自粛5日目 聖剣
昨日のやり取りで、王女の召喚能力があれば、暇つぶしの道具も持ってこれるのではないかと考えた。
とはいえ、今日は昨日意図せず持って来てしまった料理のレシピ本の支払いがあるので、さらに、何か召喚してもらうのは厳しそう。
持って来てもらうとしたら、明日以降かな。何を持って来てもらうか考えておこう。
「今日は何するかなぁ」
さすがにボーっとするのにも飽きてきたし、そろそろ何か生産的なことをしたいところだ。
「ねぇ、王女ー」
『むしゃむしゃ、あ、はい、なんでしょう?』
また、菓子食ってたな、こいつ。
「私って魔王倒さないといけないんだよね。レベルとかって上げといた方が良いの?」
『おお、ようやくちょっとやる気になってくれたんですね!』
王女の嬉々とした声に、天邪鬼の私のやる気が若干萎える。
『そうですね。レベルを上げるに越したことはありません! それに剣や魔法の練習も!』
「でも、部屋から出たら、ダメなんだよね?」
『そうですね。城内も人はほぼ引き払っていますが、どこで接触するかもしれませんし』
じゃあ、やっぱ無理よな。
それにしても、よくよく考えると、この生活って勇者というよりは囚われのお姫様だよね。
昔のRPGとかのお姫様も勇者が迎えに来てくれるまで、きっと暇を持て余してたんだろうなぁ。
『でも、お部屋広いですし、剣の素振りとか、そういうのなら!』
「素振りねぇ」
剣道部かよ。
まあ、ガッツリ運動不足だし、どんな形であれ、ちょっとくらいは身体を動かすのも悪くない。
「いいわ。じゃあ、剣ちょうだい」
『わかりました! では、そちらに送ります!』
と、お決まりの転送呪文で、一瞬で剣が送られてくる。
最初は練習用に木剣でも送られてくるかと思ったけど、かなりガッツリ剣だ。
なんか柄? とか、めっちゃ装飾されてるし、納まってる鞘にも竜の意匠が彫られていて、「伝説の」とか枕詞が付きそうな見た目だ。
「凄いね。これ」
持ち上げてみる。鞘から刀身を引き抜くと、キラキラと眩しいくらいに光を反射している。
その上、めちゃくちゃ軽い。明らかに見た目金属質で重そうなのに、アルミ製かよ、ってくらい軽い。このギャップよ。
『我が王国に代々受け継がれてきた勇者の聖剣です。伝説の金属、オリハルコン製で、選ばし勇者が扱う場合に限り、羽のように軽くなると言い伝えられています。その剣をそんな風に軽々持ち上げられるということは、勇者様が勇者様である証です』
「ほう、やっぱ私って特別なんだ」
立ち上がって軽く振るってみる。
ビュッと風を切る音がした。剣なんか振るったことない私でも、これだけすんなり扱えるとはさすが聖剣。
『なかなか様になっていますよ』
「でも、振り方わかんないや」
『その辺りは、騎士団長のセシリアが、「わかりやすい剣の扱い方 初級編」という映像水晶をテレワークで作成してくれています』
「めっちゃ準備ええな」
と、その映像水晶とやらが送られてくる。
スッと水晶に触れると、空中に映像が投影される。この技術、私の世界よりすごいんじゃね?
『あー、どうもー。お初にお目にかかります。騎士団長のセシリアです。今日は簡単な剣の振り方をやってみたいと思います』
簡単な自己紹介をする女騎士。
鎧を身に着けて、かなり騎士然とした見た目なのに、実家で撮影してるのか、後ろにうつらうつらと船を漕いでる父親らしき人物が写っている。
せめて、父親映らない画角で撮ればいいのに。初心者ユーチューバーみたいやな。
『まず剣の持ち方から……』
と、なんだかんだと、セシリアという騎士団長の作った動画を見ながら、見様見真似で剣を振るってみる。
この騎士団長様、腕は確かなようで、教え方も上手い。
ほんの10分ほどの動画だったが、終わった頃には、基本的な型が頭に入っていた。
型どおりに身体を動かしてみると、思った以上によく動く。私ってこんなに運動得意だっけ?
『勇者様は転移の際に『剣技スキルLV1』を獲得されているようなので、覚えも早いですね』
ああー、なるほど、スキルっていうのが、私の凡庸な能力にブーストかけてくれてるのね。
そのおかげか、すいすいと剣の技術が頭と身体に浸透していくのを感じる。
思ったように身体が動くからか、思いのほか楽しい。外でもっと思いっきり振りたいわ。
『うぅ、勇者様が……勇者様らしい……』
王女が感涙の声をもらす。
水を差すようだけど、たぶん明日には飽きてるよ。