自粛1日目 睡眠
さて、王女のナビゲーションで部屋まで案内された私。
現代日本からやってきた私にとっては、かなり大きく感じる部屋だ。
高級ホテルのスイートルームくらいありそう。
部屋の中央奥には、豪奢な天蓋付きベッドが鎮座してるし、キッチンらしきものもある。
大きく開放された窓から見える景色は、まさに風光明媚。
城がかなり高いところに建っているようで、街の様子も見渡せるが、なかなか広い国のようだ。
ここが、私の自粛生活の拠点になるわけか。
「ふぅ……」
そのままベッドに背中から倒れ込む。
なんだか旅行に来た気分。
ただ、元の世界のスーツ姿のままっていうのはちょっと肩が凝る。
ヨッと、勢いをつけて立ち上がると、近くにあった衣装棚を開ける。
うわぁ、色々あるなぁ。
ファンタジー風の衣装が並ぶ中、一番左に寝間着っぽい服があったので、それをつかみだす。
ネグリジェかぁ。趣味じゃないけど、寝間着っぽいものはこのタイプしかないみたいだし、まあ、しゃーない。
袖を通すと、絹のサラサラとした感覚が、ちょっとむず痒い。
これ元の世界で買ったら絶対めちゃくちゃ高いよな。
「さて」
自粛生活と聞いて、最初にすることはすでに決まっていた。
私はコンタクトレンズを外し、顔を洗って化粧を落とす。うん、さっぱり。
「では」
私は改めて、ベッドにダイブした。
「おやすみなさい」
『えっ、お休みになられるのですか!?』
部屋に入ってからはだんまりだった王女の声が、頭の中に響く。
「うん」
『異世界に召喚されたばかりですし、こう色々気になることとかありません? この世界の現状とか、他にも』
「だって、これからしばらく自粛生活なんでしょ。そんなのいつでもよくない?」
『いや、まあ、そうですけど……』
私の中では、「異世界へのワクワク感<睡眠」だ。
今日だって、睡眠時間三時間で出社してるんだぞ。こっちは。
『あ、じゃあ、せめて、自粛生活の簡単なルールだけ』
「あー、はいはい」
まあ、大事なことみたいだし、寝る前にそれくらいは聞いておくか。
『ここに来る時も言いましたが、基本的にこの部屋での生活になります。魔王討伐など、不要不急の外出は控えて下さい』
魔王討伐は不要不急なんだ。
『人との接触も極力避けます。使用人にも自粛要請を出していますので、何か必要があれば、私までどうぞ』
中世ヨーロッパ感あるけど、その辺はちゃんのしてるのね。
『あ、あと、スキルや魔法の使用はご自由に』
たぶん私それ使えない。
『こんなところでしょうか。何か他にわからないことがあれば、念話で聞いて下さい』
「委細承知」
声しか聞こえない王女に、形だけの敬礼で返す。
「んじゃ、そういうわけなので、寝ます。また、起きたら色々考えるので」
『あ、勇者様』
まだ、何か言いたげな王女の言葉を完全シャットダウンして、私は迫りくる睡魔に身を任せた。
あー、明日の仕事の事気にせずに寝られるなんていつぶりだろう。
広くてふかふかのベッドが気持ちよくて、私はすぐに眠りへと落ちた。