愚兄と門と未知の生物
愚兄から始まるサブタイトルに限界を感じ始めました。
しばらく森の中を進みアジトへと到着する。
大きく回り道をして切り立った崖の上に緑と茶色を基調とした森にカモフラージュされ目立たない家があった。
家というよりかは小屋といった感じであるが人一人が暮らすには十分すぎる広さである。
「3,4人ぐらい住めそうだな。解体した材料で作ったのか?」
頷くザサルエまだのどは痛い。
小屋の横にヨンディサイズの荷車があった。大きさは一般的な大きさだ。
また別なところに人用の荷車もあった。こちらは結構年季というか使い込んでいるといった様子である。
クトゥーはよく考える。
「凄い、色々ある。」
「がぁう。」
小屋周辺を探索するジュティと興味津々且つなんだかそわそわしているクディを横目に考えた。
「ザサルエ。」
その呼びかけにクトゥーのほうを見る。ジュティとクディもクトゥーを見た。
「そのヨンディの荷車は最近勝ち取ったものでまだ解体していないもので、いつも解体してその人用の荷車で持っていっているよな。」
頷くザサルエ。
「それで、ヨンディの荷車が綺麗な形のまま残っているのはお前が押してきたわけでなくヨンディも一緒に勝ち取ってここまで引っ張らせたからだ。」
「ちょっと待ってよ。それじゃあヨンディはどこにいるのよ。」
「もういないんだろ。」
のどをやられた人は目を閉じゆっくり頷く。
「おそらく血の匂いで足がつかないように結構遠いところでと殺してるんだろ。その肉は全部干し肉にしたのか?それならば全部家にあると。」
しゃべれない人が少し驚きながら頷く。
「それで人用の荷車が使い込まれてるのはお前が解体して複数に分けて売りに出してるからか。」
まるで見てきたかと思うほどぴたりと当てるクトゥーに驚きと共に頷く。
「ちなみに解体してまだ売ってないものってあるか。」
ザサルエは小屋の裏へと歩いていく。ついていくとそこにはパーツごとに分けられた資材置き場があった。
「それじゃあここにあるもの全部貰うぞ。」
もちろんというように大きく深く頷くザサルエ。
「まずはこいつを町に引き渡さないとな。」
「どうするの?流石に人は運べないわよ。」
「なに、ちょうど良いのがある。」
クディを呼びながらヨンディの荷車に近づきクディをセットする。
「運んでみたいんだろ。」
「があぅ。」
「よしよし、それが終わったらもっと運び甲斐のあるもの作ってやるよ。」
「があがあぁあう。」
喜ぶクディそれを見てジュティ成程と思った。
「クディをヨンディの代わりにするのね。」
「ああ、こいつも運びたそうにうずうずしてたし、初めてあったときも何かを運びたがっていた。きっと本能的なことなんだろう。」
「そうね、それじゃ行きましょうか。」
「その前に。」
ザサルエに近づき質問を始める。
「この小屋は襲われたりするのか?」
フルフル。
「それじゃあこの小屋はお前しか知らない。」
コクリっ。
「お前がいなくなった、捕まったということが知れ渡っても誰もここを知らないから誰も狙っては来ない。」
コクリっ。
「この小屋は色以外で原型のままなのか。」
フルフル。
「それじゃあいじりすぎて完全にオリジナル状態で足はつかないと。」
コクコクっ。
「ねえ、心配しすぎじゃない。」
「そりゃそうさ。俺は弱いからね。」
「・・・ああ、成程。強盗強奪されるとやり返せないからね。」
「そう、あれは文字通り力が強い人がやることだからな。」
ザサルエと荷物を荷車に乗せヨンディを操り席にクトゥーが座り、クディに指示の打ち合わせをする。
「よし、忘れ物無いな。行くぞ。」
「があああぅぅううあ。」
凄いスピードでクディは走り出した。重さなんて無いかのようにずんずん進んでいく。
「凄いぞクディ。そのまま一気に町に行くぞ。」
「がああぅあ。」
道に戻っても激走を続けるクディ。ギシギシという嫌な音がクトゥーに響いてくる。
「止まれクディ。」
手綱と声で合図を出し、クディを止めさせる。
「どうしたの。」
中にいたジュティが急に止まったのに驚いて顔を出す。
「この荷車、ヨンディ用だからクディの速さに悲鳴を上げてるよ。」
「ああ、成程。でもここからなら歩いていっても日の落ちる前につくんじゃない。」
クディの快走により森を出るまで約300mといったところまで来ていた。
森を抜けてしまえばイーワイ城下町まではすぐだ。日入りまで後1時間半といったところなのでジュティはそう判断した。
クディに歩くように指示を出し、先程までとは打って変わってゆっくりとした移動となった。
「止まれ。」
門の前で止められる。
「見たことも無い生物だ。危険性があるため町への侵入は禁ずる。」
そりゃ見たことも無い生物が、体の何倍もある荷車を平然と引っ張っていたら誰だってそうするだろう。
「おとなしいんですけど駄目ですか。」
