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目覚めた世界が私の生きる場所  作者: 月陽
第2章 学園生活の始まり
102/273

102 特別試験


 試験の告知から早一週間が経ち、試験の日がやってきた。

 今日は実技がなく、筆記試験のみで時間は各三十分。

 試験終了後はその場で採点するようだ。

 採点はするが返却は全ての試験が終わってからになる。

 採点中、私達は自習となり、自己採点するもよし、予習や復習をしてもいい。

 採点をしている先生方は、面白そうな表情をしたり、顔をしかめたり、各々の反応がみれて面白い、というのは失礼かもしれないけれど、色んな反応を示している。

 ただ、試験内容はかなり難しく、習ってない事が出題されていたり、引っ掻け問題やちょっと意地悪な問題もあった。

 私はそれとなく試験終わったあと周囲を見てみると、いつもと変わらない表情の子もいれば、難しい顔をしていたり、青ざめたりしている子もいた。

 ヒュランデル様はと言うと、涼しい顔をしていた⋯⋯。

 彼女に限っては読めないわね。


 私達の試験二日目は実技だ。

 試験が終わっている授業に関しては、通常の授業に戻る。

 実技は魔力操作を行う。

 入学試験の時同様、一人ずつ行っていく。

 先生は担任でもあるクランツ先生だ。

 同じ年の頃の魔力操作とか、領以外では殆ど見た事がないので、私は密かに楽しみにしていた。

 順番は成績順、といっても十五位からなので私は一番最後だ。

 内容は入学試験よりも難易度が上がっていた。

 座学で習ったことを実践してみようと言うことらしい。

 試験だけれど、楽しんでしまいそう。

 他の人達の魔法を見るのも楽しみの一つ、なんだけれど⋯⋯思ったのと何だか違う。

 私ががっかりしたのが分かったのか、珍しくノヴルーノから声をかけられた。



『姫様、残念そうにしていらっしゃいますが、九、十歳位なら一般的な魔力操作も大体これくらいが普通ですよ』

『そうなの?』

『はい。姫様のように使えそうなのはこの中では姫様をいれて上位四、五人位でしょう』



 そうなんだ⋯⋯。

 そうこうしていると、ヒュランデル様の順番となった。

 彼女の実力を直で知ることの出来るのが実技が一番なので、私は思考を切り替えて彼女の魔法をよく見る⋯⋯んだけれど⋯⋯酷い。

 あまりにも酷すぎるわ。

 あれだけ人の事をあれこれ言うので、実力があるのかと思ったのだけど。

 終わると「今日は調子が悪いわね」とか言ってるし。

 それは置いといて、試験が進むにつれて実力も上がってきたので、楽しくなってくる。

 はっきりと実力的に差が付いたのは、ノヴルーノが言っていた、六位のエリック様からだった。

 エリック様は風属性を使用していて、魔力操作もとても上手だった。

 入学試験のような魔力操作の試験に加え、それを見せた後は的に向かって正確に打つ。

 見事に命中した。

 的と言ってもここにあるものは水晶のような魔道具の一種で、魔法を吸収するものだ。

 なので、命中させると、その魔力の大きさで水晶の色が変わると言うもので、一年生用の的だ。

 順番が刻々と近づいてきて、レグリスの番となった。

 レグリスは二つの属性を併せていた。

 火と水の魔力操作を行った。

 相反する二つの属性を器用に絡ませ、とても綺麗で、レグリスには悪いけれど、彼がこんなに綺麗に二つの属性を絡ませるなんて思いもよらなかった。

 その後、それをそのまま的へと放つ。

 そうすると、ビシッとひび割れてしまった。

 一年生用の魔道具ではレグリスの魔力に耐えられなかったのね。



「やはり一年用のでは耐えられなかったか⋯⋯」

「私が割ると分かっていたのですか?」

「あぁ、君の兄姉達も皆割ったからな 」



 そういうと、先生は新しい物と交換した。

 次は私の番。

 さて、どうしようかな⋯⋯。

 入学試験の時は丁度雪が降っていたのでそれに因んだ魔力操作を行ったが、今日はとてもいい天気だから参考にはならないわね⋯⋯。

 あっ、そうだわ!

