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愚兄と呼ばれた男の自由な旅  作者: おこめi)
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愚兄、森を駆ける

遅くなりました。

 蝋燭という小さな光源をかこみヒソヒソを小さな声で会話をする。


「随分と慎重だな。そんなに危険な仕事なのか」

「まあ、某の仕事が基本的に表ざたに出来ぬ仕事だからな」

「それじゃあ、今回もそっち系か。それならその道の人の方が良いんじゃないか」

「クトゥル殿はそれを凌駕するほどの実力者だと思うのだが。それに、よっぽどのことでないと力は借りぬよ」

「そうかい。それで、俺でないといけない理由があるんだろ」


 わざわざクトゥー1人を呼んだのだ、そのことに理由があることは何となく察していた。


「もちろんでござる。そうでなければ皆さんを御呼びいたしますよ」

「それで、何で何だ」

「簡単な話でござる。依頼主がクトゥル殿1人を名指しで指名したのでござる」

「は?」


 予想外の理由にクトゥーは呆れた顔で固まる。そして、頭をかきながら頭の中を整理するようにフゼスリに質問する。


「ああ、何、つまりお前は招待状みたいな扱いってことか」

「うーむ。半ば強制的に連れて行く故、どちらかといえば赤紙でござるな」

「召集令状かよ」


 緊急事態の際にギルドから発行される物で特定のランクの冒険者に発行され冒険者はこの依頼を受けないといけない。もちろん報酬も出るし、断っても構わない。ただし、断った場合はランクに応じてそれなりのペナルティが発生するためほとんどの冒険者は参加する。ペナルティを抜きにしても緊急依頼のため割と報酬はおいしいので冒険者も特に不満をためているわけではない。ちなみにFランクに対してはギルドからの支援がないためこの礼状の発行は認められてはいない。そして、礼状は重要書類として赤い紙で目立つようにされギルド員から直接渡される。


