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愚兄と呼ばれた男の自由な旅  作者: おこめi)
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愚兄、孤児院に戻ってくる

本当に遅くなってしまい申し訳ありません。今回で孤児院の話は終わりになります。

 一日では到着することが出来ず、日が暮れたところで停車し休むことにした。いつものようにセミコが晩御飯の準備をしている様子をクトゥーは眺める。

 テーブルにはジュティのほかにザサルエが座り3人で話し合っていた。


「そろそろ、お前にやってもらいたいことを説明するか。」

「言ってなかったの?」

「ある程度のことなら文句は言わんよ。貴殿ならその辺の裁量は存じておるだろう。」


 驚きの表情を見せるジュティを横に腕を組みながら静かに座るザサルエ。

 クトゥーはある資料取り出して机の上に上げる。

 薄い冊子のような紙の束には文字が連なっている。


「これは。」

「名簿だ。」


 ザサルエはそれを手に取って目を通していく。


「孤児院の子供達か。冒険者、商人、鍛冶屋。子供達がそれぞれなりたい職業か。」

「その通りだ。お前にやってもらいたいのは冒険者希望の子供達に、戦闘や世界の常識についての先生だ。冒険者希望以外の子にもある程度は教えてやっていた方がいいだろうな。」

「ふむ、某にもある程度ならできそうだな。だが、貴殿等よりも劣るぞ。」

「お前の腕なら十分だろうよ。」


 ザサルエは冊子を閉じ自分の胸元へとしまう。そして、クトゥーの目をしっかりと見て答える。


「この仕事、このザサルエ責任をもって承ろう。」

「そう言ってくれると思っていたぜ。」


 そして、二人は固い握手を組んだ。


「さあさあ、出来ましたよ。ご飯にしましょう。」


 セミコの明るい声にみんなが振り向き楽しい夕飯が始まった。


「そういえば、ザサルエ。あんたに渡すものがあるわ。」

「某にか。」

「ええ、気に入ってもらえるかわからないけど受け取ってもらいたいわ。」

「仕事にこんなおいしい飯に餞別も頂けるとは某は幸せ者だな。」

「お前の行いが良かったんだろ。だからもう罪とか罰とかいうんじゃないぞ。」

「まあ、子供達のためにこれからは働き続けるよ。」

「これからもだろ。」


 そんなことを話しながら晩餐は続いていった。

 食事が終わり、セミコは片づけを行い、クトゥーは外に出て警備の準備を始めていた。

 ザサルエはジュティに待っていろと言われ、お茶をすすりながらテーブルに座っていた。

 しばらくして、ジュティが身長ほどある包みを持ちながら戻ってくる。

 テーブルに包みを置きゆっくりと腰を掛ける。


「セミコちゃん手が空いたら私にもお茶入れてもらえるかしら。」

「わかりました。少々、お待ちください。」


 ザサルエは包みに目をやる。


「これが、例の物か。」

「ええ、そうよ。あ、セミちゃんありがとう。」


 セミコからお茶を受け取り一口飲む。


「私が管理していたから気に入らないかもしれないけど、まあ、人並み以上にはできてると思うわよ。」

「開いてみても。」

「いいわよ。」


 ザサルエがゆっくりと包みを開いていく。

 見覚えのある長さ、太さ、大まかなシルエット。何となく思い浮かぶイメージにザサルエの鼓動が高まっていく。

 包みを開ききったところでザサルエが目を見開いて驚き、ジュティを見る。


「これを、某が本当に受け取ってよいのか。」

「何言ってるの、もともとあなたの物でしょう。」

「しかし、貴殿らが某から勝ち取ったものでは。」

「それじゃ、私らの好きに使っていいわね。」

「売らなかったのか。」

「あんた以外にこの武器を握る人はいないわよ。一通り整備用品置いていくから最終調整は自分でやって頂戴。」


 お茶をグイッと飲み干してまた自分の部屋へと戻っていった。

 ザサルエはじっと自分の愛用した薙刀をじっと見つめる。胸の内から込み上げる物があり目頭が熱くなる。


「またお主と出会うことが出来るとはな。」


 ザサルエは薙刀を手に取り確認する。

 手に馴染むグリップ、ずれの変わっていない持ち手、きれいに研がれている刃、ザサルエの整備に遜色ない整備が施されている。


「すごいな。某よりもうまいかもしれぬな。今すぐにも使えるほどの代物だ。」


 少し空振りをし、戻ってきた実感を取り戻す。

 そしてまた、自分の鞘に愛刀を納めた。


「ありがとう。本当にありがとう。」


 翌朝になり、移動を再び始め昼前頃に孤児院がまた見えてくる。