 私はふと思い出して、水と光の魔力操作を行った。

 それだけでなく、空間魔法も使用した。

 空間魔法で球体を作り、水魔法で球体の中を水で揺らめくのが分かる程度に満たす。

 そして光魔法で暖かい光を醸し出すと綺麗に反射して光が揺らめいているように見せる。

 そしてそこからそのまま空間魔法で的の中へ移動させ、光魔法を強くするどい光線とかして、水魔法と共に解き放った。

 パリンッ!

 と小気味良い音と共に魔道具が粉々に割れた。



「やっぱりシベリウスも割ったか⋯⋯」

「お兄様達も割りましたか?」

「割ったな。流石双璧の血を引く二人は実力が違うな」



 感心され驚かれなかったが、それはお兄様たちも割ったという前例と私達の出身のせいね。

 私だけ割れなかったと言われなくてよかったわ。

 これで実技も終了となった。

 試験の結果は来週の一限目に教えてくれるようで、この後の授業は通常の授業を受け、二日間の試験は終わった。

 翌日の授業が終わり、光曜日なので生徒会の集まりで私とレグリスは生徒会室に来ていた。

 この日はハセリウス先生もいらっしゃった。



「よう! 一年の二人。試験お疲れ」

「ありがとうございます」

「流石に二人は余裕だな」

「余裕、と言うほどもなかったかと思います。難しかったですよ」

「謙遜するなよ」



 流石に先生は結果をもう知っていらっしゃるのだろう。

 先生がそう言うなら私たち二人はそれなりに良い成績だったのでしょう。



「結果、知りたいか?」

「いえ、来週まで待ちますわ」

「なんだ、聞かなくて良いのか?」

「シアと同じく、来週で良いです」

「つまらんな。結果だけなら既に分かっているから教えてやろうと思ったのに⋯⋯」



 つまらないって⋯⋯。

 一体何を期待していたのでしょうか。

 私達は先生の欲求を満たすために試験をしたわけではないのですけどね。



「ハセリウス先生、二人をからかうのはそこまでで。本題に入りますよ」

「ん、頼むよ」

「さて、二人共試験お疲れ様。二人の結果は変わらず安定して首席と次席だよ」



 先程来週で良いといったのにも関わらず、さらっと成績発表がなされた。

 会長は私達の様子を気にもとめず話を進める。



「今回の試験に不正は見当たらなかったので、成績にもそれが顕著に表れていた。まず、上位七位までは変わらず同じで、成績も拮抗していて、魔力操作も今年の一年は優秀者が多い。七位以下は順位が大幅に変わっている。件のヒュランデル嬢だけれど、成績は酷いものだった。Sクラスではあり得ない程のものだ。というか、学園に合格できる程のものでもない。入学試験の不正の証拠も出てきた事で、関与した先生が一人今日でお辞めになる。そして彼女の処断はこの週末で決定する。後の事は学園長達が公爵家と話し合い、ヒュランデル嬢の話を聞き、どうなさるかは来週頭には分かると思うよ」

「質問があるのですが、よろしいでしょうか」

「どうぞ、レグリス君」

「ありがとうございます。何故入学試験の不正が分かったのですか?」

「それについては私から話そう」



 ヴィンスお兄様はそう言って経緯を話し始めた。

 まず、噂の事もあるのだけれど、一番は彼女の上の兄と姉の証言からだった。

 入学前から彼女がSクラスなのはあり得ないと、二人は話していたという。

 二人共が不正を疑い、どのような手を使ってSクラスに入ったのかを自分達で調べれるところまでは調べていたらしい。

 だが、入学までに証拠が揃わなくてそのまま入学することに。

 それからも諦めずに調べていたところにあの噂と今回の異例の試験で、上の兄姉は何か動きがあるかもとヒュランデル嬢と義母を見張っていたという。

 そうしたら、義母が宮廷のとある文官に連絡を取り、学園の先生にも連絡をし、今回の試験の問題を先に教えるように言ったようだ。

 だが、今回の試験は学園内の事であり、宮廷の文官は介入できない、そして、学園内の先生も一年のクラスは受け持っていないため、下手に話をすれば入学の不正がバレる上、関与も知られてしまうので今回は助けることが出来ないと夫人に伝えたそうだ。

