愚兄に依頼が入る
お待たせして申し訳ありませんでした。新しいお話が始まります。
雲が程よく空を隠し柔らかな日差しを浴びながらクトゥーは手綱を持つ。
行き先も特に決めず広がる草原をクディがゆっくりと引いていく。
「ふぁあ」
程よく温められたクトゥーの体は眠気に満たされ、また小刻みに心地よく揺れる草原に出来た道が合いまり、大きな欠伸が出る。
ぼけーっと半開きになった目で前を見ていると、不意に家の扉が開く。
「アァー」
振り返ると声を上げながらソスラテが大空へと羽ばたいて消えてしまった。
突然のことに驚きクディと共にソスラテが消えていった空を呆然と見つめるしかなかった。
「何だあいつ」
「がう」
「どこへ行ってしまったのでしょう」
扉を開けたセミコがクトゥーの横に来て同じく空を見つめる。
今までソスラテが散歩感覚で外に出たがりだしてやることがしばしばあったが、こんなにも速く遠くに行ってしまったことは無いため、3人は心配になる。
「何か変わった様子はあったか」
「外からティオルの鳴き声がしたと思ったら慌てたように外に出たがってたから扉を開けたら」
「んーまあ、そのうち帰ってくるだろう。ティオル界の会合でも忘れてたんじゃないか」
「無事に帰ってくればいいんですけど」
「大丈夫だろ、あいつは頭がいいんだ。無茶はしないさ」
「そうですね」
「進もうかクディ、あいつならどこに居ても場所を特定してくるさ」
「がう」
セミコは中へ戻り、クトゥー達もあまり気にせずに旅を続ける。
その日ソスラテは帰ってこなかった。
赤いスカーフを巻いたティオルが黒い空を羽ばたく、目的地を目指し静かな空を翔る。目的地はとある町の宿屋、何の変哲も無い普通の宿屋の一室の窓辺に止まる。
ティオルがやってきたことに気づき男は
窓を開け出迎える。
そのティオルも迷い無くその男の指先へとペットのように警戒心無く止まる。
「アァー」
「お疲れ、突然読んですまない。ん?ソスラテ、お主少し大きくなったか」
「アァー」
「まあ、そうだな仕方ないな。セミコ殿の飯は美味いからの、思い出しただけでも……あぁいかんいかん」
「おい、フゼスリ」
口から欲望が滴り出てくるところを後ろから別の男が声をかける。
その声に反応し、フゼスリは欲望を飲み込んで声の主へと目線をやる。
「お前さんの親友俺にも紹介してくれよ。それと、仕事のこと忘れるなよ」
「もちろんでござるよ。ソスラテもおなかがすいたろう。セミコ殿には及ばないが一緒に飯を食おう」
「アァー」
男とテーブルを挟んで座りソスラテもテーブルに乗る。
「もう一つ、よだれちゃんと拭け」
男はおしぼりをフゼスリに向かって投げつける。
「おお、これはすまぬ、だらしないところを見せた」
フゼスリがそれを難なく受け取り口元から垂れていたよだれをふく。
ソスラテはテーブルに並ぶ料理を吟味し、料理の皿の端をいくつか突く、それを見てフゼスリがその料理を別の皿に分けてソスラテの前に置く。
「凄いな、聞いていた以上に賢いんだな」
「うむ、自慢の親友だ」
「アァー」
3人はそのまま暗証し一晩を明かした。
翌朝まだ太陽が少しだけしか顔を見せていない、あたりはまだ暗く山から見える太陽がひときわまぶしく感じる。
「それでは、ソスラテ頼むでござるよ」
「アァー」
窓際に立ち向かい合ってフゼスリがソスラテの足に文を結びつける。
結ばれたのを確認するとソスラテはまた空へと飛び立っていった。
「あ、おかえり」
「アァー」
日の暮れる頃ソスラテはクトゥーの元へと戻ってきた。一日だけの外出にクトゥーも何事も無く対応する。
黒い体に白い文、嫌でもソスラテがつけ帰ってきた文に目が行く。
「どうしたこれ?」
「アァー」
