがなかなか難しい。

 各国には其々の特徴があり、特産物があり、芸術作品がある。

 基本的な作り方は一緒でもお店に寄って意匠が違う様に、各国それぞれの特徴が違うので、これらもお茶会の話題に上がるのだ。

 なので、これは何処の国の物でどのような物なのかを知っておく必要がある。

 楽しいのだけれど、ある意味執務より大変かも⋯⋯。

 私は急だったのだ、何も用意はないのだけれど、次回のお茶会の時には用意するようお祖母様からの課題があったが、お菓子ならいけるかもと提案したらお祖母様は目を輝かせていたので、私は料理人に作りながら説明をして時間はないけれど頑張って作ってもらう。

 そして、仕上がったのを一段落したので、お祖父様を誘って三人でささやかなお茶会を開いた。



「ほう。これをステラが考えたのか?」

「はい。パイがあったのは知っていたのですが、こう言ったケーキは見たことがなかったので、説明してここの料理人に作ってもらいました」

「見た目が可愛いらしいわね。それにクリームが甘過ぎないのがいいわ」

「クリームは甘すぎないように作って頂きました。少しの甘さと甘酸っぱいベリーが合うと思いましたの」

「名前は何というのかしら?」

「ミルフィーユです。その時期旬の果物を使ってもいいと思いますわ。果物を使わず、胡桃等を挟むのも良いかもしれませんわね」

「ほぉ。胡桃か、それは食べてみたいな。私はクリームが沢山よりそちらがいい」

「では今度作ってもらいますね」

「楽しみにしている」



 お祖母様達の反応は良く、とりあえずは一安心ね。

 明日のお茶会が楽しみになったわ。

ご覧頂きありがとうございます。

ブクマもとても嬉しいです。

ありがとうございます。

次話も楽しんで頂けたらと思いますので、よろしくお願い致します。

次回は土曜日に更新します。

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