 ある程度遠いところで停車し、4人で歩きながら孤児院へと向かう。


「いろいろ世話になったな。」

「まだついていないぞ。」

「ごちゃごちゃしていうタイミングが無いかもしれぬからな。それに貴殿らはいつの間に居なくなるかもしれんしな。」

「そうだな。さっと説明してどっか行くつもりではいたよ。」


 入口へ到着すると、農作業をしている子供達が数人4人を発見する。


「おう、子供達約束の先生連れて来たぞ。みんなを読んで来てくれ。」

「わかりました。」


 子供達は道具を置いてパタパタと孤児院の中へと向かっていく。

 少しして、子供達とソラシンがやってくる。


「その方が先生をして下さる方ですか。」

「ザサルエと申します。内容はクトゥルさんから聞いてます。これからよろしくお願いします。」


 あまりにもことにクトゥーはザサルエを驚愕の眼を向ける。


「普通にしゃべれるんだな。」

「子供は影響されやすいからな。自分の癖が移させるわけにはいかん。」

「ボロが出そうだな。」


 危なそうなザサルエをにやにやとしながら見る。その顔に怪訝な顔をザサルエは向ける。

 ソラシンは恐る恐るザサルエに問いかける。


「私はここの管理をしておりますソラシンと申します。引き受けて下さるという中でこんなことを言うのは失礼かもしれませんが、本当に引き受けてしまってよろしいのですか。」

「ええ、恥ずかしながら過ちを犯してしまいまして、その償いの意もありましてこの仕事を引き受けることにしました。寝場所さえいただければいいと思っていましたよ。」


 その言葉にソラシンは深々と頭を下げる。


「本当にありがとうございます。恥ずかしながら私は世間知らずで、支援金が少なくなるまで子の孤児院の現状を知ることが出来ませんでした。年だけ食った不出来な者ですがよろしくお願いします。」

「大丈夫ですよ。私も人に公言できるような人生を生きていませんよ。人生のほとんどが犯罪人生ですよ。」


 自己紹介をしていると一人の男の子が太めの木の棒を2本持って前の方へとやってくる。1本をザサルエに投げる。それをザサルエは難なく手に取る。


「実力を見せて下さい。」

「こら、プラズ…。」


 止めようとしたソラシンをクトゥーはスッと間に入って止める。

 プラズフルが木の棒を正面に構える。


「まあそうだな。良かろう、やろうか。」


 ザサルエは木の棒を持ち直し、その棒をポイっと後ろの方へ捨てた。

 

「な。」

「慌てるな少年。ちゃんと相手してやるよ。」


 軽く体を動かして準備をする。


「いつでも来な、開始の合図は無しだよ。」

「はい。」


 ぐっと踏み込んでプラズフルはザサルエへと襲い掛かる。棒を振りかぶりザサルエに振り下ろす。

 ザサルエは何事もなく軽々と避ける。避けられても追うように攻撃を続けるもかすりもせずに楽々と避け続けていく。

 プラズフルはだんだんと息が上がっていき動きが鈍くなっていく。

 ザサルエはプラズフルが降り下ろした棒を人差し指と中指に挟みぐっと押し付けて力が緩んだところをスッと棒を奪った。


「まあ、こんなものだな。終わりでいいな。」

「……はい。」


 明らかにプラズフルは落ち込んでいる様子が見て取れた。

 他の子供達もザサルエの動きに呆気に取られていた。


「それじゃあ、ザサルエ上手くやれよ。」

「任せろ。ちゃんと戦えるように鍛えてやるよ。」

「それじゃあ、ソラシンさん。後はあいつとうまくやって下さい。」

「あ、はい。本当にいろいろとありがとうございました。」


 去ろうとする。クトゥー達に深々と頭を下げるソラシン。

 クトゥーは手を挙げて返しながら小屋の方へと戻っていく。

 しっかりと三人を見送った後、ソラシンは子供達を連れ、ザサルエとともに孤児院の中へと戻って行った。

 孤児院を離れクトゥー一行はまた気が向く方向にのんびりと進んでいた。

 手綱を持ちながらボーッとしているクトゥーの隣にジュティが立つ。


「お疲れ様。」

「おう。」

「今までよりも随分熱入れてやってたわね。何かあったの。」

「いや、いつもより頑張ったのは、ただの恩返しさ。」

「恩返し?誰の。」


 クトゥーはぐでっと仰向けに寝転んだ。


「いつも俺達を快適に支えてくれる奴さ。」


 クトゥーの言葉にジュティは首を傾げた。

 カタカタと心地よく揺れながらゆっくりと進んで行った。

次の話はまだ書けていませんが、ほのぼの回が続いたのでちょっと戦闘を入れて緊張感のあるお話にしたいと考えています。なるべく早く更新できるように頑張ります。

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