自粛4日目 召喚
料理のレパートリーが尽きた。
レシピがないので、アイデア勝負なのだが、そもそも今まで料理経験の少ない自分にとって、引き出しなんてものがそうあるわけもなく。
「ねぇ、王女ー」
『ぼりぼり……あ、はい、なんでしょうか?』
あっ、こいつ今、菓子食ってたな。
「料理のレシピ本とかないの?」
『ありますよ~。魔法で送ります』
ポンッ、とテーブルの上に一冊の本が現れる。
パラパラとめくってみるが、文字ばかりの上、その文字が読めない。異世界語だ。
意味ねぇ。
「これじゃ役に立たない」
『時間ありますし、いっそ字の勉強をしてみては?』
「えー、めんどい」
今から字を勉強し始めても、このレシピ本読めるようになるには何か月かかるか。
『うーん、じゃあ、仕方ありません。レシピ本をあなたの部屋から召喚しましょう』
「そんなことできるの?」
『人を召喚するのは条件がそろわなければできないのですが、物だったら、大きさにもよりますが、いつでもできますよ』
なるほど。それは便利だ。
ということは、レシピ本に限らず、日用品の類もあちらから持ってくることもできるのか。
そんな便利な力があるなら、さっさと教えて欲しかった。
「じゃあさ。レシピ本はいいから、私の部屋にあるタブレットちょうだい」
『タブレットですか?』
「うん、えーと、薄っぺらい本みたいなやつ。机かベッドの上にあると思う」
『わかりました。では……召喚!!』
机の上が一瞬光ったかと思うと、そこには私のタブレットがあった。
「おおっ、これこれ~」
タブレットの電源を入れ、指紋認証。
「これで料理のレシピを検索すれば……」
と、検索をかけようとして、ふと思いとどまる。
いや、タブレットだけ送ってもらったはいいけど、WIFIとか繋がるのだろうか。
そんなふうに考えて、右上の表示を見ると、案の定WIFIなしのマークが表示されていた。
「ああ、ガワだけあっても使えないじゃん」
あわよくば動画なんかも見れたらと思っていたけど、もちろん無理っぽい。
『ダメなのですか?』
「完全にダメってわけじゃないけど、私の世界とつながってないと、機能が発揮できない」
『あー、そうなんですね』
くそぉ。料理に限らず、タブレットが普通に使えれば、かなり暇つぶしできたのに。
ソシャゲもできないじゃん。
「レシピ本そのものをお取り寄せするしかないか」
『わかりました! ただ、自分の魔力の問題もあるので、今日の召喚は次で最後ですよ』
「うん、わかった。お願い」
『では……召喚!!』
と、今度は、A4サイズの雑誌っぽい本が机の上に現れる。
パラパラとめくってみると、まぎれもなく初心者向けの料理の本だ。
「……ねえ、これって、どっから召喚したの?」
『えーと、勇者様を召喚した場所からほど近い"本屋"というところからです』
「あー……」
ってことは、これ万引きやん。
「ねえ、王女。召喚って、こっちからあっちへも送れるの?」
『できますよ。倍の魔力がかかりますが』
「じゃあ、明日でいいからさ。私の財布からお金あっちに送っといて。バレないだろうけど、良心が痛む」
『わかりました! 確かに勝手に持ってくるのはいけなかったですね。反省です』
まあ、これでとりあえずレシピは手に入ったわけだ。
自炊に関しては、これでもうしばらくはなんとかなるかな。




