自粛7日目 増量
さて、なんだかんだとやることができてきた。
自炊は継続しているし、剣の稽古も一応毎日ちょっとずつはやってみている。
その上、漫画も読むようになったので、ボーっとしているだけの時間はかなり減ったと言っても良い。
とはいえ、まだまだ退屈な時間はあるもので、昼食を終えてしばらくした時、私は王女に話しかけた。
「ねえ、王女ー」
『カリカリ、あ、はーい、なんでしょうか?』
もう、なんか食べてるのがデフォになってきてるな。
「あのさー、この前セシリアさんの動画見せてくれたじゃん」
『あ、はい、そろそろ中級編に行きますか?』
ああ、そういえば、あれ初級編だったな。もう中級も用意できるてるのね。
「いや、それは追々でいいんだけどさ。魔法使ったら、あんな風に映像も送れるの?」
『そうですね。念話より少し魔力の消費が重いですが、映像も送ろうと思えば』
おお、ということは、LINEのテレビ通話みたいなこともできるのか。
「じゃあさ、王女のこと見てみたいんだけど」
『……ぶえっ!?』
「できるんだよね?」
『で、できはしますけど……』
私の申し出に、なぜか動揺する王女。
『その今はまだ、都合が悪いといいますか……』
「何よそれ」
なんだか歯切れが悪い。
『いや、私としても、ちゃんとお互いの顔を見合って、お話しできたらなぁ、とは思っているのですが、何分すぐにはそれができない事情がありまして』
「あー、あのさ、もしかして」
王女と出会ってからここ数日の様子から、私は一つの予想を導き出した。
「王女、太った?」
『はうあっ!!!?』
あ、図星っぽい。
『な、なぜ、そんな……!?』
「いや、だって、しょっちゅうお菓子食べてる音聞こえるし。自粛で外出もできないし。魔法で動かなくても何でも出来ちゃうし」
太る要素しかない。
『う、ううう、そうです……。太ったんですぅ……それもかなりorz』
涙声の王女。四つん這いになってうなだれている姿が目に浮かぶ。
『いや、だってしょうがないじゃないですか。家臣も引き払っているから、誰の目もないわけで……! 普段はこれでも王族らしいふるまいを頑張っているんですよ。食べ物にもあまりがっついたりしませんし! でも……でも……!!』
「はいはい、しゃーないしゃーない」
まあ、誰だって、合法的にダラケられる環境ができたら、こうなるわな。
『もうほっぺたぷくぷくなんです。お腹の肉もこんなにつまめちゃうんです(T T)』
「わかったから……」
『私なんて豚なんです。豚王女なんですぅ……』
そこまで自分を卑下しなくても。
「じゃあさ、ダイエットしようよ」
『ダイエット……』
「部屋の中でもできる運動すればさ。自粛太りも解消できるって」
『な、なるほど!』
ポンと、王女が手を打つ音が聞こえた。
『た、例えば、どんな運動が良いのでしょうか?』
「うーん、そうだね。基本的に、ダイエットは有酸素運動がいいんだけど……ダンスとか?」
『ダンスですか。お相手が欲しいところですね』
たぶん彼女の中でのダンスと言えば、舞踏会のバロックダンスなんだろう。
「いや、もっと激しいやつ。例えば、こんな」
私は、立ち上がって、腕を振りながら、左右にステップを踏む。
そのままボックスステップを踏んだり、ランニングマンをしたりしてみせる。
『おおっ!?』
どや。伊達に高校の体育でダンス履修してたわけじゃない。
「こんな感じ。王女もやってみ」
『は、はい!』
というわけで、今度は王女のために少しゆっくりめでやってみる。
『ほっ、はっ、よっ!! こんな感じでしょうか?』
「こっちから見えないからわからん」
『そ、そうでした!』
「もうさ、別にそっちの様子見せてくれても良くない? 別に多少肥えてても笑わんし」
『えー、でもー、やっぱりもうちょっとだけ待って下さい。勇者様に最初に見せる姿は、やっぱり美しい姿でいたくて』
何可愛い事言ってやがんだ。
私が男だったら、ちょっとだけクラっと来てたかもやぞ。
「じゃあ、頑張って早く痩せよう。よし、目標7日ね」
『な、7日!? が、頑張ります……!!』
さて、7日後が楽しみだ。