自粛13日目 魔法
「ねえ、王女。私って魔法も使えるんだよね?」
『ええ、使えますよ』
昼下がり、漫画の執筆の休憩がてら私は王女に話しかけた。
『ようやく魔法にも興味が湧いたのですね~。召喚される異世界の方って、結構早くにそこに食いつくのですが』
「昨日ちょっと魔女さんと知り合ってね」
私も魔法が使えたら、こっちからも念話できるかもしれないし。
『魔女さん?』
「うん、西に住んでる魔女さんだって。昨日、間違って、うちに念話飛ばしてきたみたい」
『西に魔女なんて住んでましたかね……? まあ、いいです。とりあえず魔法でしたね』
王女は、いつもの転送魔法で一冊の本を送ってくる。
『例の如く、文字は読めないと思いますが、挿絵もありますので、こちらも参考にどうぞ』
「サンキュー」
パラパラめくってみると、魔法陣やら、魔法が発動した際のイメージ絵やらが目に入った。
ちょっと本格派のゲームの攻略本みたいだ。
『基本的に魔法も攻撃スキルと同じです。魔法の効果をイメージしながら、名前を口に出すことで発動できます。勇者様はすでにレベル30なので、ほとんどの魔法はおそらく発動できるかと』
「ふーん、良かった。思いのほか簡単そうだね」
『はい。ただし、身体の動きが付随してくる攻撃スキルと違って、魔法はイメージだけで行わなければいけませんからね。攻撃スキルよりは少し難度が上かと』
なるほど。
確かに剣を使った攻撃スキルは、構え、という動作がある分イメージしやすかったわけだけど、魔法は身体の動きと連動してるわけじゃないからな。
「あ、だから、イメージのためのこの本ってわけね」
『そういうことです。まずは、一番最初の頁を見て下さい』
支持されるまま、最初の頁を開くと、そこには人間の指から炎が出ているイラストが挿入されていた。
『いわゆる火炎魔法です。名前を「ファイヤボール」といいます。指の先から火球を発射して、相手を燃やす魔法ですね。イメージしやすい魔法の筆頭です』
「確かに」
炎の魔法といえば、RPGとかでも定番中の定番だもんね。
『窓の外に撃ってくれれば、転送魔法で処理しますので、とりあえずやってみて下さい』
「わかった」
イラストを参考に、右手の人差し指だけを伸ばす。
指の先に炎の塊が発生するイメージだ。
「えーと……ファイヤボール」
ボウッ!!
「うわわっ!!?」
頭ではわかっていたはずだけど、いきなり指先に拳大の火球が現れたもんでビビる。
反射的に炎を払おうとしてしまいそうになったが、なんとか踏みとどまった。
「これ、こわ……」
『最初は指先にほんの小さな炎が灯るくらいなんですが、勇者様すでに高レベル帯ですし』
馬鹿力だけじゃなくて、魔力ってのも高いのね、私。
「は、早く、これどっかやっちゃいたいんだけど!! なんか、熱いし!!!」
『あ、窓から放り投げて下さい~。池の上あたりに転送しま──』
王女の言葉が言い終わるのも待てず、とりあえず窓から全力で火の玉を放り投げた。
本来はおそらく指から自動で飛んでいく魔法なんだろうけど、完全に力技だ。
レベル30勇者の腕力を持って、投てきされた火の玉は、綺麗な流線型を描いたのち、突然、空中でパッと消え失せた。
王女が安全な場所に転送してくれたのだろう。
『どうですか? はじめての魔法は?』
「思ったより怖いわ」
現実世界では、ほぼ管理された炎しか扱ったことなかったからなぁ。
体感だとキャンプファイヤーの炎に手突っ込んでるくらいの迫力だったぞ。
『コントロールができるようになれば、ほんのろうそくくらいの火を指に灯すこともできますよ。夜、トイレに行く時とか、結構便利なんです』
「ほほう。生活にも使えるのね。そりゃ便利そう」
この世界、現実世界の夏至くらい昼が長いし、夜も月明かりがあるので、真っ暗ってわけじゃないけど、さすがに夜の廊下は足元見えないもんね。
「じゃあ、生活に役立ちそうなものから教えてよ」
『そうですね。じゃあ、夏場とかとっても役立つ、氷系統の魔法とか』
というわけで、王女に習いながら、様々な魔法を試してみる。
基本、攻撃に使う魔法なので、個人的に少しひやりとする場面もあったけど、やはり私は魔術適正とやらも高いようで、何度か使っているうちにすぐに火力のコントロールなんかもできるようになってきた。
『さすが勇者様です! もうほぼほぼばっちりですね』
最初に習った炎の魔法で拳銃のように指で形を作って火球を飛ばす姿を見て、王女がそう評した。
「王女さ。攻撃に使う魔法はこんなもんでいいから。念話とか教えてくんない?」
『すみません。勇者様。念話は特殊スキル「高貴」などを持っている人しか使えないんですよ。この国でも、使えるのは私を含めて、ごく一部だけなんです』
「え、そうなの……」
なんだ。せっかく魔法を勉強すれば、魔女さんにこちらからアクションできると思ったのに。
『ただ、勇者様のように高い魔力を持った人は、念話の受信側としてはこれ以上ないですからね。魔女さんという方も、また、連絡下さるのではないでしょうか』
「ふーん。ま、約束はしてるしね」
こちらから連絡できないのは残念だけど、魔女さんもまた、念話飛ばしてくれるって言ってたし、気長に待つかな。




