愚兄、案を提供する
交渉回ですね。再びあの孤児院に訪問していきます。
翌朝、3人は再び孤児院を訪れていた。
クディとソスラテは前回同様遠くのほうで留守番をしている。
「すいません。」
大きな敷地に響くように声を出し人を呼ぶ。
「また、あなた達ですか。」
呆れたように近づいてソラシンは3人の前にやってきた。
「ははは、すいません。どうしてもうちのセミコが子供達が心配だと言うことでおせっかいに来ました。」
「うちにあなた方の手を煩わせるような問題はありません。お引取り下さい。」
そういったところでクトゥーの目つきが変わる。
「へー来月で援助金がなくなることは問題では無いと。」
ソラシンは動揺した。体をビクッと震わせ嫌な汗が背中を伝う。
しかし、ソラシンは何事も無かったかのように振舞う。
「何のことでしょうか。」
「ここの孤児院のことだよ。知らないわけが無いだろうチャキューから直接聞いたんだから。」
チャキューの名前に怪訝な顔をする。
「胡散臭い入り方をして信用して欲しいと言うのは難しいかもしれないが、とある男の残留思念だとして聞いてもらいたい。」
「とある男?」
「この孤児院に多額の支援をしていた男だ。」
ソラシンは目を見開き驚く。
「その男はどなたですか。教えてください。」
鬼気迫る表情でクトゥーへと詰め寄る。
両肩に手を当ててぐらぐらとクトゥーを揺らす。
「落ち着け落ち着け。知らなかったのか。」
「出所はわからなかったのです。三ヶ月ほど前に支援金の宛がなくなったと言われました。どうしてなのかやお礼を言いたいので処遇をお聞きしましたが教えてもらえませんでした。」
「ああ。」
多分綺麗なお金じゃないことを気を使って言わなかったのだろうとクトゥーは声が漏れる。
「その男のことを知ってどうするつもりなんだ。」
「何も出来ませんが今まで支えていただいたのですから一度でもいいからお墓参りに上がりたいと思っております。」
「は?」
「え?」
クトゥーとソラシンはお互いに首をかしげる。
その様子を見ていたジュティがクトゥーの頭にチョップを入れながら前に出る。
「いてっ」
「あんたが残留思念とか言うから死んだと思ったんでしょ。」
「いや、合ってるっちゃ合ってるんだが。」
「死んで無いでしょう。」
「死んではいないけど。」
「ご存命なのですか。」
「一応。多分。」
「ええ。」
質問に自信を持てなかった所為でよりソラシンが残念そうな顔になった。
「まあ、話を聞くだけでもいかがですか。」
「藁でもすがる状況です。チャキューさんがお話したってことは悪い方ではないのでしょう。先日は失礼しました。満足のいくようなおもてなしは出来ませんがよろしくお願いします。」
少し考え謝罪と依頼の意を込め深々と頭を下げた。
「ええ、最終判断はこの孤児院がすることです。一つの案だと思って聞いてください。」
その言葉を聞きソラシンは頭を上げて3人を中へと案内した。
中へと入りソラシンを先頭に廊下を歩く。
ジュティが落ち着かないかのように辺りを見回す。
その様子を見てクトゥーが頭を下げるようにハンドサインを出す。
「落ち着け。警戒する視線じゃない。」
「そうだろうけど。何か一つ違う視線を感じるのよね。」
「それも大丈夫な奴だ。」
「そう。」
二人にしか聞こえないように小さな声でやり取りをする。
一つ両開きの扉の前に到着する。
「こちらが応接室になります。お茶を入れてきますのでおかけになってお待ちください。」
「わかりました。」
「ありがとうございます。」
ジュティとセミコがソラシンにお礼を言う。
「すいません。トイレってどこですかね。」
「ここを出て左の突き当りです。」
「ありがとうございます。」
そう言ってクトゥーとソラシンは応接室から一度退室した。
しばらくして二人が戻り四人が応接テーブルに集まる。
「クトゥー何してたのお茶を入れてきたソラシンさんより遅かったじゃない。」
「ああ、慣れない広い廊下にちょっと方向音痴になってた。」
「・・・そう。」
納得したジュティは深く追求せずにクトゥーから視線を外した。
「それでは案のほうをご紹介しましょう。」
クトゥーは少し前かがみになりにやりと口角を上げて話し始めた。
「まず、今の状況を整理しますと来月で支援金が打ち止めになってしまう。ここの孤児院のほかの収入は。」
「ありません。」
「食料は。」
「野菜なら庭の畑で、ただ、それだけでは一年は持たないと思います。」
「水は。」
「それは山から引いてきているので十分にあります。」
「教育は。」
「数字、歴史を中心に一日2時間は教えるようにしています。」
「武術や魔法については。」
「基礎魔法は全員に覚えさせています。武術は心得が無いので魔法を中心に覚えさせています。」
「成程。」
短いクトゥーの質問にソラシンはなるべく簡潔に答えていく。
「ちなみに他の孤児院の事は知っているのか。」