「頭ごなしに全部を否定したくは無いが見たことも無い生物を簡単に入れるほど、この国も平和ボケしていない。」
「そりゃそうだな。ジュティ、悪いけどそれ届けて荷車回収の手続きもお願いして良いか。」
荷車の中に向かって話しかける。
「もちろん良いわよあんたじゃ抑えきれないもんね。準備したら行く。」
門番がその会話を聞いてクトゥーに聞く。
「ん?それは盗難車なのか。」
「そうですよ。俺達冒険者やってましてお尋ね者を捕まえてきたところなんです。そしてこれがその人が奪ったものらしいので届けついでにちょっと借りたわけです。」
「成程な。」
そんなこんな説明をしていると荷車からジュティが降りてきた。
「お待たせ。はい、ライセンス。」
「確認し。え?」
ジュティと共に降りてきたザサルエの姿を見て門番達は固まる。
無名の冒険者二人が、そこそこ上位の犯罪者をつれているからである。しかも、おとなしく言うことを聞いている。
「んじゃ行ってくるわ。あー戻ったら剣見てくれないわかんなくなって来ちゃったんだよね。」
「いいぞ。悪くならないように違和感があったらすぐ言ってくれ。遠慮するな。」
「元よりして無いでしょ。」
「そうね。」
門をくぐっていくジュティを手を振りながら見送った。
「さ、邪魔になるし。ちょっとずれようか。」
「がぁ。」
がたがたと変な音を出しながら門の横へと移動した。
移動すると荷車から降りて色んなところを見ながらぶつぶつとつぶやく。
「どのくらいあったかちゃんと見てくるんだったな。ああでも人用のあるしそれに積んで運んでもらえば良いか。ああでも、その前にクディが入れないのか。どうすっかな。」
クディの荷車をはずしながら考え、クディははずされたと同時にそのまま眠り
についた。
「あ、そういえば。」
クディは目が届く範囲なので門番のところに再びクトゥーは顔を出した。
「すいません聞きたいことがあるんですけど。」
「何だ。俺達も聞きたいことが一杯あるんだが、そっちの質問に答えたら答えてくれるかな。」
「聞くだけ聞きますよ。」
「そうか。それで聞きたいことは。」
「風の噂で聞いたんですけど、そろそろ王権が交代されるらしいですけど授与式はいつやるんですか。」
門番二人は顔を見合わせる。
「いや、特に交代するって話しは正式には降りて無いよ。噂はもちろん知ってるけどね。一人息子のグルーフ様になるのかな。まあ、誰も文句は無いでしょう。」
「違うだろ。確か出来の悪い兄貴がいて王様が15年前から隠してるんじゃなかったか。この間新聞に出てたろ。」
「ああ、誰も顔を知らない兄がいるらしいな。」
「何でも貴族の間じゃ弟の出来が良すぎるから、愚兄とまで言われてるらしいぜ。」
「へぇそうなんですか。それじゃあグルーフ様への王権交代は。」
「まだ先になるだろうな。色々と準備もあるんじゃないのか。」
「王様とか引き継ぎ多そうだしな。」
「とりあえずわかりました。ありがとうございます。」
(時間はあるな。それだとクディもいるし住居兼荷車の製作をしたいな。なんか、上手いこと集まりすぎて怖いな。反動でえらい問題が飛んでこないことを願おう。)
ぶつぶつと考えながら去ろうとする、クトゥーを門番が止める。
あ、と声を出しながらクトゥーは門番へと戻る。
「すいません。聞きたいことがあるんでしたっけ。」
「ああ、何から聞いたらいいかわからんが、あの生物とザサルエの捕獲について教えてくれないか。」
「うーん。良いですよと軽々しく言えない質問ですね。」
その言い方に怪しい事情があると思ったのか門番が武器を構え警戒する。
「言い方が悪かったです。」
その様子にしくじった顔をしてクトゥーが訂正する。顔は警戒したまんまだが構えは解いてくれた。
「簡単に答えられないのはあの生物のことです。私達もわからないので答えられないんです。」
「その割には、しっかり手なずけているようだが。」
「頭はかなり良いみたいですよ。こっちの言葉を理解しているようで言葉は話せませんがある程度の意思疎通は出来るようです。」
「成程な。」
「ザサルエは正々堂々戦って勝ったらおとなしくお縄についてくれました。」
「あの女性は相当な腕なのか。」
「そうですね。サン・エルティの兵士としても十分やっていけると思いますよ。」
「そんなにか。」
「それじゃあ、情報交換はここまでですね。」
「もっと聞きたいが仕方あるまい。」
逮捕状が出ているわけでもなく犯罪者や予備軍で無い以上、答える義務は無い、個人情報だからだ。もちろん尋問も出来るわけが無く相手の了解を得て答えてもらうのがこの世界のルールとなっている。もちろん危険と判断されれば底に人権のようなものは無い。
「くれぐれもその生物の手綱はしっかりと握っていろよ。」
「はーい。」
その後は寝ているクディの横で錫杖の手入れをしていた。
1000PVを超えました。ありがとうございます。これからもたくさんの方に面白いと思っていただけるよう頑張ります。