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自粛14日目 装飾

 さて、ついにこの日がやってきた。

 ぷくぷくに太ってしまっていた(本人談)王女が、ダイエットを始めてから1週間。

 いよいよ映像念話によるお披露目の日がやってきた。


「さあ、王女」


 はよはよ。


『うー、やっぱりまだちょっと……』

「大丈夫だって」


 実際、この1週間、念話してても、お菓子を食べている様子はなかった。

 私が教えたダンスもかなり頑張っていたようだし、それなりに痩せているんじゃなかろうか。

 まあ、元々どんだけ太っていたかにもよるけど。


『わ、わかりました……』


 王女は覚悟したように、スッと深呼吸をして、息を整えた。

 そんな緊張しなくても。


『…………では』


 王女がなにやら小さく呪文を唱えると、私の前にぼんやりと鏡のようなものが浮かんだ。

 真っ白く光を放つ鏡、じわじわとそこに人のシルエットが浮かんでくる。

 スラリとした手足、大きな胸、青い瞳に、綺麗に結い上げられた桃色の髪。

 綺麗というよりも、愛らしい、って感じだろう。

 フェミニン系で女性からも好かれそうだけど、それよりも男性……特にオタクの男子にめちゃくちゃモテそうな容姿だ。


「くっそ美人やないか」


 いや、美人ってより美少女か。たぶん年齢的にも20いってない。

 オフショルダーのドレスを着た姿は、そんじょそこらの女優じゃ、手も足も出ない見目麗しさ。


『イメージ崩れてません?』

「まあ、崩れるイメージもなかったけど。それに全然太ってないし」

『あはは、でも、まだ、元の体重までは戻ってないんですけど』


 といって、ほっぺをプニっとする王女。

 たぶんあれだ。本人的にはまだ納得できてないんだろうけど、男の子的には今くらいの体型がドストライクだと思う。乳でかいし。

 いや、召喚されたのが私で良かった。

 野郎を召喚してたら、絶対好きになられてたよ。


「あー、いいなぁ。私も美人に生まれたかったわ」

『まあ、お父様もお母さまも容姿は結構整っていらっしゃいましたから。それに、勇者様も美人じゃないですか』


 自分が美人ってことは認める辺りさすがに上に立つ者。大人ですな。

 けれど、後半の部分がいただけない。

 私は決して美人じゃない。

 いや、ブスだと卑下するわけじゃないけど、まあ、やや女子にしては身長が高めな以外は、一般的な容姿だ。

 それに目つきも悪い。ずっとパソコン仕事だし、寝不足も相まって、同僚からも「人を殺しそうな目してる」なんてよく言われたもんだ。


「私は目も細くて、小さいし。身体も薄っぺらいからなぁ」

『確かにこちらに召喚させていただいたばかりの頃は、人を殺しそうな目をしてるなぁ、なんて少し思ったものでしたが』

「おい」


 やっぱ思ってんじゃねぇか。

 っていうか、会社と同じこと思われてたわ。


『でも、こちらでの自粛生活が始まってから、随分穏やかな顔になったかと思いますよ。隈もなくなりましたし』

「うーむ、そうかな……」


 部屋の姿見で自分の顔を見てみる。

 確かに、自粛生活が始まってから、しっかりと睡眠を取れるようになったこともあり、あれだけ濃かった隈が綺麗さっぱり消えている。

 加えて、何の効果か、視力も改善されたようで、遠くのものや細かいものを見る時に、目を細める必要もなくなった。

 食生活の変化やゆったりとした生活のおかげか、肌つやも良い。

 その結果、王女の言うように、以前よりもかなりマシな顔にはなっている気がする。さすがに美人とは言わないが。


『それに、勇者様のスラリとした体型……私は憧れてしまいます』


 物は言いようだな。

 私は、王女のメリハリのある身体の方がうらやましいけど。

 まあ、お互い隣の芝はなんとやら、って感じなんだろう。


『ねえ、勇者様。せっかくですし、勇者様も少しおしゃれしてみませんか?』