クトゥーの疑問に答えるかのようにソスラテは文のついた足をクトゥーに向ける。
意図を汲み取りクトゥーは文を取り、中身を確認する。
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拝啓クトゥル殿
暑さも和らぎ爽やかな風が世界を渡り歩く今日この頃いかがお過ごしでしょうか。
紙が小さい故にあまり長々と近況を報告できないのが残念でありますが本題のみを手短に書かせていただきます。
仕事を頼みたい、ソスラテと2人で参られよ。詳しい話は長くなる為直接致す。
敬具でござる
フゼスリ
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「ふざけた便箋だが読む所が少ないのは高評価だな」
持っていた便箋をくしゃっと握り、荒く小ポケットに入れソスラテの頭をなでる。
「朝一出発だ。今日はしっかり休め」
「アァー」
答えるようにソスラテは返事をし、家の中へと戻っていった。
一晩明け朝日がまだ出ていない、暗い空を眺める。
「さて、行くとしますか」
「相変わらず一人でどっか行く時は早い時間に出るわね」
入口でジュティが出かけようとするクトゥーを見る。
「私たちも行きたかったわ」
「フゼスリが俺だけを指名してきたんだ従うしかないだろう」
「でも、楽しそうなことには首を突っ込みたいお年頃よ」
「好奇心猫を殺す。死にたくなきゃ諦めろ。まあ、単純に男だけの仕事なのかもな」
「まあ、大人しくしてるけどね。いってらっしゃい」
「いってきます」
「アァー」
クトゥーはジュティに見送られながらソスラテと共に走り出していった。
ソスラテは最低限人が通れる道を進みながら最短距離で目的地を目指していく、クトゥーもそれに振り落とされない速さでソスラテを追いかける。
「別に良いけど全く容赦ないな」
その道は荒れ道であったり、木々や草が生い茂った道などとまともに走れないような経路を辿っていた。常人では確実に足を取られる道を自分の身軽さを利用し、飛び跳ねるようにソスラテを追う。
「ふい~この町か?」
「アァー」
日が昇ってるうちに何とか目的地に到着する。
着いたのは小さな町で特にこれといった特色を感じられない静かな町だ。
町の門を抜けると一人の男が声をかけてくる。
「やあ、旅人かい?宿屋なら向こうに一件だけだ。案内しようか」
「町の人でもないのに随分馴染んでるな。面の皮が厚すぎるんじゃないか」
「あれま、もうばれたか。仕方ないな」
周りに人が居ないことを確認して男は化けの皮をはがす。
「ふむ、声色も口調もちゃんと変えたつもりだったが」
「立ち方とオーラが一般人じゃないぞ」
そこには、普通の服を着たフゼスリが立っていた。
「精進が足らぬか、まあ良い、腹も減っているだろうセミコ殿ほどではないが食事にせぬか」
「ああ、仕事は良いのか」
「予想以上に早く着きすぎじゃから余裕しかないわ。」
「そうか。なめてんのか」
「なめておらんなめておらん。気を使っただけじゃ、準備やらを考慮しての計画じゃ」
「成程。俺基本的に持ち物少ないからな」
ぐ~~
クトゥーの腹が深い声で駄々をこねる。
「積もる話も食べながらにしようぞ」
「そうだな」
「ところでクトゥル殿」
「ん?」
「酒はいける口か」
「ああ、かなり飲めるぞ。いつぶりかな、ジュティが飲まねぇからしばらく飲んでないな」
「それは良かった。折角の機会、仕事の前に親睦を深めましょうぞ」
3人はそのまま町の酒場に入っていった。
更新ペースをあげて行きたいのですが忙しくなってしまいあげれるかはわかりません。ゆっくりでも続けては行きますのでこれからもよろしくお願いします。




