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愚兄と呼ばれた男の自由な旅  作者: おこめi)
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愚兄とセミコの故郷の話

何も起こらないのんびりとした回です。

「それじゃあ、もう行くよ。いつかまた来るよ。」

「ああ、いつでも来い。いつでもお主らの力になるよ。」

「短い間でしたがありがとうございました。」

「それじゃあね、お幸せに。」

「え、まだ早いですよ。」

「その言い方だとそうなるつもりではあるんですね。」

「う、うぅぅ。」


 ジュティとセミコのいじりにシマルツは顔を赤くして俯く。


「ほら、あんまりいじってやるな。中で大人しくしてろ。」

「「はーい。」」


 そう言って二人も小屋の中に入り、クトゥーはクディの手綱を取る。


「よし、それじゃあ行ってみるか。西の方にある何かに。」

「がう。」


 そうしてクトゥー一行はキュジュビーの小屋を後にして西の方角へと向かっていった。


「さて、シマルツ。食料の調達に行こうか。」

「はい。」


 クトゥー一行を見送り、二人はまたひっそりと暮らし始めた。


 ガラガラと車輪の回る音とクディの足音だけが響く静かな森を進む。


「本当に何もでないな。」

「がぁ。」


 急ぐ旅路でもないためクディもゆっくりと歩く。


「何か明確な目的も無く移動するのって久しぶりじゃない。」


 ぼーっとしながら手綱を取るクトゥーの横にジュティが現れる。


「いや、目標はあるだろ。」

「それが曖昧じゃない。」

「それもそうだな。」


 時たま方角を確認して西からそれていないかを確認しながらクトゥーは話す。


「まさか、こんな立派な移動車と共に旅をするなんて考えていなかったわ。」

「最初の頃か、俺もそう思うよ。」

「始まってすぐに一月ひとつきの建築作業だったものね。」

「そもそも何をする旅じゃない。不満か?」

「楽しかっったし、今も気楽にやっていけるもの不満なんて一切無いわよ。」

「それは良かった。」


 微かな木漏れ日を感じながら二人は前を見る。


「随分と遠くまで・・・来て無いわね。」

「今のクディの足ならすぐに戻れるな。」

「がううぅ。」


 二人の声に相槌を打つようにクディも答える。

 そんなこんな話しているうちに差し込んでくる光の量がドンドンと増えてくる。


「そろそろ、森を抜けるな。」

「そうね。」


 森を抜けると草原が広がっていた。花や草が目の前いっぱいに広がり爽やかな風が草花と髪を揺らす。


「一区切りに少し休憩しようか。」


 少し進んだところでクディに止まる合図を出す。止まったところでセミコが扉を開ける。


「森を抜けたんですね。綺麗な緑です。」

「ああ、セミコ一服しよう。お茶入れてくれるか。」

「わかりました。」


 草木の風と空気を手を広げ感じるセミコは返事をして再び中に戻る。

 ジュティも体をグッと伸ばし風を感じる。


「いい風ね。」

「そうだな。」

「外でお茶にしない。ピクニックみたいできっといつもと違う味がするわよ。」

「いい案だ。早速テーブルと椅子を準備しよう。」


 そう言って二人も中へと入る。


「これからどうするの。」

「どうするって?」


 3人は外にテーブルと椅子を用意し焼き菓子を請けにティータイムを楽しんでいた。


「道に乗るのか、ひたすら西へ行くのか。」

「後者だな。クディの様子にもよるがいつもどおりだしこの草原を抜けていっても問題ないだろう。」


 チラリと一休みで寝ているクディを見る。


「クディの休憩が終わり次第出発しよう。」

「了解。」

「わかりました。」


 花や草、風の自然の匂いを感じながら3人はゆったりとティータイムを楽しんだ。


「そういえばセミコ。」

「何ですか。」

「やりたいこととか目標とかは無いのか、流れで俺達に着いて来てしまってるけど。」


 出会ってから結構経って今更な質問をぶつける。


「どうしたんですか急に。」

「いや、ちゃんと聞いたこと無かったような気がしてな。」

「そうですね。今は皆さんに美味しい料理を作るのが目標ですね。私の世界を作るんです。」


 胸元で握りこぶしを作り気合の入ったきりっとした表情を見せる。


「かわいい。」

「かわいい。」

「へ。」

「それも一つの目標だが、最近出来たものだろ。旅に出ていたって事は何かあるんじゃないか。」

「んー成り行きで出てきたのでこれと言ったものは。」