 それも手紙でやり取りをしていたので、兄姉は憤った夫人の隙を見てその手紙を入手し、今回の証拠として生徒会に提出してきたのだという。

 そこで関与した文官、並びに先生は早い話が辞めさせられたというわけだ。

 勿論ただ辞めさせてだけでなく、今回の事案に関して厳しい罰則と、夫人に対してもお咎め無しとはいかず、そこについては宮廷の司法にてきちんと裁かれるみたい。

 そうなれば、もう公爵家の問題なので、学園としては後は生徒であるヒュランデル嬢をどうするかと言う事になる。

 話を聞いた上で、謹慎処分とするのか、退学か⋯⋯。

 そこも学園長達の判断となるので、私達がどうこう出来ることはない。



「後は生徒達の様子をよく見ておくように。特に一年生は来週、事実が明るみに出た後、暫くはいらぬ噂がたつだろうから、アリシア嬢とレグリス君は気に掛けておいてほしい」

「「分かりました」」



 暫くこの騒動は収まらないかもしれないわね。

 学園生活、まだ二ヶ月程なのだけれど、濃い学園生活を送っている気がするわ。



「来週、地の曜日の放課後、決定したことをこの場で伝えるので、皆きちんと集まるように」

「気になるだろうけど、休息日は皆ゆっくり休むようにね」



 先生と会長の言葉で今日の生徒会は終わりとなった。


 私はマティお兄様達と共にシベリウスの邸へと帰ってきたのだけれど、私は何だかすっきりせず、少しもやもやとしたものが心にあった。

 理由は、分かってはいる。

 ヴィンスお兄様は王族としてやるべき事をきちんとこなしている。

 だけど私は⋯⋯。

 今はシベリウス家の子としているので、表だって何かをすることは出来ないし、お兄様のお手伝いをすることも出来ない。

 学園に通い始めて、ヴィンスお兄様や王宮が近くに感じ、今までは遠く離れていたのでそこまでは思わなかったけれど、今は近すぎて、何も出来なくて、とてももどかしい⋯⋯。

 私だってお兄様のお役に立ちたいし、王族としてやるべき事をしなければと思う。

 けど、何も出来ず、どうすれば良いのか分からない。

 今回の事も、お父様達のお考えもあることだし、私が余計な事をするわけにもいかない。

 もうひとつの噂の件についてもだ。

 お父様やお兄様が動かれているなら、私が独自に調べるのは良くないのかも。

 というか、お祖父様に釘を刺されたし。

 影が増えたといっても、結局のところ私は皆に甘やかされているだけなのでは⋯⋯そう思えてなら無い。



「悩んでるね、エステル」

「っ!」



 急に声がしたので吃驚した!



「エ、エストレヤ! もう、急に現れるなんて心臓に悪いわ⋯⋯」

「ごめんねー。けど、エステルってば深刻に悩んでるからさ、心配になったんだよ」



  エストレヤはいつも本当に唐突に現れるんだから⋯⋯。

 けど、いつも私が悩んでたり、考え事をしたり、ちょっとしんどい時にいつも側に来てくれる気がする。

 これは偶然?

 それとも⋯⋯。



「エステル、眉間にシワよってるよ! 可愛いのに台無しだよ」

「エストレヤ、ありがとう」

「急にどうしたの?」

「いつも(わたくし)の事を気にしてくれているでしょう?」

「そんなの当たり前だよ。エステルは僕の愛し子だよ。もちろん、アウローラ様も気にしてる」

「アウローラ様はお元気?」

「元気だよ。エステルにも会いたがっていたよ。今から行く?」

「⋯⋯あちらに行ったら、今日中に戻ってこれないでしょう?」

「うん!」

「⋯⋯今日は止めておくわ」

「そう? ね、悩む必要ないよ」

(わたくし)が何で悩んでるか分かってるの?」

「想像はつくよ。エステルは真面目だからね。アンセルムやヴィンセントの役に立ちたいと思ってるんでしょう? 王族なのに何も出来ない自分を嫌だと思ってるんだよね?」



 ぐうの音もでないわ⋯⋯。

 どうしてバレるのかしら。

 そんなに分かりやすいのかな、私って⋯⋯それとも心を読まれている?



