愚兄、人生を見返す
度々遅くなってしまって申し訳ありません。何とかペースを戻したいとは考えています。
翌日また同じように応接室にクトゥーと子供達、ソラシンが集まる。今回はジュティとセミコは居らずクトゥー一人で孤児院へ来ていた。
「全員腹は決まったな。もう少し時間の欲しいやつはいるか。と言っても今日中なんだがな。」
手を上げる子供は居らず全員答えを決めた顔をしていた。
野暮な質問だったかなと頭をかきながら改めてクトゥーは始める。
「一つ約束してくれ。」
真剣な顔へと変え子供達全員を見るように視線を動かす。
「違う道を歩もうとしている人達を尊重し笑わないことを約束してくれ。冒険者以外の希望者は後でチャキューにでも相談してみてくれ。
それじゃあ聞こう。冒険者になりたい奴は手を上げてくれ。」
――――
クトゥーは一人草原の中で寝転がっていた。
固くもやわらかくもある草と土に体を預けて、頬をなでる風を心地よく感じながら、流れ行く雲をぼーっと見つめている。
ジュティ達は、溜まっていた素材の売却と野菜など現地調達の難しい食材の買出しに、近くの町に行ってしまったためやることが無くこうやって体を休めている。
クトゥーの目の前が影に覆われ一人の女性が話しかける。
「ここにいらしたんですか。」
「おや、ソラシンさん孤児院から離れて大丈夫なんですか。」
「まだ結界の範囲内ですし、子供達はほとんどが眠ってしまいましたので、昨日いっぱい悩んだんでしょうね。」
どっこいしょと横に腰を降ろし
「とりあえず明日チャキューに会う予定をしているから。冒険者以外の希望職についても一緒に話してみるよ。」
「よろしくお願いします。」
「俺達がやるのは先生となる人の説得だけだ。後は孤児院の問題だ。」
「わかっています。むしろここまでやっていただいてどうやってお返ししたらよいか。」
「別にいいよ。いつも世話になってる奴の恩返しだ。だから、気にしないでくれ。」
「ですが。」
「今から俺は寝る。これ以上は言うことも無いし、聞くことも無いからね。何を言ってもあんたの独り言になるだけだよ。」
そう言ってクトゥーはソラシンに背中を見せるように寝返りをうつ。
その背中を見ながらソラシンは優しい笑顔で独り言をつぶやいた。
「孤児院を、私を救っていただきありがとうございました。
恥ずかしい話、この歳にもなって自分が何も出来ない人間だって事を自覚しました。ずっとあの塀の中で子供達と一緒に約束された甘い蜜ばかり吸っていました。私もいつしかその中に閉じこもりたいと思っていました。綺麗事ばかり受け入れるようになり、いつしか人間の汚い部分や本能的な部分から目を背けていたんです。
あなたは凄い人ですね。私の半分くらいしか生きていないのに、私では考えられないほど莫大な経験を積んでいる、辛いこと、嫌な事はたくさんあったんだと思います。
私も子供達のため孤児院の為に眼を背けることをやめます。
導かれた冒険者さんに誓って。」
そう言ってソラシンはよいしょと立ち上がり孤児院へと振り返った。
「本を読め。」
「え?」
「本は書いた人の学びである。学びとは培ってきた人生である。
魔法に生きたもの、星に生きたもの、歴史に生きたもの、言葉に生きたもの、数字に生きたもの。
この世には、まだまだたくさんの人生が記されている。俺の経験も半分は本や書物によるなんちゃって経験だ。」
「成程。本ですか。」
「ああ、本はダイジェスト人生。」
「本はダイジェスト人生。」
クトゥーの言葉に感慨深くソラシンは復唱する。
不図、ある言葉を思い出す。
「あら、私は独り言であなたは寝るんじゃなかったかしら。」
楽しそうに笑いながらクトゥーへと聞く。
「俺は今目を瞑ってるからな。寝言だよ寝言。」
「随分と会話のような寝言を言われるんですね。」
「ああ、寝言だから今の会話は起きても覚えていないだろうね。」
「そうですか。」
