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自粛17日目 夜想

 いつの間にかすっかり夜も更けていた。

 おそらくてっぺんを回っているだろう。

 ろうそくの明かりで照らされた室内に浮かぶ二つの鏡。

 一つにはうつらうつらとし始めた王女が。

 一つには頬を赤らめながらも、魔王をロックで飲む魔女さんが。

 それぞれ映っている。

 私も夜風で火照った身体を冷ますように目を閉じる。

 楽しい時間だった。

 よく食べ、よく飲み、よく話した。

 まだ、そんなに付き合いの長くない3人だけど、そんなことを感じさせないくらい楽しいひと時だった。


「魔女さん、今日はありがとね。来てくれて」

『いや、その……こちらこそだ』


 ちびちびとグラスを傾けながら、そう言う魔女さんは、どこか恥ずかしそうだ。


『私は……あまりこういう経験がなかったからな。正直楽しかった』

「私も久しぶりだったよ。なんか学生時代に帰ったみたい。たぶん王女も同じ気持ちじゃないかな」


 すでに瞼の落ちかけている王女の気持ちも代弁しておく。


『勇者は、この自粛が終わったら、やはり魔王討伐に行くのか……?』

「んー、正直乗り気ではないけどね。でも、どうやらそれが私の役割らしいし」

『…………そうか』


 それきり場を静寂が包む。


『…………もし……』

「ん?」

『もし、魔王が人間との戦いを止めると言ったら、どうする?』


 思いの外、真剣な瞳。


「そうだね。魔王を倒す理由が無くなっちゃうね」

『そうか!』

「うん、まあ、私雇われ勇者みたいなもんだし。王女はなんていうかわからないけどさ」


 実際、できれば魔王討伐なんて危険を伴う面倒くさい事はやらずに済むならそうしたいし。


『そうか……そうだな』

「あ、魔女さん、もう一杯どうよ。芋焼酎って、ロックも良いけど、梅酒割りもいけるよ」

『ああ、もらおう』


 魔女さんが、自分の魔力で私が差し出したグラスを手元まで転送する。


『……んん、まだ、食べたりないですぅ……むにゃむにゃ……』

「王女、夢の中でも食べてる」

『ははっ』


 すでに寝入ってしまった王女の寝言を肴に、私と魔女さんは鏡越しに静かにグラスを打ち合わせた。

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