プロローグ
25歳、Webデザイナー4年目の私はいつの間にかファンタジー世界にいた。
「えっ、なにこれ……」
最新鋭のVRでもこんな風景お目にかかれないだろう。
まさに中世ヨーロッパのお城だ。大理石でできているであろう床や柱の高級感たるや。
そんな巨大広間の中央にはレッドカーペットが敷かれ、私はその上にぺたんと座っていた。
絨毯の続く先は、少し段になっており、高そうな装飾がされた王座が存在感を放っている。
だけど、そこに座る人は誰もいない。いや、椅子の上どころか、周囲を見回しても私一人しかいない。
『聞こえますか。異世界の勇者よ』
「えっ……?」
なにこれ、頭の中に声がする。
『私はこの国の王女です。あなたをこの世界に召喚したのは私です』
「え、あ、そうなんですか」
『率直に言って、あなたに魔王をたおして欲しいのです』
「あー、そういう」
私もラノベなんかはよく読むけれど、いわゆる転生ものというやつのシチュエーションに私は巻き込まれたらしい。
どうせなら、悪役令嬢ものが良かったのだが。
『ただ、非常に残念なお知らせがあります』
「なんでしょう」
『今、この国外出自粛中なんです』
「はい?」
外出自粛とはなんぞや。
『魔王の脅威よりも、もっと恐ろしい病気が蔓延していまして』
「はぁ、そりゃあ、恐いですね」
『国が緊急事態宣言を出しているので、みんな家から出ないのです』
「へっ?」
『ちなみに魔王軍も自粛中です』
「いや、なんで、私呼んだの!?」
タイミング悪すぎるでしょ。
『星の並びとか、色々あるのです』
「はぁ……」
『とにかく勇者である貴女にも、病気の危険が去るまで、城内で自粛をしていただかなければなりません』
「せっかく来たのに外出できないんですか」
まあ、正直、元居た世界での生活はちょっとしんどかったので、異世界生活自体はちょっとしたリフレッシュかもとは思う。
けど、せっかくのファンタジーなのに。
『あなたも召喚されたにも関わらず、病気で死ぬのは嫌でしょう』
「そりゃあ、嫌ですけど」
『部屋を用意しますので、基本はそちらで、生活をして下さい。食事や必要な物は、魔法で用意しますので』
「まあ、それだけしていただけるのならば」
『基本的に人との接触は最低限ということでお願いします。その他のルールについては追々』
人との接触も禁止ね。だから、こうやって魔法か何かで話しかけてるわけか。
『それでは、良き自粛生活を』
こうして、私の異世界自粛生活が始まった。
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