エピローグ
「いや、まさか、こっちの世界がこんなことになっているとは……」
王女と別れたのち、私は3週間ぶりとなる自分の部屋へと帰ってきていた。
テレビをつけてみて驚いた。
なんとこちらの世界もとあるウイルスのパンデミックにより非常事態宣言が出されており、外出自粛が求められているようなのだ。
自粛明けにまた自粛する羽目になるとは。
まあ、自粛生活にも慣れたところだ。
今度もなんとか……。
「いや、なるかなぁ……」
あちらのように話し相手もいないし、いつ自粛が明けるともわからない。
幸い会社も業務が止まっているようで、3週間の欠勤も大目に見てもらえそうだけども、来週あたりにはテレワークが始まるらしい。
家で仕事っていうのも気が滅入るなぁ。
「とりあえず夕食でも作るか」
時刻は夕方。
私は冷蔵庫を開く。
何でも入っていた魔法の冷蔵庫と違い、入っているものといえば、酒類と調味料、アイスくらい。
そういえば、あっち行く前の私って基本、仕事帰りに総菜買って帰ってたもんなぁ。
自粛中だけど、スーパーくらいは行かないと、にっちもさっちも行かないか。
「よいしょ」
重い腰を上げたその時だった。
「あ、食材なら持ってきましたよ」
「おっ、助かる。米すらなかったんだよなぁ……って」
振り返るとそこに王女がいた。
映像念話越しじゃない、生王女だ。
ファンタジーの見た目そのまんまの王女が、少し散らかったワンルームのど真ん中にぴょこんと正座していた。
「うえっ!? 何で……!?」
「ちょっと勇者様にお願いしたいことがありまして……ジャーン!!」
「ど、どうも……」
と、王女の背後からもう一人小柄な人物が出てきた。
赤い髪に赤い瞳、時折見える八重歯。魔女さんだ。
けれど、以前の魔女さんと違って、頭には二本の角が生え、服装もローブではなく、チャイナ服のような少しきわどめのワンピースだ。
「魔女さん!?」
「あー、えっと……魔女、改め、魔王だ」
「はぁ……!?」
魔女さんが魔王だったってこと?
えっ、えっ、理解が追い付かない!!
「勇者様が行ってから、いろいろありまして。人間代表の私と魔族代表の魔王さんが、交流目的で一緒に生活してみようかという話になったんです」
「それで、どちらかの国でとなると、家臣やらなんやら引き連れてたいへんなことになるので、どうせなら異世界の勇者のところが良いのではないかという話になってな」
「えっ、ちょ、それって……」
二人はにぃっと口の端を吊り上げると、ユニゾンして言った。
『魔王と王女の異世界自粛生活スタートです(だ)』
完結です。最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。