「それで、先方さんは何で俺なんかを」

「ふむ、知人から話を聞いて興味を持ったそうだ。……某ではござらんよ」


 睨むような目で見られているのに気づき一応言い訳をする。


「どこの誰か知らないが余計な事しやがって、それで何するかとか聞いてるの?」

「……」

「……言い辛いことをさせられるのか」


 突然黙り込んだフゼスリにクトゥーは天井を仰ぐ。

 真面目な目で真面目なトーンでフゼスリは話す。


「最悪、人殺しをお願いすることになる」

「暗殺ならお前の方が得意だろ」

「暗殺ではない。正面向き合っての殺し合いだ」

「要するに喧嘩がしたいのか」


 天井を見上げながらそのまま後ろに倒れ横になる。そして、右手でフゼスリを指差す。


「それ相応の報酬の覚悟は出来てるんだろうな」

「ああ、この身でも何でも捧げるつもりだ」


 フゼスリはホッとした笑みを見せ答える。


「出発は」

「明日。そんなに早くなくても大丈夫であろう」

「わかった。それじゃあ寝る」

「そうだな。某も今日はもう寝るとしよう」


 2人は寝床へと移動し灯りを消して、眠りについた。

 翌朝、太陽とともに2人は目覚める。


「おはよう」

「……ああ、おはよう」

「どうした。二日酔いか」

「いや、一人じゃないことが珍しい故、寝起きで挨拶をすることがまず無かった。あったとて爽やかな挨拶じゃなくて、殺伐な挨拶だ」

「そっちの方が好みだったか」

「冗談。勘弁してくれ。挨拶に気づかず熟睡してしまうわ」


 そんな皮肉めいたやり取りをしながら、2人は身支度を整える。


「朝は」

「食堂がある。そこで食べてから出発しよう。我々の足なら夕刻には到着する」

「了解」


 荷物をまとめ、宿屋を後にする。


「今日も空けとくかい」

「いや、やることは終わったからしばらくよることは無いです。お世話になりました」

「そうか。また来た時はうちを利用してくれ」

「是非」


 食堂に入ると見知った顔が何人か既に座っている。


「よう、朝から元気だな」

「そっちこそ、体は大丈夫か」

「ああ、あんたに負けたけど、夜の運動が無かったからな。それよりも金がないから稼がないとな。そのためにここで腹ごしらえさ」

「そうか」


 ゼティビと一緒に飲んでいた数人の男が席に座っていた。


「昨日は凄かったぜ兄ちゃん」

「どうも」

「フゼラテさん達も仕事かい。悪いがいい仕事は先に貰うよ」

「いえ、私達は今日ここを出ます」

「そうかい、そうだね。定住してるわけじゃないもんね。短い付き合いだったけど楽しかったよ」

「こちらこそ」


 お互いに握手を交わしあい挨拶を済ませる。

 朝食を食べ終えて2人は村を出て森の中へと入る。


「さて、ここまで来れば顔見知りもいないだろう」


 フゼスリは頭巾をかぶり目元を残して顔を隠す。


「先導いたす」

「任せろ、ついて行ってやるよ」


 木々を足場にして2人は飛び跳ねるように森の中を駆ける。先ほどまでの徒歩と段違いのスピードで一気に進んでいく。

 鳥のように素早く断続的に宙を舞う。枝を掻き分けるガサガサという音だけが残り、肉眼では捉えきれない。

 そんなスピードを維持しながら移動を続ける。


「フゼスリ」

「何でござる」

「そろそろ、昼飯考えないか」


 フゼスリは空を見上げる。太陽は頂点を超え少し傾いている。


「やや、もうこんな時間か集中しすぎていた。そういわれると腹が」


 勢いを落とし2人はゆっくりと止まる。


「何かあるか」

「いや、某も軽装でしか動かぬ故用意はない。現地調達だな」

「了解、美味そうなのしとめたいな」

「まだ、4割程しか進んでおらぬ。しっかりと食べておこう」

「んじゃ、それぞれだな」

「承知」


 その場から2人が消える。

 10分後。


「おや、クトゥル殿はまだであったか」


 血抜きのために逆さにしたイゼロスリ2匹と食べられる野草を持ちながら集合場所へと戻ってくる。

 クトゥーの姿が見えず、先に下ごしらえをしようと得物を地面に置く。


「フゼスリー」


 少し離れた所でクトゥーの声を聞く。

 声色から緊急事態というわけでもなさそうだった為、得物を集めなおし声のほうへと向かう。


「どうしたでござるか」

「運べん」


 外傷のない綺麗な顔をしたティムディティに腰をかけながらクトゥーがぼやいている。血だまりも無く外傷もほとんど見られない、死んでいるのか疑わしいほどに。


「そんなことだと思ったでござる。某の獲物持って来たでござるからここで準備いたそう」

「それじゃ、捌いていくか」


 クトゥーは剥ぎ取りようのナイフを取り出し、ティムディティの体に通していく。既に切られているかのように綺麗かつスムーズにナイフが進んでいく。


「♪~」

「惚れ惚れするような解体、見入ってしまうな」

「慣れだ慣れ」


 鼻歌交じりに解体を進める。スピードの衰えることなく淡々と進める。フゼスリもイゼロスリを下処理し野草を刻む。


「フゼスリ。火使えるか」

「お安い御用」


 石を重ね簡単なかまどを作り、枯れ木を空気の通るように並べる。」


「炎の式よ。我が生を吸いその身を示せ。火遁」


 拳ほどの火の玉を手の平に出し、枯れ木へと着火させる。


「サンキュ。俺は魔力がないから助かるよ」

「本当に魔力も筋力もないんでござるな」


 改めてクトゥーの動きを見て、フゼスリは実感する。


「そうだよ。呪われてるのかね」


 気にしないかのように料理から目を離すことなく適当に返す。その口調はどこか諦めている雰囲気が込められている。


「心当たりはないんでござるか」

「あったらこんなところでのんびりしてないよ。物心ついたときからこんなんだったから、色々と調べてみたけど、前例もないし、両親も普通に育ててくれていたみたいだ。何か変なものと取引して原因があった方が良かったぜ」

「クトゥル殿が調べたということはもう打つ手が無いのでござろうな。ちなみにいつ頃から変と思ったんでござるか」

「ああ、記憶があるところで2歳だな」

「早っ!?普通2歳の記憶は無いぞ」

「そうか?はっきり覚えているぞ」

「……多分人じゃない何かが関わっているでござるよ」


 ありえない話を前にフゼスリはこの話題を神の所為にして考えないことにした。

 焼く、煮るといったシンプルな調理肯定から、スープと焼いただけの肉を作り素材の味を楽しむ。


「唯一の持ち物がなべとは」

「これさえあれば水は煮沸できるし、スープも作れる、最悪これで焼きや炒めるといったことも出来るからな」

「一理あるな」

「まあ、フゼスリが火も水も魔法が使えて楽できた」

「どんな環境でも生き延びれるようには鍛えておるでござる」

「少し休んだら行くか」


 クトゥーはリュックをまとめ横になり目を閉じる。


「無用心でござるな」

「闇討ちしても良いんだぜ」

「冗談」


 火の後始末を終え、木に背中を預け座り込む。

 静かに風と木々だけがささやき会話をする森の中、2人はゆったりとした時間を過ごす。


「!」

「落ち着け、敵意は感じない」

「そうでござるか」


 人の気配を感じフゼスリが片足を立て、得物に手をかけたところを制止させる。

 ガサガサと音がして何かが草木を掻き分けて出てくる。


「うわっ、人だ」

「驚くほどか」


 ゆっくりと立ち上がりフゼスリが口癖を隠し対応する。


「すいません。普通は道を歩いていくものかと思ってましたので」

「君も森を抜けてるじゃないか」

「そうですね」


 中肉中背で丸い眼鏡をかけ大きな荷物を背負っている。髪は短く整えられていて、顔立ちは男とも女とも言えない中性的な顔立ちをしている。

 頭をかきながら詫びを入れる。


「ん?女か。一人で無用心だな」

「あはは。こう見えても旅には慣れているんですよ。よくわかりましたね出るとこ出てないんでよく間違われるんですよね」

「声と骨格でな」

「凄いですね。あ、そうだ。この森を抜けたところに果実酒の美味しい町があると聞いたんですがあってますか」

「ああ、そうだな。この方向にまっすぐ進むとあるぞ」


 フゼスリは来た方向を指しながら彼女に伝える。


「ありがとうございます。急ぎますんでこれで」

「ああ、引き止めて悪かったな」

「いえいえ、こっちが驚いて止まったのが先ですから」


 そう言って彼女はまたたくましく森の中へと消えていった。


「大丈夫であろうか」

「大丈夫だ目の動きはただもんじゃない」

「強さは感じなかったが」

「ああ、まあ、そうだろうな」


 起き上がりリュックを背負い直し出発の準備をする。


「強さにも色々ある。彼女は余裕でこの森を抜けるだろう」

「ふむ、某もまだまだでござるな」


 2人は再び移動を始めた。

 日も落ち辺りが暗くなったところで目的地へと到着する。

 夜だというのに魔法による明かりがビカビカと装飾され、町全体が活気付いている。


「目的地。ギャンブルの町、ヒイキチトでござる」

「ここがギャンブルの町」

「左様、一晩で全てを失ったり、成功者としての富を得たり出来る。人生を変える町でござる」


ついに新しい町に到着です。

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