その言葉に今日一番に嫌そうな顔をする。
「よく思ってはいないと。」
「兵士や護衛などちゃんとした仕事なら私は何も言いません。むしろ好ましいと思っています。しかし。」
「まあ、ああいう扱いは好まないと。」
「はい。うちの子にはその選択肢は与えません。」
グッと拳を握り小刻みに体が震える。怒りなのか恐怖なのかクトゥー達にはわからない。
「まあ、そもそもその案は考えていなかったので安心してください。それではそろそろ本題へと行きましょう。その前にせっかく入れてもらったのでいただきますよ。」
「あ、はいどうぞ。」
クトゥーはソラシンから目線がそれるほどグッと顔を上げながらお茶を飲んだ。
「のどが渇いているのですか。それでは。」
「ああ、少し長く喋りそうなので一気に頂いただけです。お構いなく。」
飲みっぷりに慌ててソラシンが立ち上がろうとするも静止させ座らせる。
「まずは問題点を挙げましょうか。」
お茶を飲み潤いを取り戻したのか声量がワンランク上がるクトゥー。
「まあ、お分かりの通り収入源でしょうな。」
「そうですね。今育てている野菜だけではここにいる子供達を養うのは無理でしょう。」
「まあ、収入源は何とかなると考えていますよ。」
「本当ですか。」
最も難しく自分では全く答えが出なかった問題にクトゥーはあまりにもあっさり答え驚きを隠せず前のめりになり近づく。
「はい。チャキューと言う良い商人がいるのでそいつを収入源にしましょう。」
「と言うと。」
「物を売るんですよ。」
「え、でも孤児院にあるものでは限りが。」
「何言ってるんですか。他の孤児院には無く半永久的に取れる環境がここにはあるじゃないですか。」
にやりと笑いながらクトゥーは淡々と述べた。
ソラシンはわからずに首をかしげる。
「あれ?結構いたよな。」
全く答えの出ないソラシンを前にクトゥーは確認の意を込めてジュティに振る。
「ええ、いたわよ素材的にも優秀なものお肉がおいしいものも困らない程度に入るわね。森の中じゃもっといるかもね。」
「まさか。」
「ええ、この塀の外に金になる要素は一杯ありましたね。」
「ですが、取りにいける方がいません。」
はぁと大きめのため息をつき少しガッカリしたかのように背もたれへと体を預ける。
「大人は私だけですし魔法である程度対応が出来ますけど体がもう激しい動きについていけません。年老いた後衛だけではどうしようもありません。」
「いやいや、若い力なら溢れているじゃないですか。」
「子供達を!?」
がたんと立ち上がり机を叩きながらクトゥーに詰め寄る。
「子供達をそんな危険な目に合わせるわけには行きません。」
「飢餓も十分に危険なことだと思いますよ。それに話はまだ終わっていません。戦闘経験も知識も無い物を狩りに出すわけ無いでしょう。」
「でも。」
「まあまず落ち着いて聞いてください。先に言いましたよね。判断はこの孤児院がするものだって。」
諭され表情は険しいままに一度座りなおすソラシン。
「先ほどもチラッと言ってしまいましたが子供達で魔物を狩り子供達自身で生きる為に必要なものを取ってくるのです。もちろん最初は先生となる人を探してきます。その後は子供達が伝統のように教えて行きその先生がいなくても孤児院が回るようにしたいと考えています。」
「その先生をあなた方が。」
「いえ、僕達はしません。私らの仲間にこの中に入れないものが二人います。その二人を見捨てることは出来ませんし、時たま来るチャキューを待ってなどいたら彼らの食費をまかなえません。」
「ではギルドに依頼をかけると。」
「そんなお金どこにあるんですか。それに講師なんかよりも自分らで狩りに行ったほうが存分に稼げます。わざわざそんな仕事をやる物好きはギルド契約者には少ないでしょうね。」
「それじゃあ、この案は成立しないじゃないですか。」
重要な部分が見えてこないことにソラシンは苛立ちを覚え始めていた。
それでもクトゥーはマイペースに話を続ける。
「一人だけ心当たりがいますのでそいつに声をかけようと思っています。そいつが先生になればこの案は成立します。後は孤児院がどうするかです。」
最後までしっかりと聞きソラシンは若干顔絵を下げ思考をめぐらす。
「出来ることなら今日、最悪明日までには結論を出してもらえないとこの案は通らなくなる。」
「いえ、大丈夫です答えは決まっています。素晴らしい案ですがやはり私は子供達を危険にさらす気はありません。」
「そうか。それはあんたの意見だな。」
「え。」
クトゥーは顔をソラシンから入口へと向け呼びかけるように声を出す。
「聞いてただろ。質問があれば受け付ける。そしてその後に大事な話をする。入って来い。」
若干開かれていた扉が大きく開き子供達がぞろぞろと中に入ってくる。
その光景にソラシンは驚きを隠せなかった。
次回もまた孤児院での会話回ですね。