「エステルは、そのままで良いんだよ」

「良くないでしょう」

「そんなこと無いよ。エステルが王都にいるだけで、此処にいる精霊達は喜んでるんだよ。特に王宮にいる精霊達はね」

「どうして?」

「エステルが僕達の愛し子だからだよ。いくら姿を変えようが、エステルの波長は精霊達にとってはとても心地良いんだよ。そんなエステルの願いは彼等の助けにもなるよ」

「エストレヤ、ごめんなさい。もう少し分かりやすく説明が欲しいわ」



 エストレヤの話はいつも謎めいて、はっきりとした答えが分からない。

 私がいるだけで良いと言われてもさっぱりよ。

 それに、王家は精霊の加護を受けているから私がいなくてもいいのでは?



「まだ詳しいことは言えない。けど、これだけは覚えておいて。エステルが彼等の力になりたいと願うなら、精霊はそれに答えるから。精霊は彼等に力を貸すよ」



 答えになっているようで全く答えになっていない。

 謎は謎のままよ。



「エストレヤはいつも謎を残すよね。気になるわ」

「ごめんね。けど、エステルが好きなのは変わり無いよ。だから、今は不安も不満もあるかもしれないけど、守られていて欲しいな。危険があったら迷わずに、隠れてる人達を盾にしてね」

「盾にはしないわ。彼等も大事だからね」

「僕にとってはエステルが一番だよ。だけど、そういうエステルも好きだよ」



 いつもそうやって肝心なことをはぐらかすんだから⋯⋯。

 でも、それがエストレヤって感じもするし、いつかは教えてくれると良いな。

 それに、エストレヤと話をしていると何だか落ち着くのよね。

 何でだろう?

 何時も遊ばれたり眠らされたり、謎を残されたりするんだけど。

 嘘はつかないんだよね。

 具体的にどう願えば良いのか分からないのだけれど⋯⋯。

 ただ、無理はしないで欲しいと思う。

 助けに⋯⋯精霊達に願えば、調査も少しは楽になるのかな。

 何か知ってたりするのかな。

 もし、私がお父様達の手助けを願えば助けてくれるのかな。

 私はエストレヤをじっと見つめると、私が考えていることが分かったのか、嬉しそうににこりと微笑んだ。

 私は何となく目を閉じて手を組んで心の中でお願いをしてみる。



 ――精霊達にお願い。お父様とお兄様が行き詰まっていたら助けてほしいの。疲れていたら癒してあげて。



 ――分かった!


 ――エステルのお願いならきくよ!


 ――僕達に任せてー!



 わっ、色んな声が聞こえた。

 今のは精霊達よね。

 答えてくれたの?



 ――ありがとう!



「分かった?」

「精霊達が答えてくれたわ!」

「当たり前だよ。僕の可愛いエステル」



 けど、精霊達って気紛れなのよね?

 エストレヤに流されてお願いしちゃったけど、お父様達大丈夫かしら。

 根本的な解決はしていないのだけれど⋯⋯。

 直接お兄様達とお話しした方がいいのかな。

 来週、お祖父様に会いに行こうかしら。

 私がまた考えに耽っていると、エストレヤは呆れた声を出した。



「エステルは困った子だね⋯⋯」



 そんなエストレヤの声が聞こえたけれど、いつもの様に急に目蓋が重くなって⋯⋯。



 ――おやすみ、エステル



 あぁ、また眠らされたのね⋯⋯。

 今度止めてって言わなきゃ⋯⋯。



 思考はそこでぷつんっと途切れた。

 

ご覧頂き、ありがとうございます。

ブクマも本当に嬉しいです!

ありがとうございます。

次回投稿は火曜日です。

次話も楽しんで頂けたらと思いますので、

よろしくお願い致します。


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