10 記憶に思いを馳せて
カーテンの隙間から入る日差しで目が覚めた。
昨夜熱をだしだけれど、今朝は引いていた。
だけど今日は昨日よりも安静に! という事で誰にも会わず静かにベッドの上で過ごすこととなった。
流石に暇なので、本を用意して貰い、本を読んだりまた寝たりとこの日はほぼ寝ていた気がする。
そのお陰で昼頃に上がった熱は引き、翌日には今までよりもすっきりと、熱がある重たさもなく身体が軽いように感じた。
ここまで身体がすっきりするとお風呂に入りたくなるのだけれど⋯⋯、さすがにまだ許可が降りなかった。
今日は昼からお養父様が会いにいらっしゃるようだ。
なんのお話しだろうか、やっぱり記憶の事かな⋯⋯。
けど、数日ぶりにお話しできると思ったらちょっと楽しみだ。
そして、お茶の時間帯にお養父様はやってきた。
「昨日は一日熱があり寝ていたと報告を受けたが、調子はどうだい?」
「今までで一番身体が軽いように感じます」
「そうか、良かった。だが、無理はダメだよ。シアは無意識に無理をするようだからな」
お養父様はそう言った。
無意識に無理をする⋯⋯。
無きにしもあらず。
「⋯⋯気を付けます」
「あぁ、皆話しすぎたと落ち込んでたからな。疲れたらそう言っていいんだよ。私達は家族なんだから」
「はい、次からはきちんと言います。だけど、この間は私も楽しくて⋯⋯、私も悪いのです」
楽しくて、つい眠くてもちょっと疲れを感じても話をしたかったから私も悪い。けしてお養母様達が悪いわけじゃない。
「今日は私と少し話をしてくれるかい?」
「もちろんです」
「ただし、疲れたり眠くなったら遠慮せず言いなさい」
「わかりました」
優しく微笑んでそう言った。
そしてやはり侍女達を部屋から下がるよう指示を出した。
「オリーに話を聞いたんだが、記憶では成人して働いてたんだって?」
「はい、そうです。朝から夜まで働いていました。時には残業もありましたね」
「なるほど、記憶では幾つで成人になるのかな? そしてどのくらい働いていたのかな?」
「二十歳です。ですが、私は大学と言って二十二歳まで教育機関で勉学に勤しんでいました。卒業後から働いていましたので、会社、事業を行う場所では約六年間働いていました」
六年間⋯⋯。改めて思うとそう長いことも働いていない。
働いている当時は大変で充実していてそれなりに働いていると思っていたけれど⋯⋯。
お養父様はなるほどと、呟きながら何か考えている様子。
「教育を受ける期間がこちらより長いのだな。だがそれ程長く教育を受けていて、婚姻はどうなるのかな?」
「あちらでは、教育を受けている最中に結婚する人は殆どいません。勤め始めてから婚姻するのが普通でした。平均的に二十半ばから三十前半に婚姻しますが、最近では独身者も増え晩婚化していました」
「こちらとは婚姻に対する概念が違うのだろうか。そんなに遅いとは⋯⋯」
「そうですね。あちらは好きな人と婚姻するのが殆どですから。好きな人がいない人はそれだけ婚姻するのは遅くなりますので、こちらとは考え方が全く違います」
「中々興味深いな。オリーが話しすぎたと言っていた気持ちがわかる。私も話しすぎてしまいそうだな。シア、辛くはないか?」
「まだ大丈夫です」
大丈夫と答えると、何故か探るような目で顔をじっと見つめてきた。
「あの⋯⋯、お養父様?」
「シアの大丈夫は大丈夫ではないな。少し眠たくなってきているだろう?」
眠たい⋯⋯のかな?
「そんなに眠たいと言うわけでもないのですが⋯⋯」
「いや、少し目が揺れている。今日はここまでにしよう。話しはつきないがな。無理はせず休みなさい」
そう言われてしまっては休むしかない。
お養父様は「ゆっくり休みなさい」と言うと部屋を出た。
私はそこまで眠たくないと思っていたのだけれど、お養父様が執務に戻られて、私はモニカに「少し横になってください」と言われて素直に横になると、暫くすると眠ってしまったみたい。
次に目を覚ますともう夜中だった。
月明かりがとてもきれいだからもっと見たいなと思ったけれど、熱があがるといけないから大人しくしておこう。
前世の記憶が戻って早五日、不思議な感じ。
懐かしいという想いと仕事や両親の事。考えるとキリがないけれど、あちらで死んで“今”に転生した事になるから、きっとあちらの両親は悲しんだと思う。けれど行方不明になっていないだけまだましなのかな⋯⋯。
あれからどのくらい経っての転生か分からないけれど、元気で過ごしてくれていたら⋯⋯と思う。
今は自分自身の事をきちんとしないと⋯⋯。
お養母様が言った通り、こちらの勉強を始めたら今の自分に馴染むのかな。
考えると不安になるけど、考えることはそこだけではない。
王宮にいるお父様やお母様、お兄様は元気かな。
会いたいけど、しばらくは気軽に会うことが出来ない。
会うとしても陛下、殿下として会う事になるから考えると、とても寂しい。
私、さみしがり屋なのかな。
あっ、よく考えたらまだ五歳だもんね。
精神的には大人だけれど。
寂しいのは寂しいし、会いたい、と思う。
今考えてもどうにもならないことだ。
私に毒を盛った、それを唆した者は見つかったのかな。
色々と考えを巡らせていると、自然と目蓋が重くなりまた寝てしまった。
ご覧いただき、ありがとうございます。
次話もまたよろしくお願い致します。