「それじゃあ今度セミちゃんの故郷にでも戻ってみる?ご両親も心配してるんじゃない。」

「ああ、私の村もう誰もいないんです。」


 あはは、と苦笑いをしながら頭を掻くセミコ。その様子に触れてはいけないことに触れてしまったと思い慌てて訂正する。


「ごめんなさい、成り行きってそういうことだったのね。嫌なこと思い出させちゃったかしら。」

「・・・?」


 不思議そうな顔をして首を傾げるセミコ、二人はその様子を見て更に混乱する。謎の沈黙が数秒続きセミコが何かに気づき訂正する。


「あ、違うんです。滅んだとか襲われたとかそういうんじゃないんです。何と言いますか、自然消滅って感じです。」


 ますます意味がわからなくなっていく。クトゥーとジュティは腕を組んで首をかしげる。


「自然消滅?えーっと詳しく聞かせてもらえる。」

「はい。私達雪女族は代々女しか生まれない家系でした。旅とかで訪れた男性と交友を深め永住してもらい子孫を残していくような形で村を維持していました。

 しかし、そうなると限られた男性としかお付き合いできず、世代を重ねるにつれ考え方も変わり、駆け落ちって奴ですかね、嫁に行ってしまう方が多くなってしまい数を減らしていました。」


 真面目なトーンでセミコは話すが内容が内容なだけにいい話なのか悪い話なのか判断がつきづらい。


「そうして私の村には残っている方が少なくなり私達が最後一家となりました。

 村も他の町や村と離れたところにあり生活は難しいものがありましたが私が独り立ちするまで両親は私を村で面倒を見てくれました。」

「ご両親に付いて行くって選択肢は。」


 ジュティの言葉にセミコは首を振る。


「父も冒険職で母も戦闘向きの性格や力を持っていました。ついて来いとも言われましたが、私がついていっても足手まといにしかならないことは目に見えて明らかでしたので無理を言って私は独り立ちしました。ただでさえ私のために無理な生活をしてもらったのです、これ以上は迷惑をかけたくないって気持ちだけが先走っていました。」


 少し罰の悪そうな微笑でセミコは答える。


「なので、私のふるさとはもうありません。そんな形で出てきたのでとりあえず生きるのが目標でしたね。」


 少し俯き晴れやかな笑顔を浮かべ最後にセミコは話す。


「でもそのおかげでお二人にクディとソスラテに出会えました。私の人生はとっても幸せなものになっていますよ。」


 その言葉に二人は立ち上がりセミコに抱きつきながら頭や頬を優しく愛でる様に撫で回す。


「え、え?」


 戸惑うセミコを気にせずに無言でひたすらに撫で回す。

 5分ほど撫で回したところで二人は自分の椅子に座りなおす。


「それじゃあ、今度機会があったらセミコの両親に挨拶に行かないとな。」

「よく何事も無く話始めますね。って、え!?」


 クトゥーの台詞にセミコの顔が真っ赤になる。


「生活も安定してるし、守ってくれる人もいるので安心してくださいってな。」

「ああ、そういうことですか。」

「まあ、守ってくれるのはそこの戦闘狂だけどな。」

「失礼ね。狂うほど求めていないわよ。」


 そんな二人を見てセミコは今の幸福をしっかりと実感する。


「そうですね。いつか私は幸せだって報告しないといけませんね。」


 セミコはグッと体を伸ばし天を仰ぎながらそうつぶやいた。


「ところでお二人はどうして旅を始めたんですか。」


 不図した疑問を二人にぶつける。


「家出。」

「武術の方向性の違い。」

「その回答だとろくでもない人になりますよ。」


 端的に答える二人に呆れた表情をした。


「簡単な話だ。弟に家業を継がせるために駄目な兄貴を演じて自然な形で家出しただけだ。」

「自然な家出って何ですか。聞いたこと無いですよ。」

「話はある程度聞いたけど私が知る限りでもっとも計画的な家出だったわね。」

「計画的な家出って何ですか。」

「20年かけたからな。」

「凄い計画的!?」


 珍しくセミコが声を荒げ敬語が抜ける様子を笑いながら二人は見る。


「ジュティの武術の方向性の違いって何だよ。」

「色々あったのよ。女で強かったから色々あったのよ。」

「ああ、古いところならありえなくは無い話だな。」


 あまりいい思い出では無いのかため息と首を振ってジュティは語る。


「だんだん旅の目的がわからなくなってきたのですが。」


 頭を抱え呆れた声でセミコは言う。


「何となく生きて何となく死ぬ旅だ。」


 セミコの疑問に堂々と自信満々にクトゥーは答えた。



次回は占いの場所に到着の予定です。

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