そこで二人の会話は止まり、ソラシンは改めて孤児院へと戻っていった。
クトゥーは風に包まれながら一眠りした。
日も落ち始めたころ、ジュティ達が戻ってきたのを感じ、クトゥーは孤児院から離れ合流した。
翌日、チャキュー一行がまた孤児院の近くへとやってきた。
クトゥーはチャキューを訪ね中へと入る。
「孤児院に話はつけてきた。」
「そうですか。それで、どんなチャンスを与えてきたんですか。」
「先生をつけてやろうと思ってな。」
「先生ですか。しかし、彼女は世間知らずではありますが、知識はありますよ。魔法も人並み以上にはできるかと。」
「世間をよく知っていて、魔法じゃない戦い方を熟知している先生だよ。」
チャキューは顎に手を当てて天井を見て考える。
「・・・。え、先生やるんですか。」
「やらんわ。」
信じられないものを見た顔をして聞くチャキューにクトゥーは食い気味で返した。
「条件的には当てはまると思いましたが。」
「そうか? 俺も世間には疎いほうだぞ。」
「そうなんですか。まあ、そこは置いておいて。その案には欠点がありますよ。」
「何だ?」
「先生がいないんですよ。求める人材の条件でそんな仕事誰もやりませんよ。冒険者の仕事の方がよっぽど稼げます。相当な物好きで無いと。」
「その相当な物好きに心当たりがある。」
チャキューの言葉をとめるようにクトゥーは言葉を刺す。
急に止められた事とクトゥーの揺るぎ無い自身に少しひるむ。
「随分な自身ですね。」
「お前も知ってるっだろう。犯罪を犯してまで手に入れた財産を平気でこの孤児院に回す変わり者を。」
少し考えるが、二人の共通の知り合いと言えば人物は限られる。
「あいつを使うのか。」
「ああ。」
「だが、あいつは、まだ。」
「捕まっているな。」
「だろう。」
「捕まってるところがイーワイ国城下町。運がいいことに俺は上の人間と縁がある。」
「誰だ。」
「企業秘密だ。だが、言葉の重みの保証はしてやろう。」
そこまで言い切ってチャキューは、言葉が止まり考える。
おもむろに立ち上がり奥の方へと消えていった。
しばらくして紙の束をクトゥーの前に出す。
「これは。」
「署名と報告書。」
「何のって聞くのは無粋か。貯めていたのか。」
「一度捕まった頃に持っていったんだ。でも、本人に拒否されてしまったんだ。『ここで罰を受けねば俺が寄付した子供達が不幸になろう。俺の罰だ、しっかりと受けよう。貴殿の努力を踏みにじって申し訳ない。』ってね。」
「成程。」
紙束を手に取り、流し読みをしながらめくっていく。
「君にこれを託す。多分これが精一杯だろう。」
「いや、丁度こういうのが欲しかったから助かるよ。早速戻って交渉してくるか。」
紙の束を持ってクトゥーはチャキューの小屋を出ようとする。
「あ、そうだ。孤児院に商人希望の子とか鍛冶希望の子がいるんだが、あてとかあるか。」
「ふむ、無い事は無い。それじゃあ、孤児院にでも行って詳しい話を聞くか。」
「んじゃ、またな。」
「ああ。」
そう言ってクトゥーは出て行き自分の家へと戻って行った。
小屋に着きジュティ、セミコとテーブルを囲む。
「それじゃあ、これ持って王に直談判に行くぞ。」
「これ相当綺麗にまとまってるわよ。証言の裏づけもあるし、これさえあれば残りの刑期くらい簡単に飛ぶわよ、きっと。」
「ただ、チャキューが言うには本人がそれを受け取らないんだと、まあ、適当に言いくるめるしかないな。」
めんどくさそうにクトゥーはため息混じりにつぶやく。
「大丈夫なんですか。」
「何とかなるだろう。」
立ち上がり小屋の外へと移動する。
「それじゃあ、イーワイ国城下町まで飛ばすぜ。」
「がう。」
クトゥーは手綱を取り、クディはそれに答えるように走り出した。
またまたイーワイに戻ります。こんなに度々戻ることになるとは全然思っていませんでした、自分の無計画さが出てしまってますね。