「おしゃれねぇ」


 まあ、確かにこちらに来てから、外に出る必要もないので、ほぼほぼ何着かあるネグリジェを着まわしている。

 棚にある豪奢なドレスには一着も袖を通していないし、化粧だって全くしていない。


『私、可愛く着飾った勇者様が見てみたいです!』

「うーん、まあ、暇だし。いいけど」

『じゃあ、私ドレス選びますね!!』


 というわけで、なぜか王女に言われるまま着飾る流れとなった。

 王女が選んだ青系のドレスを身に着け、髪をセットする。

 こちらに来てから、髪が少し伸びて、プリンになりかけていたのだが。


『髪の毛染めるくらい魔法でお茶の子さいさいです』


 との王女の申し出で、かなり綺麗に染め直すことができた。

 染めてもらえるということなので、元々のブラウン系の髪色から、一度やってみたかったアッシュベージュに変えてもらった。

 おお、なかなか悪くないじゃん。

 髪型は自分でセットする。ドライヤーはないので、水魔法で髪を軽く湿らせ、風魔法と火炎魔法の応用で、熱風を当てながら、櫛を当てて整えていく。

 昨日習った魔法をフル活用だ。元は攻撃用の魔法でも、出力をコントロールすれば、こんなに便利に使うことができる。

 少し癖のあったセミロングの髪がストパーを当てたかのようにまっすぐになった。

 王女が見繕ってくれたバレッタを付けてみたら、なかなかどうして悪くない。


「やば、ちょっとテンション上がってきたかも」


 最初はそこまで乗り気でもなかったが、案外悪くない出来に、どうせならやれるとこまでやってみようという気持ちになってきた。

 というわけで、王女にお願いして、14.5ミリのカラコンを自室から召喚。

 以前コスプレしてる友達に、余ってるからと譲られたものだ。

 髪色と同様、色はグレー系。

 普段使いするには、色も大きさも少々度が過ぎるけども、ファンタジー風世界ならこのくらいでか目効果あっても良いでしょう。

 というわけで装着。やぼったい目が劇的にマシになった。

 あとは、化粧。


『勇者様。お化粧は私に任せてみませんか?』

「いいでしょう」


 というわけで、ベースメイクだけ自分でして、あとは王女の遠隔魔法による化粧に任せる。

 そして、10分後……。


『勇者様、目を開けて下さい』

「ん……」


 ゆっくりと目を開けるとそこには……美人がいた。


「えっ…あっ……うぇえ!?」


 いや、私……だよね?

 驚いた。我ながら上手く化けたもんだ。


「王女、メイクうまっ」

『王族は化粧の実力が死活問題にもなりますからね。まあ、私は第一皇女なので、あれですが』


 うん、自分でやっても、こうはならないわ。

 今の私は、普段のツンケンした印象がだいぶ薄まって、かなり柔和な雰囲気になっている。

 年齢もおそらく今の私なら20歳っていっても、6、7割の人は騙せそうな気がする。

 それぐらい普段の姿からは劇的な変化だ。マジで王女の化粧詐欺だな。

 とはいえ、着ているドレスも相まって、やや悪役令嬢感があるのはいなめないのだが……。


『ねえ、勇者様! どうせなら、今の姿を映像水晶に残しませんか?』

「是非」


 今回ばかりは、正直、この姿を残しておきたいと本気で思ってしまった。

 いや、遺影にするわ。マジで。


『じゃあ、撮りますよ~』

「あ、待って! どうせなら王女も一緒に」


 映像念話の鏡の隣に並べば、疑似的にツーショットもできるはず。

 ということで、私はゆっくりと王女が映る魔法の鏡の横に並んだ。


『では、改めてまして』

「うん」

『3,2,1で行きますね! 3』

「2」

『1』「1」


 後で見せてもらった映像水晶には、ぎこちないながらも笑顔を浮かべる私と全力で笑う王女の姿が、しっかりと写っていた。

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