自粛11日目 執筆
漫画をほぼ読み終わってしまった。
新しい漫画を買おうにも、すでに財布の中身はすっからかん。
現実世界の銀行に行けるなら、お金をおろすこともできるけど、さすがに王女の召喚でも、銀行の手続きは無理だ。
当然、対価を支払わずに漫画を持ってくるなんて言語道断。
つまるところ、新たに漫画を手に入れることはできなくなったということだ。
「はぁ、どうしたもんかな」
色々やれることは増えてきたとはいえ、やはり一番の暇つぶしは漫画だった。
読み終えた漫画を読み返しては見るものの、それも3度目、4度目となると、さすがに飽きてくるだろう。
早急に対策を検討しなければならない。
一つ案が浮かんだのは、図書館の利用だ。
本を「買う」のではなく「借りる」、それならば、良心も痛まない。
ただし、カード等で手続きができるわけではないので、やはりどちらにしろ勝手に持ってくることになってしまう。
他にその本を借りたい人が、貸出検索をかけたりなんかして無い事がわかった場合、紛失扱いになることは間違いない。
やはり、図書館から本を持ってくるのも現実的ではない。
あとは、他人が捨てた漫画雑誌とかそういうのを召喚してもらうことはできるだろうけど、さすがに浅ましすぎるか。
「うーん、やっぱ漫画を持ってくるのももう限界かな」
『何かお悩みですか?』
「いや、新しい暇つぶしが何かないかな、と思って」
『ゲームですかね!』
「王女とのゲームはつまらないからなぁ」
『ガーン!!』
だって、成立しないゲームばっかじゃん。
うーん、漫画を読む以外の暇つぶし……ん、読む……以外……。
「いっそ描くか」
漫画を読めないなら、自分で描けば良いのだ。
普段なら、絶対やらないだろうけども、今はアホほど時間がある。
これでも、学生時代はペンタブでイラストなんかも良く描いていたのだ。
ちょっとコツをつかめば、漫画だって描いて描けないことはない。
『おおっ、勇者様が漫画を描くのですか?』
「うん」
『期待してしまいます!』
というわけで、さっそく王女に必要なものを送ってもらう。
ほとんどは私の部屋にあるもの。一部どうしても必要になるものだけ、最後に残ったお金で購入した。これで本当の素寒貧だ。
さて、アナログの経験はあまりないけど、いかがなもんか。
まずは、プロットを作らないとだなぁ。
「王女はどんなお話が読みたい?」
『えっ、私ですか!? えへへ、そうですねぇ。一国の王女と純朴な平民の青年との決して結ばれることのないラブストーリーなんてどうでしょうか?』
「いかにもやな。いいよ」
悲恋ものって、まあ、少女漫画としては王道ジャンルの一つだし。
それにしても、王女、そういう願望でもあるんかな。
本筋が決まったところで、キャラデザを考えてみる。
やっぱり身分違いを強調したいからなぁ。王女はかなり華美な感じで、青年の方はイケメンだけど、こう特徴のない感じ。
「こんな感じでどう?」
『うおぉおおっ!? 勇者様、絵、お上手ですね!』
「どや!」
伊達に友達に頼まれて、二次創作の絡み絵描いてたわけじゃないぞい。
とはいえ、ストーリーの方は完全にど素人だ。
「王女、私ストーリー考えるのめんどいから、もっと色々アイデアちょうだい」
『わ、わかりました!! そうですね……舞台は魔法学園にしましょう。第一王位継承権を持つわた……じゃなくて王女は、平民でありながら、魔法の才能があったために、学園に入学することになった主人公と出会うんです』
「おお、いいねいいね。王道だね」
『そして……』
その後、しばらくの間、私と王女は作品作りに没頭した。
基本は王女がアイデアを出して、私が微調整を加える感じだ。
とはいえ、意外にも、王女のストーリーメインキングは、王道ながら、なかなか筋の通ったものであり、私はほぼほぼイメージを形にする作業に従事するのみだ。
私が貸した漫画を読んで、漫画のパターンを覚えたか、もしくは、普段から結構こういう妄想を考えているタイプなのかもしれない。たぶん後者だな。
「これで、おおよそストーリーは完成だね」
『そうですね! お話を作るって楽しいですね!』
王女はいわゆる漫画の原作者様になったわけだ。
こう連名で表示される感じの。
「んじゃ、ネーム切ってみる。まあ、ちょっと待ってて」
『わかりました~! 楽しみです!』
さて、どんな漫画ができることやら。




