自粛8日目 技能
「ふっ、はっ……!!」
早朝の日課になりつつある聖剣での素振りをこなす。
最初はすぐ飽きると思っていたけど、なんだかんだ続いている(実際一度は飽きたけど)。
こういう無心でできることって意外と好きなんだよね。
長時間やるのは苦手だけど、毎日決まった時間だけ、こうやって汗をかくのも悪くない。
『ほっ、ほっ、せいっ……!』
どうやら、王女もあちらで昨日教えたダンスを頑張っているらしい。
なんだかんだ。二人とも良い習慣づけができてきたじゃないか。偉い偉い。
「そうだ。王女ー」
『は、はい……ぜぇぜぇ……。なんでしょうか……ぜえぜえ……?』
「昨日、中級編の話してたじゃない?」
『あ、そろそろやりますか?』
「うん」
剣技スキルとやらのおかげか、ここ数日で私の基本動作は完璧と言ってよいくらい極まった。
自画自賛だけど、1日30分足らずで、たいしたもんだ。
『では、映像水晶投影』
水晶が転送されるや否や空中に映像が投影される。
2度目のセシリアさん。
前回はあまり容姿の説明はしなかったけど、騎士団長という肩書の割には、かなり若いんじゃないだろうか。
たぶん、私より年下じゃないかな。
金髪碧眼で顔だけならお人形さんみたい。ものすごい美人だ。
ただ、着ているプレートアーマー? が多少ごついので、ギャップ感が凄い。
『はい、どうも。騎士団長のセシリアです。今日は中級編ということで、いよいよスキルの使用についてやっていきたいと思います』
映像になにやらテロップらしきものが入る。
編集技術ちょっと上がっとるやないか。
ただ、ごめん。読めないんだわ。
たぶんこの人、こんな状況でも、ちゃんと真面目に在宅ワークやってそう。
『まず、スキルには2つの種類があります。一つはパッシブスキル。勇者様もおそらく剣技スキル等を持たれていると思いますが、それです』
うんうん。持ってるよ。
『パッシブスキルはその名の通り、常時発動する類のスキルです。使用制限はなく、身体能力の向上や特殊能力の付与等、様々な効果があります』
なるほどね~。確かに特に意識しなくても、剣技スキルとやらは常に働いてるみたいだし。
『次に、アクティブスキルです。こちらは、使用者が意識することにより、任意で発動できるスキルです。様々な種類がありますが、分かりやすいものだと、攻撃スキルですね。今日はまず、剣による攻撃スキルの例をお見せしたいと思います』
おおっ、攻撃スキルとな。いわゆる必殺技みたいな感じだろうか。
セシリアさんは半身になって、剣を腰だめに構える。
『飛翔斬り!!』
技名と共に、剣を振りぬくと、刀身からかまいたちのような刃が放たれ、画面の外まで飛んで行った。
ガンガラガッシャン!!!
『あっ……』
何やら、物が壊れる大きな音がして、当のセシリアさんの顔が青ざめてる。
『こりゃ、セシリア、なにやっとるべか!!』
画面奥から恰幅の良いご婦人登場。
『か、母ちゃん!?』
お母さまでしたか。
『す、すまねぇ。ちょっとばっかし加減間違えちまってぇ』
『どうするで。壁に穴さ開いちまってよぉ』
『ちゃ、ちゃんとオラが直すから、堪忍してやぁ。母ちゃん』
方言丸出しで弁明するセシリアさん。
ただでさえ、見た目とのギャップやばかったのに、もはやコントだ。
っていうか、テロップ入れる技術あるんだったら、カットするなり、撮りなおすなりできたやろ。
『あ、ゆ、勇者様、とにかく! スキルは技名を叫びながらモーションを取ることで発動します! 一度お試し下さい! では!! ……あ、母ちゃん、待ってけろ! お父には黙っといて! すぐ直すからぁ!』
切羽詰まった声を最後に、映像はそこで途切れた。
『セシリア……』
王女、何も言うてやるな。
「とりあえず、やってみるとしましょう」
私はセシリアさんと同じように聖剣を腰だめに構える。
確か「飛翔斬り」とか言ったっけ。
斬撃が飛んでいくような技だから、窓を全開にして、進行方向に障害物をなくす。これなら良いだろう。
「飛翔斬り」
セシリアさんほどテンション高くは叫ばなかったものの、技自体はちゃんと発動したようで、剣から発生した衝撃波のようなものが、遥か虚空へと飛んで行った。
ほう、凄いもんだね。
と、その進行方向をたまたま通りかかった鳥に命中した。
『あっ……』「あっ……」
鳥はそのまま城の庭園に落下していった。
『今日は鳥料理ですね』
「私、捌ける気がしないんだけど」
鳥さん、すまん。
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